INTERVIEWS

堀野義仁(UNKNOWN season レーベルオーナー) × 岡田安正(DESTINATION MAGAZINE編集長)

堀野義仁(以下 堀野):
「DESTINATION MAGAZINE」は、創刊して2号目あたりから存在を知ったのですが、最初はよく行くクラブで見つけたんです。CDケースサイズで雰囲気も良く、最近のフリーペーパーではあまり見ない、モードな趣のあるの小冊子という印象でした。販促用の1号きりの冊子かなと思ったのですが、別の機会に手に取ったとき、表紙も内容も変わっていたので「創刊したんだ!」って(笑)。でも、そのころはまだ自分でレーベルをやるなんて思ってもいなかったので、一読者として手に取ってました。レーベルを立ち上げた時に、「DESTINATION MAGAZINE」には、ぜひ音源を聞いてもらいたい!と思ってですね、思い切って連絡してみたんです。それで岡田さんとお会いする機会ができたんですよ。それが出会いです。初めてお会いしたにも関わらず、レーベルのコンセプトやアーティストについて、1時間以上熱弁してしまいまして(笑)。。。でも、ずっと気になっていたフリーペーパーだったから、どうしても載せてもらいという気持ちと、リリース音源を聴いてもらいたいという気持ちで一杯でしたからね。そうしたら、岡田さんが「ご紹介しましょう!」って。 岡田安正(以下 岡田):そうなんです。もともと10年くらい前から自分でDJイベントをやっていて、6年前に渋谷のmoduleで「DESTINATION」というイベントを始めたのですが、本当に良いと思える音楽を多くの人に伝える手段として、イベントだけではなく何か違った形での発信ができないかということでフリーペーパーを始めました。

堀野:パーティーがあってという"地に足が着いた"行動に、とても尊敬の念を抱いたんです。ちょうどCDが売れなくなり、音楽業界に暗雲がかげり始めたそんな最中、周りの風潮には気を止めず、自分がやりたいことをやり続け、貫き通す。その一貫した姿勢がとても素敵だなと。しかも、岡田さんは元々どこかの出版社に所属していた訳でもなく、編集に関してはまったくの独学らしく。だから、その行動力には、パワーとエネルギーをたくさん頂いてますね。 岡田:ないです。元々はアパレルにいたのですが、DJやイベントオーガナイズは学生時代から続けていました。あるきっかけでアパレルの仕事を離れた後も、結局それが長く続いて、今に至るんです。

堀野:岡田さんには、熱意とチャレンジ精神、そして継続の大切さを教えて頂きましたし、いまでもずっとサポートして頂いているんです。 堀野:元々はデジタル配信レーベルとしてスタートしたのですが、続けていく中で、レーベルとして次のステージに進みたいと思い始めたんです。しかし、媒体によるマーケットの違いに違和感を感じていて──。デジタル(バーチャル)、CD、アナログレコード、カセットテープ、それぞれ音の質は違えど同じ音楽ですから、メディアによる違いはいらないと感じたんですよ。いろいろな形で発信できるものだから、1つのメディアにこだわらずにやりたかったんです。それに、ダンスミュージックを中心とした音楽が、より日常に溢れていく可能性はまだある訳だし、その可能性を自ら閉ざすことに意味はないと感じたのも要因の1つですね。間口を広く、より多く人に聴いてもらえるきかっけになれば幸いかなと。 堀野:このCDを作ろうと決意した時に、同時にパッと岡田さんの顔が思い浮かんだんですよ、ウチの音をいちばん理解している人が身近にいる!って。それで「CDを出したいんです」と相談したら、2つ返事で「やりましょう!」って。もう、うれしかったですよね。 岡田:いえ、CDを出すことは考えていませんでした。ただ、堀野さんのレーベルはクオリティが高いし、今まで知らなかったアーティストとか、自分がいいと思うアーティストが世に出られるよいチャンスだなと。「DESTINATION MAGAZINE」のスタンスと同じで、だから音源をリリースすることも共感できたし、できる範囲でご協力させて頂きたいと思いましたね。それに、こういうレーベルこそもっといろんな人に知ってほしいという思いもあったんです。 堀野:そもそも僕が先にCDを出すという話を決めていたんです。それを岡田さんに相談というよりも、「出すので、一緒にやってください!」って(笑)。

