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震災直後、おそらくどこよりも早く復興支援を発表し先陣をきって開催された春フェス「SonarSound Tokyo」。Underworldの緊急出演や、Flying Lotusのエネルギー溢れるまさに元気玉のようなバンドセット、新生Battlesのライブ、Dorian Coceptの超絶テクニック、松武秀樹のシンセサイザートークショーなどなど、2日間とも足を運んだ私にとって2011年の中で思い出深いフェスの1つだった。この2日間で得たものは、まぎれもなく「体験」。それも商業性が排除され、より音楽が音楽らしいものとして存在した空間だった。そして、今年もその「SonarSound Tokyo」が近づいてきたことを嬉しく思う。新しい音楽との出会いの感動、自分の経験上にないものを投げかけられた時に感じる違和感、見たことの無いものを目にした時の興奮など、今年も私たちにとって多くの体験を与えてくれる2日間になることは間違いないだろう。この「About SonarSound Tokyo」のページでは、クラベリアの読者に特に注目してほしいアーティストをステージ別でご紹介していきたい。

text by : yanma (clubberia)
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昨年も、すごいラインナップだったなと思うが今年はそれを上回る内容ではないだろうか。タイムテーブルはまだ発表されていないが、分刻みのスケジュールになりそうな予感がする。「SonarSound Tokyo」のオフィシャルサイトのラインナップを見ていると口元が緩んでしまう。その理由は、ヘッドライナーをはじめ"SonarClub(アリーナ)"の出演者だけでなく、各エリアが、細部までそれぞれオーガナイズされているからだ。神は細部に宿る、と比喩してしまうと大げさかもしれないが、ヘッドライナーだけ豪華で後は・・・ではなく、各エリアがあって初めて「SonarSound Tokyo」は成り立っているのだと思う。そんな口元が緩んでしまうラインナップをまずは"SonarClub(アリーナ)"からご紹介していきたい。


●Squarepusher
2009年のTAICOCLUB以来、約3年ぶりの来日を果たす「Squarepusher」。 ジャズ/フュージョンに影響された実験的なドラムンベースのスタイルが特に人気の彼だが、最新作のティザー映像からも感じとれるように、今回のパフォーマンスでは、エレクトロ~ダブステップ以降のエレクトロニックミュージックを投げかけてくれそうだ。そして、今回注目なのが彼が開発したビデオシンセサイザーによるLED映像と演奏とを完全同期させたライブ。海外メディアでのこのパフォーマンスの評価は非常に高く、今まで見たエレクトロニックパフォーマンスの中でかなりヤバい内容になることは間違いないだろう。




●Clark
4月4日にニューアルバム「Iradelphic」をリリースした「Clark」。今回の作品を聞く限り、彼の特徴の1つであった狂気的なビートが走る攻撃的な音楽ではなく、暖かく柔らかい有機的な音楽になっていただけに、ニューアルバムの楽曲を中心としたライブであれば、昔からのファンは少し戸惑ってしまうかもしれない。この特集用に答えてくれたインタビューでもファーストアルバム「CLARENCE PARK」のような音楽は、今では作れないと語っている。彼の成長・変化がオーディエンスにどう捉えられるか非常に興味深いものでもある。




●Dorian Concept
2年連続で出演となる「Dorian Concept」。昨年、ある動画を見て度肝を抜いた。「Dorian Concept」とyoutubeで検索するとすぐ出てくると思うが、圧倒的なキーボードスキルにおそらく誰もがびっくりするだろう。素人目には、めちゃくちゃやっているようにしか見えないが、全てが旋律となり音楽となっている。昨年、"Red Bull Music Academy presents SonarDome(テント)"での出演時には、人が多過ぎて入れず漏れてくる音で楽しむしかできなかっただけに、今年はアリーナでのパフォーマンスというだけあり絶対に見逃せないアーティストの1人だ。





