日本でVOIDのスピーカーを体感できる機会はスペシャルなイベントのみでなかなか希少である。目に見えない音響を言語化することはなかなか困難な作業だが、実際に体験済みの方々に、PAエンジニア、テクノ・ハウス、ベース・ミュージックという違った観点から、その魅力を語ってもらった。まずは古くはジュリアナ~ベルファーレ時代のサイバートランス系や初期のm-floなどのオペレーションを担当し、クラブミュージックと日本のサウンドシステムの歴史を見てきた、宮下哲也(TSSL)。そしてパーティアイランドであるスペイン・イビサ島の名門クラブDC-10でプレイし続けるSatoshi Ostukiを中心としたテクノ・ハウスDJユニット、Tresvibes Soundsystem(Satoshi Ostuki、DJ PI-GE、Kikiorix)の3名。最後にベース・ミュージック・シーンを揺らし続けるサウンドクラッシュ・チャンピオンHabanero Posse(Bingo、Gunhead)の2名。なぜ、このブランドが世界のクラブシーンを魅了させているのか、その謎に迫った。
インタビュー:高岡謙太郎 kentaro takaoka
それぞれソロで活躍してきたFYS a.k.a. BINGOとGUNHEADによる"GWIG"なDJ/トラックメイキングユニットとして始動。グラフィック担当の 405mhz ( http://www.405mhz.com/ ) も加入し、【SEXY BASS & DIRTY GHETTO MUSIC】を掲げ活動中。2012年、国内最大のBASS MUSIC FES『OUTLOOK JAPAN FESTIVAL』でサウンド・クラッシュ・チャンピオンに輝き注目を浴び、国内外のアーティストへの楽曲提供/REMIXや、"THE PHARCYDE/ RUNNIN'"、"KEYSHA COLE/ LOVE" など、フロア・アンセム化しているMOOMBAHTON/ BASS/ TRAP/ TWERK REMIXも制作。また、USのコンピアルバム【MOOMBAH MARAUDERS】、JUKE+RAPのコンピ【160OR80】、ディズニーのオフィシャル リミックス コンピレーション【ELECTRONIC DISNEY MUSIC】への参加や、盟友 KAN TAKAHIKO 氏とのコラボレーションMIX CD【MOOMBAHTON GODZILLA】(ROC TRAX)、スプリットアルバム【XMAS MOOMBAH EXPRESS】(wickedpedia recordings)のリリースなど、国内外で様々な作品を発表している。BLOCK.FM のレギュラー番組【WICKEDPEDIA RADIO】のパーソナリティー。
SATOSHI OTSUKI、DJ PI-GE、KIKIORIXの3DJによって2007年から渋谷WOMBで開催している人気パーティー「TRESVIBES」から派生したDJユニット「TRESVIBES SOUNDSYSTEM」。メンバーが各自キャリア15年以上のDJそしてトラックメーカーでもあり、その個々の活動は国内だけに留まらず、ロンドン、ベルリン、パリ、アムステルダム、イビサなどといったエレクトロニックミュージック先進国にも幾度も招聘され、その実力は世界でも証明されている。2014年はフジロックフェスティバルやWIRED CLASH、Ultra Japanといったビッグフェスティバルの出演を果たし、また満を持して自らのレーベル「Vis Rev Set」を立ち上げ、初のオフィシャルミックスCD「PLAYGROUND」を2014年9月にリリース。アンダーグラウンドポリシーを掲げつつもクラブカルチャーの枠にとらわれない幅広い活躍で現在の日本のテクノ・ハウスシーンを牽引している。
TETSUYA MIYASHITAは昭和から平成に変った頃にTOKYO ONKENに入社。下積み時代は特に黒人R&B系のツアーに帯同する事が多くその頃から黒人の作り出す独特なグルーヴに傾倒していく。その後avexのCyber TRANCE@幕張メッセやm-floの3人体制時代のメインオペを担当。国内大物アーティストをはじめ様々なオペを担当し、TSSL発足時からメインオペレーターを務める。イビサをはじめとした海外研修を経て最新のクラブサウンドのトレンドを捉え、VOIDのスペシャリストオペレーターとして活動中。
――まずは、みなさんのVOIDとの出会いを聞かせていただけたら。
宮下哲也(以下、宮下):最初に出会ったVOIDのスピーカーは、Stasys Primeです。そのあとフランクフルトでの照明と音響と映像の展示会のIncubusです。イビサの視察に行った時に聴いて感じたのは、クラブ向けのサウンドの仕上がりが、一般的なPAシステムのスピーカーと違う進化の方向を向いているんだなっていう印象でした。それまでは自分の頭の中で「こういう音を出したらいいのかな?」ってイメージはあったんですけど、それを後押ししてくれたのが、VOIDの設計をやっているエンジニアのRogが鳴らしているIncubusの音を聴いたときです。フランクフルトの展示会の時に屋外で鳴らし比べをやっていて、ここで初めて「あ、これがVOIDの出したい音なんだな」って確認できましたね。
――設計者ならではの違いはありましたか?
