INTERVIEWS

World Sketch

アルバムのなかでもやっぱりシングル"Wonderful"の反響が大きかったですね。去年は多くのDJの方々にプレイしてもらいましたし、僕自身さまざまなクラブで聴く機会があって、すごくうれしかったですね。あとは、バラードの曲が良かったという声もいただいたり。 基本的には、さまざまなアーティストのリミックスを手掛けてましたね。倖田來未さんをはじめ、ポップ・フィールドで活躍する方との仕事も増えて。そういった仕事を通して、より多くの人にクラブミュージックに触れてもらえればと思ってました。 大きな変化としては、自分でもDJをやるようになったことですね。 友人に結婚式の二次会でDJをやってほしいと頼まれたんです。それまで僕はDJ経験がまったくといっていいほどなかったんですけど、一般的にハウスのクリエイターってDJもできると思われがちのようで。突然お願いされて断れず……でも、やってみたらおもしろくて一気にハマってしまって。 お客さんと一体になり、いかにみんなを楽しませるか、そこに醍醐味があると思いますね。DJを始めた当初は、誰もが知っているような人気曲ばかりかけていて、とにかく盛り上がればいいやって感覚だったんですけど、経験を積めば積むほど、DJってそんな単純なものじゃないんだってわかってきて。お客さんのなかには王道なものが好きな人もいれば、そうじゃない人もいるわけで、フロアをしっかりと見極めて選曲していかなくちゃいけない。いまなお常に勉強しながらプレイしてます。 それは大きいですね。現場の雰囲気、お客さんに直で触れるようになり、フロアでの感覚が色濃く反映されてます。それが前作からの一番の変化だと思いますね。そもそも今回は全曲4つ打ちで、現場を意識したものになってるし。DJをしていると、お客さんの反応って一目瞭然。クリエイターとしては、とにかくいい曲を作ればいいっていう感覚でしたけど、それだけじゃダメなんだって思ったんです。DJ的な感覚で考えるならば、いい曲であるのは前提で、流れのなかでの機能性を考えなくてはならない。これまでアルバム全体の構成などは考えてはましたけど、DJする際の機能性という部分では改めて考えさせられるところはありましたね。 当然その感覚はありました。極端に言ってしまえば、全曲その意識が強い、単純に僕がDJで使いたい曲ばかりです。それは今までは確実になかった感覚ですね。今回は4つ打ちのなかでバラエティを作って、DJプレイの冒頭にかけたい曲、ピークでかけたい曲など、それぞれ特徴を打ち出してます。いうなれば、今回の曲順も自分のDJセットのような流れを汲んでいますね。 自分のDJでも、展開、ストーリー性は大事にしているので、それが自然に出ているんだと思いますね。僕自身、キレイにまとまるのが嫌なんです。プログレやテック、エレクトロとか1つに偏るのも好きじゃないし。バラエティがありながら、それをいかにセンスよくまとめて自分のものにするか、それが根本にあるので。 そんなつもりではなかったんですけどね。特別変化しようと思っていたわけでもないし。ただ、結果的に現場に出るようになって変わってしまったって感じです。 基本的にはテックもプログレも何でもかけているんですけど、最近は"Defected"のような王道ハウスが好きになってきていますね。自分の曲を引き立たせるには、その回りの曲が癖がない方がいいんです(笑) まずは自分の楽曲があるというのがひとつ。やっぱりそれは大きいと思います。あとはピアノですね。プレイしながらピアノを弾くこと。 自分の曲はもちろんですけど、他の楽曲もアドリブで弾いてます。ある意味、ライヴに近いですね。そもそも僕はピアノを習った経験がなく、全部自己流。楽曲を聴きながら弾くことで学んでいったというか。だから、譜面を見ながらピアノを弾くのは苦手で、アドリブ、即興で弾くのが得意なんですよ。ヘッドホンでキーを合わせているときに聴くことである程度の曲は弾けますね。DJ+ピアノというスタイルは、ほかにいないと思うんでお客さんにも楽しんでもらえると思います。ただ、DJをやりながらなんで、1曲全部は弾けないですけど(笑)。要所要所、ブレイクとかでアカペラが乗るようなそんな感覚で弾いてます。 そうですね。ただ、楽曲面でのメロディに関しては適当といったら失礼ですけど、僕のなかでは鍵盤を弾きながら自然に生まれてくるものなんですよ。作ろうと意識して作るというより、鍵盤に向かって自由に演奏しているうちにできてくるものって感覚なんです。だから、これといったモチーフがあるわけでもなく、どちらかといえばトラックの方にそれはあるかもしれないですね。最終的には、壮大さ、昂揚感という部分をすごく意識していて、World Sketch=広がりや大きなイメージが出せればと思ってます。そして、僕の原点はあくまでハウスなんですけど、R&Bもかじっているし、過去にはロックバンドをやっていた時期もあったり。いろいろなジャンルの音楽に触れてきているんです。音楽って、どのジャンルもそれぞれよい部分があって、自分は音楽のそういったところに惹かれてきたし、その感覚は大事にしたい、活かしていきたいと思うんですよね。最終的には自分にしかできない音楽、オリジナルを作っていければいいなって。