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Talc

"Talking and Laughing Company"――略してTalcは、ロンドン在住のプロダクションデュオだ。
彼らの芸名というか源氏名である"ドクターファン"と"ザギフト"からは、英国ならではのユーモアセンスの持ち主であることもわかる。
それぞれにマルチプレイヤーとしての手腕を持つ彼らは、レアグルーヴ以来の英国ジャズカルチャーの中で演奏経験を積んできた。インコグニート、ザブランニューヘヴィーズ、ジェイムズテイラーカルテット、モロコ、ロビーウィリアムズに加え、オーシャンカラーシーンといったロックバンド等々きりがないしかし、その多くはセッションミュージシャン、つまり裏方的なスタンスに終始するものであり、"ドクターファン"と"ザギフト"――すなわち、ジェイムスナイツとニコルトムソンは、自らの音楽的欲求をフルに発揮できる機会を伺うようになっていき、それがタルクへと繋がっていくことになる。「モダンスリープオーヴァー」暖色系のメロディトーンと、ヴォコーダーが微妙に変化しながらロマンティシズムの夕暮れに沈んでいくようなスケール感、その素晴らしい楽曲が英国の良質レーベル WAH WAH 45sレーベルからカタログに名を連ねたのは05年のこと。この曲が英国メディアに与えたインパクトは、楽曲の素晴らしさに正比例するものだったようだ。数々のインディペンデント系ネットラジオから、英クラブジャズカルチャーの権威として君臨するジャイルスピーターソンの<BBC Radio 1ワールドワイド>等々――タルクの手掛けたニューフレッシュフォーオールドな楽曲性は、さざなみのように評価を獲得していった。
 
「モダンスリープオーヴァー」の静かな衝撃から、しばらく経った06年春には「プリーズプリーズプリーズミー」が発表された。更に、既発4曲に新曲8つを加えた1stアルバム『シットダウンシンク』がついに発表される。騒動とまで言ったら大袈裟だが、彼らに寄せられたのは「まるで現代のブルーアイドソウルのようだ!」であり、「AORサウンド」、「スティーリーダンのようじゃないか!」という声であり、確かにそれらは的を射ていただろう。
 タルクが暗に影響を受けたアーティストを彼等は次のように挙げている。スティーリーダン、ハーヴィーハンコック。さらには、カーティスメイフィールド、EW&F、ザソーンズ、エマーソンレイク&パーマー……、そして意外にも、ガレージパンクのカリスマとして君臨したイアンデューリー等々。

 クレジットによれば、ジェイムスはヴォーカルとキーボードを、ニコルもヴォーカルを手掛けながらギターを担当しているらしいが、タルクの音楽性においてまずユニークなのは、在野で磨いてきた演奏パートのエディット感ではないかと見る。
彼等の場合、アコースティックをベースにしながらも凡庸なバンドサウンドに堕さず、しかし手先ばかりが器用なカットアップミュージックにも流れ過ぎないという、微妙なさじ加減を提示している。タルクは懐古主義的なバンドに聴こえるかもしれない。が、ここにはDJカルチャー以降の編集センス、ビートへの眼差しがそこはかとなく散りばめられていることもわかるだろう。演奏者として高い技量、しかしそれを時に諧謔的にすら見せる編集センスは、ナイーヴなバンドマンには出来ない芸当だ。こう見えて、彼らは知っているのだ。単にギターをつまびいて歌っているだけでは、伝統主義には拮抗出来ないことを。その審美眼は、間違いなく英国ならではの重厚なセカンドハンドカルチャーを通ってきた経験からなるものであろう。さらにもうひとつ、彼らのサウンドを特徴づけることとして、僕はヴォーカルやコーラスのユニークな加工処理を挙げたい。盤の幕開けを飾る「ザ1970's」は一見レトロな曲調にも聴こえるが、サビの部分でヴォコーダー処理を加え、読後感として奇妙なものを残してくれる。

 ヴォーカル処理といえば、度々触れてきた名曲「モダンスリープオーヴァー」も外すことが出来ないだろう。彼等ふたりで手掛ける、リードヴォーカルとコーラスのハーモニーも素晴らしいが、ヴォコーダー処理をかけて転調する箇所との落差が、この楽曲の肝に感じる。彼らの純粋な声が堪能できる曲でもある。コーラスのフェードアウトと同時に入ってくるエレピ、エフェクティヴなギターが、ソングラインの響きを鮮やかなものとしている点は見逃せない。
 まるでそれは、ライヴ後のアンコールに応じたかのような粋な仕掛けにも感じられる。そして、2008年度待望の2nアルバム『ライセンスドプレミシーズライフスタイル』が発表される。