BURNING MAN 2014 AUG 25 - SEPT 1, 2014 | バーニングマン

Text:DJQP
Photo:Hidenori Suzuki / DJQP

砂漠で開催される原則金銭を使わない
音楽とアートと悪ふざけの祭典「BurningMan 」とは・・

アメリカ・ネバダ州の砂漠で毎年開催される「BurningMan (バーニングマン)」、何をしなくてはいけない、これをやるべき、そんなルールが一切無い、音楽とアートと悪ふざけのフェスティバルが実在します。約7万人のパーティーピーポーが世界各国から集結し、何もない砂漠に1週間だけ街を作り、最後に燃やし片付け、元の砂漠に戻すという想像を越えるイベントです。それぞれが思い思いの仮装を着てパフォーマンスを繰り広げ、数百ものDJブースやアーティスティックな謎の建造物が建築され、1週間砂漠のド真ん中で飲んで歌って踊って騒いで出会いまくる!そんな夢のような空間で2014年8月末にDJをしてきました。

とにもかくにも、まずは開催半年前のチケットの購入から始めましょう。朝方5時にPCの前で世界同時発売のチケット購入ボタンを連打していたのを覚えています。まず決められた期間内に「バーナー・プロフィール」を作成し、それを元に決められた日時に販売されるチケットを購入します。今年はたったの45分で約5万枚のチケットが即完売し、サイトへのアクセスが集中したため入手できなかった人も多かったようです。出発の半年前の事ですので、この時点ではまだ本当に辿り着けるのか半信半疑でした。

さて会場までの行き方です。東京からバーニングマンの会場「ブラックロック砂漠」までは、一般的に成田を出発してサンフランシスコ経由でリノ・タホ空港まで計12時間ほど。さらにリノの空港から車で順調に行けば4~5時間ほどで到着します。(他にもいくつかの経由があります。)またアメリカ全土からは、日本でお目にかかれない巨大なキャンピングカーがこの砂漠にぞくぞくと集結してきます。私達は夜間の移動だったため比較的空いていましたが、リノからの砂漠への道のりは途中から1本道となり、近年は参加者が増加して大渋滞により会場入りまで1晩以上かかる事もあるそうなので、時間に余裕を持って行く事をお勧めします。

リノの空港に到着するとバーニングマンの写真を展示しているブースがあったり、街のあちこちバーニングマン専門の衣装や小道具の店があったりと、空港も街も一体となってバーニングマンを支えている事が分かります。写真展示とともにイベント後に様々なアートや発電施設などは、寄付してしまうこともあるそうで、街中にその名残があるのもリノの街並の特徴です。チケットを入手できず「チケットを売って下さい」と看板を持って空港で出待ちしている人達もいました。アジア人はあまり見かけないため、テンションの高いおじさん達に「BurningMan?」と話しかけられることもしばしばでした。空港からバーニングマンの会場までは、レンタカーで移動しました。他にはシャトルバスが運行しており片道1万円程度で移動する事もできますので、仲間とバラバラに行く人や運転免許の無い方はこちらもオススメします。バスツアーもあり完全予約制なのでチェックしてみてください→BURNER EXPRESS ( http://www.BURNEREXPRESS.com )

原則は「ギフティング」!
見返りを求めない「GIVE & GIVE」の精神で回る日常

会場に到着し「WILL CALL」と言う「引き換えナンバー」を見せて、バーニングマンのチケットを受け取ったら早速エントランスゲートへ。ゲートでは24時間態勢でスタッフが出迎えてくれ、バーニングマン初心者は全員「私はもうバージンじゃない(英語)」と叫びながら鐘を叩いて鳴らす儀式を経てやっと会場に入る事ができます。昼間に来た人は「お前はまだ汚れていないからBurner(バーナー)じゃない」、と砂漠の上をゴロゴロ転がされてからようやく入れたというエピソードもありました。スタッフの男の人達は裸だったり、スカートだったり、ゲイだったりと、とにもかくにもゲートから笑わせてくれます。(バーニングマンに参加する人達を「Burner(バーナー)」と呼びます。)

ゲートから中に入ると会場の外周を時速5km以内で走行し、テントを張るポイントに向かいました。今回私達は事前申請をして300人ほどのキャンプ“BASEHENGE”(ベースヘンジ)に参加していたので、別途300US$を支払い、シャワーとキッチンが使える環境で生活をしました。とは言っても砂漠の真ん中なのでシャワーは1日5分まで、蛇口の水を出しっぱなしにしていると本気で怒られます。水は砂漠ではもっとも貴重だと言う事を身にしみて実感しました。初日は暗闇の中テントを張り終えさっそく乾杯をして食事にありつき、7万人のパーティーピーポーに混ざってバーニングマンでの生活が始まりました。

