Night Mayor Summit 2016 Amsterdam
- 風営法改正が間近に迫った今、日本は世界から何を学べるのか? -
clubberiaをご覧の方は、ここ数年日本のクラブ業界を騒がしていた「風営法改正」の動きをご存知だと思います。2015年6月17日に改正風営法が成立し、同月24日に公布されました。そして来る6月23日、この新たな風営法が施行されます。これにより現代のナイトクラブの営業方法/時間を違法ではない形で行う事ができます。まださまざまな問題がありますが、ようやく日本のナイトクラブがグレーゾーンのまま営業しなくていい体制が整いました。「新たな時代の幕開け」と言ったら少々大袈裟になってしまいますが、大手企業などの新規参入、ナイトライフを念頭に入れた商業施設や観光施設の新たな建設など、グレーゾーンの状態ではなかなか進まなかった話が現実になってくるかもしれません。
この大きな歯車が動き出そうとしているタイミングで、オランダのアムステルダムで、「Night Mayor Summit 2016」という国際会議が行われました。このサミットは、その名の通り世界中の「夜の市長」やナイトライフ/クラブを代表する団体、都市開発の専門家、犯罪学の専門家、そして各種業界関係者が集まる国際会議です。今回の風営法改正の動きも伴って日本からも渋谷区のナイトアンバサダーに就任したZEEBRAさんも招待され、同改正運動に尽力した斎藤弁護士も参加しました。「夜遊び」を大真面目に協議するこのサミットから日本は何を学べるのか? そして日本のナイトライフは世界に比べて、今、どの立ち位置にいるのか? このレポートを通じて少しでもその答えを導き出せればと思います。
まずはサミットの概要ですが2016年4月22日と23日の2日間で行われ、主催はアムステルダムのナイトメイヤーのミリク・ミラン氏とその団体です。サミットは主に以下5つの議題を中心に行われました。
・ ナイトタイム経済の発展
・ 公衆衛生と政策
・ 新たな都市開発の定義
・ 交通/インフラ整備
・ ナイトメイヤー制度への道
初日の22日は夜からオープニングのレセプションと主催団体によるアムステルダムのナイトツアーが実施されました。23日は10:00から22:30と丸一日を使い、ゲストによるプレゼンテーション、さまざまなトピックを小規模グループで話し合う「エキスパートセッション」が行われました。参加者はベルリン、パリ、ロンドン、アメリカ、ブラジル、インドなど世界28都市から行政、クリエイティブ産業、クラブやフェスティバルなどのナイトライフに関わる人々が集まりました。日本からは先ほど述べた通りZEEBRAさん、斎藤弁護士、そして風営法改正活動の業界団体のひとつ「クラブとクラブカルチャーを守る会(通称:C4)」からダースレイダーさんが参加しました。
マイクを持っている人がナイトメイヤーのミリク・ミラン氏(写真左)
サミットの内容ですが、特に印象深かったプレゼンテーションをピックアップさせて頂きました。
「まずはイベントにフォーカスすべき」
まずはアムステルダム大学の教授で都市開発/プランニングの専門家のゼフ・ヘーメル氏のプレゼンテーションを紹介します。彼はすでにミラン氏とアムステルダムの将来的な都市開発のプランを一緒に作成しており、その概要や彼自身の研究内容を中心に話しました。ヘーメルはさまざまなビッグデータ分析を行った結果、大都市にはある法則が存在すると唱えています。それは「都市が大きくなるに連れてナイトライフの規模は拡大し、さまざまなイベント数が増える」です。都市プランナーとしてこの法則に対応するためには、道路整備、住宅建設、交通網の発達、オフィス建設よりもイベントに焦点を当てるべきと提言しています。この場合のイベントとはクラブイベントやフェスティバルのみならず国際会議、スポーツイベントなども含まれます。彼はこのさまざまなイベントのプランニングを行った後、そのイベントを実施可能にするインフルを整備すべきと通常居住地や生活関連施設を第一に行う今までの都市開発とは異なるやり方を提唱しています。都市開発をフェスティバルなどのイベントを中心に行っている事がアムステルダムならではと言う印象を受けました。
「次のステップは土地や物件を買う事」
