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NextWave Collective vol.1「PYRO」│Mari Sakurai & Shinsuke Goto インタビュー

クラブカルチャーの新しい波を届ける新企画「NextWave Collective」。本連載では、国内外問わず、精力的に活動する新世代のアーティストやクリエイターたちの想いに焦点を当て、さまざまなパーティーやフェスティバルを紹介する。初回となる今回は、Mari SakuraiとShinsuke Gotoが登場。二人が主宰する「ローカル」をキーワードに掲げた新パーティー「PYRO」について話を聞いた。 

Interview Text & Edit:Mao Ohya


全国各地からテクノを燃やす新パーティー「PYRO」が、3月9日(土)にWWWβで開催される——心にある純粋な欲望を捉え、ひたすら努力を続けてきた、Mari SakuraiとShinsuke Gotoが初めて共同主宰するこの“テクノパーティー“は、クラブカルチャーを愛する人たちのために、パーティー以上の場として生み出された。

彼らのことは、渋谷MITSUKIで開催されている「AFTER LIFE」で知っている人も多いだろう。Shinsuke Gotoが主導し、Mari SakuraiがレジデントDJを務めるこのパーティーは、東京でコミュニティを築き上げ、テクノシーンの活性化に貢献してきた。そうした二人が新たに開催する「PYRO」のキーワードは“ローカル“だ。「行動は言葉よりも雄弁だ」ということわざが示すように、東京だけにとどまらず、地方に何度も足を運んでいる二人はインタビュー当日もDJとして呼ばれ沖縄にいた。

「DJがさきほど終わり、これからアフターパーティーに行ってきます!また連絡します!」というメッセージを受け取った数時間後に、二人がいる沖縄と筆者が住むベルリンから電話をつなげて行なった本インタビュー。時間の合間を縫って取材に応じてくれたMari SakuraiとShinsuke Gotoに、パンデミックがもたらしたシーンの変化を交えながら、地方を拠点に活動するDJとテクノの魅力、そしてパーティーを開催するに至った経緯について、たっぷりと話を聞いた。


 

NextWave Collective vol.1
「PYRO」

 

 

Mari Sakurai
「身体的なエネルギーを生み出したり、身体を解放するような自由さと力を感じる」



ーーDJとして活動を始めたのはいつ頃ですか?

Mari: 8年くらい前かな。友達に誘われてDJを始めて、パーティーを主催したりしながら続けてきました。元々、パンクとかハードコア、実験音楽とかをよく聴いてて、割と自分の好きな音楽のジャンル的にも、テクノっていうジャンルが相性よかった。だから、最初はロウテクノとかインダストリアルテクノとか、そういう音色のものが多かったです。

Shinsuke: 俺は元々ヒップホップのDJをやってて、6年くらい前かなぁ。3年やってから辞めて、テクノをやるようになりました。

ーーお二人とも出演回数がとても多いと思うのですが、そうなった背景やきっかけがあれば、教えていただけますか?

Mari: 私はFORESTLIMTで初めてパーティーを主催した時に、食品まつりさん、Cold Nameさん (CVN、Nobuyuki Sakumaの別名義)に出演してもらっていたんですけど、解放さん
(WWWβのディレクター)が遊びに来てくれていて、その時にLIQUIDROOMで開催される〈PAN〉のレーベルのショーケースでDJをやらないかと誘われて出演したのがキッカケで、本格的にDJが増えました。今は月に10本くらいのペースでやっています。

Shinsuke: 俺は月に7、8本のペースでDJをやっていて、DJを始めた初期から蜂の店長ロウシュ君に東京の名物アフターパーティ「朝蜂」に呼んでもらい、そこで自分の表現の幅が広がりました。それ以降は2022年の「rural」に出演したことが大きくて、そこから様々な人に知ってもらえ、オファーが一気に増えた感じがあります。

ーーMariさんは長い間テクノのDJとして活動されていますけど、Shinsukeさんは比較的最近テクノを始めたんですよね。テクノを始めようと思った理由はなんですか?

Shinsuke: 2020年に「Liquid Drop Groove」が勝浦で開催したアニバーサリーパーティーに遊びに行ったのがきっかけです。そこで、NobuさんやYAZIさんがめちゃくちゃカッコいいセットを披露してて、本当に衝撃を受けたんですよね。時間を忘れるくらい集中して踊っちゃってて。その時、MITSUKIで働いてたし、“自分もテクノ始めてみようかな“って思って、そこから始めました。

ーーそういう体験は、人によっては人生を変えるような出来事になりますよね。その時、テクノのどんなところに魅力を感じましたか?

Shinsuke: ヒップホップのDJにはある種のマナーがあるけど、テクノはそれに比べると自由度が高いように感じていました。別にどの音を合わせてもいいし、その自由さに魅力を感じましたね。

ーーMariさんはテクノのどんなところに魅力を感じてます?

Mari: 自由と、力…(笑)?