宮下:どれが正解の音っていうのはないけど、スピーカーを作っている人達がこういう音を出したい/聴かせたいっていうのがわかりました。この辺りが得意で、この辺りをお客さんに伝えたいっていうのを意識して音を出してたんだろうなって。掛ける曲は、CD(2ミックスの音源)がメインなんですけど、アコースティックな女性のCDだったり、ロックなものからEDM、いろいろなジャンルのものを掛けていましたね。最初はおとなしめに音を出していたんですけど、最後にフルボリュームというわけではないんですけど、40ヘルツよりも下の帯域をドカーンと出した時が圧巻でした。
Satoshi Ostuki(以下、Satoshi):僕の初めての体験は7年前。場所はその時に遊びに行ったイビサのDC-10でした。印象としては、ラウドな広がる音なんだけど、ちゃんと前に出てくる音だなと。イビサのクラブにはVOIDが設置されているところが多いんですけど、その音の鳴りの特徴がイビサのシーンのグルーヴを表しているように個人的には感じました。パーティアイランドなんで、結構ハイテンションなグルーヴが多いんですけど、良いDJはその出音と空気感を理解してプレイしている印象がありました。Incubusを初めて聴いたのは3年前。当時は出たばかりでDC-10のクロージングパーティーの屋外特設ステージにだけ導入されていたのですが、その衝撃はモンスター級でしたよ。まさになんじゃこりゃーって感じで、その日はプレイはなくて遊びに行ってたので、サウンドシステムの前で友人と無邪気にはしゃいでた記憶があります(笑)。
DJ PI-GE(以下、PI-GE):僕も何度か海外でDJしていますが、まだヨーロッパでVOIDを聴いたことがないんです。どちらかというと体感というより、デザインですね。約6年前にネットでDC-10を見て「このスピーカー、ラッパみたいな形しててカッコイイじゃん」って調べたところから知りました。ちょうど日本ではFunktion-Oneが主流になって、改めてみんながスピーカーに注目した時期。そこでフライヤーにスピーカー名が載るようになったのもあります。レゲエなどのサウンドシステムやサウンドクルーと違って、スピーカーの商品名が出るようになって。その時期は、日本から海外のシーンがfacebookや新しいメディアを通してどんどん見れるようになって、どうしても気になるのが「どのクラブに何が入っているのか」で、そういう観点からも見ていました。僕らは、中低域が中心となる音数が少ないハウスやテクノをプレイするころが多いです。ハッキリ鳴りながら、どうロー(低域)で遊ぶか。長時間プレイすることが多いシーンでもあるので、どうしてもその帯域や音の出方は特に気になりますね。
Kikiorix:僕も最初に聴いたのがイビサのDC-10でしたね。もちろん遊びだったんですけど、機材詳しい方じゃないんで変わった形のやつだなって思ってたくらいなんですけど、Circo Loco(at DC10)でも見てましたね。