岡田:そうですね。

堀野:音楽を発信するメディアとして、フィジカルにはまだ挑戦したことがなかったし、岡田さんも「DESTINATION MAGAZINE」も次のステージに行きたい」とちょうど考えていた様で、音楽ソフトやWEBマガジンに着手する話も聞きしました。そんなこともあり、今回はお互いが持っていないもの、インフラをうまくクロスさせられたらおもしろいかなと思ったんです。 岡田:これは僕の方でさせていただきました。いままでの「UNKNOWN season」の音源をすべて聴いて、選ばせていただいたんです。あと、それに加えて、今回は9dw(ナインデイズワンダー)のこのアルバムでしか聴けない、完全未発表の「Right On」を、Ryoma Takemasaさんにリミックスしていただいた音源を収録しています。9dwは、以前から僕のイベントに出ていただいたり、つながりがあって、堀野さんももちろん以前から知っていたし、僕も好きなアーティストなんです。そんな感じで、今回はいいコラボレーションができました。あとは、Hiroshi Watanabeさんが新録で参加してくださったり。

堀野:ちなみに9dwの参加は、このアルバムの企画が進行する中で生まれ、収録に至ったんです。 堀野:サイトウ(ケンスケ)さんには、2年くらい前に知人に紹介されてお会いしたのですが、その後、一方的に音は聴かせていただくも、再会するチャンスがなないままでした。今回、岡田さんとCDリリースの企画を進めていく中で、より魅力のあるものをイメージしたときに、レーベルの既存アーティストの作品と新しい風、新たなサウンドとエネルギーが必要だと。それはレーベルとしての未来の音の振り幅であり、商品としての価値でもあり、新たな挑戦でもあるんです。それに、ちょうどレーベルの過去の作品の中からRyoma Takemasaの「Deepn'(The Backwoods & Gonno Remix)」を、8月末にアナログ12インチで音楽レーベルの「ene」からリリースすることになり、「ene」の千田くんともいろいろと相談していく中で、自然と9dwの名前が岡田さんと僕と千田くんの3人の共通認識のように浮上していたんですね。だから、これはお願いするしかない!と思って、サイトウさんにご連絡して、お会いすることができたんです。
今回の企画の事をはじめ、いろいろなお話を3時間程させて頂き、サイトウさんに「リミックスを収録させてください!」とお願いしたんですね。そんなオファーをされたこと自体初めてのことだったみたいで、最初はビックリしてましたけれど、笑顔でOKを戴きました。有難いですよ。 堀野:Hiroshi Watanabeさんとは、僕が以前在籍していたレーベルや、フリーランスになってからもお仕事をさせて頂いたり、もちろん現在もうちのレーベルの音源をDJで使用して、フィードバックを戴いたりと、関係は続いていたんです。そのやり取りの中から、「UNKNOWN season」からリリースをしたい」というお話を戴いて、とても興奮しましたね。それでこの新しい音源が生まれたんです。ちなみに、ワタナベさんは、今回のHiroshi Watanabeへの流れの一端を担っているんですよ。

─それは、どのような一端なのでしょうか。
堀野:オファーの際に、フィジカルリリースのご提案を戴いたんです。それがあってこのアルバムの企画が具体的に動き始めたんですよ。収録されたHiroshi Watanabeさんの曲のタイトルもアルバムタイトルにもなりましたし。だから、この企画のインスピレーションの源の1つでもあるんです。 堀野:そうです。