次にご紹介したいのが前述でも述べた日本の風営法改正活動の業界団体の1つ「C4」が手本としたベルリンのクラブコミッションの代表のルッツ・ライクセンリッヒ氏のプレゼンテーションです。彼はクラブコミッションの歴史や現状、そして今後の方向性についてプレゼンテーションしていました。ベルリンの観光客数は急成長を記録しており、2015年には約3,000万人以上を記録しました。その要因の1つにナイトライフを目的とした観光客が多く存在するのは明らかで、その流れを支えてきたクラブコミッションは行政から税金を分配受けるほどの確立された団体なのが伺えました。彼らの次のステップとしては団体として投資家やディヴェロッパーにアプローチし、土地や物件を安価でアーティストやクリエイターに貸し出せるような改善を促しているそうです。ベルリンではジェントリフィケーション(都市において低所得者やアーティストが多く住む地域に、比較的豊かな人々が流入し、地価が値上がりする現象)が発生しており、「ユニークなクリエイティビティがベルリンの魅力」であり続ける為に働きかけている。
現アムステルダム市長のエーベルハート・ヴァン・デル・ラーン氏
「TOKYO is PLAYCOOL」
日本代表として壇上に立ったZEEBRA氏は彼のキャラクターを存分に発揮し、観衆の注目を集めました。彼は風営法改正活動の経緯、彼自身が会長を務める「C4」が実施したPLAYCOOLキャンペーン(ナイトクラブやDJ/アーティストのイメージ向上活動、早朝の清掃活動などを通じてマナー向上を訴えかける)の概要や、今後日本が進むべき方向性などをプレゼンテーションしていました。世界に対して日本はポジティブな方向性に向かっていて、世界各国の都市に負けない東京の魅力を伝えていました。
「夜遊ぶ人たちと夜寝る人たち」
最後に現アムステルダム市長のエーベルハート・ヴァン・デル・ラーン氏のプレゼンテーションですが、そもそも現役の市長がこのような場に出てくる自体が如何にアムステルダムのナイトメイヤー制度がうまく機能し、実際の行政の間とでしっかりとしたコミュニケーションが取れているか気付かされます。彼はしっかりナイトメイヤーの存在を理解し、ナイトタイムエコノミー(通常夕方から早朝の時間帯で活発になる飲食やエンターテイメント産業の事を指す)の重要性を強調していました。その上で現ナイトメイヤーのミラン氏は「夜遊ぶ人たち」と「夜寝る人たち」両方存在する事をしっかり理解し、両者が納得できる施策をどうやって実施して行くか常に考えている事を評価していました。印象的だったのは「音楽フェスティバルやイベントはアムステルダム市に取って重要な資産」と現役の市長が堂々と言っている事が、今一度アムステルダムという都市が世界の中でも特殊な都市だと気付かされるプレゼンテーションでした。
サミットの様子
期間中にミラン氏、ZEEBRA氏と斎藤弁護士にも取材しました。
ミラン氏「今回のサミットの大きな目的は世界各国のベストプラクティスの共有、ナイトライフではなくて、それ以上のナイトカルチャーの発展を促していきたいと思う。東京はアムステルダムから多くを学べるかも知れないが、アムステルダムも東京から多くの事を学べると思う。今後双方の国でイベントコンセプトが共有される事であったり、文化的交流が増えたりすることを期待している」
ZEEBRA氏「ナイトメイヤーサミットという新しい流れに東京という都市が参加できた事に意義があると思う。ネクストステップとしては実際にナイトメイヤー制度を日本で試してみたい、その働きかけをしていきたいと思う。再び日本がアジアのクラブシーンをリードできるような環境を作りたいと思う」
斎藤弁護士「どの都市も規制当局による取り締まり強化に悩んでおり、日本と同じような問題を抱えていることに驚いた。しかし、どの都市もクラブカルチャーの文化的価値、経済的な価値を社会に対してアピールするとともに、かつ社会に対して責任ある立場をとる努力をしている。これら不断の努力によって、先進的で豊かなクラブカルチャーの基礎が築かれていると思った。アムステルダムを中心としたナイトメイヤー制度、ベルリンを中心とした組織的な業界ネットワーク。形態はさまざまだが、クラブカルチャーを推進する制度的枠組みを形成している。風営法改正を経た日本のクラブが、より一層刺激的かつ責任あるナイトシーンをつくっていくために、各都市の制度的設計には学べることがあるように感じた」
