この「Best Album & Compilation」は、他のアワードとは異なり、clubberia編集部の独断と偏見で2012年にリリースされた作品の中からオススメしたい作品を20枚ほど紹介したい。2012年は、テクノ、ビートミュージック、ベースミュージックがより互いに歩み寄った印象を受けた。それは、新しいものが生 み出されようとしている前兆なのだろうか。とはいえ、今回ピックアップした作品は、時間の経過に左右されない作品となっている。また、表示順はアーティスト名のA to Zとなっている。

LA MAQUINA DE BOLAS

Alex Under

SOMA QUALITY RECORDINGS / OCTAVE-LAB

2012/3/21 発売

スペイン・マドリッドを拠点に活動し、Damian Schwartzなどと共にマドリッドのミニマルシーンをリードする存在のカリスマAlex Underが何と7年振りにニューアルバムを名門SOMAからリリースした。極限までストリップダウンさせたシンプルでディープなミニマルテクノサウンドを展開する本作は、Alex Underの今後を示唆する高いアーティスト性を証明した高品質なミニマルテクノアルバムと言えよう。

Odyssey

Delano Smith

MUSIC 4 YOUR LEGS

2012/3/21 発売

Derrick May自らが「もっとも影響を受けたDJ」として名を挙げ、Delano Smith無しに自分の存在はありえないとも公言し、Juan Atkinsの憧れの存在でもあったデトロイトアンダーグラウンドシーン最後の重鎮が、長いキャリアの中で遂にファーストアルバムをリリースした。本作はDelano Smithのプレイスタイルを象徴するかのような、ロウでありながらしなやかにハメてくる心地よいグルーヴ、体へ染み渡るミニマルなリズムをディープかつハウシーに聴かせる抜群の構成力は、数あるデトロイトハウスの中でも一歩も二歩も抜きに出た仕上がりとなっており、歴史的な名盤として今後語り継がれることだろう。

Wander

DeWalta

Haunt Music

2012/06/08 発売

ベルリン在住の若き才能、David KochことDeWalataのデビューアルバムが、レーベルHauntから遂にリリースを果たした。自身のレーベルMeanderやOnur OzerやMathias Kaden、Alex SomokeなどがリリースするVakant、そして最近ではCynosureから主宰のMike Shannonとの共作をリリースをし、ここ日本のテクノ系パーティーでも彼のトラックを耳にする機会が多くなっている。そんな彼の今回のアルバム"Wander"には脱帽した。どちらかというとディープなミニマルで引っ張る感じな曲が多かった彼だが、今回は確実に彼の今までの音楽キャリア、育った環境が全て詰め込まれた内容になっているのではないだろうか?

UNTIL THE QUIET COMES

Flying Lotus

WARP RECORDS / BEAT RECORDS

2012/09/26 発売

Flying Lotus本人曰く「神秘的事象、夢、眠り、子守唄のコラージュ」として創作された本作は、"夜行性の情緒を携えた向こう側の世界への旅"という特殊な感覚を纏っている。作品全編を通してサウンドには緊張感が漂い、相互に作用するメロディとリズムが優雅な展開を描き出す。それらはまるでFlying LotusのDNAに刻まれている アートフォームを丹念に抽出したかのようだ。コズミックなベースの重厚さとコンピューターを駆使したアレンジの融合は、これまでに音楽史上に登場したい かなる作品よりも見事で、プロデューサーとして、コンポーザーとしての飛躍的な成長を証明するだけでなく、よりディープなコンセプトが収録曲のすべての基盤になっていることを示している。

