二木 信

音楽ライター

音楽ライター。共編著に『素人の乱』、共著に『ゼロ年代の音楽』(共に河出書房新社)など。2013年1月18日、ここ十年弱の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした単行本『しくじるなよ、ルーディ』を刊行。漢 a.k.a. GAMI著『ヒップホップ・ドリーム』(河出書房新社/2015年)の企画・構成を担当。

Words & Sounds
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“ラップ・ブーム”から少し考える

 昨年の自分の本コラムを読むと現在のフリースタイル/MCバトル・ブームに触れていないのでそれだけこの1年間で急激にそのブームが広がったのだろうと思う。というか、間違いなくそうなのでしょう。それに伴って、日本のヒップホップの80年代、90年代の先達の方々にも取材したり、話を訊いて記事を書いたりした。フリースタイル/MCバトルはヒップホップというジャンルのラップといういち要素の中のひとつのエンタメだが、ひとまずそういう込み入った議論はおくとして、率直に面白いと感じたのは、このようなブームになると、歴史の検証が同時に進行するということだ。音楽誌はもとより、カルチャー誌や文芸誌も大きな特集を組んだ。書籍も複数出版されたし、来年も出るだろう。
 例えば、“クラブ・ミュージック”や他の音楽ジャンルなどがブームになったとして、このような現象が起こるだろうか。起こるのかもしれない。それはわからない。いずれにせよ、たかだかなのか、それとももはやなのか、日本のヒップホップは約35年ほどの歴史があり、その中である種の帰属意識みたいなものを持ってこの文化に情熱を燃やしている人がたくさんいる。いや、それはどの音楽文化でもそうだろう。日本人は議論が苦手というが、ヒップホップに携わる人には議論好きな人が多いとも感じた。見過ごされてきた点と点が線となり、それがまったく別の歴史を描き出したりする。そして、それはいまに確実に影響を与える。