●The Cinematic Orchestra

趣味趣向が特に混じってしまうが22日のヘッドライナーである「The Cinematic Orchestra」。ジャズバンドのスタイルで映画音楽のようなサウンドを奏でる彼ら。昨年の大震災以降、音楽をあまり聞く気になれなかった中、彼らのライブアルバム「Live at the Royal Albert Hall」だけは聞いていたということもあり、彼らの出演に勝手ながら運命的なものを感じている。今もこの原稿を書きながら彼らの新しく出るアルバム「In Motion」の美しい音楽を聞いている。今回のライブは、このアルバム「In Motion」のテーマでもある歴史的価値の高い先鋭的かつ実験的な無声映画/映像に、生演奏で音を付けていく新しいパフォーマンスが日本で初めて披露される。



●Vincent Gallo

今回のラインナップでもっとも驚いたのが「Vincent Gallo」。 あまりに意外性だったというか、彼のパフォーマンスが見れるということで嬉しくなったのか、思わず彼の代表作「バッファロー'66」を約10年ぶりにレンタルして見たほどだ。この「バッファロー'66」の音楽も彼自身が手がけてもいる。2003年、2007年のフジロック、そして2010年のBlue Note Tokyoでのパフォーマンスのような、彼の美しき魂の結晶があなたの目にも映ることだろう。




●Rustie

若き天才として注目を浴びているた「Rustie」。彼の出す音色には、彼特有のサウンドカラーが存在する。それは、ネオンのようにチープな色味やレーザーの軌道でできる光の薄い膜といった重厚感はない音色の印象だ。彼が昨年リリースしたファーストアルバム「GLASS SWORDS」を聞いてもらえば、なんとなくわかってもらえるのではないかと思う。エレクトロとベースミュージックの要素を合わしたような曲調で、怪しい中毒性を徐々に覚えてくる。新鋭ビートメイカー/プロデューサーの初来日というだけあり、特にどのようなパフォーマンスをするか楽しみなところだ。





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ageHa / Studio Coastの人気エリアといえばプールだろう。オープンなエリアということもあり、普段はメインストリームな印象が強いが、今回は一癖も二癖も個性の強い面々、特に日本人アーティストが揃っているように思う。特に22日(日)は、デイタイムということもあり、2日間とも印象がまったく違うエリアになるのも特徴的だ。




●Ao Inoue

日本を代表するレゲエバンドDRY&HEAVYのシンガーとして活動していた井上青が、トラックメイカー「Ao Inoue」として私たちの前に登場する。レゲエにとらわれない逸脱したフリーキーなプレイスタイルでコアなファンも多く、BRAINFEEDERのイベントやON-U SOUND30周年イベントへの出演も記憶に新しい。そして、昨年Ao Inoue名義でのファーストアルバム「ARROW」も評価が高く、アルバム収録曲が怪しく響く時を待ってほしい。




●Kyoka

あの坂本龍一をもって「どういう音楽を聴いてきたら、こういうものを作る女性になっちゃうんだろう?」 と言わしめる「Kyoka」。Soundcloudで楽曲の視聴ができるが、カオティックでありながらどこか繊細さを感じた。ドイツのミニマル電子音楽レーベル"RASTER NOTON"から初のソロ女性アーティストとしてリリースもしており、最新作「iSH」では、プロデューサーにFrank Bretschneider、リミックスにAtomTMを起用している。今回のパフォーマンスは、私たちにとって特に未知数なだけに非常に楽しみだ。


●Seiho
clubberiaで毎月発表しているベストアルバム企画があるが、1月にリリースされたアルバムの中から私が選んだ「Seiho」がラインナップされており非常に嬉しくなった。それまで名前も何も知らず、送られてきたサンプルを聞いて1発で好きになったトラックメーカー。ヒップホップ、エレクトロニカ、ジャズの要素を含みつつ、ねっとり絡みつくビートにエモーショルながらドライな印象をうけるメロディーは、もっとも「今」という要素を感じられるビートダウントラックなのではないかと思っている。




●Oorutaichi
先述したSeihoと対極を成すであろう破天荒なセンスの持ち主「Oorutaichi」。無意識下で作られたようなメロディーと、非言語によるヴォーカルスタイル、そしてレゲエとポップスが融合したかのような雰囲気は、今まで聞いたことのないような民族音楽、ポップな呪術のように思えてくる。そして、彼の楽曲をyoutubeで見てほしい。ユニークなPVは、よりあなたの思考を迷走させてくれるだろう。