初めて迎えたバーニングマンの朝は最悪の目覚めでした。午前10時を過ぎるとテント内が40~50℃近くの高温となり、「うそでしょ!?これあと5日も続くの?」と灼熱の砂漠に来た事を後悔の念が少しよぎりました。鏡を見て顔が赤いと思ったら、テント内の太陽の日差しで日焼けをしていたのです。一緒に行ったメンバーの料理の腕前が良かった事もあり食事は毎回とても豪華で、ご飯時間になるとどこからともなく美味しい匂いに連られて人が集まります。食べ物を互いにお裾分けしたり、お礼にお酒やタバコを貰ったり、私たちは100円均一で購入した扇子を大量に持って行き何かとお礼に扇子を渡し非常に喜ばれました。こうしてバーニングマンにおいて根源的な「GIVE & GIVE」の精神を身をもって学んだのです。原則一切お金を使ってはいけないバーニングマンでは「ギフティング」と呼ばれる物と物を交換する「贈り物経済」が徹底されており、見返りを求めない「GIVE & GIVE」の精神でその日常が回っています。

バーニングマンは広大な砂漠の中に五角形の仕切りがあり、さらにその内側のキャンプサイトは周囲270度の切りかけのバームクーヘンの様な形状の集合体となっています。これは、2:00から10:00までの「時間」でキャンプサイトの「位置」を表しています。私達は1番端の2:00方向にテントを張っていたのですが、2:00と10:00の方向は特にビッグパーティーが多く、24時間絶え間なく音楽が鳴り続けています。場所を表す時には「5:45のC」なんて呼ぶため、「12:30に5:45のCに集合な」となるとややこしくなる訳です。もちろん自分達で楽器やDJ機材を持ちこんで音を出す事も可能ですし、USBで音源だけを持っていって飛び込みでDJできる可能性さえあります。また運営者がDJをブッキングしてはいるもののタイムテーブルを発表しません。アーティスト達も無償でプレイするのが基本なので、事前にバーニングマンにはどんなアーティストが出演しているのか定かではない事が普通です。がしかし、日本に帰国してから知った事なのですが、どこの会場にどんなアーティストが出演しているか知る事ができるサイトが存在したのです。( http://burners.me/2014/08/14/2014-music-lineups/ )こちらのサイトには親切にもタイムテーブルまで載っていますので次回からはぜひ参考にしたいですね。

そして今年のバーニングマンも驚くべきラインナップのDJ達が参加しており、Skllirex VS Deadmau5 VS Digweed というあり得ないコラボレーションもありました。最も人気のブースのひとつ”ROBOT HEART”( https://www.facebook.com/RobotHeart?fref=ts )では、Skllirex、 Above & Beyond、Francois K、Thievery Corporation、Dyed Soundorom、ERIC VOLTA、など多数の有名アーティストが出演していました。そしてなんとCarl Coxは自分のブースキャンプを作ってしまうほどのバーニングマンフリークであり、ピークの朝方4時頃には10メートルほども高所に作られた大きなブースで彼のプレイを見る事ができました。音楽が流れているブースは大なり小なり数えきれないほど本当にたくさんあります。ちゃんと数えた訳ではないので個人的な印象ですが、野外フェスティバルのメイン会場レベルが20~30個ほど、さらにサブフロアサイズが100~200個ほど、さらにさらに個人的に開催しているような小さいブースは数百と存在しました。あまりに広大すぎてじっくり踊り場を選んでいる時間はありませんので、「ここだ!」と直感的にハマる音があればその音に身を委ねる事がなにより大切だと思います。

さてそんな数あるブースのうち、今回私は2カ所でDJさせてもらいました。“Celtic Chaos Castle”( https://www.facebook.com/CelticChaosCommunity )、そして”WRONG TOWN”です。“Celtic Chaos Castle”は外壁が特徴的な城の形をしており、中に入るとカラフルなフロアになっています。ブースは城内正面の高い位置にあり夜には外壁が緑色にライトアップされ、強力なレーザーや大砲型の火炎放射器が爆音や熱風とともに火を噴く刺激的な会場です。バーニングマンの中では中規模ですが毎年開催している有名な会場の1つで、緑色に輝く外壁は広大な暗闇でもひときわ目立ち私達のキャンプからわずか5分程度の近さだったため、帰る時の目印にしていました。この時のDJセットをSoundcloudにアップしているのでお時間ある時にぜひ聞いてみて下さい。



