INTERVIEWS

Inner films

福富幸宏(以下 福富):そうですね、実はないんですよ。

Hideo Kobayashi(以下 小林):僕は福富さんとお会いするのも初めてなんですよね。 福富:これを機会に今後は一緒に何かしたいですね。いつにしますか(笑)。 熊野功雄(以下 熊野):Tokyo Black Starを一緒にやっているアレックス・フロム・トーキョーと一緒に考えたんですけど、あくまでフロアで機能するダンスミュージックだけを集めたかったので、それを基本に考えていたら、このメンバーになったっていう感じですね。

小林:本当に豪華ですよね。僕自身、聴いていて勉強になりますよ。

熊野:心配はしていなかったですけど、ただ単純にいまっぽいだけの作品にはならなくて良かったなと思いますね。ありがちなものじゃない作品ができたかなと。 熊野:そうなんですよ。作品的にも安っぽすぎず、それでいてキャッチーなものばかりなので、年代問わず聴いてもらえると嬉しいです。 福富:最初、熊野さんから映画の作品リストをいただいて、『ゴッドファーザー』は人気があるだろうなと思って他の作品を選んでいたんですけど、意外にも残っていたので。

小林:『ゴッドファーザー』は、作品的にも大好きで、思い入れがありすぎて僕は選べなかったんですよ。

熊野:『ゴッドファーザー』のテーマは、誰もが知っている名曲だし、それにいろいろと他にも手直しされているだけに難しいと思うんですよね。でも、それをこんなにも上品にできるのはすごいなと思いましたね。この曲を聴くと僕はなぜか安心するんですよ。

福富:個人的にはもう少し遊びというか、真正直過ぎたかなと思っているんですけどね。まあ、『ゴッドファーザー』だからしょうがないっていう部分もありましたけど。原型を残しつつ、曲自体はあまり壊さない方向、アレンジするような感覚で作りました。 福富:そこはあえてやってみたんですよ。この曲『ゴッドファーザー』なんだっていう驚きを出そうと思って。 小林:僕は、普通にクラブで使えるものを作ろうっていう前提があって、それを具現化できるものって感覚で選んでいたら、この曲が一番イメージが浮かんだんです。 小林:影響というよりも、ラブストーリーだからこそそこからかけ離れた感じ、わかりやすいダンスミュージックにしたいなっていう気持ちはありましたね。あとは、いわゆるテック・ハウスみたいな音なんだけど、他の方の曲と差別化したかったし、普段僕が作っている曲とも違うような作品にしてみようとは思ってました。

福富:小林さんの曲は、DJの立場からみると一番使いやすい感じですよね。個人的にもどの曲よりも早く最初にDJセットに組み込みそうな気がします。 熊野:けっこうライブでかけてますけど、やっぱりびっくりしますね。サビのフレーズになるとみんな驚くんですよ、それまではわからないみたいで(笑)。 熊野:単純に残っていたっていうのもあるんですけど、ちょうど2年前ぐらいにどちらも観ていて、好きな映画ではあったんですよね。特に『タクシー・ドライバー』は個人的にベスト5に入るぐらい好きだし、アレックスも大好きで、彼がいまNYに住んでいるし、これがいいよねと。 熊野:そうですね。主人公のトラヴィスの精神状態や、あのぼんやりとした世界観は意識しましたね。“ワルキューレの騎行”の方も、カーツ大佐が出るような感じをイメージして。

福富:Tokyo Black Star の“ワルキューレの騎行”は、このアルバムのなかでも象徴的な曲ですよね。一曲目としてもすごくあっていると思うし、決意表明というか、結果的に全体を表現するような1曲になっていると思いますね。 熊野:みんなそれぞれ個性が出てて面白いんですけど、モーリス・フルトンの『ジョーズ』は最初聴いたときにホントひっくりかえりそうになりましたね。びっくりして。

福富:彼はもうハマってるよね。『ジョーズ』にモーリスってキャラ的にも。

熊野:そうそう、絶対目を真っ赤にして作ってますよね(笑)。

小林:僕はアームの(『エクソシスト』)“Tubular Bells”がすごく好きですね。

熊野:あれは素晴らしい、ドイツって感じがするね。

福富:いま彼らがやっている音楽と、マイク・オールドフィールド(“Tubular Bells”の制作者)の世界観ってけっこうつながっていると思うんですよね。だから、マイク・オールドフィールドの音楽と思うとすごくはまりがいい。

