rekordboxで仕込むことにより、楽曲と向かい合う時間が格段に増えたんじゃないかと思います。

- なぜrekordboxが生まれたのでしょうか?

CDJ-2000(2009年秋)の登場と同時にrekordboxを公開し、CDJ-2000の機能を最大限に引き出すためにrekordboxを開発しました。当時、クラブで普及していたCDJ-1000とCDJ-2000の1番の違いは、USBデバイスに入った楽曲を再生できるということです。 CD-Rに焼かずに、USBデバイスにデータを入れてプレイして頂くためのソフトウェアがrekordboxです。CD-Rに焼いてしまうとリライトできませんが、USBはリライトが可能です。そこの良さを引き出し、DJさんがデータをどんどんカスタマイズできるような機能を入れて、より直感的にDJプレイができるようにというのを目指して開発しました。

- 企画、開発を考えると2009年以前より動かれていたということですよね。

そうですね。2009年以前より、ダウンロードサイトの流行にも同期し、PCDJが流行りだしていたと思います。とはいえ、DJもフィジカルなパフォーマンスが大事な部分もあるので、CDJを使用し、ショウとしてDJを見せてほしいという願いもありました。そこから、PCでできることはCDJでもできるようにしようという考えが当時ありました。そのあたりが出発点になっています。

- 開発時の苦労した点はありますか?

CDJ-2000のリリースに合わせてリリースしたので、CDJ-1000に慣れているDJさんに如何に使ってもらうか、という点には苦労しました。CDJ-1000を使って頂いていた方でも間違いを起さずに扱えながら、これからCDJ-2000を使っていくのにスムーズに移行してもらえるか、というのを考えるとかなりの思考錯誤がありました。インターフェースは同じようなものを採用しながら、新たに"データベース"の概念を入れ込む作業などがそれですね。

- rekordboxを使うことによるDJスタイルの変化とはどういったものでしょうか?

1番大きいのは、事前にプレイリストの作成やキューポイントを打ったりなどの仕込みができるようになった事だと思います。CDJ-2000以前もCD-Rごとにプレイリストを作っていたと思いますが、よりフレキシブルに扱えるようになりました。また、rekordboxで仕込むことにより、楽曲と向かい合う時間が格段に増えたんじゃないかと思います。今日は、こういう会場だからこういうプレイリストを組もうとか、CUEポイントを複数仕込んで、現場で対応しやすいようにしたりとか。また、プレイした選曲がヒストリーとして残るので、後で振り返ることもできます。CDJ-1000でもキューポイントの設定はできましたけど、実機を持っていないとそれが自宅ではできませんでした。rekordboxだと、実機がなくても自宅で仕込みができるんですよ。PlaylistsとMemory Cueは特にチャレンジして頂きたいです!目から鱗の機能ですよ!あと、LINK機能のおかげで、同じCD-Rを2枚焼く必要もなくなりましたね。やってたでしょ?(笑)

DJ機材を作っている以上、各DJさんの"ヤバさ"を如何に引き出せるものを作るか。行き着く先はそこに尽きると考えてます。

- USBが使用できるようになって高音質の音源が使用できるようになりましたが、聴覚的にCDと違うものなのでしょうか?

CDDA(通常のCDのフォーマット)で再生する時は、16bit/44.1kHzいう縛りが出てきます。そこは、USBでハイレゾ音源を使うと全然違う世界が広がると思います。データCDを使った場合、音質はほとんど変わらないと思いますが、CD-Rにハイレゾ音源を入れて何枚も持ち歩くのは大変なので、USBを使ったほうが扱いやすくなる利点が大きいと思います。

- ダウンロードサイトでWAVで購入した場合は?

現状、WAVでも殆どが16bit/44.1kHzです。WAVの音質の良さは、MP3などの圧縮音源と比較して良いということになります。MP3はある帯域をカットして圧縮をかけてあります。 MP3でも320kbpsだったら大丈夫という方もいらっしゃいますが、WAVとは違うデータになっています。ちなみにAIFFは、WAVと中身は一緒です。 違いはタグ情報の有無くらいです。一方、ハイレゾ音源は、「High Resolution (高解像度)」音源のことです。一般のCDは、16bit/44.1kHzですが、それよりも高い24bit/48kHzなどの音源があり、CDでは再生できない空気感や臨場感まで表現する事ができます。最近だとKen IshiiさんのFLARE名義新作『Dots』がハイレゾ音源でリリースされました。e-onkyoさんがハイレゾ音源のダウンロードサイトを展開されていたりもします。また、自身でトラックを作られる方は、ハイレゾ音源の状態のままプレイで使用できるので、CD音源に比べ、自分の曲がより良い音質で聴いてもらえるというのは大きいと思います。

- 音質はこれから大きなテーマになっていくと思いますが、アナログ、データとどう住み分けるのがよいのでしょうか?

DJさんそれぞれの考え方がすごく出てくる部分なので、非常に面白いところだと思います。私自身もDJをする時は、 USBデバイスもアナログも両方使います。人によって全然違うと思いますが、個人的なイメージだと、データは粘土細工をやっているようなイメージ、アナログは木彫り細工をやっているようなイメージですね。データとアナログどっちがいいという論争がよくありますが、単純にどちらが良いというのは無いと思います。確かにアナログでないと再生できない帯域もありますし、デジタルでないと再現できない明瞭感もあります。ソースの録音やマスタリングの時点でどう扱われているかで、アナログでもデジタルでも本来の良さを出せていないソースはたくさんありますし、素晴らしいものもたくさんあります。各DJさんの耳で良い音源を捕まえてほしいと思います。TPOに合わせて使い分けられるのも、良いDJの1つの要素だと思います。DJも紳士の嗜みです。(笑)

- 愛用されているプロのDJは?

先ほど、お話に出させて頂いたKen Ishiiさんはかなりアグレッシブに使こなして頂いてます。他にも☆Taku Takahashiさんや大沢伸一さんは、rekordboxの曲解析やMemory Cueによって、ヘッドホンレスのプレイをされているのは興味深いですね。また、rekordbox公開当初くらいから使用して頂いているのは、DJ WADAさんやMOODMANさんなどなど。他にもプロ/アマ問わず、たくさんのDJさんにご愛顧頂いていますよ。

- これからのrekordboxの改善点や発展性は?

DJさんがやりたいことを極限まで引き出す事を考えると、まだまだできることはたくさんあると思います。 やはり時代に合わせて進化してくものだと思うので、その時その時に最適なものをリリースしていけるのが理想です。ハイエンドの機材がCDJ-2000nexusなのでそこに合わせて作っている部分もありますが、最近ですとXDJシリーズなんかも出てきているので、そこにも合わせて開発しています。DJさんにより、DJ機材の使用理由は違うと思うので、それぞれの立場のDJさんが求められる幅広いニーズにより対応できるようにしていきたいです。



- 今後、DJ機材はどのようになっていくと思いますか?

最新のデジタル技術の先端を走っていきたいと思っています。また、相反するように聴こえるかもしれませんが、オーディオの世界、音楽を楽しむというということは、昔から脈々と受け継がれている事だと思っています。これらが、交差するところに新しいモノが生まれてくるかと思います。DJ機材を作っている以上、各DJさんの"ヤバさ"を如何に引き出せるものを作るか。行き着く先はそこに尽きると考えてます。

- Pioneer DJのモットーや大切にしている考えなどがあれば教えてください。

"Pioneer"という名前だけあって開拓者たる姿勢は常に心がけています。またその名前に恥じぬような新しいものを開拓していきたいです。

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