Interview, Text & Translation: So Oishi
Direction & Edit: Norihiko Kawai
ーーまず自己紹介をお願いします。どのような音楽的バックグラウンドをお持ちでしょうか。
私は37歳のミュージシャンで、スイスのチューリッヒに住んでいます。ギターやベース、キーボードなどのアコースティック楽器をいくつか演奏でき、電子音楽制作にも詳しいです。「us & sparkles」という名前は、私の創作活動の中で、特に温かくてゆったりとした楽曲を発表するためのプロジェクトです。
ーー若い頃から音楽に携わってきましたか? クラブやコンサートにはよくいった方ですか?
子供の頃に初めて音楽に触れました。父がPink Floydの大ファンで、その影響を受けました。雨の中、父がバンを運転しながらハイウェイを走っていた夜のことを今でも覚えています。思春期にギターを学び始めてから、音楽に深くのめり込みました。10代の頃は、ライブ音楽や電子音楽ではないジャンルに夢中でした。音楽の趣味はパンクからグランジ、メタル、ダブ、レゲエ、ファンク、アシッドジャズ、ハウス、ディスコ、そしてエレクトロニカに広がりました。今ではテクノが好きなジャンルのひとつで、電子音楽が私に与えた影響は計り知れません。
今でもクラブには行きますが、毎週末というわけではありません。
ーー音楽制作を行う上で、影響を受けた音楽家や作品を教えてください。
この質問は難しいですね。長い時間をかけてさまざまな影響を受けてきて、その積み重ねが今も自分の中に残っています。ジャンルの好みも定期的に変わっていて、人生の変化に伴って音楽の趣味も変わることがよくあります。例えば、ドイツのテクノプロデューサーShedは大きな影響を与えてくれましたし、DJ Kozeの美学も大好きです。昨年はBob Dylan、The Stone Roses、Oasisをよく聴いていて、これらのアーティストが最近の私の音楽制作に大きく貢献したと思います。また、Prince、Frank Zappa、Frank Oceanも私のお気に入りです。ただ、影響を受けたものが多すぎて、一つのリストにまとめるのは難しいですね。去年発見したいい曲ですら、全てまとめることはできないでしょう。個人的には、コロナ以降、素晴らしいリリースがさらに増えたように感じています。
ーー現在はどのような音楽活動をされていますか。
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私は「us & sparkles」と「v0ll」の名義で音楽をリリースしています。スタジオでの制作だけでなく、即興で電子音楽のライブもしています。また、スイス周辺のアーティストのためにプロデュース、ミックス、マスタリングも行っています。主にスイス近郊のベニューで演奏していますが、例外もあります。今までで最大のギグは、地元で国際的に有名なアーティストと一緒にバンド形式で演奏したときでした。ただ、音響が悪く、サウンドエンジニアがサウンドチェック前から怒っていて、それが少し怖い体験でした。なぜそんなに怒っていたのか、今でも分かりません。
ーーus & sparklesとして、これまでの音楽キャリアや主要な作品について教えてください。10年以上にわたる活動の中で、プロジェクトがどのように進化してきたのかも聞かせていただけますか。
このプロジェクトは、もともと友人と一緒に始めました。最初のリリースは『damn rich Vol. 1』で、当時はLapaluxやShlohmo、Ametsub、Burial、Nosaj Thingなどのアーティストの新しい音楽に夢中になっていました。また、flauレコードにも注目していました。『damn rich』シリーズとして4枚のEPをリリースし、ローファイビートやダウンテンポを中心としたサウンドを作り上げました。初めてのアルバムはスイスのシンガーAmireと一緒に制作し、よりボーカル重視のアレンジにしました。
しかし、2017年に家族の悲劇的な出来事があり、その後すぐに友人とは解散しました。それ以来、当時の未完成のアイデアを基にして、いくつかのEPを自分でリリースしました。また、のちにシンガーのAmoaとも2枚のアルバムを制作しました。それ以降、私の音楽の雰囲気は大きく変わったと思います。自分の活動に満足するために、変化が必要だと感じたからです。このアルバムは、その変化を象徴するものだと思います。
