INTERVIEWS

ANTAL

はじまりはレコードショップだった。友人と始めたレコードショップにアーティストたちからたくさんデモが持ち込まれるようになって、それをリリースするのにレーベルを作ろうということになったんだ。今やレーベルを代表するアーティスト、Aadvargも、その昔レコード屋にお客としてきていたひとり。彼から手渡されたミックステープを聞いて「これはいい!」と思ったのがはじまり。それからリリースへ向けて一歩ずつ動き出した。こんな風に僕らはこの10年くらい、自分たちにできることを一歩ずつ着実にやってきただけなんだ。 Rush Hourはエレクトロニックダンスミュージックのレーベルとしてスタートして「どうやって良質なダンスミュージックを世に出し続けるか」をいつも考えてきた。今ではクラブ仕様のものだけでなく、ジャズやチルアウトなど、家で聞けるような音楽も取り扱うようになって、結果的にかなり幅広いジャンルの音を取り扱っている。
リリースの輸出入の他に、あるレーベルと独占契約してディストリビューションもやっているから、音楽を総合的に捉えてビジネスをしていることになる。
ヒップホップからテクノまでのダンスミュージックだけでなく、ジャズなんかも出している、要は僕らの心の琴線に触れた音楽を、ジャンルを超えて提供している、というわけさ。でも元々はシカゴハウスやデトロイトテクノ指向でそれがルーツ。 レーベル、レコードショップ、ディストリビューション、メールオーダー、イベントにパーティ、ブッキング…と合わせて10人あまりでやっている。 Kindred Spiritsというレーベルがあるけど、Rush Hourのサブレーベルというよりも姉妹レーベルといった感じ。どちらが大きくて…という関係ではなくて。ジャズなどよりオーガニックなものをリリースしている。Rush Hour自体にはサブレーベルはなくて、Kindred Spiritsにはたくさんある。 信じられないと思うけど、 Iron MaidenやBlack Sabbathなどのヘヴィメタルや60'Sの音楽を聴いていたんだ。Doors、Jimi Hendrix、Rolling StonesにDuran Duran… 昔、アムステルダム郊外に住んでいたんだけれど、クラブで働いていた兄の影響が大きかった。兄はハウスをプレイするDJでもあったし、クラブの照明もやっていて、国外からのアーティストが来るとよく僕にも紹介してくれたね。たとえばDerrick Mayの「The Dance & Nude Photo」だったり、よくレコードもくれたから繰り返し聴いていた。近所にあったROXIやIT'S、Waakzaamheidといったクラブへ通うようになって、そこで体験したこともとても大きかった。そのうちに兄の持つレコードを使って僕もDJを始めて、自分もWaakzaamheidでプレイスするようになったんだ。
ロンドンへも行った。アムステルダムよりもずっとたくさんのレコードがあって、夢中になって通ったね。そして21、22歳の頃だったかな、今のパートナー、セバスチアンと出会って2人でレコードショップを始めたんだ。ロンドンやドイツ、アメリカから輸入してアムステルダムで販売し始めたんだ。 Terrence Dixonの「Rush Hour」というトラック、もしくはDJ Rush…とにかく、僕らは90~95年あたりのシカゴの音が本当に好きなんだ。 全てが関わり合って成り立っているから「これ」と言い切るのが難しいな。あえていうならば、僕らの音楽への情熱だよ。例えばレコードショップへ来たDJがプレイした音楽がとてもよかったから、そうだ彼のリリースをインポートしようとなって、そんなふうに、とても自然な形で育ってきたんだ。 おかげさまで、こんな時勢にも関わらず僕らのレコードショップの売り上げは少しずつ伸びている。メールオーダー、オンラインショップを含めるとね。それは、流行の売れ筋のものばかりを追いかけるのではなく、自分たちの感性で「これはいい」と思ったいいものを提供し続けたからだと思っている。ただ、ビジネスとしてやっていけるよう、いつも意識し続けている。好きなものばかりを追って採算を合わせることをおろそかにするのは、僕はよくないと思うんだ。そのバランスをいつも大事にしている。  僕の音楽の趣味はとても幅広いと思う。良い趣味のものも、中には趣味の悪いものもあると思うけれど、なぜかすべてつながりがあるんだ。限られた時間の中でたくさんの音をチェックするときには、音楽をカテゴライズをする必要がある。その音楽がどんなバックグラウンドを持っていて、どこで作られたどんな音楽なのかを知るためにね。でも音楽を聴くのに時間が取れるときは、カテゴライズがなくとも曲とアーティストがお互いに影響を与え合っているのを聴き取ることができる。その曲がどのように生まれてそのアーティストにとってどんな意味を持っているのか。例えば世界中を旅するアーティストが作る楽曲には、旅先で受けたインスピレーションや行く先々のカルチャーとの融合を垣間見ることができる。
レーベルやブランディングというのは、多くの人に認知してもらったり販売経路の確保やプロモーションために存在している。でも僕個人としては、レーベルは音楽をカテゴライズするのに役立てている。Aというレーベルはこういう音の傾向がある…など、聴く前の予測をある程度立てるために。でも最終的に僕はどんな国の音楽も聴くし、どんな国の音のエッセンスも自分の作る音楽に取り入れていきたいと思っている。そうやっていい音楽というのは作られていくんじゃないかなと思っているから…。