You & Me

Jacob Korn

UNCANNY VALLEY

2012/09/30 発売

これまでに、Mark EやTodd Terjeも名を連ねる人気レーベル"RUNNNING BACK"やSteffi(OSTGUT-TON)が主宰する"DOLLY"、Tensnake、Azari & Iiiが属する"PERMANENT VACATION"など、次々と優良レーベルよりシングルをリリースしてきた注目の逸材JACOB KORNが待望のデビューアルバム「You & Me」。本作は、コラボレーションをテーマとしており、ゲストとしてChristopher Rau(SMALLVILLE)、Mr. Raoul K(MULE MUSIQ)、 Break SL(PHILPOT)などの実力者が参加。全11曲すべてがDJライクでありながら楽曲自身のポテンシャルが高いのも特徴的で、1枚通して聴ける作品となっている。ビートダウンの流行で、デトロイティッシュな音が氾濫したシーンの中で輝く本物の1枚。

only the facts

mabanua

Origami Productions

2012/11/21 発売

日本を代表する次世代クリエイターとの呼び声も高いmabanuaが、あふれ出す才能とあくなき探究心で創り上げたセカンドアルバムは、まるでビートルズもヒップホップも同列に並べ吸収し、その全てを吐き出したようなスタイルで今までありそうでなかった新感覚ミュージックを創り上げられている。日本でも大人気のTahiti80やCommonとのコラボなどで話題のJ*Daveyなどファーストからは予測不能なアーティストをフィーチャリング。さらに特筆すべきは収録曲中半分を自らが歌っている事。そのスウィー トな歌唱とメロディセンスは話題必至。

Mala In Cuba

Mala

Brownswood / Beat Records

2012/09/08 発売

James Blakeも尊敬して止まないデジタルミスティックズのMalaが紡ぎあげた、キューバ音楽とロンドンベースミュージックの甘く危険な作品がリリースされた。ダブステップとキューバ音楽が融合すると、こんなにも洗礼されたものにもなるのかと思うと同時に、プリミティブな部分を刺激してくる不思議な音楽だ。軽やかであり、中毒的。非常に危険な作品がリリースされてしまったと言っていいだろう。

CHANGED

Mario & Vidis

SILENCE MUSIC

2012/02/08 発売

少し前は何とも思わなかった音楽が、今日聞くとすごくよく聞こえたりする。この作品は、まさにそんな作品だ。瞬発力のある作品ではないと思うけど、ものすごい持久力のある作品だ。全体を通してゆっくりと情緒的に進んでいく、低血圧なニューディスコ。決して飛び出してくる音楽ではないからフロアライクなアルバムではないけれど、音に奥行きが見てとれる繊細さが見て取れるだろう。

Finding & Searching

Marter

JAZZY SPORT

2012/04/11 発売

内外でも高い評価を受けたマルチアーティストMarterが大傑作を放った。"2012年まさにこんな時代だから聴いていたいスムースソウルを越えたソウルミュージックアルバムが完成したのだ。いろいろ音楽は聞いてきて、この音楽は10年後も聞けると思えるやつはあるが、10代のころの自分がこの音楽を聞いてもカッコイイと思えるほどの音楽、時間を遡る音楽には出会った記憶はない。ジャズ、ソウル、ヒップホップといったブラックミュージックの雰囲気を感じながら、スムージーで優しい曲で構成されたこのアルバムは、年齢、性別、国、ジャンルを越えれる本当の意味でのポップスなのかとも思うほどの名作だと思う。

Ghosts

Monolake

MONOLAKE/IMBALANCE/h3>

2012/03/21 発売

BASIC CHANNEL傘下のCHAIN REACTIONから発表されたファーストアルバム『HONGKONG』でミニマルダブ/ダブテクノシーンの先駆けとして登場して以来、15年以上に渡って常に多くのリスペクトを得てきた重鎮Monolakeが、09年の「SILENCE」から約2年の沈黙を破り遂に新作アルバム『GHOSTS』をド ロップした。本作は05年から共同作業を行ってきたT++がメンバーから離れ、再びRobert Henkeのソロとして歩み始めた新生Monolakeの最初の作品である。孤高の才人が放つ独創的な音響芸術を存分に堪能できる傑作である。