まとめとしては、ナイトメイヤーサミットは世界中のベストプラクティスを共有する場であり、世界中の業界関係とネットワークを広げるための非常に有意義な環境という印象を受けました。お互いのナイトライフをよりクリエイティブで安全にし、都市の魅力のひとつにするために真剣に話し合う事は非常に意味がある事だと思いました。
このサミットから日本が何を学べるか? その上で個人的には1つのキーワードが出て来ました。それは「認識」、もしくは「受け入れ」です。アムステルダムやベルリンのようなナイトライフ先進国の行政はナイトライフやそれに派生するさまざまなイベントなどを「クリエイティビティが生まれる場所/時間」、そして観光などを通じて「経済的なプラスが生まれる場所/時間」としっかり認めている印象を受けました。個人的な意見ですが、日本全体、ましては東京と言う都市だけを見てもこの考え方はまだまだ一般的ではないと言う印象を受けます。その大きな理由の1つに日本ではナイトライフから発生するポジティブな面よりもネガティブな面の方が注目される傾向があると思います。今回のサミットでもポジティブな面のみならず如何にネガティブな面を防止/抑制すべきかという内容のディスカッションも多く行われていました。その答えは各国さまざまで、ひとつの答えがないという非常に強いメッセージを受けました。しかしこのようなディスカッションをするためにもまずはナイトライフからポジティブな影響が生まれると言う事を行政が「認識」、「受け入れる」事が重要だと思います。クラブユーザー側にもこのプロセスがより早く、スムーズに進むための責任があると思います。基本的なマナーや秩序を守る事であったり、アーティストやクリエイターをさまざまな形でサポートしてあげることかもしれません。
会場にはバーニングマン主催者の1人スティーブン・ラスパ氏も(写真右)
都市プランナーのヘーメル氏が言うように「都市が大きくなるに連れてナイトライフの規模は拡大し、さまざまなイベント数が増える」という法則があるように、日本中のさまざまな都市で「夜遊び」は確実に発生して拡大していくのは免れられないのです。まずは渋谷区や港区など小規模な行政にナイトメイヤー制度をスタートするのもひとつの手かもしれないです。まずは「夜遊ぶ人たち」と「夜寝る人たち」が公平な場で真剣に、かつポジティブに継続的に話し合える場を設ける事が重要だと思います。
今回のサミットを通じて印象的だったエピソードを最後に紹介してこのレポートを終えたいと思います。初日のレセプション時にロンドンのクラブコミッションの代表の1人が齋藤弁護士と私に近寄って来てこう言いました。
「君たち東京からだろ? 君たちは凄いじゃないか!風営法と言う法律を変えたじゃないか、是非とも私たちにもどうやってやったか教えてほしい!」
世界を代表するようなクラブ数多く存在し、世界のナイトライフに大きな影響力を持っているロンドンという都市が逆に東京から学びたいと言う予想だにもしなかった要望に驚きました。しかし実際の所、近年ロンドンのナイトライフは危機的な状況で(ここ5年間でクラブなど音楽関連の施設の約40%が閉店に追い込まれている)、彼らもこのサミットからこの状況を打破する方法を学ぶのに必死なのが伝わりました。この一幕から受けた印象は海外からはこの風営法改正が非常にポジティブに捉えられている事です。前述でも書きましたがもちろん風営法が変わったから全てがうまくいくようになるとは思っていませんが、まずは我々日本人がもっとポジティブに捉えて、東京そして日本という国の魅力を、より世界に対して発信できるようになる事を願っています。
https://www.facebook.com/nachtburgemeester
amsterdam.nl/photos/?tab=album&album
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サミットの写真が多く掲載されているので、是非ご覧下さい。
http://nachtburgemeester.amsterdam/
アムステルダムのナイトメイヤー団体のホームページ。
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