INTERVIEWS

Open Reel Ensemble

和田:元々オープンリールってフィジカルな機材なんですよね。手で触ることによって音が再生される。僕らとしては、電子楽器と生楽器の中間みたいに捉えてます。それを皆でアンサンブルしていき、カッチリ合った時の気持ちよさを楽しみたいというのがまずあって。 和田:メンバーそれぞれ、聴いてる音楽もバラバラだし。エクスペリメンタルなんですけど、同時にダンスミュージックの要素や歌を入れてみたり、というのを皆で集まっていろいろ試していきながら実験している感じですね。 和田:そうしたら皆ヤバいヤバい言い出して(笑)。 (一同笑)

佐藤:よく訊かれますね。困りますね。そういう時にいつも言ってるのは「カセットテープのお化けみたいな奴で……」。

和田:僕もそう言ってる(笑)。

佐藤:それを楽器として使ってアンサンブルしてるんだよ、って。

難波:「カセットの中身が飛び出してるやつがあって……」。

佐藤:「その場で録音できるDJみたいな……」(笑)

和田:すごい困るよね。

佐藤:最近は「踊れる実験音楽」って言ってますけどね。

一同:おぉ、それいいね。

佐藤:やっぱり僕は基本が「踊りたがり」というか。学校で1人で黙々と制作していると鬱々とするんですよ。

和田:それ本音じゃん!(笑)

佐藤:そういう時に何が捌け口かっていうと、僕の場合は、音を聴いて踊ったりだったんですね。だから最初の話に戻ると、僕がオープンリールを初めた時も「楽器」っていう解釈だったので。オープンリールでアンビエントとかやってる人もいますけど、楽器であるからには、いじって踊れて体動かした方がおもしろいんじゃん? という単純なところから、グルーヴミュージックに近づいていったところはありますよね。

和田:(オープンリールは)打楽器的なんですよね、どの楽器に近いかっていうと。「手で廻すと音が出る」という。ベーシストがいるのも不思議がられることもあるんですけど、それも自然に「ベースがあったらいいよね」という流れでした。

佐藤:1人で電子音楽やるんじゃなくて、アンサンブルってところが重要かな、と思います。僕らはあえてアンサンブルという形で大勢の人間で合わせることで、音が合わさった時の高揚感、あるいは皆で同じ場所を共有することによる高揚感も味わえる。そういう点が、同じオープンリールを使っているアーティストでも、実験音楽/ミュジークコンクレート的な人たちとは出発点から違うところかな、という風には捉えてます。

和田:オープンリールアンサンブルって「ガムランアンサンブル」と掛けていたりするんですよ。ガムランの、大勢でやってる高揚感が好きで。

難波:最初に始めた時も、リズムというのは初期段階から存在していて。カッチリしたリズムトラックというわけではないですけどね。ガムランって言ってるようにいろんな民族楽器を録音して、それをビートに重ねたところが起源なんです。

和田:起源はリズムが重要だったよね。オープンリールのスイッチを改造して……。

難波:手動でできる以上の速さでコンピューター制御できるように、スイッチを改造するんです。

和田:そうするとスイッチと連動してるランプもまたすごいスピードで点滅するんで(笑)、それによってもリズム的な時間の流れができたりして。またスイッチの繰り返しによっても、リズムが生まれたりとか。

吉田悠:オープンリールを録音機材ではなく、楽器だと思って始めてしまってるがゆえに、「奏法」という発想が強いんですよね。あのハードウェアの物理的な形から奏法を考えて、それをいかにリズムに結びつけるか、という。ある相手に呼応する形で自分も合わせるために、自分のやりたいタイミングで目的の音を出すというアンサンブル、セッションの発想なんです。 和田:そうですね。僕らのライブを観てくれた人が、まさにエディットという文化を教えてくれたりしたんですけど。あまりそういうことは知らずに、中を開けて配線を切ってみたりとかして。だから本当に最初は再生機としての、ハードウェアとしてのおもしろさというところにまずいって、というところですよね。 和田:あるにはありますね。

吉田悠:実際、テープを切ったりもしてるし。

難波:オープンリールでテープを挟んで走行させる機構をピンチローラーっていうんですけど、ドラムのスネアの音をピンチローラーで少しだけ送り出すんですよ。そうして出したスネアの音を録音して、普通にインターフェースで録ったキックの音と並べて使う、みたいなことはやってます。ある意味テープエディットですよね。

和田:でもやっぱり僕らの場合、普通に再生するよりも、音をゆがめたりとか、変な使い方をして出てくる音色の方に興味があります。音に物理的に介入していくというか。 和田:テープが物理的に震えるアタッチメントみたいなのが付いてるんですよ。それで実際にテープを揺らして音を震わせるという。物理現象として音が変わっていく、というのがおもしろいところですね。 和田:そうですね。