Bingo:日本のOutlookかSound Sluggerで、DJモニターで入ったのが最初の体験ですね。サウンドシステム自体の印象じゃないんですけど、恐ろしくモニターの音が取りやすいなって感じました。サウンドシステムブランドのモニターなので、出音のバランスがわかる安心感がありましたね。あと自分はレゲエのサウンドシステムから入っているので、いわゆるサウンドシステムはモノラルで見た目が凄く一方向から出音がドンッていうイメージだったのが覆されてビックリしたっていうのがあります。しかも、こんな小さいっていう。
――もともとレゲエを聴いていて、サウンドシステムカルチャーに触れていたから驚きですね。
Bingo:そうですね。昔の手作りのサウンドシステムから、今はこんなになっているんで(笑)、CDが世の中に出てきた時ぐらいのビックリ感でしたね。
Gunhead:僕は、たぶん最初にeastaudioの手作りのサウンドシステムの二代目のミッドハイのスピーカー(Stasys Prime)からですね。それかモニター(Stasys4)。ここに新しいスピーカーが入荷した時や測定する時、事あるたびにお邪魔して。Stasys Primeってスピーカーを解体する現場に立ち会って。スピーカーの中を開けて。開けるのにすごく時間かかりましたよね(笑)。
――分解した感じは違うんですかね?
宮下:VOIDのスピーカーって箱の造りで音を作っているので、僕らとしてはどういう構造になっているのかに興味があるんですよ。だから、中を開けてみたいっていう欲求が(笑)。最近のスピーカーは、出音をコンピューターで解析して、イコライザーやいろいろ処理をDSPで加えた上で、「これがウチの音です」って鳴らしている物が多い。レゲエのサウンドシステムじゃないけど、箱の設計がメインで音を作っていく。ドライバーユニットの組み合わせだったり、その箱の設計をとことん極めて作っている。それはFunktion-Oneも全く同じコンセプトで、どうしても箱の形状が不思議な形になったりとか。
Satoshi:Incubusもそうなんですね。となると、すごく近未来なデザインでギザギザに鳴っている部分とかは意味があるってことなんですね。
VOIDスタッフ:ギザギザになっている部分も意味がある。一番大きいのは共振マッピング。どうしても素材とか構造上、特定の周波数で共鳴する帯域があるじゃないですか。それをいかに制御するかっていうのが重要。物理学の塊と、デザインを融合して作ったらこうなる。スピーカーオタクの見る人が見ると「これ理想だよな。でもこの形、作らないよな(笑)」みたいな。
Satoshi:設計している人はやはりデザイン性も考えているんですよね?
VOIDスタッフ:特に今の海外はクラブの内装にすごくお金を掛けているのがありますね。デザイン面で需要がある製品を作っていきたいので、お金を掛けているのに見た目が黒い箱じゃねっていうのもあって。今後はデザイン性にも絶対にニーズがあると思います。
Satoshi:最近のスピーカーはそういう部分まで考えられているなって感じるから、今はそういう時代なんですね。
VOIDスタッフ:スタジオモニターや家庭用モニターだったらあるけど、プロユースのものでああいう形はなかなか普通作んないですね。
――海外のクラブでは徐々に浸透している感じなのですか?
