INTERVIEWS

THE QEMISTS

DAN:一緒にバンドを始めた頃は、レッチリやレイジのような好きなバンドをまねてプレイする文字通りのティーンエイジ・ロック・バンドだった。10代の若者が持つ怒りやエネルギーを音楽で発散していたんだ。
DAN:レコード会社と契約するに至ったという意味では、コールドカットのリミックスを作ったことが一番大きなターニング・ポイントだね。音楽の面では、(おそらくメンバーがザ・ケミスツの3人以外にもいた)バンドをやめて、残った俺たち3人で次に何をするか考えたとき、“バンド”という要素や、俺たちがそれまでに培った音楽やプレイスタイルもキープしつつ、それ以前から興味があったスタジオワーク、つまりよりエレクトロニックなサウンドに力を入れようと決めたことが大きいね。だからプロダクションやソングライティングという意味では、その瞬間に『これが俺たちのこれからのヴィジョンだ』って思えた。そのときはレーベルとの契約のことだったり、他のことは一切頭になかった。ただ自分たちのやりたいことを見つけたという感覚だけがあったんだ。活動が本格的になっていったのは、コールドカットからリミックスの話が来てからだね。 DAN:難しいな。尊敬できるドラムンベースのプロデューサーはここにはたくさんいるからね。ペンデュラムやサブ・フォーカスといったバンドがやっていたサウンドって、俺たちがロックに求めていた新しい方向性だったんだ。それにフレッシュやバッド・カンパニーみたいなオールドスクールなドラムンベースも好きだしね。でも俺たち3人は、ジョニー・キャッシュからシステム・オブ・ア・ダウン、ペンデュラムまであらゆる音楽を聴くよ。 DAN:聴いただけではわからないと思うけど、聴いて気づくにしろ、気づかないにしろ、自分たちが聴いてる音楽は自分たちが作る音楽に何かしらの影響を与えていると思う。でも俺たちのサウンドからジョニー・キャッシュを連想することはないだろうな(笑) DAN:コールドカット『Let Us Play』や『Xen Cuts』を買ったことを今でも覚えてる。その当時はNinja Tuneのことを知らなかったし、どんな連中なのかもどんなレーベルなのかも知らなかった。でも一つのスタイルにとらわれず、幅広い音楽をリリースしているという印象を持っていたし、本格的にダンス・ミュージックを作り始める以前から、彼らのジャンルを超えていく姿勢や、ビジネスよりまず音楽を重視する姿勢にはすごく興味があったんだ。それからコールドカットのリミックスを4つ作って、それが成功したから、彼らから『アルバムを作ってみないか?』って話がきたんだ。尊敬してきたレーベルだし、UK音楽シーンでもすごく重要なレーベルだから、それを聞いてかなり嬉しかったね。 DAN:俺たちはストレートなドラムンベースのアルバムを作りたくはなかった。俺たちがそれぞれに影響を受けた音楽の要素を反映させたかったし、まずロックの要素をキープしたかった。そして、速くてヘビーなサウンドでも、ダンスフロア向けというだけではなく、座ってじっくり聴きこむこともできる作品にしたかったんだ。Ninja Tuneは俺たちの判断をサポートしてくれてる。もし彼らに明日『次のアルバムにはドラムンベースを一切なくす』と言っても『問題ない』って答えるだろうと思う。彼らが俺たちに求めているのは、あくまでも俺たちが作り出すものであって、特定のジャンルの音楽ではない。そのおかげでいろいろなサウンドを試すことができてるんだ。 DAN:ペンデュラムとはさんざん比較されてきたからね。ちょっとうんざりしてるのも事実なんだけど(笑)俺たちも彼らもロックの要素を含んだドラムンベースという点で似ているかもしれないけど、俺たちはペンデュラムとは違うものを作っていると思う。シンセサイザーのサウンドの使い方はだいぶ違うしね。俺たちはよりロッキンなサウンドにしたいと思っているんだ。プロディジーももちろん長い間尊敬してきたグループだし、すべてのアルバムが好きだよ。だからそうやって比較されるのはすごく嬉しいね。 DAN:そうだね。彼はペンデュラムのDJセットでMCをやってる。 DAN:いや、まだないよ(笑)ペンデュラムのメンバーの一人はよく知ってるけどね。木曜(2008/11/13)にも彼とDJをするんだ。楽しみだよ。でもまだ仕事を一緒にしたことはないね。プロディジーと一緒にトラックを作れる機会に恵まれたらそれ以外のことはそっちのけで飛びつくよ。 DAN:確かにエンター・シカリと比較されるのもわかるかな。彼らはあくまでもロック・バンドで、プロダクションのテクニックを使ってる。そして俺たちはプロダクションをベースにしてロックのテクニックを使ってる。だから一緒のようでいて実は違ってるんだ。俺たちはエンター・シカリも好きだし、バンドであれだけファットなプロダクション・サウンドを作り出すクラクソンズのプロデュースワークは素晴らしいと思う。 DAN:けっこう大きいし、すごくヘルシーだよ。なおかつまだアンダーグラウンドのシーンとしてとらえられているしね。去年ペンデュラム、今はチェイス&ステイタスなんかが雑誌やラジオですごく露出されている。イギリスの南部、ロンドンやブリストルでより盛り上がっているんじゃないかな。それと音楽的にも幅広くなってきてると思う。 DAN:彼らUKでも当然ビッグだよ。今でもフェスティバルのヘッドラインになる連中さ。 DAN:やっぱりダンス・ミュージック的な要素を含んだ音楽が好きなんじゃないかな。だからもし彼らと同じ括りで俺たちのやってる音楽をとらえてくれて、クロスオーバーした音楽だってことを知ってくれたらいいなと思うよ。