Clubberiaをご覧の皆さん、初めまして。今回からBloggerコンテンツに参加するKoyasです。
アーティストとしてDJ Yogurtさんやこのクラベリアでもコラムを持っているCD HATAさん達と音源を発表したりしながら、2014年からはAbleton認定トレーナーとなりAbleton Meetup Tokyoという音楽制作者向けのイベントを隔月で開催しています。
さて、このコラムでは編集部より、これまでDTMに触れた事が無い人たちが音楽制作に興味を持つようなAbleton愛に満ちた記事にして欲しい、とのリクエストがありましたので、そういった記事を書いていきたいと思います。
第一回目の記事は、ベルリンで開催されたAbleton主催のカンファレンス「Loop 2016」のレポートです。
このLoopは、2016年11/4日から6日にかけてAbletonが社をあげて開催した音楽制作者向けの一大カンファレンス。
2015年に第一回目が開催され、その内容もトークセッションやワークショップ・ライブパフォーマンスやインスタレーションなど、音楽に関するありとあらゆるプログラムが詰め込まれた濃密な三日間で、ノリはフェスに近いものがあります。
2016年の会場は、ベルリン東側にあるFunkhausという旧東ドイツ時代の放送局やスタジオの複合施設で、最盛期には5000人が働いていたというドイツらしい巨大な建物。日本で言うと渋谷のNHKに近い感じで、一番大きなHall 1には壁一面に巨大なパイプオルガンがあります。
プログラムは全て英語で行われるので敷居はちょっと高いかも知れませんが、それだけに音楽制作に関する最先端の情報が得られます。なお、チケットは毎年定員を上回る応募があるので抽選制になっています。今年のLoopは11月10日から12日にかけてFunkhausで開催されますが、エントリーは既に締め切られています。これを読んで興味が湧いた方は来年参加しましょう…
さて、今回僕はAbleton認定トレーナーとしてボランティアする任務が課せられているため、開催2日前にFunkhausで説明会に出席しました。僕が受け持ったのはJam Session Roomと呼ばれる小部屋2つのセットアップと機材管理です。ここにはRoland, Yamaha, Arturia, Novationといった協力メーカーの機材が沢山置かれ、全ての機材が同期しているのでその場でジャムセッションを始めることが出来ます。実際に予約制で本格的なジャムセッションも行っていました。
この日は何人かで機材をセットアップしていましたが、MIDIインとMIDIインを繋いでいたり、ケーブルの長さが不必要に長さ過ぎたり、コンピューターの電源が足りなかったり、結線は意外といい加減です…笑。
こういう所は日本人が得意な分野かも知れません。
さてLoop初日となり会場に向かうと、オープニングセレモニー的なものも無く、いきなり始まってます。こういう所はAbletonらしいと言えます笑
僕は初日と2日目は昼過ぎまでボランティアがあったので、そちらをこなした後に会場を見て回ります。Ableton的には、このLoopで大事なことはプログラムをくまなく見る事では無く、そこにいた人たちと交流すること。Ableton主催のカンファレンスのためにわざわざベルリンまで来るような「好き者」が集まる訳ですから、この機会を活かさない手はありません。Loopのプログラムは後日Ableton.comのサイトで字幕付の動画が公開されるので、僕もプログラムを見るより世界各国の認定トレーナーや去年のLoopで会った人たちと話す時間が多かったです。
その中でいくつか見たプログラムを紹介すると、まずはトークセッションの”A Breath of Fresh Air”。Kyokaさんをはじめ女性アーティスト3組によるフィールドレコーディングに関するトークセッションです。Kyokaさんは日記のようにフィールドレコーディングをしていて、前作 ”is (is superpowered)”の収録曲”Flashback”では風切り音をあえて使っているという話をしていました。そう言われて聞いてみると確かに…。
フィールドレコーディングは人気があるトピックで、この他にもワークショップなどが行われていました。
会場内のSound ChamberではAbleton Liveの創造者の一人、Robert Henkeによるインスタレーション”Fragile Territories”が本邦初公開されていました。このSound Chamberは1950年代に作られた部屋で、名前から想像つく人もいるかとは思うのですがリバーブを作るための部屋です。当時はエフェクターなんかないですから、リバーブを足す時はこういう部屋を使っていてリバーブをかけていました。ちなみに人間が開発した最古のエフェクターは洞窟を使ったリバーブであると言われています。