Satoshi:けっこう増えてきました。新しい会場でプレイする時にVOIDが入っていることが多いですね。
VOIDスタッフ:ドイツやスイス、モスクワなど世界中のクラブに入ってきてますね。中国・広州にVCATってクラブができて、VOIDが世界ナンバーワンの量が入って。フェスだと、Outlookがメインステージ以外はほぼVOID。Dimensionsも翌週なので、そのまんまVOIDのサウンドシステムを使っている。アムステルダムでやっているPleinvrees Heroesが3ステージ。地球規模で考えると徐々に浸透しているけれど、10年くらいの会社なんでまだまだ新興ブランド。ただ、中心はイビサじゃないですかね。イビサで色んな所に入っていて。
Satoshi:イビサは小さなビーチハウスとか多いんですけど、そういうところでAirmotionなんかは入っているし。イビサに特化したウェブサイト、例えばIbiza Spot Light ( http://www.ibiza-spotlight.com/night/club_dates_i.htm )などには、主要なクラブのシーズンスケジュールをカレンダー形式に載っているものもあります。その中の12個のうちの4分の1ぐらいはVOIDが入っているクラブですよ。DC-10やSankeys、Eden(Gatecrasher)もそうですしね。
――DJとしてプレイした感じはどうでしょう?
Satoshi:僕がプレイしたのは、DC-10でAirmotionが設置されている屋内のメインフロアでした。僕は基本的にハウスやテクノを織り交ぜたプレイスタイルなので、イビサ特有のグルーヴに合わせてプレイしています。わかりやすく言うと、基本的にはお客さんがひとりで黙々と踊るよと言うよりは、“陶酔しながら騒ぐ“といでも言うのかな? とにかくハマった時の一体感というのは世界の中でもトップクラスだと思います。とにかく凄いものなので、一度体感して欲しいですね。
――プレイした感じ、サウンド的にはどうでした?
Satoshi:サウンド的にはやはり違いを感じましたね。空間に広がるラウドな音なんですけど、すごく音が届くというか。音数が少ない曲でもかなり伸びますね。メロディがあったりとか音数が多い曲などはいろいろな人に伝わりやすいと思うんですけど、クリアに鳴ってパンチがありつつ、前に出る感じがあるから地味な音のほうがその良さがとてもわかるというか。シンプルなグルーヴだけで引っ張れるサウンドシステムだなってイメージはありましたね。
Gunhead:音数が多いと音が被らないように、パートによっては音を広げたりとか位相被らないようにしているのがあって、いろいろなところに届きやすいっていうのがあるんですけど、本当にベースとちょっとだけの音数っていう曲でも、どの場所にいてもある程度届く。体感上、膨らんで届くので、地味な曲でもパンチを与えることができたと思いますね。特にOutlookの場合、お客さんにベースを届けたいっていうのがあったので、極力音数がない曲を選んだんですけど、それがうまくハマったなって気がしますね。ベースの魅力が伝わりやすい。いままでのカスタムのサウンドシステムだと場所によって聴こえたり聴こえなかったり、その差が小さいかなってイメージがありますね。2013年のRoad to Ultraの時に、Incubusの2セットだけだったので足りるのかなって思っていましたが、隅にいても届くんですよね。
VOIDスタッフ:角度が狭いんだけど、音圧があるのでパンチがある。エアモーションは実際水平50度くらいしかない。
宮下:変な歪みがないんですよね。正面にいてカツーンと音が来る。多少外れてもストレスがない。うしろに引いたところでも綺麗に聴こえる。なので、音を上げた時にドンとくる迫力に繋がるのがありますね。
VOIDスタッフ:カバーするエリアが狭いのでコントロールしやすい。音質優先のメーカーなので、Incubusはスピーカーを保護する回路がない。回路を入れると音が悪くなるから。開発者のRogっていう人がレイヴカルチャーから出てきている人なんで、「あとはお前たちの技術でどうにかしろ」という割とDIY的なスタンス。音優先なのでサウンドエンジニアへのハードルが高いかもしれない。