岡田さんと一緒にタイトルを考えていたのですが、なかなかシックリ来なくて。。。タイトルの決定だけで約2週間くらい掛かりましたよ。 堀野:そうなんです。Hiroshi Watanabeさんから「A Day Of Rain」という曲が届いた時に、レーベル名の「UNKNOWN season」にも季節を象徴するワードが入っていたし、これはいいなと。ここ最近、日本は梅雨以外でも雨が多いですよね。ゲリラ豪雨も季節構わずあるし、一昔前の日本の気象とは違うんですよ。「今日も雨降ったよね」という会話が日常になりつつある。普通じゃないことが普通になっていく様が何とも僕の中で感じるものがあってね(笑)。"Rain"というタイトルに悲観的なイメージは全くなく、むしろ前向きなんです。 堀野:Rainに関して言うと、生き物が地球で生息するには、自然の天候の恵みは太陽の光や熱だけではなく、風や雨がなくてはならないですからね。僕らが日常的に音楽に触れていることにも、同じ感覚があります。音楽を聴き始めた時は、音楽に触れている時間が特別に感じられたけれど、慣れ親しむと自分の中で普通になっていく訳ですよ。さらに言うと、日々の日常生活で見落とす物や事の中に、実は"特別"がたくさん潜んでいて──というか、本当は全てが"特別"なんですよね。そういう再発見と意識ほど心を豊かにする。まさに「灯台下暗し」かなと。 堀野:ありましたよ。例えば、アルバムのアートワークなんかは、進行ギリギリのスケジュールの中、デザインで悩んでいた時に、岡田さんからの提案でさまざまなことが急にリンクして、一気に進行したんです。それは、関わった人たちの高い意識がミックスされた時に、素晴らしいクオリティが生まれるということを再認識するできごとでした。全てはインスピレーションなんだ、と。ホント、皆さんのプロ意識に助けてもらいました。日々、学ばせて頂いてます。 岡田:これは僕の友人で、"松田康平"くんというフォトグラファーが撮った作品なんです。堀野さんからビジュアルイメージ的な部分でご相談を受けてたときに、僕の中でレーベルの音のイメージと、松田くんの作品のイメージがピッタリ合ったんですよ。で、彼の作品を堀野さんに見せたら「いいね!」って。彼は元々ロンドンにいて、"Kei Suzuki"というアーティストのポートレートを撮っていたりして、そういう音楽シーンの写真を現場で撮っていた人だから、ボクも大好きだったんです。ファッションの写真もやっている人なんですけれど、こういったラウンドスケープの写真もとても上手なんですよね。しかも、今回は撮りおろしで、このために東京のラウンドスケープを撮っていただきました。ちなみに裏面の写真を撮った日も、雨でした。ここぞというタイミングで、やっぱり雨なんですよね(笑)。でも、そういうフォトグラファーとのコラボレーション作品でもあるんです。 堀野:アホでしょ(笑)!語弊があるかもしれないけど、僕は周りを見てないんですよ。意識して見ないようにしている訳ではなく、むしろ自分の中で「やりたい!」と思うことを形にしていこうというのが根底にあるんです。だから、"出したい!"という欲求というか心の声があって、、、ホントそれだけ。"売れないから出さない"という考えはなかったです。ただ、出すからには常に自分が消費者でいることを心掛けました。買いたくないものは作りたくないですから。 堀野:みんなの考える空気感や時代感はわからないけど、僕自身はやりたいことを素直に表現できる体感温度的な感覚を大切にしています。僕の育った70~80年代は、経済的にも今よりもゆとりがあり、少々無茶なことをやっても許された時代なのかも知れません。そんな時代だったから、奇想天外で突拍子もないアイデアを持ち、夢をイメージして、実際に創造/具現化してきた人をたくさん見て育ってきましたしね。だから、僕にとっては自然なことなんです。 堀野:そうです。周りの空気や環境に左右されず、自身のイメージを貫き通し、挑戦し続ける人達にとてもインスピレーションを受けましたね。このCDに入っている作品を創造したアーティストたちも、そういった人たちと同じ体感温度を持っているように感じるんです。 堀野:楽しみ方のひとつを提案するなら、その曲の作り手をイメージして頂けたら、今までより少し音を通じて人と繋がる楽しさを感じられるんじゃないかな。とにかく、人生の中の貴重な1時間をこのCDに割いて、そして楽しんでもらえたら、とても嬉しいですよ。 堀野:いくつかの曲は既発なのでオンラインでも購入できますが、Hiroshi Watanabeの「A Day Of Rain」と、9dw「Right On(Takemacycle Sloppy Drums Dub)」の2曲に関しては、残念ながらオンライン販売はまだ未定です。今回はCD購入者特典で、帯の裏面にあるパスコードをPCでアクセスすると、Kenichiro Nishiharaによる、この暑い夏の夜に最高にマッチするスペシャルリミックスがダウンロードができるんです。贅沢にも、この特典のために作って頂きました。素晴らしい仕上がりに、僕はとても興奮していますよ。ぜひ、それも聴いて頂きたいです。 岡田:もちろんイベントは、moduleで続けていくのですが、"The Room"でもバースタイルのイベントをやり始めたので、それはまた色々な可能性を探っていきたいと思ってます。フリーペーパーの方は、ウェブサイトも含めて、紙とウェブとイベントという形態を、早くキチンととした形で作りたいですね。もっと現場に根付いた良い情報を発信していく、そんなモノをつくっていきたいです。 堀野:音源を購入すると分かるのですが、ウチはアーティスト、エンジニア、製造も全て100%国産なんですよ。そのスタイルはこれからも続けていきます。そして、毎月のデジタルリリースの他に、CD、そしてアナログレコードも含め、フィジカルリリースも不定期ながらもっと積極的に行っていきたいですね。ちなみに、8月末にRyoma Takemasa「Deepn'(The Backwoods & Gonno Remix)」のアナログ12インチをリリースするのですが、1年前の音源にも関わらず、いまだLaurent GarnierやJames Holdenなど、世界中のDJや多くのラジオにサポート頂いていて、うちのレーベルでもトップセラーのカタログです。10月には同じくRyoma Takemasaが、待望のファーストアルバムを「UNKNOWN season」からリリース予定で、そのリード曲「Catalyst」は、デモ段階ですでにTheo Parrishのお墨付きなんですよ。それと、毎月第4土曜日にRyoma Takemasaと「The Saturday」というDJパーティーを、恵比寿の"頭バー(www.zubar.jp )"で開催していて、こちらはお客さんとのコミュニケーションをコンセプトにしているパーティーなんです。音響もいいので、ぜひ一度足を運んでほしいですね。その他だと、ギリシャの「ウェストラジオ(www.westradio.gr)」で「UNKNOWN season Radio Show」というラジオ番組を、ヨーロッパ時間の毎月最終金曜日夜にO.A中です。 岡田:ありがとうございました。