このインスタレーションは、レーザーが線を描く中で時折ブォーンというサウンドが流れるのですが、それがSound Chamberのリバーブによってすごい轟音になっていました。光の動きはプログラムされているのではなくランダムに動き続け、いくら見ていても飽きないインスタレーションです。
この仕組みは最終日のトークセッションでRobert Henkeが解説していました。
最初はサウンドが上手くはまらなくて、ピアノを入れたクラシックなものにしたら良いだけど何かありがちなものになったりして色々苦労したようです。最終的には、ノイズやドローンの音量がじわじわ上がってくるような不気味にサウンドにすることで上手くはまったのだとか。Sound Chamberのリバーブと相まって飛ばされる実に良いインスタレーションでした。
さて、夕方になるとライブパフォーマンスが増えてきます。初日で印象的だったのが歌いながら身体でサウンドをコントロールするMi-Muのパフォーマンス。手や指の動きで自分の歌声をループさせたりシンセの音を変えたりと、ジェスチャーとサウンドがシンクロするすごい演奏でした。
1日目のプログラムも終盤になって、やっとAbletonのドキュメント責任者であり毎年Loopで大活躍のDennis DeSantisによる「a Loop Welcome Note」があり、そこから電子音楽のパイオニア=Morton Subotnick & Lillevanの映像と電子音を組み合わせたコンサートで初日が終了します。このコンサートの途中でユーザーグループオーガナイザーの会合出席のためAbleton本社に向かいます。
こちらではAbletonのサイトや動画にもよく出てくる写真食堂のホールでピザパーティー。「去年も会ったよね」と再会を祝ったりもしました。
そのあと近くにあるVolksbühneというクラブでイベント集団CTMによるNight Programもあったのですが、僕は翌日にボランティアがあるため一旦宿に戻って休みます。ずっと英語でコミュニケーションなので、日本にいるよりもずっと疲れますね。。
Loop2日目。
僕はこの日も昼過ぎまでボランティアなのですが、その前に見ておきたかったプログラムがあるので、律儀に朝一で会場に向かいます。そのプログラムは「The Learning Institution: New approaches in music education」。新しい形の音楽教育に関するプログラムで、AbletonのCEO=Gerhard Behlesをはじめ4名が登壇。Gerhard曰く、Ableton Liveユーザーはオフィシャルが270万人・アンオフィシャル(おそらくCrackユーザー)が500万人。音楽制作には作曲家・エンジニア・プロデューサーなど実に様々な役割が必要で、コラボレーションはとても重要になってくる。近年、この多くの役割を少人数のチームで行うことが盛んだが、これにはオンライン・コースやレッスンなどの教育が重要である…。コンピューターを使った音楽教育は欧米が日本より相当進んでいて、我が国の現状を考えると将来が不安になりました。
その後ボランティアの時間になったので、お仕事に向かいます。この日は土曜日だったので人も多く、あちこちからひっきりなしに「音が出ない」「同期が取れてない」「どっかから変な音が出てる」などのリクエストに対処していました。
なお、パフォーマンスの中ではドラムを叩きながら鍵盤でサンプルを鳴らすDeantoni Parksの演奏がすごかったです。
さて、様々なプログラムをチラ見しながら夜になると、会場内の”Penthouse”でAbleton認定トレーナーが集まる寿司パーティーにいきます。この会合では、世界各国から今年は60名ものAbleton認定トレーナー達が集まり、僕がLoopで一番楽しみにしている会合です。国や言語は違えど認定トレーナーは同じAbleton Familyなので、勇気を持って飛び込んでいけば皆優しくてフレンドリーです。
60名の認定トレーナーの中で日本人は僕一人だったので「この寿司はどうなんだ?」的な質問を沢山受けました。味は良かったですが、味付けも濃かったり揚げた衣で巻いていたりして、日本の寿司ではなく所謂「カリフォルニアロール」系のおつまみ的な寿司。日本の寿司はもっと味付けが少ないミニマルテクノだということを思い知りました。笑
Loop3日目。あっという間に最終日。