宮下:そこはストイックですね。また、出音がうまく融合されているんですよね。今流行のラインアレイの考え方も取り入れてるし、昔ながらのポイントソースの考え方ともうまく融合されているんで、古臭い音ではないんですよね。やっぱり新しい音。
Satoshi:今の流行の音に対応できるサウンドシステムっていうことなんですかね。
VOIDスタッフ:音楽ソース(音源)の違いでいうと、現在は俄然低域がソースに入っている分、それを再生させなきゃいけないっていうのがありますね。
宮下:どっちが先かわかんないですけど、21インチのスピーカーをどこのメーカーも作るようになったのは、40ヘルツから下の帯域を意識してスピーカーを開発したのが先なのか、それともソースが先なのか。そんな流れで今までだったらうまく再生できなかった40ヘルツより下を出し入れし始めたのがここ数年でしょうか。やはりクラブやフェスは音を体感する場所ですから。あと、じっさいあった話で、ひと昔まえのウーハーを鳴らすと、サブベース(Sub Bass)と思っていた部分がサブ(Sub)の帯域じゃなくて、実はキックだった。昔は90ヘルツから40ヘルツくらいのところがサブだと思っていたんですね。
VOIDスタッフ:レゲエのサウンドシステムもそうですね。60ヘルツくらいが美味しくて、そこから下はあんまり出ないシステムが多かったですから。あんまりスーパーローが出ないんですよ。だからダブステップとか新しめのべース・ミュージックを鳴らすと、ベースがぐちゃぐちゃになっちゃったり。入力するソースが変わってきちゃったから、下も鳴らさなくちゃいけないという。
――40ヘルツ以下を入れるようになったのは最近ですかね。
Gunhead:最初はぜんぜんわからなかったんですけど、一気に広がった作品はやっぱりJames Blakeかなって。本当に40ヘルツ以下が震えていて、異常に鳴るじゃないですか。James Blakeが認知されるようになった4年前から変わったなって印象はありますね。ただ、その前の歴史をいまいち分らない部分もあるので。
――James Blakeは、パソコンで聴くとシンガーソングライター的な聴こえ方になってしまいますよね。
Gunhead:ちゃんとした環境で聴ける人が少ないので、James Blakeをポスト・ダブステップって言っている意味がわからない人が多くて。だから、Sound SluggerやOutlookで最初にかけて驚かすっていう(笑)。つかみというか。
――では、ベース・ミュージックではなく、逆にテクノ・ハウス側でもローが出ている風潮は?
PI-GE:ありますね。でも、ダブステップのように常に震えている感じではなく、要所要所で入ってくる楽しみというか。僕らはけっこう抜き差しで音楽を構築していくので、音の良いクラブで聴くとローの鳴りっていうのは最初はビックリしますね。僕らのDJは基本的にキックが前に出ているので、ローが揺れる感じがあると楽しいですね。誰がというわけではなく、僕らのプレイするトラックは一般的にそういうものが増えていますね。昔よりは低音は出ているように感じています。
Gunhead:アナログからCDやパソコンに変わったのもありますね。ハウリングもあるんですが。だいたいそれが40ヘルツ前後で起きてしまう。
宮下:ターンテーブルの共振はだいたい33~35ヘルツなので、昔はその部分をEQでドン切りですよ。でも昔はその帯域に音が入っていなくて。もしくはEQを切ってから音圧をあげるようにしていましたが、シームレスに出せるようになって、もう切らなくてもいいようになっていますね。
PI-GE:昔のテクノ・ハウスも最近の曲と混ぜたりしますけど、鳴りが全然よく出来てるなって思っちゃいますね。昔の曲はイコライザーを上げないといけないことが多いですよね。
Kikiorix:昔の曲を何曲か掛けたあとに、今の曲をかけると盛り上がる(笑)。音質がいいから。客の反応が全然違いますよ。
Satoshi:パーティーの良し悪しには音質の差は絶対つきものというか。お客さんには耳の肥えた人も多いですが、中には音の鳴りや音質を頭では気にせずに純粋に踊る人もいますよね? そんな風に楽しんでる人達が自然とその音のクオリティを感じ取って「なんか今日は面白くないな」「なんか今日は楽しいな」っていう部分は絶対にあると思うんですよね。