佐藤:というか、まだまだ全然追求しきれてないですよ。ようやくスタートラインというか、入り口を開けたところに過ぎないという感じです。

難波:演奏してても、昔はライブ中にテープが絡まっちゃって演奏にならないとか、力加減がわからないとか……。

佐藤:今は慣れてきたというか、激しくやりつつでも、これぐらいならやっても大丈夫という力加減が……。

和田:最悪テープが切れても焦らずに、こっちに巻きつけて何秒か巻き戻してそこでやるとか、ちょっとこう、順応性が出てきました。だんだんうまくなるっていうのがまた、おもしろいところだなと(笑)

吉田悠:着実にうまくなってる(笑)

和田:録音をきれいに、という発想じゃなくて、オープンリールでいかにうまく演奏できるか、という。さっき佐藤君が言ってたように、アルバムとして取り組むことでまた見えてきた部分もあって。同時進行でそれが開拓されてる感じなんです。

佐藤:スクラッチDJがだんだん針飛びしなくなってくるように、激しく動きつつも手先は冷静にできるような技術も会得しつつ……今回のアルバムを作る際にも、リールを通して編集するのと、PCで編集するのと2つを同時に行き来していろんなことができるっていうのと、また「こんなこともできるんじゃないか」っていうアイディアもすごく生まれてきて。ライブで見せるフィジカルな部分と、音源で聴かせる部分はまだまだこれから探究できるな、と感じてます。 和田:そうですね。技術アップもそうだし、引き出しが増えて……しかも一寸先が闇ですからね(笑)。そこを開拓していく感じですね。

難波:誰かが答えを持ってるわけじゃないっていう。 難波:そうなんですけど、ただ、やってみないとわからないです。

和田:なんでもそうだと思いますけどね。

難波:やってみてイメージと合ってたら使いますし、うまい具合に落とし込めそうだったら詰めていくという感じですね。スネアのサステインを変えてみよう、とか。

佐藤:最初にオープンリールで音を出してるうちに、いろんな風景が見えてくるんですね。これってこんな感じの風景で鳴ってる音、みたいな。その風景が見えてきたら、そこからオープンリールなりドラムなりの音を足していく感じですね。その風景が見えてこないことには進まない、というのはありますね。そのイメージと一緒に進んでいく感じ、というか。

和田:僕もそうだな。 吉田匡:曲作りの時点から参加はしてるんですけど、まあベースは、やってることは普通なんで(笑)。

難波:でも今回のアルバムの7曲目("Exchange")は、ベーシストが「どうしても入れる」って言って入れたんですよ。 吉田匡:テープを掛け替える音(=Exchange)だけの曲なんですけど、1曲ごとにジャンルがばらばらだったり、いろんなところから曲を集めてきたようなアルバムの中で、ちょっと一歩引いて見たという。

和田:入れ子構造なんだよね。

難波:CDを聴いていたはずなのに、オープンリールのテープを架け替えてるという。

匡:現実と空想が交差するシーンがアルバムの真ん中にあったらいいな、という意味で入れたかったんですけど。ひょっとしたらCDを聴いてたんじゃないかもしれない、みたいな錯覚に……CDなんだけど原盤があるのか、みたいな。

難波:原盤が二重に存在していた、みたいな。

匡:そういう振り幅の空想、みたいなトラックなんです(笑)

和田:でも、すごい重要な曲だよね。

吉田匡:あれが何の音なのかわからない人もいると思うんですよね。音だけで、何をしてるのか見えないっていうのがまた、いろいろ膨らむのかな、と。

難波:(インタビュアーに対して)何の音だかわかりました? 一同:あー、なるほど。

難波:あれ、マイク3本ぐらい立てて無駄にステレオ感を出した、現代的なレコーディングなんですよ(笑)

吉田悠:あの曲だけがすごい今風な音で(笑)。あの音だけテープ通してないですから。

難波:あの音がCDに入る意味って大きくて。僕らが俯瞰してメディアをとらえてるっていう意味にもつながってますね。 和田:そうそう(笑)

難波:だから今回のCDジャケットって、盤面とケースが一体になったようなデザインなんですよ。グッズ、物質としてのCDの存在感とジャケットが一体になってるんです。これもCDっていうメディアを俯瞰してる感が……「かつてCDというメディアがありました」という標本みたいな。

和田:「21世紀初頭のメディア史」みたいなコーナーに陳列されて(笑)。今回のアルバム、紙のブックレットは一切ついてないんですけど、実はWEB上にデジタルライナーノーツがあるんです。