ーー『When The Bird Kicks In』のコンセプトについて教えてください。また、アルバムタイトルには、どのような意味が込められているのでしょうか。
私たちは、フランスの自然の中にある家で、友人たちと一緒に過ごしています。そこにスタジオパートナーと一緒に行き、特に具体的な計画はなく新しい音楽を作ることにしました。音楽に没頭し、終わりのない晩夏の夕日を楽しんでいるうちに、自然とアルバムの形が見えてきました。その場所は人里離れたところにあり、以前は鳥類学者が所有していた家でした。彼女は家の周りの生物多様性を大切にしていて、庭の鳥たちが終わりのない、サイケデリックな音風景を作り出していました。鳥たちがずっと身近に存在していて、『When The Birds Kick In』というフレーズが、その時の心を広げるような体験をまとめてくれる言葉のように感じました。
ーーこのアルバムは、オーガニックな音とシンセティックな音を美しく融合させている点が特徴で、主にエレクトロニカやアンビエントのジャンルに焦点を当てています。今回のアルバムの制作方法について、もう少し詳しく教えていただけますか?
これは少し技術的な話になりますが、フランスにいた間、私たちは小さなミキサーを大きなモジュラーシンセサイザーに接続し、その逆も試してみました。庭にはいくつかマイクを設置し、いつでも環境音を録音してモジュラーシンセに取り込むことができるようにしました。これにより、まるで遊び場のような環境ができあがりました。たとえば、トラック「Pink Hornet」では、実際に録音したスズメバチの音をそのままグラニュラーシンセサイザーに取り込んでパッド音を作っています。注意深く聴くと、時々スズメバチの音が聴こえてくるはずです。また、庭でバドミントンをしている音を録音し、それをアルバムの最初と最後のトラックのバックグラウンドのアンビエント音として使用しました。
スイスに戻ってからは、2年かけてスタジオで微調整しました。アルバムにはArps、Roland、Moog、Sequential、Buchlaなどの有名なシンセサイザーを多用しましたし、外部機材を使ってトラックに適切な処理を施しました。私は曲を作るのが大好きで、これが私の人生で一番やりたいことだと思います。
ーー今回のアルバムは、生音とシンセティックな音を融合させた美しいサウンドが耳をひく、エレクトロニカ・アンビエントを中心とした作品ですが、この制作手法について詳しく教えていただけますか。
.これは、さまざまなアプローチを組み合わせたものです。ドラム音の大部分はモジュラーシンセでデザインしましたが、サンプルやライブ録音も使用しました。中音域で温かみがあって弾けるような音を出すために、ドイツ製のヴァイオリンベースを使い、低音域にはシンセを使用しました。ギターには、プレートリバーブや、スペースエコーやMoogといった優れたアナログディレイを多用しています。バックグラウンドには多くのシンセパッドやハウリングが入っており、それが曲にサイケデリックな深みを与えていると思います。また、特別な「安っぽいゴムのような音」を出すために、とても安価なプラグインも使用しています。最後に、大量のリバーブと面白い実験的な要素が詰め込まれています。最終的には、コンソールで全体をミックスし、Studer A80テープマシンで録音しました。
ーー今回のアルバム制作において、Simon Bossとのコラボレーションはどのように行われましたか?互いにどのような役割を果たしたのでしょうか。
彼は私の2人いるスタジオパートナーの一人で、私たちはスタジオを共有しています。また、v0ll and Bossとして、一緒に実験的なモジュラーシンセのライブを行ったこともあります。アルバムの基礎となる部分は、フランス滞在中に一緒に録音しました。サイモンは優れたギタリストで、ユーモアのセンスも抜群です。休暇が終わってからは、私が一人で仕上げの作業を行い、さらにいくつかの要素を追加しました。
ーー「us & sparkles」プロジェクトは10年の歴史がありますが、今回のアルバム制作において、これまでの活動や経験がどのように影響を与えましたか。