今日はボランティアはありませんが、律儀に朝一からサンプリングに関するプレゼンテーション「The Art of Sampling」を見ます。Deantoni Parks, Kirk Knight, Kyokaの3人が登壇し、それぞれサンプリングに対するアプローチやサンプルの加工法などを披露します。このプレゼンテーションが一番見ていて面白かったです(Kyokaさん含め)。Q&Aコーナーでは、どうやって録音場所とか内容を記録しているかという質問に対して、Kyokaさんが「Street noise at Berlin 20161104」みたいに内容を全てファイル名に盛り込んでいると回答していました。
最終日で他に印象に残ったのはパフォーマンスのKopenhagen Laptop Orchestra。Ableton認定トレーナーのRasmusをリーダーにした、コペンハーゲンのAbletonユーザーグループの5人組で、ラップトップ5台並べて即興で演奏すします。僕もDachamboのHATAさんと似たようなことをやっていますが、それよりはるかに高度なレベルで5人でセッションしていて、そのチームワークに心打つものがありました。
この日も人と会って話す事が長かったので、電子音楽家・ドローンやエクスペリメンタルのパイオニア=Suzanne CianiのBuchlaを使ったパフォーマンスや、mi.muのワークショップ「Making and performing music through gesture and motion」など見逃したもの多数でした。とはいえ、プログラムはあとから動画見れば良いので、やっぱりその場にいる人たちとコミュニケートすることは大事だし、良い思い出になるのです。
さあ、陽も落ちて会場の入口にある喫煙所では甘い臭いが立ちこめる中(ここはベルリン)、今年のフィナーレを飾るLee Scratch Perryの登場です。写真だとステージの前はダンスフロアなのでスペース空けてありますが、会場のHall1は満員。生で喋るLee Perryを見たのは初めてですが、レコードそのまんまの声。バンドのSaxプレーヤーがAbleton認定トレーナーなので今回のプログラムが実現したそうです。
彼のレコードを聴いたことある人はわかると思いますが、正直何を言っているのかわかりません。英語圏の人に聞くと「あれは何を言ってるのかわからなくて当然。時々聞き取れるワードに笑うのだ」となるほど納得の回答。Abletonが公開した動画の字幕を見て、初めて何を言っているのかわかりました。それにしてもこの動画の最後も…笑
ライブはLaptop+Sax+パーカッションを加えた4人編成のLee Perryセットで、Disco Devilとかのクラシックをやっていましたが、ライブ中でもどんどん人が帰っていきます。理由を聞くと「ベルリンの人は新しいサウンドが好きだから、昔と変わらないレゲエはちょっとね」。う〜ん、厳しい…笑
さて、2016年のLoopを振り返ってみると、英語出来ること前提でトークが多かった2015年よりもインスタレーションやパフォーマンスなどビジュアル面も充実して、英語が苦手な人でも楽しめるようになった印象です。僕も正直プログラムの内容は大して聞き取れてないですが、そんな自分でも言語の壁のつらさを感じる機会はぐっと減りました。
Loopは日本のイベントでは得られない貴重な体験ができ、音楽へのモチベーションもあがると思います。今年のエントリーは既に締め切られましたが、来年も開催されると思うので、興味のある方は是非Loopへ行ってみてはいかがでしょうか?
さて、そんな僕がオーガナイズしているイベント、Ableton Meetup Tokyoが8/11に恵比寿リキッドルーム2FにあるTimeout Cafe&Dinerで開催されます。今回はライブ・パフォーマンスにAbleton Liveをどう使っているかを3人のプレゼンターが紹介します。
この模様はクラベリアでも公開されていますが、現場にいないとわからない楽しさもあります。学生の方は学生証を提示すれば無料で入れますので是非ともお越し下さいませ!
Ableton Meetup Tokyo Vol.14 Live Performance Special
日時:2017年8月11日 午後6時開場
会場:TimeOut Cafe & Diner http://www.timeoutcafe.jp
料金:2000円/学生は無料(学生証を提示)
出演者
Presenters: LLLL, ermhoi, ntg.
MC: Koyas & 蜻蛉
DJ: baseHEAD, akg+
FBイベントページ
https://www.facebook.com/events/735735133297892/