マンチェスターに想いを馳せて

 ミュージックフリークスのキーワードである音楽フェスは昨年、震災と自然に泣かされ、その反動か今年のフェスは、豊作の年となった。フジロックは、過去最高の動員数となる14万人を記録、サマソニも例年の如く日曜・2日券ソールドアウト。スプリングルーヴは、ダンス色を強め復活、大盛況を納めた。
 そして今年のシーンのキーワードの1つにマンチェスターがあげられる。フェスにもそれは波及し、フジロックは、The Stone Roses再結成ライブを発表、サマソニにNew Orderの登場、そして我々が手がけているロックとダンスミュージックの融合の地、セカンドサマーオブラブの聖地、伝説のクラブ"The Hacienda"のジャパンオフィシャルでは、創立30周年を記念した「ハシエンダ大磯フェスティバル」を開催した。
 音楽業界の不振が叫ばれる昨今、なぜ、今、マンチェスターなのか?インターネットの普及は便利な反面、モノが売れないという弊害を及ぼした。アーティストの曲自体が昔のように売れない現在、レーベルは四苦八苦しながら新しいサービスの提案をし、著作権法の動きに敏感だ。今、収益に希望が持てる場は、ファンが集まるライブコンサートである。そこにファンが惹きつけられる心理とは一体何であろうか?
 マンチェスターにその答えがあったのかもしれない。ピーターフック著『ハシエンダ マンチェスター・ムーヴメントの裏側』の中でDJのマイクピッカリングがオブザーバー紙に"The Hacienda"を語った一節にこうある。「音楽を一瞬ストップさせ、ただ手を空に向けて突き上げる。それでフロア中が沸きかえった。クラブ全体が、大爆発した」。ビジネス的には、失敗例である伝説のクラブには、確実に世界を巻き込むカルチャーが生み出され、人々はそこに押し寄せた。
 一緒にショーを観て肩組んで踊って、笑って、感動して泣いて、そんな体験を体感したがっているのではないのだろうか?これまで以上に出かけなくていいバーチャルで便利な世の中に、動く衝動に駆り立てられるのは、そんなリアルな空気がマンチェスターにあったと想いを馳せる。
 手前味噌ではあるが、「ハシエンダ大磯フェスティバル」が来年もゴーデンウィークに開催されることが決まった。ぜひ、来年の春、そんな空気をあなたに体感しにきてほしい。