この質問は自分には答えるのに少し難しすぎると感じますが、私が言葉に詰まるということは、過去の活動や経験が今回のアルバムに、私が思っている以上に影響を与えている証拠かもしれません。無意識のうちに受けた影響は、必ずしも言葉で説明できるものではないのでしょう。
ーーアルバムのカバージャケットも印象的ですが、これにはどのような意味がこめられていますか。
カバージャケットは、私のとても親しい友人であるKathi Holzが手がけたものです。彼女は美的センスに優れており、私の音楽に対しても深い理解を持っています。私が音楽で表現したい感情を、彼女はグラフィックで完璧に表現してくれました。カバーのデザインは時間をかけて発展していきました。最初は彼女がクレーンの写真をコピーしながら動かす実験を行い、その後、そのぼやけた形に触発されて絵を描きました。私たちは浮世絵のアーティスト、特に勝川春英の鋭いコントラストが大好きです。また、私は伊東深水や川瀬巴水のファンで、彼らの形や色彩に影響を受けました。それは、ヨーロッパの視点から見ると、漫画のように見える部分もあります。いくつかのスケッチを経て、Kathiが最終的に表紙の絵を描き上げ、Studio NomadのSara Sidlerがレイアウトを担当しました。
ーーあなたは音楽活動に加え、精神分析的心理療法士としてもご活躍ですが、この経験が音楽制作に影響を与えているのでしょうか。
あまり影響はないかもしれません。というのも、精神分析的心理療法士としては、(音楽で大きい音を出すときとは違って)私はほとんどの場合、静かに対応しています。しかし、どちらの分野でも、好奇心を持ち、発展する物事にどう取り組むかが重要だと思います。また、寛大であることや、何かしら許すことも大切です。最後に、すべてはプロセスだということを忘れてはいけません。
ーーアンビエント以外にもテクノの活動を行っていると伺いましたが、その活動についても教えてください。
「v0ll」という名前で、時々モジュラーシンセを使ったライブを行っています。また、この名前で即興のアンビエントセットも演奏しています。以前は別の名前で活動していましたが、6年ほど前にその名前を削除し、新たにスタートしました。それ以来、自分のリリースに非常に満足しています。私のテクノは「大音量でハード、そしてノスタルジック」だといえるでしょう。ぜひ一度聴いてみてください。「bunker 1」と「blender」は、個人的にお気に入りのトラックです。
ーー日本の音楽にも興味があるそうですが、来日経験はありますか? また、共演してみたいアーティストや好みの日本文化についても教えてください。
残念ながら日本に行ったことはありませんが、いつか訪れることが私の目標です。正直に言うと、この質問に答えるのは少し怖いです。私が持っている日本のイメージは、映画や視覚芸術、音楽を通じて作り上げたもので、実際の日本とは違うかもしれないからです。これは、人々が思うスイスについてのイメージが現実と異なることがあるのと似ていますね。
共演してみたいアーティストについては、もうススム・ヨコタや坂本龍一とはコラボレーションできませんが、彼らは私の大好きなアーティストです。また、Omodakaや坂本龍一(特に最初の2枚のアルバム)、Ken Ishii、エマーソン北村、Aoki Takamasaも好きです。ですが、私はいつでも新しいアーティストやコラボレーションにオープンです。コラボレーションにおいては、名前ではなく、その曲や背後にあるさまざまな要素などが重要だと思っています。
ーー最後に、日本のリスナーに向けてメッセージをお願いします。
インタビューを最後まで読んでくれて本当にありがとう。こうして関心を持っていただけることが、私にとってとても大きな意味を持っています。ぜひ私の音楽も聴いてみてください。言葉よりも音楽で自分を表現する方が私には合っていますし、日本でのライブは私にとって夢の舞台です。未来が何をもたらすか分かりませんが、いつか実現できたらいいなと思っています。ありがとうございました。良い一日をお過ごしください!
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