たくさんの音楽が溢れているなかで、そこからそれぞれのエッセンスを抽出して、自分らしいものが作りたいんです。 前作「Wonderful」のあとに、「We Are The World」のカバー(今作にも収録)をやらせていただいたんです。この曲はクラブでかけても盛り上がるし、ものすごく自分でも気に入っていて、アルバムもじつはその延長線上にあるんですよ。「We Are The World」を手掛けたことで、この曲と同じように、愛や世界平和をテーマにして作りたいなって思っていて。そんな思いのなかできたのがシングル「Ready To Love」なんです。 とある企画でマイケル・ジャクソンのカバーを作ることになったんです。COLDFEETさんが先頭に立って進めていたんですけど、カバーの許諾が採れた候補曲のなかでこの曲だけ空いていて。それで、「やらせてください!」ってお願いしたんです。もともと大好きな曲だったので。ただ、お願いしたはいいけど、世界的な名曲だけにプレッシャーはありましたね。なにより原曲が素晴らしいし。リミックスをすることでオリジナルのよさを壊してしまうことって多々あると思うんですけど、そうならないようにあくまでメロディは忠実に、そこにハウスの昂揚感、心地よさをいかに加えるか、それだけを考えましたね。 「I'm So High feat. Sky Hy」は、トラックありきで作った曲なんですけど、ある程度できたときにラップをのせたいなって思ってKING STREET SOUNDSのヒサさんに相談したところ、ラップができてなおかつ歌えるスカイ・ハイを紹介していただいて。トラック自体、これまでの僕にはなかった感じだったんですけど、彼にお願いしたことでより新しさが出ましたね。パーティーチューンという部分を意識して作って、いまは自分のセットのなかでもキラートラックとして重宝してます。 じつは、彼らは前作の制作時にオファーしていて、そのときはアルバムからは外れた楽曲なんですよ。外れたといっても決してクオリティが低かったわけじゃなく、2人の楽曲はどちらかというとトラックメインだったんです。前作は僕自身ファーストアルバムということもあって、「歌」というコンセプトを決めていたので、それとはちょっと違っていたので泣く泣く外して。でも、今作に限って言えばコンセプトとも合致するし、今回もう一度リメイクする感覚で多少手を加えて、新しい形で収録しました。 「Wonderful」以降、彼とは信頼関係ができあがってますからね。一緒に仕事をしていても楽しいし、なにより声がすばらしいし。いつも早く日本に来てくれないかと願ってます(笑)。今回は「Never Letting Go」、そして「We Are the World」のボーカルワークも彼にお願いしていて、どちらも想像以上のものができましたね。彼のボーカルって特徴的ですけど、僕との相性もいいと思うんですよね。僕自身、楽曲はハウスなんですけどロック感を大事にしているというか、それを出したい。彼の声ってそんな絶妙なロック感があって、そこに魅力を感じてます。いつか彼と一緒にアルバムを作ってみたいですね。 基本的には僕のやりたいことが先行していて、それに見合ったシンガーを探すっていう感じが多いですね。ただ、ジョナサンは別。彼の場合は一緒にやるならどういう曲がいいのか、彼ありきで考えている部分があるのでイメージとしてはピアノ・ロック。彼の声ってミッドが突き抜ける感じなので、ピアノもそれに負けないようミッドを強調して鬩ぎあうような。お互い負けられない戦いをいつもしています(笑)。 自分のDJでも「Wonderful」は常にかけているんですけど、リリースしてもう2年も経っているし、新しいものがあっていいかなと思って。原曲を保ちつつも強化した、自分のDJプレイ用に作った曲なんです。いってみれば、この曲はDJを始めたことで変化した部分、DJからのフィードバックが顕著にわかる曲かもしれないですね。 僕自身、最終的にはサウンドプロデューサーとして成功することが目標なんですけど、World Sketchの活動はその過程のひとつ、ステップアップするためのものですね。とはいえ、一過性のものではなく継続的にやっていこうと思ってます。僕のなかには自分の音を主張したい気持ちが常にあって、でも単純にプロデューサーとなると主張し過ぎてもいけない。サウンドにキャラクターを持たせる、スタイルを確立することは必要ですけど、自分の主張だけじゃいけないと思うんです。そういう意味ではWorld Sketchは、ある意味自分の好きなことができるもの。今回取り入れているDJ的感覚もそうですし、いま好きなこと、作りたいもの、いまの自分を表現するものなのかもしれないですね。 4つ打ちというところは、このまま進めていきたいですね。そのなかでいろいろやっていきたい。R&Bの要素なども取り入れたいんですけど、それらはプロデュースワークのなかでできればいいかなとも思っていて、ある程度World Sketchとしては4つ打ちに特化していくつもりです。いまは、DJもプロデュースワークもどちらも楽しいし、両方進めていきたいですね。僕のなかでその2つは通じていて、相乗効果で伸びていけると思うんですよ。だからこのままのスタイルでやっていければと思ってます。