Black Notes

OIL

ritmo calentito

2012/07/15 発売

00年代前半にシカゴのGuidanceを拠点に活動、のちにアルバム4枚の長期契約でブルーノートへと引き抜かれ話題を呼んだ、ジャズ、ファンク、ダブ、アフロやボサノヴァをブレンドしたユニークなビートで人気を博したTroublemakers。そのリーダーであるDJ Oilによるソロデビューアルバム。猥雑なストリート感を増幅させたダーティーなビートと、39もの国や地域を渡り歩いて体得したマージナルな感覚を絶妙なバランスでミクスチャー、カテゴライズ不能な、まさにグローカルな音世界を描き上げている。

IDEAS FROM THE POND

Peter Dundov

Music Man Records

2012/03/24 発売

トランシーなミニマルダブテクノサウンドでFrancois KやJeff MillsからMarcel Dettmann、Ben Klock、Deep Chordなどもサポートするクロアチアの人気テクノアーティスト、Peter Dundov4年振りのニューアルバムがベルギーの名門Music Manから登場した。今作も各曲10分前後の長尺トラックばかりで、ミニマルなビートとトランシーなウワモノが恍惚へと誘う魅惑的な作品となっている。今回も間違い無い傑作。

2

Prins Thomas

FULL PUPP / OCTAVE LAB.

2012/11/07 発売

日本にも定期的に来日し、ツアーも毎回大好評のニューディスコシーンのカリスマ、Prins Thomasがセカンドアルバム『2』をリリースした。本作でもこれまで同様、クラウトロックとサイケデリックサウンド、クラブミュージックをブレンドし、そこに北欧独特のメロディアスでポップな感覚が取り入れられたオリジナリティー溢れるディスコサウンドに仕上がっている中には、13分にも及ぶ壮大なサウンドジャーニーを展開するトラックや、Prins Thomas流のテクノサウンドを展開するトラックも入り混じり、幅広いジャンルのリスナーをとりこにする1枚となりそうだ。

Dependent And Happy

Ricardo Villalobos

PERLON

2012/09/26 発売

もはや比較する対象がいない、と言えるほど圧倒的なクリエイティビティーとDJセンスでミニマル/エレクトロニックミュージックの頂点に君臨する男Ricardo Villalobos。ミニアルバム『VASCO』以来約4年ぶり、CDアルバムとしては2004年のセカンド『AU HAREM D'ARCHIMEDE』以来実に8年ぶりとなるオリジナルアルバムをリリースした。時間と空間から解き放たれたフリーフォームな音の旅、流動的で繊細 な音の粒子が創り上げる音響芸術が詰め込まれた本作。ぜひ1度、手にとって聞いてみてほしい1枚だ。

NIGHTTIME WORLD VOL. 3

Robert Hood

Music Man Records

2012/08/15 発売

デトロイトミニマルテクノの先駆者、Robert Hoodの伝説的なプロジェクト「Nighttime World」の続編となる新作が何と12年振りに登場した。ジャズやソウルミュージックのエレメンツを導入した彼の作品の中で最もエモーショナルなシリーズとして知られる本作は、URにおけるG2Gプロジェクトの様な位置付けと言えるRobert Hoodの人気プロジェクト。何度もシリーズの新作が噂されながら沈黙を守ってきたRobert Hoodにとっても、とても大切なプロジェクトである本作。デトロイトテクノファンにとっても正に待望の彼のニューアルバムでありその期待を充分に満たす傑作となっている。

