常に先駆的な作風で、誰も真似できない独創的サウンドを創作し、ジャンルという枠をエレクトリックミュージックで壊していく「Clark」。前作「Totems Flare (2009)」から3年、「Clark」の最新作「Iradelphic」が4月4日(水)にリリースされた。今までの彼のアルバムとはやはり異なり、柔らかくて暖かく、より有機的で美しさが際立っていた。天才、異端児、さまざまな言葉で形容される彼は何を見ているのか?本作「Iradelphic」について、さらにはSonarSound Tokyoでのパフォーマンスについて話を聞いた。 Interview : yanma (clubberia) Translation : beatink |
● 3年ぶりのアルバムリリースおめでとうございます。「Turning Dragon (2008)」から「Totems Flare (2009)」まで1年の期間でリリースしており、当時のインタビューに今後のリリースはあまり時間をかけることはないとおっしゃっていたのですが、今回、前作と時間が思いのほか開いてました。何か心境や環境の変化があったのでしょうか?またこの3年間は何をしていたのでしょうか? Clark: ずっと音楽に取り組んでいたよ。計画通りにいかない時もあるし、特に今回は生楽器の練習や新しいレコーディングのやり方など学ばなきゃいけなかったから、これだけ時間がかかったんだ。 ● 今作「Iradelphic」は今までより、より有機的で美しさが際立っていたように思います。ビートもよりシンプルになってきたようにも思いました。このアルバムはどういった意図で構成されたのでしょうか? Clark: 「Iradelphic」のサウンドは、これまでの作品よりも柔らかくて暖かく、機械に抗うような攻撃性はかなり薄くなってる。マシーンやサウンドを支配してやるとかそういう気持ちはなかったね。全体的にソフトなサウンドになったのは意図的ではないけれど、結果としてこうなったんだ。全体的に夏っぽい感じがすると思わない?制作したのは冬だったんだけどね。それも謎だよ。 ● テーマに沿った制作や作業は一切しないと、以前インタビューでおっしゃっていたのですが本作もなのでしょうか? Clark: テーマがないわけじゃないよ。音楽そのものがメッセージだから。それ以外にメッセージを掲げようとする音楽でいいものにあたった試しがないんだ。The Cranberriesの「Zombie」みたいに政治的なメッセージを押し出す歌とかがいい例だね。本当にいい音楽はそのままでいいんだよ。政治・社会運動に観客を巻き込もうとする魂胆の音楽はエキサイティングな音楽と思えないんだ。 (右上へ続く) |
● 本作には多くのヴィンテージの楽器や機材を使用されているとのことなのです、その理が由はなぜでしょうか? Clark: アコースティックサウンドを完璧に録音できる50年代のテレファンクマイクや、自分のスタジオに転がってる物をいろいろ使った。最初から結果の予想がつく新しい機械より、古い物のほうが雑音が入るからサウンドが印象強くなるし、その予想不可能なところがレコーディングを一層盛り上げるんだ。 ● レコーディングを、オーストラリア、ベルリン、ウェールズ、ブリュッセル、コーンウォール、ノルウェー、ロンドンで行ったそうですが、各地でやる理由はなんだったのでしょうか? Clark: 特に自分からすすんでこのやり方を選んだ訳じゃないんだけど、彼女がオーストラリアで仕事しているんで、自然と自分の制作の一部もオーストラリアでやることになったんだ。ジプシーみたいなこのやり方もなかなかうまくいってるよ。 多くの機材はベルリンに置いてあるんだけど、1つの場所にずっといるとありがたみが薄れるから、1週間だけ戻ってきて、限られた時間の中で作業に没頭するようにした。そこで上がったものを、ノートPCに取り込んでパソコンでアレンジをかけるような流れにしたらしっくりきたんだよ。イギリスのサフォーク州にあるスネイプという小さな村のコンサートホールでは、オーケストラ用機材や超高級マイクを使ったりもしたね。とにかくいろんな所を回ったよ。 ● 制作は順調でしたか?その制作過程でのエピソードがあれば教えてください。 