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昨年、clubberia featuresでも取り上げたRed Bull Music Academy。毎年、世界各地で開催されており、昨年はスペイン・マドリッドで開催され、今年はアメリカ・ニューヨークで開催が予定されている。世界で約4000通に及ぶ応募の中から選ばれ狭き門をくぐり抜けてきた60名が2週間、音楽漬けの日々を過ごすというアーティストにとっては夢のようなプログラムである。このRed Bull Music Academyがキュレーションを担当する"SonarDome(テント)"は、この狭き門をくぐり抜けた才能溢れるアーティストをはじめ、アカデミー独自の視点で選んだラインナップとなっている。そして、もっともクラブのような雰囲気になるのも特徴的だろう。

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●Global Communication
アンビエントテクノにおける傑作「76:14」の生みの親で、昨年15年ぶりの再結成を発表した「Global Communication」の出演をニュースに書いた時の反響はすごかったのを覚えている。私はリアルタイムの世代ではないかもしれないが、Global CommunicationのMark Pritchardは、Africa Hitechとして来日した際にパフォーマンスを見ており、昨年もっともエキサイティングだったライブと言っていいだろうし、片割れのTom Middletonは、UNITのカウントダウンパーティーへ出演しており、ちょうどその時に彼のDJで踊ったのを覚えている。入り口は彼らの別活動からだが、十分彼らの魅力は知っているし、私の先輩やアーティストが大きな影響を受けた「Global Communication」のパフォーマンスには、非常に興味がある。

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●Hiroaki Oba
2年連続で「SonarSound Tokyo」へ出演となる「Hiroaki Oba」。彼は、2010年ロンドンで行われたRed Bull Music Academyに世界各地から厳選されたDJ、プロデューサー、ミュージシャンうち、狭き門をくぐり抜けた1人である。ハウスからテクノと私たちが慣れ親しんだリズムをリアルタイムに構築していくライブパフォーマンスが彼のスタイルで、硬派なビートと反する柔らかいメロディーの対比がおもしろいと個人的に思っている。昨年は、本国のSonarへの出演や、今年もヨーロッパツアーと、国内よりも海外で評価されている日本人アーティストの1人と言っていいだろう。また、彼の躍動感溢れるプレイを見ていると、こっちにまで熱量が伝わってくるので、ぜひ前の方で楽しんでほしい。

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●Hudson Mohawke
スーパープロデューサーへの道を凄まじい速度で駆け上がっている若き才能「Hudson Mohawke」。昨年は、地震の影響により出演がキャンセルとなってしまっただけに、今回の出演を楽しみにしていた読者も多いはずだ。Flying Lotus以降、もっとも注目を集めたビートメーカーではないだろうか?彼の音楽は、強烈なエネルギーをぶつけられているかのようだ。彼の音楽に向かい合うと、心を解放するというより、彼と真剣勝負をしているかのように思う。想定外のリズムの連続に着いていけるか?それとも疲れるのが先か?Red Bullでエナジーチャージして彼のパフォーマンスに望みたいところだ。

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●Yosi Horikawa
昨年のRed Bull Music Academyに唯一日本人として参加していた「Yosi Horikawa」。環境音や日常にある物音など非楽音を録音・編集し、楽曲を構築していく手腕には世界中から注目が集まっている。私も彼の楽曲を聞いて、いろいろな記憶を呼び起こしてくれる、まるで記憶のしおりのような音楽だと思った。もともと建築音響をしていた関係もあってか、もっとも立体的な音楽を聞かせてくれるアーティストだと思っている。以前、彼のライブをクラブで聞いて、その奥行きに鳥肌がたった。彼の音楽が支配する空間は、ぜひ体験してほしい。

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●Jesse Boykins III
この紹介テキストは、極力自分で体験したことある人物を紹介しているが、全てを知っているわけではないのも正直なところだ。ラインナップで知らないアーティストはリサーチをかけるが、その中でもっとも個人的に響いたのが「Jesse Boykins III」。彼のような歌声にはそうそう出会えるものではないと思った。彼の歌声が楽器の音色をひきたてているのか?彼の歌声を中心に調和が取れている様に驚いた。少し弱くセクシーな声に、男ながら母性をくすぐられるているのではないかと錯覚してしまうほどだ。

