DTM - ベッドルームから世界へ - 特集の次なるコンテンツは、今回の特集に協力頂いたPowerDJ's池袋店の主任である市原氏に、最近の制作環境の変化や機材店から見る音楽シーンについて話を聞きました。約10年にもおよぶ長い楽器店でのキャリアの中から市原氏が肌で感じとっていることとは何なのでしょうか!

市原 泰介
PowerDJ's池袋店主任。2005年から始めた店長ブログは毎日更新して9年目。機材の使い方や新製品情報などを発信しつづけ、DJ機材側からクラブミュージック文化の啓蒙活動を行っている。

周りの仲間が使っているものと同じ機材を使えば、作ったデータを共有できたり情報交換できたりするので、そういったことも視野に入れてもいいのかなと思います。

- 最近のDTM機材や周辺環境のトレンドはありますか?

新しいDAWがいろいろ出てきていますが、クラブミュージックであれば、Steinberg CubaseかAbleton Live、Imageline FL Studio、Propellerhead Reasonあたりが定番で、最近ではNative Instruments MASCHINEが良く使われる傾向にあります。ソフトウェアだけじゃなくて、直感的に扱えるコントローラーがあって、ハードで操作して曲を作るような感覚が人気を博している要因だと思います。

- 定番となるDAWは何が優れていて定番となっているのでしょうか?

例えばCubaseは、昔から使っていた人が流れで使い続けているパターンが多いかと思います。そういう関係でアーティストの方が多いですね。また、そのアーティストのファンの方たちがそれを見て同じものを買うという流れはあるかもしれません。 Ableton Liveは、まさにダンスミュージックを制作するためにあるようなものですね。今までと同じようなにタイムライン上でオーディオやMIDIを編集するアレンジメントビューと、それとは別に仮フレーズを作ってアレンジメントビューに戻したり、そこの機能だけを使ってDJプレイやライブパフォーマンスができるセッションビューがあるのも特徴的ですね。あとはMIDIもオーディオデータと同じような感覚で編集できるのでそこがいいのかな。直感的に作業ができるのがAbleton Liveです。
FL STUDIO、REASON、MASCHINEはダンスミュージックに最適な膨大なサウンドライブラリーが初めから入っているので、これら1つ使うだけでも本格的なトラックメイキングが可能です。

- 初めて買う時って右も左もわからない中で選ぶと思うんですけど、何を指標に選ぶのがいいのでしょうか?

正直なところ基本的な作り方はどれも同じなんですよね。機能がたくさん搭載されていても、それを全部使わないといけない訳ではないので。あとは周りの仲間が使っているものと同じ機材を使えば、作ったデータを共有できたり情報交換できたりするので、そういったことも視野に入れてもいいのかなと思います。

「やっぱりあのソフトの方が良かったかな…」などと迷わず、とりあえず1曲作ってみることですね。買ったら徹底的に使おうという意思が必要です。

- 「DTMを始めようと思うんですけど」と、お店に来られるお客さんもいると思うのですが、その時にアドバイスすることはありますか?

まず、曲作りのやり方のイメージがついているかどうかを尋ねます。リズムがあってベースがあって上モノやメロディーがあって、それを何小節ごとに展開していって、っていう作り方が分かっている方であれば話が早いのですが、全く曲が作ったことがない方だと、DAWソフトの使い方と曲の作り方を混同してしまって、いったい自分は何が解らないかが解らないっていう状況に陥りやすく…で結局DAWソフトを買ってはみたものの挫折してしまうっていうケースって結構多いと思うんです。
だからお客さんとその辺りを確認した上で機材を選んでいきます。場合によってはとりあえずMacOSに付属しているGarageBandで曲作りしてみてはいかがですか?とアドバイスすることもあります。販売店員なのに売らないっていう(笑)

初めて買うものがデフォルトのDAWソフトになるので、あとは購入したら「やっぱりあのソフトの方が良かったかな…」などと迷わず、とりあえず1曲作ってみることですね。 買ったら徹底的に使おうという意思が必要です。

最初はコピーというか、リミックスというか、元々ある曲にリズムをのせたりしてDJっぽい感じで作ったらいいんじゃないと思います。リズムとかフレーズを足していって、オリジナルのトラックを抜けば自分の曲なんで(笑)。

あとはDJプレイをする時に使いやすいよう、既存の曲のイントロを延ばしたり展開を自分なりに変えて波形編集したりとか、いわゆるエディットから始めても良いと思います。

- なるほど、確かにそうですね(笑)。初めから曲を作ろうと思わずに編集から入ればいいんですね。

その方がいいかもしれないですね。僕らの時はMIDIしかなかったので、音符を打ち込むっていう感じでやっていたんです。ハードウェアとかソフトウェアの楽器を鳴らすという作業だったんですけど、今はオーディオを中心に組み立てるような傾向もあるので、僕らが考えている方法はひょっとしたら古いかもしれません。今は、いきなりオーディオデータの切り貼りから始めちゃう人の方が、今風の曲が作れるかもしれませんね。

- パソコンが普及してDAWを買いやすい環境になったのは、ここ何年くらいなのでしょうか?