Clark: レコーディングのために去年の4月、Martinaがベルリンのアパートまで来てくれたんだ。こっちはオーストラリアから戻ってきたばかりだったからひどい時差ぼけで辛かったよ(笑)。それでも彼女と仲良くなれてお互い気遣いあったけど、ちょっと彼女を怒らせてしまってさ。アパートにアコースティックの響きがとてもいい裏庭があるからちょっとそこで歌ってみてって頼んだんだけど、その日はマイナス2度だってことを忘れていた(笑)。後でちょっと文句を言われたけど、それ以外は順調だったね。とにかく2人で紅茶を何杯も飲んで乗り切ったよ。イギリス人ならではだろ? それと、クリスマスをオーストラリアのメルボルンで過ごしたのは最高だった。そこでアルバムを完成したんだけど、夏のクリスマスは本当に奇妙だったよ。最初は時差ボケで辛かったけど、1週間ぐらいで大量に曲を書き上げることができたんだ。生まれて初めて外国で過ごしたクリスマスの気温は32度!アルバム完成まで切羽詰まっていたのもあって強く印象に残っているよ。 ● Martinaの魅力も教えてください。 Clark: 彼女のような優れたアーティストと仕事をすると、アルバムに新鮮さが増すし、自分のステップとしても重要だと思った。他の人と共同で働くのは、自分の強みとは言えなかったからね。彼女は俺とは全く違うスタイルのアーティストだから、コラボではいろいろ挑戦もあったけど、だからこそ本当の意味でコラボレーションだと感じたんだ。彼女と一緒に仕事できて本当に良かったと思ってる。 (左下へ続く) |
● 常に曲を作り続けているというイメージなのですが、制作をされない日というのはあるのでしょうか?制作をする日としない日、それぞれの1日のスケジュールを教えてください。
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● あなたは、WARPからのデビュー以来、ポストAphex TwinやWARPの伝統的なスタイルの継承者として表現されたりもしますが、それについてどう思われていますか?あなた自身にとってWARPというレーベルは、どういうレーベルなのでしょうか? Clark: うーん…ちゃんと音楽を聴かずにプレスリリースばかり読んでいる人間が言いそうなことだな... 今回の作品が昔のWARPのサウンドに似ているとは思えないし、「Turning Dragon」の前にもあんなに激しいテクノサウンドがあったかどうかも疑問だよ。そういう表現には同感できない。たまに俺がWARPの灯火を次世代のために守っているかのようなロマンチックなアイディアを持ち出す人もいるが、それに対しては笑うしかないというのが本音さ。 WARPは、今までずっと俺をサポートしてきてくれたし、いつもやりたいようにやらせてくれた。10年も在籍してるから他のレーベルなんて考えられないよ。彼らとは本当に相性がピッタリ合うんだ。 ● 最近気に入っているアーティストや音楽はありますか?日本人の中に好きなアーティストはいたりしますか? Clark: 日本人アーティストといったら、ノイズアーティストのMerzbowだね。世間の評価は賛否両論だけど。確かに誰もが好む音楽ではないよな。あまりにも騒音がアグレッシブで、俺も聞くに堪えない時もあるよ。 ● 今回、SonarSound Tokyoに出演されますが、どのようなパフォーマンスになりますか? Clark: 俺とモニターのビジュアルのみで、アナログ中心のパフォーマンスになる予定だよ。今回のショウには十分準備時間が取れそうだし楽しみだね。爆音リズム系の音楽はいまでも好きだし、自分のクラブミュージックのルーツを生かしたいと思ってる。シンセやサンプラーを大量に使って、即興セットやアルバムからのトラックをミックスしてダンスフロア向けのセットにするつもりだよ。 ● 最後に日本のファンにメッセージをお願いします。 Clark: "The world is music and your brain is the microphone." 「この世界は音楽で、脳みそはマイクだ」。自分で考えた言葉さ。その通りの生き様にしたい。 それと「火曜日は帽子を被るな」。これも今考えた、深い意味はないさ。 |