INTERVIEWS

HIKARU meets KENICHI YANAI

現在は沖縄を拠点に日本各地を行脚するDJであり、ユニットBLAST HEADとしての活動でも知られるHIKARU。SOUL SOURCEとして多くの名コンピレーションを企画し、近年ではレーベル〈SMR〉を主宰する箭内健一。このふたりがゆるやかに始動させていた共同制作プロジェクトの成果が今夏発表された。ふたり曰く、言い切らず、シニカルに、不思議な意味合いも含ませた『EASY LISTENING?』との表題を冠した本作。沖縄のトロピカルな雰囲気をそのままパッケージングしたとも、東京のサマーリゾートへの憧憬をドリーミーに綴ったとも聴けるこのアルバムはどのようにして生まれたのか。梅雨の暮れも暮れ、夏の一歩手前にHIKARU、箭内健一の両名を招いて話を聞いた。

取材・文/高橋圭太

 

 

“HIKARU君はマメだよね。おそらく世間が抱いてるイメージの数倍ちゃんとした人だと思う。- 箭内健一 -


- まず箭内さんとHIKARUさんがはじめて会ったのはいつごろでしたか?

箭内健一(以下、箭内) : 2008年ごろです。逗子の海の家でいっしょにDJしたのが最初ですね。

- おたがいの第一印象は?

HIKARU : 音楽で仕事してる人って印象ですね。自分なんかフラフラしてギャンブラーみたいなもんだから、しっかりしてるなぁと。

箭内 : 初めて会ったときにたくさん武勇伝を聞かせてもらってね。住所不定の時期があって……とか。

HIKARU : そういう時期もありましたねぇ。

箭内 : とにかく初対面では、おたがいのことをまったく知らないっていう状況だったんです。彼のユニットであるBLAST HEADのことも知らなかったので、あとで調べて“すげえ!”って。

HIKARU : まぁ当時はSNSもなかったし、個人のホームページがあるわけでもないので。そもそも2010年くらいまで携帯電話すら持ってなかったですから。

箭内 : だから勝手にゆるいイメージを持ちがちだけど、HIKARU君はマメだよね。Facebookの投稿とか見ても思うし、連絡取れないなんてことももちろんない。おそらく世間が抱いてるイメージの数倍ちゃんとした人だと思うな。

- HIKARUさんは沖縄に移住してからどれくらいになりますか?

HIKARU : もう6年目です。2010年の1月に移住したので。

- 沖縄での生活はいかがですか?

HIKARU : いまはめちゃめちゃ忙しいですね。子供も2人いるし、友達と“波の上MUSIC”というレコード屋、あと“酔処がらむ”っていう屋台を最近はじめたりしてるんで。あとはDJやって、たまにひまな時間ができると海に行ったり、子供と遊んだりって感じです。
 

 

 

 
“こんなにたくさんいい曲が入ってて、そこに自分が作ったものを入れるなんておこがましい。- HIKARU -



- では本作『EASY LISTENING?』のお話を伺おうと思います。まず、おふたりのいちばん最初の共同作業は?

HIKARU : いちばん最初は箭内さんのレーベル〈SMR〉から出したミックス『LAID BACK TOWN』(2011)ですね。で、その後、オフィシャルで『HIGH PSY』(2012)ってミックスCDをリリースさせてもらって。

箭内 : 彼のオフィシャルミックスCDをちゃんと出したかったんですよね。それで『HIGH PSY』制作のタイミングで、流通の〈ULTRA-VYBE〉担当者から「オリジナル曲も収録してみては」って提案があって。自分もHIKARU君といっしょだったら面白そうだなと思って声を掛けた、っていうのがそもそもの発端ですね。それでできたのがアルバムにも収録されてる「Beach Clean」。でも曲を作る前には彼から「こんなにたくさんいい曲が入ってて、そこに自分が作ったものを入れるなんておこがましい」みたいな話をしてましたね。普通は自分の楽曲とか入れたがりそうなもんじゃないですか? そういう自己顕示欲がないっていうか、「正しいこと言ってるなぁ」って感心したんだよね。