難波:CDに書いてあるアドレスにアクセスしてもらうとそこに説明書みたいなのが出てきて、CDとDVDを架け替えることによって暗号が解けるようになってます。面倒くさいんですけど(笑)、僕らが日頃味わっている面倒くささを追体験してもらうということで。 佐藤:みんな現実にうんざりしてるんですよ。

和田:現実逃避のアルバム(笑)。かなり空想ですからね。

難波:僕らの活動自体がある意味、現実にやってるんだけど僕らの中の空想みたいな。

和田:現実逃避しつつ、現実を空想に巻き込んでいきたいですね。

吉田悠:今回のアルバムでは(ソニー創業者の)井深大さんの声とか、19世紀のオーストリアの皇帝であるフランツヨーゼフⅠ世の声とか、ずいぶん昔の録音物からヴォイスサンプルを拝借してるんですけど、ああいうのを僕らが使っちゃうっていう行為自体が、空想の歴史軸に現実を引っ張り込んでるみたいな。1900年にヨーゼフⅠ世が録った現存最古の録音物から、オープンリールアンサンブルがこの音楽を作るまでの脈々とした歴史というものを、僕らが勝手に繋げちゃってるという。それも全部思い込みですけど(笑)

難波:昔の機械だったりとか、はるか昔の人の声だったりとか、全部僕らの中では同じ扱いというか。

吉田悠:録音された時点で平等なんですよ。

難波:ゲストミュージシャンの高橋幸宏さんたちはもちろん今活躍されてる方ですけど、僕らの中では皇帝ヨーゼフと同じ立ち位置です。ひとつの素材としては。

和田:素材を組み合わせて勝手なストーリーを自分たちの中で組み立ててるような。

難波:過去とか未来がグチャグチャになってて。

佐藤:歴史ごとテープエディットしているような。

和田:僕らの活動が2009年にスタートしているんですけど、オープンリールテープの生産は2008年に全てストップしているんですよ。そこで時間軸が歪んで、そこから始まったパラレルワールドみたいな感覚もありますね。 難波:日本より全然イイです。

和田:海外でやってる方が気持ちいいよね。食いつき度が違う。

吉田匡:ふむふむ、って感じで見ないですよね。

和田:見ないし、その場でいいかどうかを体で表現する姿勢が違いますね。

吉田匡:終わった後の反応でわかりやすいのが、日本だと舞台に近寄ってきて、まずiPhoneで写真撮るんですよ(笑)。写真撮って「あれってどうやって操作してるんですか?」みたいに聞いてくるんですけど、海外では、スキンヘッドのおっちゃんが近づいてきて「よくわかんなかったけど最高だったぜ!」とか言ってくる(笑) 難波:テンションは上がりますね。

吉田匡:一体感、ライブ感みたいな。 佐藤:お声がかかれば。

難波:あと機材が壊れなければ。秋にはまたヨーロッパツアー行くんですけどね。

佐藤:海外もですけど、国内でも行ったことのない場所がたくさんあるんで、いろいろ行ってみたいですね。観てもらってナンボのグループだと思うんで。全国でいろんなお客さんに観てもらって、ご当地のおいしいもの食べて(笑)

和田:ライブにぜひ、ってことは改めて言っておきたいです。 和田:生の空気感と……。

吉田悠:実際に生で、オープンリールを巻き戻しながらやってます、みたいな(笑)

佐藤:やっぱミスも起こるので(笑)

吉田悠:ミスは見ものですよ、本当に(笑)

難波:ミスというか、本当にもう、後ろで制御してるパソコンが落ちたりするんですよ。無理矢理制御してるから。そういう制御不可能なシーンが……。

吉田匡:テープがありえない速さで早送りしたまま止まらない、とか。

吉田悠:オープンリールの制約をいかに無理して拡張して、それが追いつかずに格闘している様を、4人が並んでる背中を見ながら楽しんでいただきたいですね(笑)

和田:テクノロジーと人間の攻防でもあるからね(笑)

吉田悠:マシーンの方が主人公なんです。メンバーは誰でもいいんです(笑)

佐藤:後は、テープの揺らぎだったりとかを爆音で聴いてほしいですね。目と耳の両方で楽しんでほしいです。

和田:手で鼓膜を揺らしてるみたいなね(笑)

佐藤:本当、ダイレクトで伝わってくるんで。

吉田悠:新体験だと思いますよ。

和田:しかも、オープンリール自体がいつ動かなくなって、市場からも消えてしまうかわからないという。今しかできない、今しか観れない。今観ておかないと(笑)

吉田悠:詐欺みたいになったりして(笑)。「まだいたの?」みたいな。

難波:でも本当に、関東に震災でも来たら……。

和田:壊れちゃうね(笑)