熊野:今回、海外勢にお願いしているなかで、アームの楽曲を聴いて、ようやくなんとかなりそうだって思ったんですよ。最初プリンス・トーマスの『ロッキー』が来て、これはこれでディスコ・ダブな感じで、こうくるか〜って思ってて、その後にモーリス。もうどうしようって思ってたところにアームからこの曲が来て、ようやく安心できたというか、期待以上の仕上がりで嬉しかったですね。 熊野:そうですね。BRISA、Shigeru Tanabu、Keigo Tanakaと今回初めてお願いした方もいるんですけど、みなさんさすがでしたね。実力がある人ばかりで。Tokyo Black Starが一番ヤバいんじゃないかって危機感を感じながら作ってました。 小林:観てはいないですけど、もう何回も観てますから、内容はわかってるって感じですね。

福富:僕も観てないですね。

熊野:僕は、福富さんの『ゴッドファーザー』を聴いて、1、2、3と観ましたけどね(笑)。 福富:聴いたりもしましたけど、特に意識することもなかったですね。結局は、アイデアの選択肢として原型の設定をどこに置くかが重要で、みんな映画のイメージというか、オリジナルを使いながら、映画のイメージが違うかたちで表現できていないとこういったリミックス、カバーをする意味がないと思うんですよ。だから元曲のフレーズを使っていなくても、その曲とその映画から得たイメージでみんなやってると思うんです。そういう意味では、これぞ“インナー・フィルムズ”というか、映画から受けたインスピレーションとその象徴する楽曲がそれぞれのアーティストのキャラクターを経て返ってくる、素晴らしい企画だと思いますね。 福富:そうですね。最近はダンスミュージックの世界がカルチュアルじゃないというか、何か孤立してる感じがするんですよ。快楽的なところもあると思うんですけど、もうちょっと文化的なものと寄り添っても良いというか、美術作品や映画とか、みんなそういうものからの影響を確実に受けていると思うので、接点があってもいいかなと。それをわかりやすいかたちでアピールした方が良いと思うんですよ。そういう意味では今回の企画は確信をついているなと。

熊野:そういって貰えると嬉しいですね。 福富:イマジナルな感じですよね。いろいろと可能性が見えるかなと。

熊野:僕らは普段から楽曲を作るときには映像を浮かべてというか、そういうところからイメージしているんですよ。そういったことも少しでも伝わると面白いかなとも思いますね。 熊野:僕は『時計仕掛けのオレンジ』と『タクシー・ドライバー』ですね。どちらも美しい、まさに映像美、アートなんですよね。瞬間瞬間よろしくないものが映ることを許さない、それが何より素晴らしい。

小林:そうだね。許せる、許せないを判断するその審美眼は確かにスゴいよね。 熊野:そうですね。

小林:僕は『スター・ウォーズ』が好きで、ずっと観てましたね。最近いろいろとリマスタリングされて映像自体今っぽくなっちゃってますけど、僕は70年代のフィルムのときの感覚、あの修正が利かない、あのなんとも言えない世界観が好きなんですよ。色や質感とか全部。小さいころに観ていたものとは全然。味わいがあるというか、その辺はアナログ・レコードとデジタルの違いにも通じるものがあるような気がしますけど。 小林:そんなこともないんですけどね(笑)。デジタルが多いですけど、もちろんアナログは好きですね。

福富:ちょうど最初観たときのタイミングもあると思うんですけど、僕も『時計仕掛けのオレンジ』ですね。高校生のときに初めて観て。 福富:そうですね、パンクですよ。当時、僕も世をすねていたというか、パンク/ニューウェーブを好んで聴いていたので、ハマりが良かったんですよね。

小林:確かに観る時代によって捉え方はかなり変わりますよね。僕は『未知との遭遇』も好きなんですけど、あれは子供が観てもいまいちわからないですからね。ただ、いま観るとデザインが細部まで本当にカッコいいんですよ。

熊野:映画は、まだまだ良い作品がたくさんあるし、今回のテーマである70年代のものだけでも、泣く泣く削ったものがまだかなりありますからね。もちろん、それ以外の年代のものもあるし。今後も継続的に作っていきたいなとは思うんですけどね。

小林:それはぜひやりたいですね。サンプルしていいって言われたら、まだまだやりたい作品がたくさんありますからね。

福富:今度は全員で同じ曲とかも面白そうですね。

熊野:それは面白いけど……、大変そうですね。

福富:みんなで『ジョーズ』とか(笑)。

小林:それは過酷すぎますよ(笑)。みんながどんなのを作るのか、すごく気になるね。個人的には邦画もやってみたいですね。

福富:『ゴジラ』やってみたいですね。もうイメージも沸いてきたし。あの曲でミニマルな感じで(笑)。 熊野:またいろいろ考えて、面白い作品を作りたいですね。ただ、その前に今作も本当にフロア対応のいまのダンスミュージックが詰まったものができたと思うので、ぜひ聴いてみて下さい。