Apple PowerBookG3 Pismoが出たあたりで、ラップトップで曲作りができるという認識が生まれたと思います。その当時の2000年頃はまだ一般的にそんなにPCが普及してませんでしたね。ネット環境はようやくASDLが出始めるかなっていうころでしたし。 でもちゃんと誰でもパソコンで音楽環境が整うようになったのってここ4,5年のことだと思いますよ。

道具に頼らずにどこまでできるのかを考えることも、自分のスキルを高めるためには良いと思いますよ。

- けっこうダンスミュージック作っている人ってシンプルな環境の人多いと思います。

そうなんですよ、特に最近の若い方はソフトが中心なのでそうなりますよね。 キーボードコントローラーとオーディオインターフェイスだけっていう。オーディオインターフェイスすら使っていないこともありますし(笑) 道具に頼らずにどこまでできるのかを考えることも、自分のスキルを高めるためには良いと思いますよ。

- 昨年末にコラムを書いて頂いたじゃないですか?その中でエポックメイギングな商品という部分がありました。昨年はDJ機材に関して触れられていましたが、2014年のエポックメイキングな商品は何だと思いますか?

1つはRoland Airaシリーズですね。ダンスミュージックに欠かせないリズムマシンTR-808/TR-909、ベースマシンのTB-303をRolandが新しく本気でリメイクした。 ただの復刻ではなく、今の時代にあわせた仕様になっています。
今までソフト中心で曲作りしていた若い世代にとって、新しい感性に触れるきっかけを作ったというところが新しいですね。

あとはPioneerのターンテーブルPLX-1000ですね。Technicsが生産完了になっても他のメーカーはクオリティの高いターンテーブルをリリースしているのですが、Pioneerがプレスリリースを出すとやっぱり世の中的にはターンテーブルが復活したように見えます。 やはりここは人の感性が進化したというか、コントローラーでDJを始めた人達の感性を刺激したという点では評価すべきだと思います。

- まさにアナログ回帰の1つだと。

そうですね、ただ単なる回帰ではなく、現在のテクノロジーや新しい感性が宿り螺旋的に発展したという言い方の方がいいと思います。

例えばPioneerのターンテーブルに関しては、Technicsが作ってきたものが、次はパイオニアの螺旋でもう一段階次のステージに登ったプロダクトだと思います。螺旋っていうのは上から見るとぐるぐる回っているように見えるけど、横から見たら上に上がってるじゃないですか。懐かしいものが新しいテクノロジーなどの解釈で今風になっていくイメージです。だから今無くなった物も必ず復活するんですよ。それはもう自然の摂理みたいなもので、新しい物の開発とか企画を考える時に、過去に消えたものを探すとヒントがあると思うんです。

クラブ以外でもっとダンスミュージックを楽しめる環境があったほうがいいんじゃないでしょうか。

- 販売店の立場から見て、現状のシーンに関してどのようなことを思ってらっしゃいますか?

現場はすごくエネルギッシュで盛り上がっていますよね。クラブミュージックって今1番面白いんじゃないでしょうか?アニソンやボカロなどの新しい文化も生まれてきてますし。

でもそういった現場で活躍DJはごく一部。これだけたくさんのDJ機材や楽曲製作ツールが売れているのに、皆さんどうやってそれらを活かしているのかが気になるところです。ひょっとしたら買った機材を活かしたいけど活かしきれていないっていう人達って多いのではないのかな?って思うんです。

ですからクラブ以外でもっとダンスミュージックを楽しめる環境があったほうがいいんじゃないでしょうか。海外では結婚式やパーティなどに機材も持ち込んでDJプレイを仕事とするモバイルDJというジャンルが定着しているんですが、まだそういうのって日本にないじゃないですか。
もっとダンスミュージックが大衆文化として将来的に定着したらいいなって考えています。

- 確かに20歳を超えないと発表の場がないっていうのは大きいですね。では、最後にお店作りで大切にしている点を教えてください。

我々販売店もお客さんもフラットな関係で、シーンをいっしょに盛り上げていくというコミュニティを作ることが大切だと思います。我々が楽器に携わる仕事をして世の中にどう貢献していくか、販売を通してそれを体現していく所存です。