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“聴いたことのない音楽、見たことのない映像”を求めて。 驚きの歓声があがるとき、僕らは何を目にしているのか?

 11月2日(水)から4日(金)にかけて東京・渋谷を舞台に開催される、電子音楽と最新テクノロジーを駆使したフェスティバル「MUTEK」(ミューテック)。カナダからやってきた本フェスティバルは、電子音楽だからといってクラブイベントというわけではなく、アートイベントとしての側面が強い。よって、クラブミュージックに詳しい人でも初めて目にする出演者も多いはずだ。これから数組、編集部の偏向で紹介していくが、まず最低限、彼の名前だけは知っておいてほしい。 彼の名はAlva Noto(11月2日 WWW Xに出演)。本名、Carsten Nicolai。電子音楽の母国ドイツに生まれ、ベルリンを拠点に世界中で活躍するアーティストだ。彼が主宰するレーベルRaster-Notonは実験電子音楽で世界最高峰と評され、今年で設立20周年を迎える。さらに今年公開されたレオナルド・ディカプリオ主演の映画『レヴェナント:蘇りし者』では、音楽を坂本龍一と共同作曲している。Alva Notoは電子音楽を制作する名義で、本名ではメディア・アートを制作。2013年にCarsten Nicolaiとして、文化庁メディア芸術祭のアート部門で大賞を受賞している。またニューヨークのグッゲンハイム美術館、サンフランシスコ近代美術館(通称MoMA)、パリのポンピドゥー・センターといった世界的な美術館でもオーディオビジュアル作品を発表していたりと、音楽とアート、双方に秀でた稀有なアーティストだ。機械が発する単音(ボタンを押した時のピッピッといった音)やグリッチ(機械の接触不良で生じるジリジリ音など)を多様したサウンドが特徴。日本への来日回数も多いが、今回はレーベルの20周年も記念ということもあり、どんなパフォーマンスを魅せてくれるのか非常に楽しみだ。

 そしてAlva Notoともこれまでにコラボレーションしているフランスの音響詩人Anne-James Chaton (11月2日 WWW X出演)も面白い。2012年にはRaster-Notonからもアルバムをリリースしており、ノイズ混じりの電子音のループに、レシートや切符、新聞のコピーなど日常に溢れる些細なテキストを言葉として音楽にのせ、ミニマルなポエトリーディング作品を展開している。下記動画はAlva NotoとAnne-James Chatonによるもの。


AからZに向かい、世の中にあふれるロゴを順番に発していく作品。シンプルだが癖になる作品。


日本人俳優、嶋田久作が出演。東京・杉並区の一画が舞台。  

 
今回出演するアーティストの映像を見ていて一番驚いたのがMartin Messier(11月2日 WWW出演)。何台も並べたミシンや映写機をコンピューターで制御して音を鳴らしている。なかには、木材と金属でできた巨大な物体を大人2人がかりで鳴らしているパフォーマンスまで…。彼はTransmediale(ベルリン)、Sonar(バルセロナ)、Nemo(パリ)といった世界中の名だたる芸術祭で自身の作品を披露している。今回はFIELDという作品を披露。穴が開けられた2枚の金属板をコードでつなぎ音を出していく。まるでシンセサイザーのようだ。残念ながらFIELDのヒントとなる映像は1分半。なのでこのパフォーマンスがこの後に、どう発展していくかは、現場でのお楽しみとしてとっておこう。



 
 
 プロフィールに“キネクティックを駆使した音楽・作曲家である……、と紹介されているのがMaotik & Metametric(11月4日 WWW出演)。みなさんも疑問に思っただろう“キネクティック”とはなんぞや? 現時点でわかっていることは自身で制作した楽器だということ。前述したMartin Messierもオリジナルの楽器でパフォーマンスを行う事を考えるとMUTEKに出演するアーティストは自分だけの音を追求する相当な強者の集まりだ。
 もう一人のMaotikはイマーシブ(没入型)な映像を得意とするアーティスト。例えば平面の壁にトンネルを映し出し、視聴者はあたかも自分がそのトンネル内を進んでいるように錯覚する。そこから発展させたと考えられるのが、昨年のMUTEKで初披露したOmnis。□や◯といった単純な記号や線をモチーフに映像を映し出し、まるで電子が飛び交う仮想空間の中にいる錯覚を体験できる。東京では、Durationsというパフォーマンスを披露する。これは、アメリカの実験音楽家、Morton Feldman(1926-1987)が発表した作品『Durations I-V』を電子音楽で再構築したもの。そしてパーカションの音とシンセサイザーのメロディーを独自の機材で解析し、3面のスクリーンに投影するというコンセプチュアルな内容だ。


 

 
世界には面白いことをするアーティストがたくさんいるなと、本稿を書きながら思ったが、それは日本も然りだ。Shingo Shibamoto × MMM (11月4日 WWW出演)。ここでピンっときた人は、なかなかのクラブ通。まずMMMは都内を中心に活動するVJチーム。Shingo ShibamotoはWOMBをはじめ国内外で活躍するDr.Shingoだ。レペゼンクラブシーン、レペゼンTOKYOな彼らが何を表現するのか? これまで表現してきたクラブミュージックとは違う表現を、このMUTEKで初披露する。テーマは “音と光”。「LED BALL PROJECT」と名付けられたこのパフォーマンス。数百個のLEDライトが六面体に配置されその中央に Shingo Shibamotoが位置し、モジュラーシンセサイザーを扱う。LEDの光が音と連動するときもあれば、音から解放され自我を持ったように自由に輝きだすこともある。音と光の共演を楽しみにしたい。

 

 
やっぱり躍りたいよ! という読者の方、ご安心ください。わたしたちを躍らせる役割を担ってくれるのがMidnightI Operator (11月4日 WWW X出演)。Mathew Jonsonと、弟Nathan Mathewからなるユニット。Mathew Jonsonといえば、Cobblestone JazzやModern Deep Left Quartetといったユニットでもお馴染み。一方、弟のNathan Mathewは、Hrdvsionという名義で数多くリリースしている。MidnightI Operatorとしての活動は2007年にファーストシングルをリリース。Fabric、Berghain/Panorama Barといったトップクラブ、DekmantelやSonarにも出演と、その実力はお墨付きだ。最新のコンピューターとアナログ機材を駆使したインプロビゼーションライブはもちろん今回が本邦初公開。彼らの出演するプログラムは、MUTEK唯一の深夜イベント。ほかにも日本からENA。海外からはMax Cooper、Pheek が出演と、クラベリア読者には一番親和性が高いだろう。

 

 
聴いたことない音楽、見たことのない映像を体験できる3日間。どんな驚きを与えてくれるのか楽しみなのと同時に、理解が難しいパフォーマンスにも出会うだろう。ただそのときは、自分には早すぎたと眠らせることをオススメする。アナログ・レコードあるあるだが、そういったものに限って数年後に良さに気づいたりするものだ。また今回が日本初開催ということもあり、“伝説のあのパフォーマンス”と呼べるものに出会えることにも期待したい。数年後、「MUTEKでの◯◯のパフォーマンス、おれ観てたよ!」と自慢できる日が来るだろう。
 いよいよ開催まであと僅か。フロアで驚きの歓声があがるとき、僕らはいったい何を目にしているのだろうか。





■オフィシャルサイト
http://mutek.jp/#!/home

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http://www.clubberia.com/ja/search/?text=mutek+jp+2016