ブース自体は半室内ではありましたが、小窓から入ってくる砂漠の砂でCDJなどの機材は完全に砂まみれ。前日はDJM-800だったのに当日に突然ミキサーが変わっていたため「Why?」と尋ねると前日に砂まみれになって故障したとのこと、そんなハプニングもバーニングマンでは日常茶飯事です。最後は会場のスタッフやブッキングしてくれたJordanに自分のミックスCD「SONICA」を渡し、ハグとともに感謝を伝えました。余談ですが数百とあるブースで使われているほとんどの機材が「Pioneer」製品で、砂漠と言う高温で劣悪な環境の中でも対応出来る信頼ある機材が日本製であった事を本当に誇らしく思いました。

終了1時間後にはもう1つの会場でDJの予定があり、自転車2ケツ40分かけて移動しましたが、その道中も奇怪なアートや奇抜な人々に目を奪われます。2個目の会場”WRONG TOWN”に到着しDJ Afromance君からのバトンタッチでDJを交代しました。キャンプに囲まれた会場だった為に音量はあまり出せませんでしたが、一緒に行ったメンバーがウォッカ片手に無心に踊っていたり、多くの日本人が遊びに来てたり、隣のBARの客が混ざって踊りに来たり、自転車で通りすがる人が笑顔で手を振ってくれたりと、のんびり自由な世界感に心地よくプレイする事ができました。ブースの背面には人の顔の形をした真っ白な壁があり、夜になるとプロダクションマッピングをするのだそうです。さすがにスタッフの方たちものんびりな人が多く、1時間たっても次のDJが来ず、誰にも告げられなかったので、何も知らずにひたすらプレイし続ける事になりました。どおりでなんだか長いと思いました、、、しかし意外と”WRONG TOWN”の世界感は私にハマり、プレイ後にフロアのソファでしばらく人間観察をしているとよほど心地よかったのかウトウト寝てしまい、気がつくと辺りは夕陽に染まっていました。遠くのソファに放置したバッグも盗まれる事はなくちょこんと置かれており一安心。急激に寒くなる夜を迎える前に、急いでキャンプへの帰路につきました。

何が常識で何が非常識なのか?
世界中から集まった7万人からなる価値観のフュージョン空間での
生活を終えて

ここで移動に使っていた乗り物のお話です。基本バーニングマンでの移動手段は自転車または徒歩となります。会場は途方もなく広く、歩いて移動すると高確率で足が故障をきたす為、ほとんどの人がネオンに輝く自転車を持参します。逆に自転車や自身の身体中を電飾で光らせないと真っ暗闇の中で走り回る自転車同士や人と衝突する事も珍しくなく、会場内に3カ所設置された救護所は骨折や出血を含めた外傷患者に溢れ松葉杖や三角巾の人を見かけることもしばしばです。(悲しい事ですが毎年死者もでます。)なんと会場内には「イエローバイク」と呼ばれる緑色(イエローバイクなのに!)にペイントされた公共の自転車が存在し、見つければ誰もが自由に使う事ができます。最低限のルールとしては 鍵をかけたり自分のキャンプまで持ち帰っての独り占めはNGで、私達は4人で2台の自転車を現地で購入したのですがやはり足りずに常にイエローバイクを探していました。途中それらしき自転車を見つけたので乗ってキャンプに帰った所、、、実はイエローバイクではない事が判明し、他のメンバーに白い目で見られたのは言うまでもありません。その自転車はその後気がつくとまた誰かに持って行かれてしまい、最終日には購入した自転車も1台盗まれてしまいました。いくら助け合いの精神が根付くバーニングマンでも自転車には必ずカギをかける事が必要と学びになりました。また最近では富豪たちの間ではセグウェイが人気らしく、砂漠のあちこちで優雅に走るバーニングセレブ達を見かけました 。現地でお金は使えませんが、持ち込む装備に雲泥の差があるのは事実です。

バーニングマンの見所の1つ、それは広大な砂漠をゆっくりと徘徊する「アートカー」です。アーティスティックなペイントや煌びやかな装飾、ネオンに輝く電飾をしている車もあれば、巨大なスピーカーを積んでいたりBarやソファーでくつろげたり、火炎放射器でそこら中で炎を噴いたりしている車もあり会場全体で200~300台以上は走ってるんじゃないかというほど。もちろん自由に飛び乗り可能な移動式CLUBカーも無数にあり、行き先は誰も知らずの片道切符ですが、おもむろに目の前のアートカーに乗ってみるのもバーニングマンの醍醐味のひとつです。アートカーがすれ違う時にお互いのサウンドシステムをフルボリュームにしてサウンドバトルするのも、バーニングマンか深夜の暴走族集会でしか味わえない、と今年発売された「まがりすぎ」さんのガイドブック( http://www.bmgbjp.info )にも書いてあります。

