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Red Bull Music Academy 2014 Tokyo - 物事が本来あるべき姿に戻った1ヶ月 -

本来あるべき姿に戻った1ヶ月間だった。
「Red Bull Music Academy Tokyo (以下RBMA TOKYO)」を終えて、いつもの生活に戻った時に振り返ってみるとそう思える。

10月12日から11月14日までの1ヶ月間にわたり開催されていた「RBMA TOKYO」。世界中から選ばれた58人のミュージシャンやプロデューサーが青山を象徴するビルに集まり楽曲を制作する日々を過ごし、夜にはRBMA参加者たちが都内のあらゆる会場でパフォーマンスを行った。その「RBMA TOKYO」を辿っていく中で、目にしたものの数々。この取り組みを支えるもの、彩りを与えるもの、問題提起させられるもの。それらに、時に驚き時には悔しくなることもあった。「RBMA TOKYO」が残したものとはいったいなんだったのだろう。


Photo : Red Bull content pool
Text : yanma (clubberia)
   
何気ない朝、通勤途中の目に入ってきた渋谷スクランブル交差点近辺の巨大広告の数々。それは、新宿、表参道の駅などにも一斉に展開された。大友良英、Yosi Horikawa、山口一郎(サカナクション)、池田亮二、冨田勲、初音ミクのインタビュー文言を引用した看板や大型ビジョンでの動画配信。そのビジュアル的インパクトはもちろんなのだが、それぞれのアートワークの美しさに感じる芸術性や、東京の中心部になぜこのような広告を出したのかという問題提起を広告に感じたのは初めてなのかもしれない。それも広告というお金を感じさせるものにだ。
また、渋谷"club asia"前や恵比寿"Liquidroom"付近に立てかけられていた看板があったが、どこか身近な印象をもったが、アートディレクションを担当した伊藤ガビン氏の話を聞いて納得した。これは選挙ボードをアイデアに制作されており、海外からやってきたキャンペーンが東京・日本という都市に介入する役割を担ったようだ。

 
とりわけ、1ヶ月間飽きることなく「RBMA TOKYO」を楽しめたのは、これら広告物のアートワークの数々だった。イベントごとに作者を変えて作られたポスター、フライヤーは、全て日本人アーティストによって描かれている。ただ、全てが全てアーティスト活動をしている人ではなかったようだ。例えば、東京電機大学旧校舎跡地で行われ、まさに廃墟という珍しいロケーションで行われた「Terabyte Transfer」のアートワークは、プラモデルの箱絵氏である関口猪一郎氏が担当するなど、イベントの内容を加味し振り分けられていた。

   
細部への徹底ぶりは、決して一般消費者に届く部分ではないところへまで、気を配られていたのにも驚きだった。小雨がぱらつく中で行われた東京国立博物館の法隆寺宝物館前でのDJ KRUSHと日本の伝統楽器とのセッション「The Garden Beyond」では、レッドブル・ミュージック・アカデミーのロゴが入ったガチャポンの丸いプラスチックケースが入り口で渡された。この中にはレインコートが入っていた。屋外でのイベントだったので、予め雨が降ることも想定して準備していたのだろうが、ただレインコートを配るよりこういった遊び心をどの状況でも入れていく姿勢には感服させられる。

また、生徒たちや関係者に配られるブックレットもあるのだが、これもずっと手元に残しておきたいアイテムになっている。
ブックレットを簡単に説明すると、まず関係者と生徒に配られる「ART」というブックレットには、RBMAの建築空間を創りあげた隈研吾氏、生徒たちや世界中から訪れる関係者のクリエイティビティーを刺激する空間内に設置されたアートをキュレーションした窪田研二氏、ポスターなどの広告物をプロデュースした伊藤ガビン氏からの言葉や、飾られるアート作品の説明、広告物のアーカイブとその作家が記されている。
そして、生徒に配られる「WELCOME」というブックレットには、RBMA創設者や卒業生の言葉、参加者のプロフィール、日本で過ごすために必要な情報(挨拶や文化、レコードショップ、はたまたトイレの使い方まで)が、ストリートブランドSILASのアートワークに出てきそうな、かわいらしいイラストと一緒にまとめられている。また、これらやその他の資料を入れるトートバッグには、イラストのような写真を作品とする安村崇氏の作品がプリントされていたり、生徒に配られるバッグパックもオリジナルで制作されていた。
極めつけは、生徒やRBMA TOKYOスタッフが口にする食事を、青山にある隠れ家的立ち飲み屋「なるきよ」が1ヶ月間お店を閉めて担当していたのには驚きだった。実際に昼食を頂いたが、栄養のバランスも良く、なおかつ美味しかった!

