INTERVIEWS

KAITO

そうですね、今回のツアーはKAITO名義でのLIVEツアーでした。過去のツアーの中でもっとも期間も長く約1ヶ月間でしたからそれはもう嫌でも充実しますよ(笑)。2月の半ばからでしたのでヨーロッパはまだまだ真冬な感じで、最初に訪れたロシアでは滞在中は炎々と雪が降りしきり、飛行機が飛ぶのか心配になるほどでした。細かく話すと実に長いエピソード満載なんですけどね。ともかく、行く先々でとても強いオーディエンスからの反応と、エールをたくさんいただきました。心から感謝しています。 ケルン滞在中にはウィーンに行ったり、ケルンからデュッセルドルフへとライブをしに行ったりと、中盤で拠点にしておりました。ケルンを発つ前日の晩には、ケルンのシンボルでもある巨大な大聖堂の目の前にあるクラブで行われた「TOTAL CONFUSION」に出演したのですが、お客さんの熱気はそれはものすごいものがありましたよ。KOMPAKTの仲間とTOTAL CONFUSIONで演奏できたことは、何よりもこのKAITOというプロジェクトを長年続けて来たことにうれしく思いましたし、正直に感無量でした。 KAITOプロジェクトの過去のアルバム作品においても、必ずメインアルバムに対してのもう1つの側面を持つビートレスアルバムなのですが、正直に言ってしまえばこのビートレスシリーズというものの方がもしかしたら僕自身の素に近いものなのかも知れないです。よりシンプルに、より内面を表現するために必ずビートレスアルバムを制作しています。 単純にビートを抜いたわけではなく、さらにビートを省いたことで、残った楽曲的要素をアレンジし直しています。修正しないでよいものはそのままにし、ビートがなくなったことで必要のなくなった強弱や、音のカラーなど、さまざまな要素に変更を加えてでき上がっています。とくに今回の作品は過去の作品に比べ、さらにナチュラルな音を意識してミックスしています。 そうですね、あえて苦労という風にいうとすると、やはり原曲の中に埋もれているたくさんの溢れるパーツをいかにして残し、聴かせ、シンプルに主張できるかということを、ビートというある主の安堵の横の流れを省くことによりさらに丸裸になる音楽がそこにはあります。その音楽そのものをどう舞台の上でバランスを取るのかということが、このアルバム制作の醍醐味でもあり、神経を使うところでもありますね。元々このアイディアを始めたきっかけは、僕の中でビートというものの上に残る音楽そのものを、自分でも確認をするためでもあり、実はそれそのものを誰かに聴いてもらい感じてもらいたいという思いでもありましたからね。 アルバム制作においても1曲単位の制作でもいつもそうなんですけど、僕の場合は正直に言いますとでき上がってから言葉でどうだっかのか?何だっかのか?ということを探る手順なんです。なので楽曲を作っているときに、すでにタイトルがあるものはほとんどなく、アルバムに関してはとくにすべての楽曲ができ上がった状態で直感的に言葉を探し当てていき、そこにもともとあった音から「今回なぜこのアルバムができ上がったのかという意図」を、自分自身で辿っていくような作業なんです。漠然とした僕のイメージは、常に確かに頭にあるのですが、それは音楽というよりは「生きているということへの意味を深めたい」と思っていることなんだろうと思っています。人それぞれに人生はさまざまであり、その人生には深い意味や、やるべきことが大いにに詰まっているわけで……。生きている間はずっとそんなことを真剣に考えて、誰かのために力になれたらそんな幸せなことはないだろうと思うのです。結果「Trust」というタイトルがこうして付けられたということに僕自身語りかけられている気がしていますから。 大好きですよ。というかアンビエントミュージックの元でもあるニューエイジミュージックそのものに、僕はずっと感銘を受けてきましたから。 アンビエントという括りでは収まらないと思いますが、僕の中では"Boards Of Canada"ですかね。彼らの音には時代という風潮も関係のない音のマジックと表現力、そしてオリジナリティ、シンプルでありながら必要な要素だけを必要なだけ注ぎ込み、一度耳にしたメロディや空気感というものは脳裏に見事に焼き付けられます。音の中にあるバランスが、時代を飛び越えて一貫した見事なものがあるんですよね。何度彼らの作品を聴いても見事だなぁって思います。あとは"Flim"とか、もっとどっぷりニューエイジミュージックの世界に浸りたいときは、アメリカの"Hearts of Space"というレーベルからの作品を聴いています。アメリカ滞在中、というか僕自身がダンスミュージックと出会うまではこれらの音楽ばかりを探しているときもありましたよ。 とくにといわれますと実に悩ましいです。なぜならすべての楽曲に同一の想いとエネルギーを注いでいますから。言い換えれば「Trust Less」という1つの作品として僕は大変満足しておりますし、 こうして日本限定でCD化できたことに心からうれしく思っております。CDにのみ収録させていただきました、アルバムの最終トラックである「Reach for your mind(CD VERSION)」はその中でもとくに全身全霊で気持ちを注ぎました。ぜひ多くのみなさんに聴いていただきたいです。 実は初めて解斗の後ろ姿だけなんですけど、ビートレスアルバムにジャケットの内側として使いました。しかし、確かに今まで風景写真で一貫したイメージを作り上げてきました。それはやはりメインアルバムとはまるで違う、僕と解斗という親と子というイメージから、さらに僕自身の内側へと意識をシフトさせた作品であるからだと思っています。そのためにはより抽象的で言葉の要らない世界感である必要があったと思っています。 今回のジャケットの内側は、そういう意味ではイレギュラーな日本のみのCD発売ということへの僕の想いから成立した結果だと思っていますよ。もう10歳で小学5年生になりましたから! 時代時代によって、誰がどのようにしてその人それぞれの道を切り開くかというものは、まるで違いますが……。僕の場合は僕自身の中で想いを膨らませていた、シンセサイザーミュージックの世界感と丁度良いタイミングで世界で巻き起こった今の一連のダンスミュージックシーンの流れが、たまたま同じタイミングで合わさったということも大きいと思います。それ以外のことをあえて言わせてもらうとすると、結局は情熱の度合いというものは実に重要だと思います。それは決して苦労だけではなく、計り知れないほどの情熱とエネルギーをそのものへ注ぎ込むという力が必要なのだと、ただ思うのです。本物志向という言葉が僕はとても好きでして、ずっとその言葉をどうすれば形に出来るのかを試行錯誤してきているのだと思います。でき上がってくる1つ1つというものは、あくまでも自分自身のキャパシティというもの以上のものは出てこないのだろうと思っています。なので、日々の1つ1つがすべてであり、そのものであると思います。 今年も作品を作り続けたいと思います。"KLIK RECORDS"の新たなアルバムや"TREAD6"、まだほかにもいろいろと考えていますよ。