VOIDスタッフ:低域が出ないシステムはイコライジングで無理矢理出すからハウリングもするし、余計なところが持ち上がっちゃうんで。ある程度フラットなシステムでも低域に余裕があるシステムじゃないと、そういう音が出ないと思うんですよね。VOIDはたいていEQはフラットなんですよ。あとはソースに入っているかどうかなんですよね。入っているときはドーンと出るし、入っていない時は静かだし。フラットで低音に余裕があって、今のソースと合っているシステムっていうのがありますね。
宮下:リソースはたっぷりありますね。ドーンと入ってくればドーンって出ますし、そうじゃない時は待っている感じですよね。そこで差がでてしまうというか。そういうのを考えて作っていると思うんですよね。共振しないというのも。
VOIDスタッフ:基本は原音再生ですよね。原音を再生するということに立ち戻るんでしょうね。逆に変な色付けしない。そして他のスピーカーに比べて量が少なくて済みます。
宮下:実際VOIDは指向性で本数を決めますね。パワーとかよりもどこに向けるかで。
VOIDスタッフ:クラブインストール用に作ってあるので、指向性は壁に反射しないように狭く作っていますね。最近PAスピーカーの主流のラインアレイっていうのが、水平に100度とか120度とか広いんですよね。そうすると、お客さんがいないところまで届いてしまい、反射するんですよね。反射すると音がずれるんで……そのズレが音の濁りを生むんです。
――あまり指向性が広くない方がクリアに聴こえるのですか?
宮下:反射が少ないことはクリアな音につながりますよね。スタジオコースト(ageHa)のステージは間口が広くて例外ですけど、ほとんどのクラブは間口が狭いからVOIDは合ってますよね。制御がしやすいので、これでカバーできなかった時に「じゃあスピーカーもう一台追加しようか」っていう感じですね。
PI-GE:海外で良く言われるのは、「クラブを造るときはまずフロアから」ってことですね。日本だとどうしても「バーがどこにあって、エントランスがどこにあって」ってなる。まずは音をどう鳴らすかが第一前提で、それが決まったらバーの位置はどうするかを考えられたら、もっと日本のクラブも良くなるひとつかなと感じてます。もちろん日本の状況も理解した上で、こういった部分をもっと意識改革していければ良いなと思っています。
――そういった海外での場作りの思想が、日本でも理解されるようになってきましたか?
VOIDスタッフ:そういう意味でもVOIDはTSSLのような施工もできるチームと連動しているので、クラブを改装するときは勿論ですが特にゼロからクラブを新規に立上げるときには設計、いやその前からTSSLにお声掛けしていただいてサウンドシステムのプランニングや電源、防音や吸音などの部分を一緒に作り上げていけると素晴らしいクラブが日本にどんどん誕生すると確信しております。
VOIDで聴くことで真価が分かる1曲をピックアップ
Habanero Posse
James Blake「Limit To Your Love」(R&S)
対談記事内でも話した通り、PCや普通の家庭用オーディオでは真価が分からない曲。こんなに綺麗で静かな曲がなぜベース・ミュージックと呼ばれているかは、VOIDのシステムで聴けば一発で理解出来るでしょう。
https://www.youtube.com/watch?v=oOT2-OTebx0
Tresvibes Soundsystem
Mandar「Wet Paul」(Oscillat Music)
上音が綺麗なんですが、ボトムが揺れまくるずっと踊れそうなお気に入りのハウストラックです。
https://www.youtube.com/watch?v=lmQ4rZnYeTM
宮下哲也(TTSL)
digi g'alessio「mike tyson」(Lucky Beard Rec)
この曲はGunheadさんが弊社でシステムチェックをした時にかけた曲で、その後ひとつの基準になってます。これを現場でかけて、天井からいろんな物が振ってきたり、大人達に本気で怒られたりと……。思い出が詰まった1曲です。おかげで僕たちはイントロ聴いた時点で、背中に冷たい物が走る体になってしまいました(笑)。
http://digigalessio.bandcamp.com/track/mike-tyson