約4000人の応募の中から選ばれたアカデミーの学生たちの1日を追ってみた。
11:00 AM
朝はバイキング形式。シリアル、パン、生ハム、チーズ、スパニッシュオムレツなどがずらり。オムレツ、生ハムは、町のいたる所で見かけることもあり非常においしい。まさにスペインの味と言ったところか。筆者が舌鼓をうっていると、ずらりと30人の学生が一斉に食堂に現れた。食事をとり思い思いの席に着くと、気さくにしゃべりだした。少し前までは、地球上の様々な国に散らばっていたのにも関わらず、不思議な一体感が見て取れる。音楽のつながりは言語、そして国境も超える。
12:00 PM
最初のレクチャーが始まるのがお昼過ぎ。生徒から聞くところによるとレクチャーだけは必ず出席しなければいけないらしい。逆にそれ以外に特に決まりごとはないそう。今日の講師は「Morton Subotnick」。シンセサイザーを用いた作曲の先駆けの人物で、1960年代初頭にモジュラーシンセサイザーの開発に関わった人物としても知られている。彼の依頼のもとに制作されたのが”Buchla 100”シリーズ。動画ではその後継機である ”Buchla 200”が音を奏でる様子を見ることができる。
- 誰もがシンセを持つ時代がやってくるのは60年代には想像できたよ。Morton Subotnick -
Larry Levan が1997年のインタビューで「日本の製品のおかげで、作曲する上で不可能は無いよ。」と言っていたのは印象的だったが、Morton Subotnick はこのさらに50年近くも前に未来を見据えていた。「誰もがシンセを持つ時代がやってくるのは60代には想像できたよ。」彼が言うと単なる未来予想図もすごみを帯びて聞こえた。
このレクチャーのホストは Todd L. Burns。Resident Advisor のチーフエディターである。
02:00 PM
ここでランチタイム、ほぼ時間を空けずにのランチだが、アカデミーに居るとインスパレーションに常に浸っているせいかお腹がすく。今日はサーモンかチリコンカーンが選べるようになっていた。
05:00 PM
今日2回目のレクチャーが始まる。講師にむかえるのは「Mannie Fresh」。昨晩の Red Bull のパーティーでもDJを披露していたらしく、生徒にはいいイントロダクションになったのではないか。30年近いキャリアを持つニューオーリンズ出身のアーティスト、Juvenile や B.G.など数々の若手をプロデュースしたことでも知られている。自身の生い立ち、アーティストとしての経験をもとに、生徒がこれからさらに必要になってくるであろう音楽に向き合う姿勢を、力強いことばとともに教えてくれた。
-何よりも家族は大事な存在だよ。 Mannie Fresh -
「すべての音楽にオープンにならないとダメだ。自分の好きな音楽に夢中になりすぎるばかりに、小さい殻に閉じこもることをやめること。そして何よりも家族は大事な存在だよ。」自分は、家族と何気なく暮らせていることの幸せは、やはりどんな人でも忘れがちだが彼の一言は、今一度それを思い出させてくれた。
07:00 PM
そしてプロダクションの時間が始まる。実は、生徒にプロダクションに関するノルマは課されていない。スタジオにあるのは、刺激的な仲間と、最高峰の機材。技術講師は、Dorian Concept、Robin Hannibal、Roman Flugel が時間を惜しまず生徒とのセッションに参加してくれるらしく、ある生徒の話では朝まで4時間も作曲の方法を学んでいたとか。そしてメインスタジオを管理するのは Marco Passarani、Erik Breuer。作曲をするには申し分の無い夢のような環境が生徒には与えられている。時は金なり。誰が言い始めたかは知らないが、この場所に唯一足りていないのは、時間。誰もが時間を惜しんで自分の中で起こり続ける化学変化の行方を音で表現し続ける。
生徒によってはこの時間帯にラジオへ出演することになる。年々増え続ける Red Bull Music Adacemy Radio の放送局は今年は60を超える。現場でのニュースや生徒の動向、新しい音楽などをすぐに世界に発信する準備は整っている。今日は、今年のアカデミー唯一の日本人アーティストである Yosi Horikawa も新曲を披露しインタビューに答えていた。
08:00 PM
食堂のすぐ隣で収録されているラジオを聞きながら、自由にディナーが食べられる環境はいつでも整っている。しかし心なしか、生徒の数は少ない。この環境に居て空腹に気づくことはそこまで重要ではない、そう体が覚えてしまったのか。
12:00 AM
ほぼ毎晩と言っていいほど、マドリッドのどこかで Red Bull Music Academy 主催のパーティーが行われている。息抜きに生徒たちも足を運ぶ。今晩は講師でもある Roman Flugel を筆頭に アカデミーの生徒でもある Fabian Bruhn などが名を連ねる。生徒の中にはこのように、パフォーマンスの機会も与えられ生の経験を積むことになる。開催されるクラブは毎夜違っていて、期間中にはあらゆる箱でナイトアウトを楽しむことができる。
思い出となれば語りつくせないほどの毎日を、生徒たちは楽しんでいるに違いない。
all photos by Red Bull Music Academy.
レクチャーホールにある Red Bull のロゴの制作過程をレッドブルが公開していた、このロゴは期間中にすべてのレクチャーを見守っている。
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