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Dekmantel Festival 2019

取材・文: Norihiko Kawai (clubberia EU)
写真: Bart Heemskerk, Tim Buiting, Yannick van de Wijngaert, Norihiko Kawai


 7/31〜8/4 まで、オランダのアムステルダム市内の複数の会場と同市近郊の広大な公園“アムステルダムセ・ボス”で開催された「Dekmantel Festival」。ビッグフェスにも関わらずアンダーグラウンドなパーティー感、そしてBoiler RoomやRed Light Radioステージのストリーミング生放送も行われていることから、世界的に知られている。



 2007年にDekmantelはクラブパーティーとしてスタートし、今は亡きアムステルダムの名箱Studio80等でコンスタントに開催されてきた。創設メンバーは“Dekmantel Sound System”としてもお馴染みの、Casper Tielrooij、 Thomas Martojo、Jan van Kampenである。現在はJan van Kampenは脱退している。
2009年に同名でレーベル始動、2012年には本フェスティバルよりも先に、現在も毎年初夏に開催されている「Lente Kabinet Festival」を、そして2013年から「Dekmantel Festival」をスタート。さらに2016年から「Dekmantel Selectors」をクロアチアのリゾートエリアで開催している。

 「Dekmantel Festival」は、昼間に開催されている野外フェスティバルがメインではあるが、実際にはアムステルダムのコンサートホール“Muziekgebouw”やクラブ“Shelter”、“De Marktkantine”等を含む複数の会場で5日間昼夜に渡り開催された。



7/31

 20時より“Muziekgebouw”のビッグルームでオープニングコンサートが開催され、今年の「Dekmantel Festival」がスタートした。オープニングコンサートには伝説的サックス奏者PHAROAH SANDERS率いるPHAROAH SANDERS QUARTETが登場し、まばゆいライティングと優雅な演奏で観客を魅了した。 



 

8/1

 フェスティバル2日目は複数の会場でカンファレンスやライブを中心としたコンテンツが開催された。楽しみにしていたShinichi Atobeが病気のためにキャンセルになった。この日は昼にDekmantelのプレスを担当するクルーとの顔合わせ、RAのカンファレンス、すでにエントランスに列ができていたクラブShelterでのライブを一通りチェック。お目当てのJah Wobble & Bill Laswellの円熟味溢れるライブをTolhuistuinで堪能した後、オープニングコンサートが行われたMuziekgebouwへ移動。今回のフェスで注目していたSunn O)))のライブに駆けつけた。会場は前日とは違い椅子は全て撤去されており、大きなフロアに変貌を遂げていた。この会場、かなり高い天井以外は、ほぼウッドで作られており、音質には定評がある。到着するとステージ上に 壁のように並べられたアンプの量に驚いた。大量のスモークが焚かれ、彼らのドローン・ノイズ・メタルとでも評すべき圧倒的なサウンドに包まれた会場は暗黒の雰囲気を呈し、リスナーに強烈な記憶を焼き付けてくれた。





8/2

 3日目から、いよいよアムステルダムセ・ボス公園での「Dekmantel Festival」の本番がスタート。広大な森の中には、突如決定したチルアウトステージを含め計8つステージが用意されていた。

 会場に到着するやいなや、いきなりの大雨に見舞われた...。しかし、4つのステージは全天候型となっており、雨風をしのげたので気にならなかった。ほとんどのステージは13時からスタートし、23時に終わるプログラムが連日組まれていた。この日は、Andrew Weatherallがメインステージで3時間半、San ProperがGreenhouseステージで3時間と豪華なスタートとなった。金曜の昼間ということもあり、各ステージとも7割強くらいの人の入りだった。




 夕方になるといつの間にか会場は混雑し、メインステージには地元アムステルダムの女性DJ Upsammyが登場。心地よいダビーなBreaksを多用しピースフルな雰囲気を構築。Jon Hopkinsを挟んで、注目株の女性DJ Dr. Rubinsteinが登場。オールドスクールなアシッドかつヒプノティックなテクノグルーヴを自在に操り、夏の欧州の遅い夕暮れに見事にハマり、ラストのJeff Millsへ最高のバトトンタッチとなった。その頃Selectorsステージでは、Donato Dozzyが3時間セットでトリとして登場。ほぼバイナルを使用していたと思われるそのセットは、奥行きの深い緻密なグルーヴを重ね合わせていき 、久しぶりに見事なハメの妙技を堪能させてもらった。同じ時間帯のUFO IIステ ージでは、ノイズ~テクノ・インダストリアルシーンの牽引者Vatican ShadowからAdam Xへと繋がるタイムテーブルが組まれており、バックステージには L.I.E.S.主宰のRon Morelliも駆けつけるなど、ディープなサウンド好きにはたまらない環境となった。