Shinsuke: 力ださっ(笑)。

Mari: (笑)。テクノって、踊ってても力というか、身体的なエネルギーを生み出したり、身体を解放するような自由さと力を感じるなと思う。

ーーああ、わかります。踊ることで放出されるエネルギーは、力強いですよね。最近の東京のクラブシーンについてお聞きしたいんですけど、コロナ以降、クラブやパーティーに遊びに来るお客さんに変化はありましたか?

Mari: コロナ以降、若い人が増えたのが印象的な変化かな。特に今年は海外からのお客さんが激増してる。アンダーグラウンドなパーティーでも観光客がめちゃくちゃ多くなった。

Shinsuke: うん。コロナ前より、クラブに遊びに来るお客さんが増えてるよね。「AFTER LIFE」もこれまでの常連のお客さんに加えて、観光客も増えてきてる。ただ、他のパーティーでも結構あることなんだけど、朝方になると人がどんどん減ってきちゃって、パーティーの熱量を最後まで保つのが大変になってきてるんだよね。主催者側として、それは絶対に守りたいから、みんなが最後まで楽しめるように、頑張らなきゃなって思ってます。


 

 

 

Shinsuke Goto
「地方に住むDJが、もっと気軽に東京でプレイできる機会がほしかった

 


ーー「AFTER LIFE」に加えて、ローカルをキーワードにした新しいイベント「PYRO」を始めようと思ったきっかけは何ですか?

Shinsuke: 俺からMariちゃんに持ちかけたら、同じことを考えてたって話になって、やりたいことが一致したんですよね。去年の9月にMITSUKIの店長を辞めてから地方に行くことが増えたんですけど、東京にいる同世代のテクノDJってそんなに多くないけど、地方に行くとちゃんといるんですよね。しかもその土地のカラーを出していて個性的だし、カッコよくて。

Mari: 私も地方に呼んでもらえる機会が増えて同じことを感じてた。コロナで移動が制限されていた期間が、それぞれの拠点で続けてきたDJたちの個性を強めたんだと思います。それで、Shinsukeが「PYRO」について話してくれたとき、たまたま私も地方のDJをもっと東京に呼びたいなって考えてて。それをきっかけに、全国のDJや若手DJを集めたパーティーを開催しようという流れになりました。

Shinsuke: “地方に住むDJが、もっと気軽に東京でプレイできる機会があればいいのに“って思ったんだよね。だから、自分たちでパーティーを開催しようと考えました。若手が主催して同世代を引っ張るパーティーもないしね。若い子から「イベントに出演するにはどうしたらいいですか?」ってよく聞かれるし、本当にカッコいいのに呼ばれてない子が多い。それ見てて、モヤモヤしてたのもきっかけの一つです。

ーー東京にはパーティーがたくさんあって、出演する機会も多いと思っていましたが、意外とそうでもないんですね。

Mari: うん、CONTACTがなくなって大きな会場が少なくなったし、それ以降、新しくできた会場も小箱が多いから、パーティーが小箱に集中してる。小箱は出演枠が少ないから、みんな新しい人を呼びにくくなってる部分もあるんだと思うな。たとえば、CONTACTならフロアのひとつを若手に任せるって出来たけど、今はそれが出来る大きい箱が少ないから、決まったラインナップになりがちかも。それがあんまり面白くなくて。


ーーなるほど。それも関係して、地方のDJを呼ぶことにしたんですか?
 
Mari: 純粋に自分が聴きたいから呼んだのが大きいかも。​​これをきっかけに、地方のカッコいいDJたち
が東京も含めて色んな場所でプレイする機会がもっと増えれば、私も楽しく遊べる機会がもと増えると思うし、そういう感じかな(笑)。

Shinsuke: YMTは東京のパーティーに二回ぐらい出演してて、Shinji Stamariaは今回が東京初の出演なんですよね。だからこそ、みんなに聴いてほしい。俺自身が、今からとてもワクワクしてます。



 Mari: 今回は2フロアあるから、バー近くのフロアには東京のDJに出演してもらう予定です。私たちが聴きたいし、もっとたくさんの人たちに聴いてもらいたいからオファーをしました。出演者同士もお客さんもみんなが混ざるきっかけにもなればいいなと思ってます。

 

Shinsuke Goto
「パーティーの中身は真剣だけど、遊びとしてはアホになれることがしたい」



ーー地方のDJのどんな部分が、自分を惹きつけていると思いますか?

