日本のヒップホップシーンを担っていく存在となるだろうAKLO(アクロ)。「日本語ラップの最高到達点」と賞された2012年リリースのファーストアルバム『THE PACKAGE』にはじまり、今年9月に発売されたばかりのセカンドアルバム『The Arrival』では、ファーストアルバムで引かれた水準をさらに超え、日本語ヒップホップをより高みに上げている。まさにシーンが熱望していたラッパーと言っていいだろう。東京で生まれ、メキシコ、アメリカで育ったAKLOは、どのような記憶のしおりとなる音楽を持っているのだろうか。

Interview & Text : yanma (clubberia)

SOUNDTRACK OF LIFE #01
MC Hammer - U Can’t Touch This

AKLO:
小学校の頃はメキシコに住んでたんですけど、その頃アメリカの音楽番組をテレビでよく見ていてMCハマーが初めて「U Can’t Tuch This」をやった時は、かなり衝撃的ですぐに真似していました。自分の小遣いでアルバムをテープで買った記憶もあります。素直にかっこいいと言うより面白ネタ的な感覚で好だったんだと思います。とにかくダンスを完コピしたかったんです。
おばあちゃんの誕生日の日に従兄弟をバックダンサーに披露した思い出があります。


10歳までメキシコで育ったAKLO。日本人にはあまり馴染みのない国ということもあり、メキシコでの生活で印象に残っていることを聞いてみると、遊び方が全然違うと言う。遊ぶということは、お金を稼ぐということだったと説明してくれたAKLO。「今日暇だな。車洗いに行く?」というような会話が子ども同士であったようだ。他にもチップスを揚げたりしてお金を稼いでいたそうだ。ただそれは、貧しからではなく遊びとしてやっていたと言う。メキシコを離れてからは、日本で生活し、高校に上がる頃にアメリカへ渡ることとなる。

SOUNDTRACK OF LIFE #02
Master P - More 2 Life

AKLO:
アメリカの高校に通っていたんですが、あの頃のオレゴンは、ギャングスターラップブームで自分の周りはとにかくNo Limit Soldier 一色でした。車で学校に行く事が許されていたので車を持っている友達がいつも迎えに来て、この曲を爆音で聴きながら登校したり、休み時間は車でバーガーキングに行ったり、放課後は 、そのまま車で遊びに出かけたり。とにかく車に乗ってエンジンをかければNo Limitが流れて、最高の時間の始まりでした。この頃が自分の音楽のルーツと言うか、本格的にラップ依存症になったというか、もう自分の人生には無くてはならないもになっていきました。その頃よく聴いてたのがこの曲なんです。


最初は、ヒップホップを受け入れられなかったと意外な事を語るAKLO。ただ、周りの友人がヒップホップしか聴かなかったこともあり自然に毎日聴くようになる。そして、言語を理解できればできるほど、自分たちの現実とは全く違う言葉使いで、言いたい放題な音楽が存在することにヒップホップの魅力を感じ、その自由な音楽にはまっていっくこととなる。
日本に再び戻り、音楽活動を開始したAKLOではあったが、当時を黒人に対する憧れが強すぎたと振り返る。そして日本で活動を続けること、自分がやっていることが正しいのかどうか分からなくなり、それを確かめるためにニューヨークへ渡る。

SOUNDTRACK OF LIFE #03
Damian Marley - Wellcome To Jamrock

AKLO:
大学卒業後は、ニューヨークのハーレムに住んでたんです。その頃は、お金が無くてテレビも無かったし、ちゃんとしたベッドも無かった。ちょっと穴が空いてるエアーベッドだったんです。だから寝る前に膨らませても、朝起きると空気が抜けてるんです(笑)。それくらいお金が無かったけど、ラジオだけは持ってて「Hot97」を飽きるまで毎日聴いてました。てか飽きてたんですけど、ラジオしかなかったんで。その頃異常なぐらいプッシュされていたこの曲はすごく印象に残ってるし、何回聞いても嫌いにならない不思議な曲ですね。


AKLOは、その生い立ちからバイリンガルラッパーと言われる。だが彼は「日本語ラップをやっている」という意思が強くある。内容が伝わってこその音楽であり、ヒップホップの魅力は言葉なのだ。だからこそ日本でやる以上、日本語に拘る理由があると語ってくれた。自身が置かれている現状は、さんぴんCAMPが行われた時のこととリンクするとも話してくれた。もちろんリアルタイムで体験した世代ではないが、Jラップがブームになったことへの歯痒さもあったであろう当時、ヒップホップがメジャー化しても、先人が信じるものをやり続けてきたそのスタイルは、AKLOたちが今やってる音楽、社会に全く媚びていないスタイルと同じなのだ。

SOUNDTRACK OF LIFE #04
Lil Wayne - Phone Home

AKLO:
日本に帰ってきてから自分がラッパーとして本格的にこのゲームに切り込んでいったわけなんですが、あの頃はとにかくLil Wayneが好き過ぎてかなり憧れていました。特に「Tha Carter III」の完成度の高さ、話の面白さというか振り切れてる感じがもう衝撃的で。自分がミックステープを作った時もLil WaneのNo ceilingsと同じインストで作ってましたし。もう完全に俺の中でヒーロー的な存在なんですけど、曲のコンセプトがすごくて、宇宙人としてラップしてるこの曲はとりわけよく聴いてました。


彼の思いに全く共感できないと憧れのLil Wayneを切るAKLO。ラブソングも毎回自分勝手で、俺は特別でお前ら全員クズだ的なスタンスは全く共感できないが、しかし、それがいいのだ。Lil Wayneは、私たちが考えるクレイジーさを遥かに越え、それを遠慮なく言いまくれる存在。それは、AKLOが目指している方向性ではないが、アーティストとして1つの形なのだと思う。