そう考えてみると、僕の興味は旅に集約されるのかもしれない。食べ物と音楽。旅するときにはいつも、その土地の持つエッセンスを見つけるようにしているんだ。ただ、アメリカやイギリスから遠く離れた国でもアメリカナイズされたもの、イギリスナイズされたものをたくさん見るから、その影響力の強さには驚かされているよ。
国で例えると、ブラジル、トルコ、ドイツ、ベルギー、イタリア、フランス、コロンビアなんかの音楽は特に新しい発見も多いから、気になるものが多いよね。

ほとんどはソウルフルな音楽を探している。エレクトロニックなものとオーガニックなサウンド両方で、新しいものも昔のものも。僕自身はロックから入ってハウスミュージックを聞くようになった。そしてハウスミュージックを通じて、ディスコやソウル、ファンク、ジャズ、ラテン、ポップス、ニューウェイブ、アフリカン、ブラジリアン、キューバンミュージックと出会った。最近だとアフリカやスリナム、ブラジル、ドイツ、フランス、トルコ、コロンビアやベルギーの音楽をよく聴いているよ。正直な話、お気に入りのアーティストは…名前を挙げることはできないよ。だって本当にたくさんいるから…。 シーンはとても活気があるよ。新しいものがどんどん生まれているし、パーティもクラブもたくさんある。Tom TragoやSan Properを筆頭とした素晴らしいアーティストも多い。
1番いいのは、アーティストが自分のジャンルを越えたアーティストたちと出会ってコラボレートすることが多いところ。 1番好きなアーティストという意味では坂本龍一。もう長いこと彼のファンだよ。「戦場のメリークリスマス」のサウンドトラックもとてもいい。20歳くらいの頃、日本の映画に興味があって日本に行きたいと思っていた時期があったんだけれどもかなわなくって。日本食も好き。北野武の映画を通じてJoe Hisaishiの音楽を知ったし、僕は日本のノスタルジアが好きなんだ。

だからもう15年くらい前から日本のアーティストのことは注目している。Ken IshiにKyoto Jazz Massive、Monday Michiru, Hajime Yoshizawa, DJ Muro…。Mitsu The BeatsやGrooveman Spot、Haruki Matsuo、Super Smokey Soul、Cro-Magnon、Sleepwalker、Kez YM、Rondenion…。レーベルでいうとJazzy SportやCirculations、EM recordsに…。とにかく良いものが多いと思う。

これまでも、これからも、僕らはRush Hourとして日本の音楽を支持し続けるよ!
今回このインタビューを受けて、日本をテーマにしたミックスを作ろうと思い立ったので、よかったら聞いてみて。
http://soundcloud.com/antalrushhour/japanese-electronics-mix-by コンピレーションがちょうど日本でも発売されたところなんだ。ぜひ聴いてみてほしい。
V/A - SURINAM! boogie & disco funk compiled by Antal Heitlager.
released via Kindred Spirits / BBQ Japan...