INTERVIEWS

Juno Reactor/ Ben Watkins

- 本作のタイトル「The Golden Sun Of The Great East」は、直訳すると「The Great East = 東日本大震災」を指す意味合いがあるようですが、今回このタイトルを付けたコンセプトを教えて下さい。

私たちはこれまで深く考えもせずに、天然資源を消費し、環境破壊を行ってきました。そして多くの人々が物質主義に否定的に疑問を持ち始める中、「The Golden Sun Of The Great East」というタイトルは、世界を輝かせる天然資源を象徴するタイトルとして名付けています。

「The Golden Sun Of The Great East」は、1959年に中国のチベット侵攻時に逃れて西洋に来たチベット仏教の僧侶と教師によって明らかにされた「TERMA」というテキストの事を指しており「TERMA」とは隠された宝物を意味し、密教の教典として伝えられてきました。そこには岩、空、湖などが、将来のある時点で宝物を明らかにする時が来ると伝えられています。
この物語はシャンバラ王国の話であり「我々は、私欲にとらわれない愛と思いやりを生成したとき、私たちの惑星を助ける為の途方も無い力を発揮するであろう」と綴られています。
 
- 本作のアルバムのアートワークは、往年のファンには馴染み深い、Simon Watkinsを久々に起用されていますが、放射能を防護しているような事を匂わせています。本作のタイトルや、コンセプトを伝えた事で出来上がった作品なのですか?

Simonは僕の実兄なのですが、彼は常に僕の頭の中にあるイメージを作品として創り上げてくれます。今回も瞬時に僕のイメージを察知してくれました。そして、このデザインをとても気に入っています。この作品では「あなた自身、そしてあなたが愛するものを守るため、怯える事無く現状を受け入れ、前に進んで行きなさい!」というメッセージが込められています。
 
- 2曲目のInvisibleとは「目に見えない」という意味のタイトルです。ここでは「放射能=目に見えない」という解釈でメッセージを捉える事も出来ると思うのですが…

もちろん、そういう意味合いも含んでいます。福島の震災以降、日本の友人たち達が直面しているこの事は、常に頭の片隅に置いています。でも、この曲の最初のインスピレーションはインドのムンバイを訪れた時のものなんです。ホテルで曲を書き、シタールやパーカッションを現地で録音しました。ヴォーカルのパートは、レコーディング・スタジオに向かうタクシーの道中を偶然相乗りしたシンガーが歌ってくれているのですが、歌詞のパンジャビ語は「失われた愛」をテーマに詠われており、この歌に"Invisible"というタイトルが付いていた事も、歌詞の内容も知らずに彼の歌声に惹かれるがまま、タクシーの後部座席で録音をしました。極度の貧困があるにも関わらず、活気に溢れる素晴らしい街、ムンバイは私のお気に入りの都市の一つになりました。
 
- 本作は全編を通してインド音楽の影響を色濃く受けているように感じますが、1曲目のFinal Frontierの指す、あなたが解釈するFrontierとは、インドのことなのでしょうか?それとも、別の特定の場所をイメージしてのタイトルなのですか?

Final Frontierは映画『ブレードランナー』へのオマージュとして作りました。しかし、ここで思い描いた都市はムンバイです。この都市にもブレードランナー的な近未来都市と、スラムのような旧市街が混在しており、共存-既存のSF感が感じられます。そしてFinal Frontierとは「希望」を意味しています。
 
- そのFinal Frontierは、この夏に始まる TOYOTA の『FACTORY TUNE 86』キャンペーン楽曲として起用されるようですね。これまでも、映画『フェリスはある朝突然に』の劇中でのフェラーリ爆走シーンや、映画『マトリックス・リローデッド』でのハイウェイでのチェイスシーン等「車と映像とJuno Reactor」と言う組み合わせの威力は実証済ですが、今回もJuno Reactorならではの、疾走感溢れる作品となっているのですか?