ファンが増えているって実感はあるし、ロックのファンもダンス・ミュージックのファンも俺たちについてきてくれてると思う。グレートなことだね。 DAN:難しいな。ペンデュラム…って自分でも繰り返しペンデュラムって言ってしまうんだよな(笑)ペンデュラムやサブ・フォーカス、ハドーケン、エンター・シカリ、それとジャスティスは聴きまくってる。彼らのプロダクションはファンタスティックだよ。エレクトロ系ではソウルワックスとかね。でもいろいろな音楽を聴いてるし、特定のバンドをあげるのは本当に難しいよ。もちろんプロディジーみたいな大きなバンドに対する意識もあるしね。 DAN:俺たちにとって一番重要だったのは、ダンス・ミュージックの手法でプロデュースしつつ、バンドの要素をキープすることだね。実際ドラムやギター、ベースのレコーディングもたくさんした。Ninja Tuneと契約したとき、3人で同じ家に移ったんだ。それからそこをスタジオに改造して、24時間音楽に囲まれた環境を作った。これってすごく重要なことだったんだよ。俺たちは自分たちがクロスオーバーな音楽を作りたいということはわかってたけど、その方法がわからなくて、時間がかかった。本当に手探りだったんだ。Ninja Tuneと契約した時点ではきちんと完成した曲が一つもなかったからね。でも一緒に住んで、一緒に考えて、食事や睡眠、呼吸をしてきたことで今のケミスツにたどり着いたんだと思う。 DAN:それは完全にシェアしてる。3人とも曲を書くからね。だいたい一人が書き始めたものを3人で膨らませていく感じだよ。すごく自由に作ってる。本当に長い付き合いだからね。それぞれが何に長けていて、何が苦手かってことも理解してる。曲によって作曲もミックスの担当も様々なんだ。 DAN:それも曲によってかな。「DROP AUDIO」は俺たちが中心で書いて、MC IDが手伝った感じだった。でもたいていはシンガーが中心で俺たちがそこにアイディアを入れていく流れが多いね。マイク・パットンの場合は実際に会って一緒に作業したわけじゃないから彼が歌詞を書いてて、もし俺たちが気に入らなかったらそれを言ってただろうけど、すごくいいリリックだったから問題なかったよ。 DAN:確かに一つの音にこだわったりってこともあるけど、結局のところ曲が良いかどうかだと思う。名曲は必ずしも音が良いってわけじゃないからね。だから曲自体やその根底となる感情が最も重要な部分だと思ってる。もちろんそれでもプロダクション自体も質の高いものにしたかったし、すべてのサウンドをインパクトの強いものにしたかった。でも細かく言うと、もっと良いサウンドにできただろうなって部分もあるんだけど、曲全体のクオリティを考えてあえてそのままにしたりってこともあったよ。 DAN:MC IDは俺たちと同じでブライトンに住んでて昔から知っているんだ。だから以前からトラックを作って彼に歌ってもらったりとかもしてね。「Drop Audio」ができて、ロックなヴァイブを持った男性のMCを探していたときに、いつもつるんでたIDに頼んだってわけなんだ。NAVIGATORはもともとコラボレートしようとしていた別のMC、彼との曲はまだ完成してないんだけど、その彼が連れてきてくれたんだ。ワイリーは、男性ラッパーを探してたときに、ちょうど彼がBIG DADAと契約をして、レーベルにWILEYにヴォーカルを頼めるか聞いたら、『もちろん』ってことで実現したんだ。マイク・パットンは、どうせ頼むなら大物から当たろうって思って彼のマネージャーに頼み込んでトラックを渡したら、メールが届いて『もう取りかかってるよ』って書いてあったんだよ。クールだよね。フィーチャーしたアーティストに関しては偶然にも助けられてラッキーなことが多かったよ。 DAN:ライヴで意識しているのは、やっぱりバンドの雰囲気やエネルギーをキープすることだね。プロダクションに縛られず、マッシヴなライヴにしたいんだ。楽曲として聴いてもらいたい気持ちもあるから、もし機材が壊れてもバンドとしてプレイできるようにしたいと思ってる。ライヴ感を大切にしたいんだよね。そういう意味では今の満足度は50%くらいで、これからもっと良くしていきたいと思ってる。とにかくエネルギー全開のライヴになっているかどうかにはいつもこだわっているよ。 DAN:少しかな。その段階ではそれほど強く意識はしてない。まずトラックを完成させてから、それをライヴでプレイする手段を見つけ出す。ただもともとバンドとしてやってきてるから、作曲においてライヴが影響してる部分はあると思う。作っている途中に『これはライヴで演奏できないからやめよう』ってなることはないね。それよりも『どうにかしてライヴでプレイしてやる』って感じだよ。 DAN:今のところはね。ただ今後のツアーでは、他にフィーチャーしたアーティストにも参加してもらいたいって思ってる。 DAN:最近ではルーツ・マヌーヴァが印象的だった。彼のパフォーマンスは飛び抜けてるよ。あとJay-Zも見たけど素晴らしかったね。ただそういった体験がアルバムに影響を与えたかどうかはわからない。 DAN:うわ、それ難しいな。でも前にロンドンで誰かが“ダンス・ロックス”って言ってたな(笑)実は前にも聞かれてなんて答えたらいいかわかんなかったんだ。 DAN:今後はとにかくライヴだね。UKとヨーロッパのスケジュールが固まりつつあるんだ。それと、リリースとライヴが落ち着いたらすぐにでも次の作品に取りかかりたい。もうたくさんのアイディアがあって、中にはすでに取りかかってるものもあるんだよ。セカンド・アルバムのコンセプトなんかも考え始めてる。