堀野:ちなみに、「UNKNOWN season」では随時作品を募集しているので、「UNKNOWN season」のサイト(www.unknown-season.com)、もしくはダイレクトメール"info@unknown-season.com"まで、お問い合わせください。どうもありがとうございました。


《プロフィール》
Yoshi Horino
91年よりDJをスタート。90年代初頭のNY Kiss FMのラジオ番組、「Tony Humphries Master Mix Show」に影響を受けダンスミュージックにのめり込む。同時に音楽とDJ、ラジオ、クラブ、販売店など関係に興味を持ち、94年より約4年間、Dance Music Recordにて、House担当バイヤーとセーラーを務め、97年より約8年間、Flower Recordsにて制作、宣伝、営業など幅広く務める。同時期にDJ CosmoのリコメンドでDavid Mancuso主宰、「The Loft」のウェブサイト内「ear candy」にて数年間に渡りリコメンドディスクを紹介していた。2003年11月よりフリーランスで国内外のダンスミュージックを中心に宣伝や音源のライセンスコーディネーション、興行などを行い、2010年よりレーベルUNKNOWN seasonをスタートし現在に至る。毎月第4土曜日に"The Saturday" at 頭バー(www.zubar.jp)をRyoma Takemasaと共に開催。

www.unknown-season.com/
www.soundcloud.com/unknown-season
www.facebook.com/yoshi.horino/
www.facebook.com/unknownseason/


DESTINATION MAGAZINE
中目黒から全世界へ向けて発信されるフリーペーパー / バイリンガルマガジン。2009年7月創刊。これまでに数えて13号を発行し、Gilles Peterson、Dego、Squarepusher、Mark de Clive-Lowe、Ben Watt、Jimpster、Karizma、Floating Pointsなど、世界が注目するトップアーティストへの、ロングインタビューを中心とした誌面作りを続ける。
http://www.facebook.com/destination.magazine