   
冒頭で悔しくなったと書いたが、これはウェブ上で展開されていた素晴らしい記事についてだ。以前よりアーティストのインタビューや、音楽史的ヒストリーを遡る記事は定期的に公開されていたが、RBMA開催期間中は、このウェブサイトが特に活発化していた。時代を先取りした日本のダブバンドMUTO BEAT、世界中で愛される日本メーカーRoland、PIZZICATO FIVE、鈴木勲、DJ NOBU、CORNELIUS、菅野よう子などを取り上げた良記事が立て続けにアップされるのを目の当たりにした。私自身、今あるどの音楽メディアよりも記事の内容も見せ方も面白いと思えたし、メディアの人間としてRBMA TOKYOのサイトに負けているようではダメだとすら思ったからだら。
 
 
ここまで音楽以外の部分に対して触れているが、もちろんRBMAのイベントも素晴らしいものが多く、感動する場面にいることができたのは、今後の音楽人生の大きな糧となったことだろう。特にホール新世界で行われたRBMA TOKYO参加者達と大友良英による即興共同パフォーマンスには、関係者の二階席から思わずフロアの1階席に駆け下りたほど感動させられた。
RBMA参加者が円陣を組むようにそれぞれ楽器を持ち位置し、大友良英が指揮者となり自身の仕草で誰が楽器を鳴らすか、どのように鳴らすかなど意思の疎通を行いセッションを行っていく内容だった。指揮者は大友良英だけでなく、RBMA参加者も、さらには本公演を見に来ていた一般来場者までも行った。会場の空気は終始、笑顔と拍手で溢れ、最後には一般来場者もステージにあがり踊りだし、その場にいた人、全員でのセッションへと移行した時にの光景は音楽の素晴らしさ、純粋さを目の当たりにできた。ただただ音を出し、それが重なり、心が弾んでいく。音を楽しむ。これが、音楽というものの本質なのだと思えた瞬間だ。
 
 
11月14日、RBMA TOKYO最終日。LIQUIDROOMの会場に着きフロアに下りていくと、いつもと違うエネルギーに溢れていた。Carl Cragがプレイするフロアはもちろん、DJがいないラウンジまでも盛り上がっている光景を私は見たことがないかもしれない。それを人はクラブが面白かった頃に戻った様とも言うし、1ヶ月間刺激的な時間を過ごして別れを惜しむ様でもあった。RBMA TOKYOというものは、DJ/アーティスト、プロモーター、メディア、クラブなど、多くの人が同じ方向を向いて取り組めたものだったのだと思う。なぜ、多くの人を巻き込んでこれほど気持ちが動かされたのか?その答えを導くヒントが、隈研吾氏の言葉にあるように思う。

隈研吾氏レクチャー内で日本と海外のクライアントによる違う部分ついてという問いに、日本の企業は最初面白いことを提案してほしいと言うわりに実際提案しみると、案をどんどん尻つぼみさせられることが多いが、海外のクライアントはもっと面白い案はないのかと、より挑戦的であるという例を挙げていた。Red Bullももちろん後者であることは想像がつくだろう。
今回RBMAが展開したイベントでも。法隆寺宝物館前での「The Garden Beyond」、カラオケ館 新宿店から配信された「Lost In Karaoke」、前述したホール新世界での「Chaos Conductor」、ゲーム音楽にスポットを当てた「1UP: Cart Diggers Live」など、今までになかった音楽イベントを開催してきた。そして、街中に出現するクリエイティビティ溢れる広告物、細部にまで拘りを魅せるアートディレクションや、資料として価値のある記事の数々。。。

神は細部に宿る。この言葉がそのまま当てはまるような取り組みを1ヶ月にわたり、私たちは目の当たりにしていた。予算があるからできるという声もあったが、予算にものを言わすのであればプロモーションとしてこんなに困難な方法を取る事はしないだろう。テレビCMや大型イベントやフェスで露出を図ればいいのだから。
新しいもの、面白いと思うもの提示には、アイデアと実現へ向けて動くための熱意の方が必要ではないだろうか。落としどころという予定調和を避けて最高のパフォーマンスを発揮し続けたRBMA TOKYOという取り組みは、物事が本来あるべき姿を提示し続けてたのだ。そして、私たちはそういうものに心動かされる。

 
追記:
来年のレッドブルミュージックアカデミーは、文化の都フランスはパリで開催されることが発表されましたね。生徒ではない私でも、夢のような1ヶ月だったと感じます。それが生徒の立場だったら。。。アーティト活動されている方は、狭き門ですが是非チャレンジしてもらいたいです。
http://www.clubberia.com/ja/news/4749-Red-Bull-Music-Academy/