スペシャルで格好良いシャープな映像を、ものすごく気に入っています。まずは是非映像を体験してみてほしい。公開時期が解り次第、Juno Reactorの関連サイトでも情報をアップするので是非FACTORY TUNE 86の特設サイトに訪れてみてほしい。今回この「FACTORY TUNE86」用に起用されたFinal Frontierは特別ヴァージョンとして新たに編集を施したものです。なのでオリジナルとは違ったテイストに仕上がっています。86のようなスポーツカーを所有するのはとても魅力的で、この依頼を受けてから、86が欲しくなってしまいました。

  - また、この楽曲Final Frontier他、SUGIZO参加楽曲がありますが、彼とのアルバムレコーディングや、制作過程でのエピソードなどありましたら教えて下さい

SUGIZOにはブライトンにある僕のスタジオに来てもらいました。日本での楽器をいくらでもチョイスできるような居心地の良い制作現場から離れ、敢えて苦行とも言えるような環境という制約下でのレコーディングでした。ギターも普段彼が愛用しているものではなく、普通のアコースティックギター、トルコのサズという撥弦楽器、ドブロギターを渡して弾いてもらっています。さすが、偉大なギタリストです。僕のこのような無理な要望にもミュージシャンとしてきちんと応えてくれる。SUGIZOと一緒にアルバム制作をするのはとても楽しいし、もっとこうした時間を多くとりたいのだけれど、多忙な彼にそうした時間を作ってもらうのは容易な事ではないのですが…。
また、音楽面以外での彼の行動を非常にリスペクトしており、ミュージシャンという以前に、人間として尊敬しています。東日本大震災の直後、アーティストの慰問ライブという事ではなく「いち瓦礫撤去作業員」として泥だらけになってボランティアに参加していた事を聞いて驚き、感銘しました。こうした事だけでなく、彼は環境問題等への取り組みに積極的ですし、こうした行動の源は、彼の持つ大きな愛に依るものだと思います。
 
- 3曲目に収録されているGuillotineでは、久しぶりに旧友であるJohann Bleyが参加しています。これまでトランスを敢えて避けて来た行動や発言がありましたが、彼のトランスライクなアプローチを再度起用しようとしたきっかけは何だったのですか?

確かにこれまでトランスというスタイルからは遠ざかっていました。これは、Juno Reactorのサウンドがジャンルに捕われず、どこまで様々な音楽を取り込み、追求出来るか?を模索したかったと言う事もあります。そして20周年を迎える今、Juno Reactorを愛してくれるファン達の静脈に再度Juno サウンドの根底に流れるトランスの血を流し込みたいと思いました。Johannとは長い事一緒にスタジオに入る事が無かったのですが、今作では是非一緒にやりたいと思ったのです。
更に「Juno Reactor名義では最後のアルバムになるかもしれない」という思いもあったので、参加アーティストも含め、本作ではこれまでの集大成的な要素を盛り込んでいます。

  - 「最後のアルバムになるかも」と言うのは、ちょっと聞き捨てならないのですが、これでJuno Reactorは終わってしまうと言う事ですか?

そういうわけではないのですが、私の場合、毎回アルバム制作に取りかかる為の準備や構想にものすごく時間がかかるのです。新作を仕上げ、全てを出し尽くした今、次のJuno Reactorの活動がいつになるのか見当がつきません。この欲求は周期的に訪れるので、その時が来る迄は何とも言えませんが…。
 
- 4曲目はTrans Siberianというタイトルですが、インドではなくロシアですねよ?全体的にインドからの影響を感じるアルバムの中に、こうしたタイトルの楽曲があった事に興味を持ちました。本作はあなた自身のシベリア横断体験をインスピレーションとして制作したのですか?

これはロシアでツアーをしていた最終日に起きたエピソード(事件)にインスパイアされているんだけれど、実はホテルでシャワーを浴びている最中に、パスポートも含め持ち物全てを盗まれてしまったんです。このおかげで、予定よりも1週間長くロシアに滞在する羽目になってしまい、その間、新しいパスポートを作ってもらう為に、英国大使館に行かなければならず、滞在先から大使館までの道のりは6時間。結局3往復する事になりましたが、そのシベリア鉄道の車窓からは今迄見た事が無い程のラベンダー畑が広がっており、圧巻でした。また、40年以上変わる事の無いロシア警察の杜撰な体質を目の当たりに体験する等も含め、今回の盗難事件が無ければ見る事が無かったロシアの別の一面を体験する事ができ、Trans Siberianという曲を生み出せた事を考えると、こういう言い方は変かも知れませんが、盗難事件が起って良かったと思えるようになりました。

  - 昨今はDJとしても活動を開始されていますが、今回のアルバムが前2作のアルバムに比べ、よりダンスフロア向けの仕様になっているのは、その影響もあるのでしょうか?