MERCURY

Seiho

Day Tripper Records

2012/01/13 発売

大阪発のレーベルDAY Tripper Recordsから届いた第1弾は、最初から注目盤だった。天才的な楽曲センス、ヒップホップからポストダブステップ、チル、音響 系までを飲み込み、余裕で咀嚼してみせるアーティストSeiho。関西を中心に活動する稀代のビートメイカーSeihoが新たにスタートさせる注目の新レーベルDAY Tripper Recordsは、「ダウンロード配信が主流の今こそ、あえて物として、手触りをまでも楽しめる作品を!」というヴィジョンの下、ネットで活動するアーティストの音楽をフィジカルにリリースし、ネットユーザーと一般のリスナーの架け橋となるハイブリ ッドな活動を展開している。そのレーベル名が表している通り、サウンドコンセプトは一貫して「惑星への小旅行」。リリース作品はどれもコズミックなサウンドスケープを特徴とし、アルバム全体を通じて、まるで日帰り旅行に 行ったかのような未知のトリップ体験を堪能できる。

The Cinematic Orchestra presents In Motion #1

The Cinematic Orchestra

NINJA TUNE / BEAT RECORDS

2012/03/20 発売

"NINJA TUNE"を代表するアーティストであり、ここ日本でも絶大な人気を誇るThe Cinematic Orchesteraが4月の SonarSound Tokyo出演を記念して、最新音源を緊急発売した。当時彼らは「In Motion」と題し、Jason Swinscoe自らが選んだミュージシャンたちと、先鋭的かつ実験的な映像に生演奏で音を付けていくライブパフォーマンスを行っていたが、本作は、そのライブで実演した楽曲を元に、新たにスタジオで再録音した彼らの最新音源が収録されている。中でも、現代アメリカ写真界の巨匠ポール・ストランドと写真家チャールズ・シーラーによる1921年に製作されたサイレント・ショートムービー「Manhatta」や、マルセル・デュシャンやマン=レイ、エリック・サティなど前衛芸術界の名士たちが出演したことでも有名な1924年製作のルネ・クレール監督による「Entr'acte」をシネマティック独特のモダニズムと美しいサウンドスケープで表現しているのには注目だ。

ONLY 4 U: THE SOUND OF CAJMERE & CAJUAL RECORDS 1992-2012

V.A.

THE SOUND OF CAJMERE & CAJUAL RECORDS

2012/11/14 発売

全米屈指の音楽都市=シカゴを牽引する"シカゴハウス"最重要レーベルCAJUAL RECORDS。CAJMERE、GREEN VELVET、DERRICK CARTER、GLENN UNDERGROUNDからGEMINI、ANDRE HARRIS、MARK GRANT、DEEP SENSATIONまで設立20年を祝うべくその魅力を凝縮したレーベルベスト盤がSTRUTとの協力タッグでリリースされた。盛り上がりをみせる黎明期ハウスミュージック再評価にさらなる拍車をかけること必至の作品だ。

Voices From The Lake

Voices from the Lake

PROLOGUE

2012/03/10 発売

DONATO DOZZYとNEELによるコラボレーションプロジェクト"VOICES FROM THE LAKE"のファーストアルバムがPROLOGUEから遂に登場した。セルフタイトルを冠した本作は、未発表曲11曲で構成されたアンビエントテクノの新たなる金字塔を示している。アナログな質感を大切にしたリズムトラックと煌くようなウワモノ、そして空間全 体をやさしく包み込むアンビエンスたっぷりのドローンシンセがディープに響き渡る。目を閉じ各々が自由に想像し体感してほしい圧倒的なスケールを持つ1枚だ。

Turbo Town

80KIDZ

KSR

2012/04/18 発売

ファーストアルバム「THIS IS MY SHIT」でジャパニーズエレクトロの旗手に登り詰め、磨きあげたメロディーセンスで洗練へとむかったセカンドアルバム「WEEKEND WARRIOR」のリリース以降、ロックを開拓し、ダンスの最前線を駆け抜け、今や、その垣根を越えて活動中の80KIDSが、約1年半ぶりのフルアルバムをリリース。デビュー以前の衝撃とさらなる洗練と熟練が加わり、これまで以上にエネルギッシュな輝きを放つ楽曲郡。類まれなメロディセンスで綴った合唱系リード・ギター&シンセがアンセミックに響きわたるエレクトロに枠を超えた傑作の誕生。