さてさて、バーニングマン後半ともなればあちこで作られたアートが燃やされ始めます。まず土曜日に会場の中心にそびえ立つ通称"MAN"を、日曜日に"TEMPLE"を燃やす行事を行い、バーニングマンは1週間の宴を終えてゆきます。(それぞれ”MAN BURN”、”TEMPLE BURN”と呼びます)燃やす時間となるとそれぞれのアートを囲むように多くの人が集まり、静かに燃え切る様を見守ります。人々を魅了したアートたちが炎とともに灰になる姿は美しく神秘的で儚く、言葉では言い表せません。ある程度炎が小さくなると警備の手も緩まりアートに近づく事ができ、誰からとも無く周りを回り始めたり、飛び込む人がいたり、自分のパンツを投げ込む人がいたり・・。

土曜日の”MAN BURN”のために私達は早めにキャンプを出発し、見やすい正面位置に陣を取り座りました。ネオンで綺麗に光り輝く"MAN"の両腕が徐々に上がり始めると辺りから興奮を抑えきれない人々の歓声がわき上がり、立っていた人達も後方の観客に配慮し座り始め、皆がいよいよその瞬間を待ちわびます。"MAN"を見つめる人々の周囲をさらにグルリと取り囲む数百ものアートカー達も呼応するかのようにビートが高まっていきます。興奮を煽るように激しく叩かれるドラム、続々と打ち上る花火、そして大きな爆発とともに一気に燃え上がる炎。見てる人達の興奮も最高潮となり泣き出し抱き合う人さえいます。イベントのその名の通りに神々しく燃え上がる"MAN"の姿には心底圧倒されました。

しかし今年は観客の期待を裏切りなかなか"MAN"は倒れてくれず、しびれを切らした多くの人々は続々と立ちあがって移動してしまいました。なぜなら毎年10分ほどで倒れる"MAN"が1時間半も倒れなかったのですから。過去最大の25mともあって、さすがの主催者も頑丈に作りすぎてしまったのでしょう。広大な砂漠のアミューズメントパークでは基本的に"MAN"を中心に位置・方向を確認する事が多く、"MAN BURN"後は目印がなくなり急に自分のいる位置や向かう方向が分かりにくくなります。"MAN BURN"を見届けた興奮の夜はそのまま6時間ほど興味の向くままに歩き続け、五感が疲弊するほどに会場内を堪能しました。キャンプに戻った時には本当にクタクタでしたが、最高に満足で思い出深い夜となりました。しかしあとから各SNSにUPされる写真をみて「こんなの見てない行ってない、残念!」という場所が多過ぎて、バーニングマン全体を1週間で把握するのは至難と言わざるを得ません。

初めて経験したバーニングマンは、ゴミ1つ落ちてないクリーンなフェスティバルだった事もなによりの驚きでした。隣人との助け合い、自然との共存という愛に溢れ、運営者・参加者達の並々ならぬ意気込みと情熱を感じる最高のフェスティバルです。何も無い砂漠で7万人が生きるために必要な事は「助け合い」、これが無いと生きて行けない環境だからこそGIVE & GIVEの精神が成り立つのでしょう。バーニングマンでの生活に慣れてくると、今までの生活が現実だったのか砂漠での生活が現実なのか曖昧になってきます。何が常識で何が非常識なのか、必死に自分が守っていた価値観が非常に局所的な視点のみで形成されぼんやりした物だったと感じ始めます。異なるベクトルを持った7万からなる世界中の価値観がフージョンした空間での1週間の生活は、自分の価値観・人生観を一から見直すには十分すぎる体験となるでしょう。

私の長いレポートを最後まで読んでくれた皆様、本当にありがとうございました。
最後に、今回同行したDJ Afromance 君が日本のRegional Burningである"Burning Japan"( http://burning-japan.com ) を開催しているので、こちらもチェックしてみて下さいね!!

それでは、
See you next Burn!!

DJQP

Minimal techno、Tech House、Deep Houseを中心としたPlay Styleを駆使し。ハイブランドのレセプションやファッションショーの音楽演出、企業のローンチパーティーから毎週末のアンダーグラウンドギグまで、その持ち前の華やかさとSENSEで、イベントをROCK。また音楽活動に加え、ファッションモデル/エヴァンジェリ ストとしても様々なメディアに登場し、バックヤードでの認知を獲得している。近年『Hotel Costes』 プロデューサー "Stephane Pompougnac" や、『So, Happy in Paris?』オーガナイザー "DJ Michael Canitrot"などの海外ビッグネームとも多数競演を果たす。2012年、日本人女性DJとしては初のスペインIBIZA "Privilege"での2ヶ月間に及ぶ長期レジデントがブックされ、シーンのからの支持も急騰。全国各地はもとより、台湾,北京,香港,上海,シンガポール,マレーシアなど海外からのゲストオファーも急増中。また2013年11月6日には自身初となるオフィシャルMIX CD「SONICA」もリリースされた。

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