8/3 

 フェスティバルもピークを迎える土曜日、快適な天気も相まって、昼から混雑していた。Greenhouseステージには、スタートからUKダブステップ・ベースミュージック界の重鎮Malaが3時間セットを敢行しており、真っ昼間であったが良質なダブステップが次々と投下され、フロアは早くもヒートアップ。メインステージでは DJ Spinnaの3.5hセットが心地よい土曜の午後を演出。UFO IIステージでは、The HackerのMichel AmatoとレーベルMannequin RecordsのファウンダーAlessandro AdrianiのユニットAmato & Adrianiが、硬派かつアシッディーなライブセットでフロアは蒸し返っていた。 会場を散策していると、Mixmaster Morris に遭遇。急遽開催の決まったチルアウトステージに、なんと3週間前にブッキングされたのとこと。チルアウ トステージは急遽の開催のためか、web等に情報が記載されていなかったが、木陰に位置し、寝転がりながら楽しめたりと、隠れフロア的な印象だった。Morrisお薦めジャマイカ出身の Equiknoxxの先鋭的なデジタル・ダンスホー ルLiveを堪能してから Selectorsステージに立寄ると、Danny Krivitの甘美なプレイにフロアは笑顔で溢れていた。その後もGreenhouseステージでは、Batuが緊張感と一体感を高める極上のディープセットでトリを務めた。Selectorsステージでは、Red Light Radioの設立者Orpheu The Wizardが、エレクトロニックなディスコ系のセットでフロアを素晴らしい雰囲気に作り上げていた。



8/4

 ついに迎えた最終日、エントランスは早い時間から混み合い、マーチャンダイズのオフィシャルショップも連日盛況。会場内にはDekmantelのロゴTシャツを着たスタッフとオーディエンスをあちこちで見かけ、改めてその人気を知ることができた。



 
 この日の早い時間帯は、ビッグフェスの会場では気になるゴミやトイレなどを観察してみた。会場内にはゴミを集めているスタッフがたくさんいるのと、さまざまな場所にゴミ箱が設置されており、ゴミが散乱しているのをほとんど見かけなかった。また、AIRCUPというシステムを採用して、ドリンクのカップをデポジット制にすることで、会場内をクリーンに保つ工夫がなされていた。トイレに関してもかなりの数が設置されており、オーディエンスはあまり不満を抱えているようには感じなかった。各ステージ裏にもスタッフや関係者用のトイレが多数設けられており、全くストレスを感じることはなかった。





 夕方になり、DJ Fett BurgerがSelectorsステージでプレイ。バウンシーなトラックを次々と繰り出し、個人的には今回のフェスで一番グルーヴを堪能で きたセットだった。彼の後はシークレットゲストとして、James Murphy(LCD Soundsystem)が登場予定だったがキャンセルとなり、オランダ西海岸サウンドのキーパーソンI-Fがピンチヒッターだった。メインステージでは大トリ前の異様な盛り上がりを感じるピークタイムに、Motor City Drum Ensembleが登板。漆黒のグルーヴを奏で、満員に膨れ上がったフロアを飽きさせることなく、余裕を持ったプレイを披露。そろそろ夕暮れ時になろうかという時間帯にGreenhouseステージでは、ベテランのエレクトロニック・ボディミュージックバンドNitzer Ebbが登場。最初に機材トラブルがあり中々ライブが始まらず15分ほど押しでスタート。まさに肉体で感じられるエレクトロニック・ダンスビートにパンクを彷彿とさせるボーカルで、会場は熱気に包まれた。ライブ終了後、UFOステージに駆けつけるとMarcel Dettmannが畳みかけるようなビートを駆使し、躍動感溢れるセットで冷静にトリを務めていた。フェスの最後はどのステージで迎えようかと考えたところ、今回一番身近に感じていながら、中々滞在できていなかったRed Light Radioのステージを選択した。他の全てのステージがFunktion-oneのスピーカーシステムを採用していたのだが、このステージのみ、オランダはエイントホーフェンのハンドメイドスピーカーKrackfree Soundsystemを採用していた。ダブなどの音楽に真価を発揮するように設計されており、個人的な感想ではあるが、ベルリンのパーティーWax Treatmentで使用されているkillasan Sound Systemに通ずるクオリティを感じた。このステージのトリを務めたのは、シドニー生まれ、アムステルダム在住のMax Abysmal。レイブ感に溢れ、多幸感を導くDJセットは、フェスティバルの締めを飾るにはうってつけの好内容であった。



 筆者はオランダに住んで4年になるが、今回Dekmantelは初参加だった。全コンテンツ・オールエリア・アクセス可能なプレスパスにパーキングチケット、そしてフードやドリンクを買えるトークンまで支給されるなど、手厚いもてなしで、全くストレスなく取材することができた。

また、世界各国からの来場者で混雑しており、クルーとスタッフは神経をすり減らしていたはずだが、ステージ裏やさまざまな場所で笑顔が溢れ、オランダ人の優しさから導き出されるポジティブな空気が流れ、素晴らしいフェスティバルを作り上げようという気持ちを十二分に感じさせられた。

 最後にアムステルダムセ・ボスでのフェスティバル会期中、フードエリアでお好み焼きなどの日本食を出店していたFood Escapeオーナー夫婦のYasu君とアオイさん大変お世話になりました。

Special Thanx:
Thomas Martojo (Dekmantel Sound System), Jennifer Shord (Hustle. PR), Food Escape Crew and Mixmaster Morris.