それは多いにあると思います。Juno Reactorのサウンドとして「どうアプローチしてゆけば良いのか」と言うテクニックを習得するのにも、DJという行為は、曲作りの為の勉強の場でもあり、必要な経験となりました。また、昨今リミックスアルバムをリリースした事も、このような流れの後押しをしてくれています。これまでにも、ダンスミュージックを創ってきましたが、基本的に私自身のアルバム制作の意義が「踊らせるため」と言うよりは「聴いてもらうため」という部分に焦点を合わせて制作していた作意もあります。
 
- これまでの作品ではAmampondoやMabiと言った南アフリカ勢の起用が印象的ですが。USロックシーンからSteve Stevensを起用したり、日本からはGocooや、現在6年目を迎えるSUGIZOと、音楽のジャンルはもちろんの事、国に於いてもボーダレスな展開を見せています。本作でもHamsika Iyerをヴォーカリストに起用している他インド古典楽器の奏者が参加していますね。音楽的な観点で、他国のアーティストと決定的に違う点、特化している点などはありますか?

僕に言わせれば、国籍で音楽の優劣や特化したものがあるとは考えていません。もちろん、その国特有の楽器と言うものはあると思いますし、その国ならではの音色は作品のストーリー作りに役立つと言う効果はあります。それはミュージシャンにも言える事で、インド人であるHamsikaも、英国人であるTazも、その美しい歌声は、聴く者達をパラレル・ユニバースへ導く力を持っていると思っています。私はそうしたミュージシャンの能力とエネルギーを探求し続けているにすぎないのです。
 
- 昨今のインドでは古典音楽だけでなく、特にエレクトリックミュージックシーンの進化は目覚ましいものがあると感じます。これまでもJitterやMidival Punditzといったインド人アーティストをリミキサーに起用していますが、このようなインドのエレクトリック・ミュージック・シーンの変化をどのように感じていますか?

インドのエレクトリックミュージックは僕に言わせれば世界トップレベルにあると思います。Jitterの美しいタッチは素晴らしいと思う。彼には今回もFinal Frontier のリミックスにJitter だけでなく、Jayantという2つの名義で参加してもらっています。Midival Punditzは、彼らが手がけた映画『モンスーン・ウェディング』のサウンド・トラック以来の大ファンです。
昨年デリーでMidival Punditzに逢った際、彼らがエレクトリック・ミュージックに転身したのは、Juno Reactorの「Conga Fury」を聴いたのがきっかけ。とうエピソードを知って、光栄かつ驚きました…。
 
- そんな中、ここ数年インドでの公演がコンスタントにあるようですが、御自身がインドの音楽シーンでのプロジェクトに加ったり、アーティストをプロデュースするような予定はありますか?

先頃インドのレコード会社と契約をして、既にいくつかの映画のサウンドトラックを制作するという話が進んでいます。このプロジェクトが動き始めたら、暫くはインドに移住する事になるかもしれません…。

  - 8月には来日ツアーが組まれていますが、今回のメンバー構成はどのような形になりますか?

イスラエルのダンサー&パーカッショニストMali Mazel、ドラマーにはSiouxsie and the BansheesのBudgie、ギター&バイオリンにSUGIZO、インドにて本年度のベストシンガーに輝いたHamsika Iyer。そして何名かのスペシャルゲストに参加してもらう構想を練っているところです。
 
- そうなるとアルバムとはまたひと味違った趣のライブセットになりそうですね。アルバムを聴き込んで8月に備えようと思います。ありがとうございました。
 


 
- Information -

タイトル:The Golden Sun Of The Great East
アーティスト:JUNO REACTOR
レーベル:Wakyo Records / Fusion for Peace Productions
発売日:4月24日
価格:¥2,500-

■詳細
http://www.clubberia.com/ja/music/releases/4217-The-Golden-Sun-Of-The-Great-East/