Alessandro Cortini(アレッサンドロ・コルティーニ)の音楽は、聴く者の感情を大きく揺さぶりその渦の中へ引きずり込んでしまう。そこでの彼は、自身のソロ作品とナイン・インチ・ネイルズのメンバーとしての自分との間にエレクトロ・ミュージックという大きな境界線を非常にうまく引いているのだ。本作『ヴォリューム・マッシモ 』は彼の嗜好するメロディとエクスペリメンタルな要素をしっかりと組み合わせながら、従来型の楽曲構成と不協和音の間でうまくバランスを取ることで彼の代名詞とも言えるヒリヒリとするようなエレクトロ・サウンドをこれまでと同様に素晴らしく表現している。
高評価を得た2017年のソロ・アルバム『Avanti』、自身の家族のプライベート・フィルムをもとに作成された映像を使って大きな喝采を浴びた2016年のベルリン・アトナルでのライヴの後に発表されたこのアルバムの声素材を、今回のアルバムの一曲目「Amore Amaro」にうまく忍び込ませ、前作の残像を覗かせながら曲の最後に近くなるとそこから離れ、今作の世界観が始まってゆく。
そしてここから『ヴォリューム・マッシモ』の世界が本格的にスタートし、電子音に溢れたシンセサイザーの巧みなアンサンブルが、時と記憶を微妙に捻じ曲げながら聴く者を瞑想の旅へと誘っていく。甘美な雰囲気を漂わせコルティーニのポップセンスが所々に匂い立ちながらも、その裏で聴く者をメランコリックで巨大な迷路へと誘い込んでしまう。おそらく驚くべき事だと思うが、彼のこの最新作はギターをモチーフに作られることが多く、それが私たちの目前でキラキラときらめく夢のような風景を作り出すための一つのアクセントとなっている。「Batticuore」は絶妙に作られた目眩く回転木馬のような作品で、コルティーニの特筆すべきギター・ワークが煌めくポップ作品の中に織り込まれており、「La Storia」はシンセの主旋律とノイズを散りばめる事で、そこと同じ高みを別のルートから目指しており、そこからアルバムは悲しみに満ち溢れた「Sabbia」へと続いてゆく。 贅沢にもジャケット・ビジュアルはエミリー・エリザベスとラキ・フェルナンデスの手によって作られており、そのカヴァーで見られるように本作は優しさと自信に溢れた素晴らしい作品となっている。
不必要な作り込みや脱線に陥ることもなく、コルティーニは確固たる意志で、音楽を通して感じるものを掴み取り、人生の旅に向けた一つの地図としてこの作品を作り上げた。『ヴォリューム・マッシモ 』という作品は、階級組織的概念から抜け出しミニマリスト的志向を持った心持ちを目指す、その感覚を内包しているのである。
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