Mari: 地方はクラブやお客さんが少ないから、“自分がどうしたいか“を突き詰めてるDJが多いのかなと思う。東京は見られる場所が多いから、“自分がどうしたいか“よりも“人にどう見られたいか“を気にするDJが多い気がする。だからこそ、地方で活動するDJがより魅力的に見えるのかもしれない。

ーー人が多いと“自分が本当にやりたいこと“がブレやすくなるからこそ、地方からDJが東京に進出することで、新しい風が吹くのが楽しみです。今回の内装はRGBが手がけるんですよね。

Shinsuke: RGBはね、すごいよ(笑)。<Rainbow DIsco Club>や野外イベントの設計や施工をやってるチームなんですよ。パーティーの雰囲気に馴染むような、ちょっと気分を変えてくれる演出をしてもらう予定です。

Mari: いたずら心みたいな感じのね。

Shinsuke: そうそう、いたずら心。装飾の変化にも注目してもらいたいです。

ーー面白そうです。“パーティーの雰囲気“という言葉がでてきましたが、どんな雰囲気のパーティーにしたいですか?

Shinsuke: 俺はね、見た目、性別、年齢とか関係なく、みんなで楽しむ熱量のあるパーティーがしたい。

Mari: 私はアホになれるパーティーがいい。最近そういうのが前より少なくなってきた気がして、「最近アホみたいなパーティーってあったっけ?」ってよく思うんだよね。だから、みんながアホになれるパーティーがいいな。そのためには、まずは自分がアホになる(笑)。自分が一番遊ぶぐらいの気持ちでいます。

Shinsuke: 真面目にアホになりたいかも(笑)。パーティーの中身は真剣だけど、遊びとしてはアホになれることがいいと思う。


 

Mari Sakurai
「自分の居場所みたいに思ってもらえたら嬉しい」



ーー主催者からの“アホになりにいく“っていう気持ちだけで、すでに熱量を感じています(笑)。今回、パーティーをテクノに限定したのは、やっぱりお二人がテクノDJだからですか?

Mari: テクノパーティーって言ってるけど、テクノ縛りじゃなくて、“テクノっぽい“感じでいいんだよね。自由度の高さもテクノの良さだし。パーティーの説明文を考えるとき、解放さん
にも相談したんだけど、「固定化されたテクノの先入観を打ち壊すのも、このパーティーの目的だと思うから、言い切っちゃっていいと思う。現代のダンスミュージックがあまりにも広がり過ぎている状況を考えると、敢えてテクノを限定することは、2024年において価値のある試みだと思います」という意見をもらったのもあって、だから、あえて“テクノパーティー“って伝えることにしました。

ーーWWWβで開催する理由も知りたいです。

 Mari: ShinsukeがWWWβがいいって言い出したからなんだけど、私自身もこの会場にすごく思い入れがあって。コロナ前はほぼ毎週通ってたし、自分のスタイルも確立できた場所だから、新しいパーティーをここでやるのは意味があると思った。WWWβの方も今年はソリッドなダンスミュージックのイベントをやりたかったらしくて、うまく合致したんです。

Shinsuke: 俺はWWWβでダンスミュージックっていうものにめちゃくちゃ衝撃を受けたんですよね。その思い出がいまだに忘れられなくて、その熱狂をまたここで体験したかった。それで、解放さん
に相談することにしました。今回、解放さんが信頼して俺たちに任せてくれたのは、Mariちゃんの存在がすごく大きいと思う。コロナ以降、WWWβで初のテクノパーティらしいんですよ。

Mari: 解放さん
とはずっと同じ場所で遊んできたから、感覚で話ができて意見もよく合うし、自分にとって大切な理解者です。

ーーお二人にとってWWWβは思い出の場所で、信頼する人もいる特別な場所ですね。みんなにとって「PYRO」がどんな場所になってほしいですか?

Mari: お客さんには、ただのお客さんではなく、仲間として楽しんでほしいです。出演者の人たちも友達になってくれたらいいなと思ってるから、開催前にわいわいできるようなこともしたい。会場にいる全員で、いい感じの絆を作れたら最高。自分の居場所みたいに思ってもらえたら嬉しいです。




◼️「PYRO」
 

2024年3月9日(土)23:00-5:00
WWWβ

U23 ¥1,500 / ADV ¥2,000 / DOOR ¥2,500 

Lineup:
k:sea
Mari Sakurai
Shinji Stamaria
Shinsuke Goto
teppei
Toner
ykah
YMT
 
Floor Design: RGB
Artwork : YESBØWY

Mari SakuraiとShinsuke Goto主宰、初回に神戸のShinji Stamaria、大阪のYMT、仙台から東京に拠点を移したk:sea出演。完全現場主義の"ローカル"というキーワードを元にそのスタイルを問う。 パンデミックを経てより濃さが増した日本全国のローカルシーンに注目し、それぞれの現場で培われたスタイルを唯一無二とした若い世代のDJを中心にフィーチャー。新たな時代の日本のクラブシーンの発展を目指し、"ローカル"というキーワードを元にそのスタイルを問う完全現場主義の新パーティ。 初回に神戸のShinji Stamaria、大阪のYMT、仙台から東京に拠点を移したばかりのK:sea、そして今や東京ローカルシーンには欠かせない若手DJのTonar、ykah、teppeiを迎える。


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