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「SonarSound」独自のコンテンツである先端テクノロジーを駆使したオーディオビジュアルライブなどが予定されている"Sonar Complex(アイランドバー)"。このエリアに関しては、本当に未知数というか、普通に生活をしているとあまり接する機会が無いパフォーマンスが続くだけに、驚きや疑問などといったさまざまな感情が湧き出す。表現方法は多種多様であり、美しいと思うものも人それぞれ。このエリアで既成概念を外し、子どもに戻ったかのように作品と接してみてはいかがだろうか。

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●Masaki Batoh - Brain Pulse Music
「Brain Pulse Music」この言葉により興味を掻き立てられた「Masaki Batoh」。これは、何らかの楽器類を操作して、または声帯による唱法によって音楽表現をするのではなく、自身の脳波を抽出して純粋にそれのみをジェネレーターへ送り音楽表現とするものであるとのこと。まず、いったいどのような音がでるのかが気になる。物事に疑問を持つこと、それは自分の中の壁であり、その壁の向こうの世界は知らないものだ。彼の思考や感情、瞑想などにより脳波をコントロールしたこの思考的音楽とは? 見てみたい、聞いてみたい、体験してみたいという知識的欲求が掻き立てられるばかりだ。

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●Bun / Fumitake Tamura x Takcom
Kyoka同様、坂本龍一が認める新しい才能「BUN / Fumitake Tamura」と、海外を中心にこれまで数十ヶ国のアートフェスティバルや、ギャラリー、ウェブサイトから高い評価を受けている「Takcom」もおもしろそうだ。Bun / Fumitake Tamuraが昨年12月にリリースしたアルバム「BIRD」について、坂本龍一は「ザラザラが気持ちいいね。合わない不規則なリズムも心地良い。この音のような映画が観てみたい」とコメントしており、「Takcom」がどのような映像作品を合わせ1つの作品として完成させるのか見ものだと思う。


●2.5D + SPACE SHIFT presents 松本零士 Talk Session
昨年、"SonarComplex"のコンテンツの中でもっともおもしろかったものが、著名人によるトークセッション。昨年は、ICC 主任学芸員である畠中 実氏を進行役に大竹 伸朗氏とのアンビエントとは何かに迫るトークプログラムや、4人目のYMOとして知られる松武 秀樹氏とのシンセサイザー音楽の神髄についての話は興味深いものばかりだった。
そして、今年はなんとSF漫画作家の巨匠、松本零士氏が登場する!「より宇宙を身近に感じ、宇宙で一つにつながる」をテーマに、いよいよ実現する民間宇宙旅行、次々と現実になるSFの世界、また5月21日に関東地方では173年ぶりに見られる天文現象「金環日食」についてトークを繰り広げられる。昨年は、ゆっくりトークショーを楽しみたい読者は、スタート前にイスの確保をお忘れなく。

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●PARTY (Masashi Kawamura × Qanta Shimizu)
  NODE+NxPC

メディアアートは何も音楽だけではない。アート・インスタレーションもそうだ。今年は、ニューヨークを拠点に活動するクリエイティブチームの「PARTY」と、メディアクリエイションチーム「NODE+NxPC」が担当する。NODE+NxPCに関しては、私たちにも馴染み深いガジェットやアプリを使ったインスタレーションで参加するとのことなので、開場内で見かけたらぜひ体験してみてほしい。

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最後に、Sonarといえば、やはりお化けモチーフのデザイン。Sergio Caballeroが手がけるこのアートワークは、シュールという言葉だけでは言い表せられない世界観を作りあげている。フライヤー然り、ポスター然り、そしてこのショートムービー然り。デザイン・アートの重要性、おもしろさを再認識させてくれる。「なぜ?」という疑問を持ってこそ私たちは成長していけるのだろう。そういった意味では、このSonarSound Tokyoは「なぜ?」や「なに?」が多く溢れているはずだ。私は、音楽をもっと好きになるため「SonarSound Tokyo」で多くの体験をして来ようと思う。



このページでは、clubberia編集部目線で注目してほしいポイントを紹介してきた。読者の皆さんの「SonarSound Tokyo 2012」の過ごし方に役立つことができれば嬉しい。タイムテーブルも発表されたのでそちらもチェックして今年の「SonarSound Tokyo 2012」に備えておこう。