HIKARU : でも結果的にいいものができてよかったですね。基本的に制作は箭内さんが投げてきたアイデアに対して自分がいろいろ口を出して……。

箭内 : けっこうズタズタに言うもんね。「ここのベースライン、ダサいからやめましょう」みたいな感じで。

- ハハハハハハハ! ストレートですねぇ。

箭内 : 最近はそれくらい言われても心地いいですけどね。ガンガン言ってもらったほうがありがたい。当初の想定とは全然違うものができちゃうのもスリリングですから。

HIKARU : BLAST HEADとはまったく制作方法が違って楽しかったですよ。今回みたいに監督的なスタンスでアルバムを作ってみたかったんですよね。たとえるなら自分はArrested Developmentのあのおじいちゃん(Baba Oje’)みたいなもんかな。

箭内 : フフフフ。でも、あのおじいちゃんは「ここのベースラインは……」みたいなこと言わないでしょ。

 

2008年夏に逗子海岸で行われたイベントの模様。この日がHIKARUと箭内健一の記念すべき邂逅であった。
 

 

 

  
“より心象風景みたいなものを描きたかった- HIKARU -


- 「Beach Clean」をきっかけにアルバム制作に至るわけですが、おおまかなアルバムのイメージは当初から想定していましたか。

箭内 : 彼は奄美諸島の徳之島出身だから、会ったころに雑談のなかで「海を感じられるような作品しか作れない」って話をしていたのを覚えていて、そのイメージは大切にしましたね。

HIKARU : 箭内さんも与論島が好きだったり、南国の魅力をわかってる人だから、お互いに大きなイメージの違いとかはなかったんじゃないかな。夏の日に昼間っからビール飲みながら聴いてもらいたいアルバムにしたかったっすね。

箭内 : 僕は海のないところで育ってるし、海のある風景って憧れなんですよね。海水浴とかも人生で数えるくらいしか行ってないしね。10回もないかもしれない。自分にとって、海に近いイメージは湖で。福島の郡山で育ったんだけど、そこでは湖水浴がメジャーなんだよね。猪苗代湖って1周50kmくらいあって、それくらい広いから水平線も見えるんですよ。それが自分にとっての海とか夏っぽいもののイメージになってるかもしれない。

- ふたりで制作するにあたって、よりDJユースなものを作るっていう選択肢はなかった?

HIKARU : それは全然ないですね。昔から自分の作る音源にそういった意識はないんですよね。

- 加えて、LUVRAW氏がトークボックスで参加の「Slipping Out」や箭内さん自身がコーラスを担当した「Under The Daylight」など音色としての歌はあっても、いわゆる歌モノ楽曲は収録されてませんね。

HIKARU : うーん……自分としては、より心象風景みたいなものを描きたかったんですよねぇ……。いや、ウソですね。言いたかっただけですね、いまのは。

- ハハハハハハハ!

箭内 : せっかくかっこいい感じだったのに!

HIKARU : まぁ、いまのは冗談っす。歌モノはすごい好きなんですけど、自分の歌に対する好みがハッキリしてるし、そこをチョイスするともっと時間かかっちゃうっていうか。それに、いろんな国の人が聴くことを考えたらインストのほうがユニバーサルかなと。

- なるほど。そして「Coconut Moon」にはLITTLE TEMPOの土生“TICO”剛氏も参加されてますね。

箭内 : 土生さんもLUVRAW君も僕側からの提案なんだけど、どちらもHIKARU君とは長い付き合いがあるのが面白いよね。

HIKARU : そうですね。特に土生さんとの付き合いは、だいぶ長いです。BLAST HEADのアルバムにも何曲か参加してもらってるし、LITTLE TEMPOが“日比谷野音”でやった「ワイワイ祭り」に出演させてもらったり、いろいろ思い出があります。兄貴みたいな存在ですよ。

箭内 : 土生さん、レコーディングのときに「HIKARUはここにいないけど、アイツのことは理解してるつもりだから、いると思ってプレイするよ」って言ってくれてたなぁ。

- 「Coconut Moon」のリミックスで参加しているNahacityfreefeel2はどんなユニットなんでしょう。

HIKARU : これは那覇のDJ、MIYASHITA君と自分がやってるユニットです。いっしょにやりはじめて5年くらいですかね。何曲か作ってる曲もあるんですけど、発表するかはまだ未定ですね。まぁ、のんびりやろうかと。

箭内 : 「Coconut Moon」のリミックスを最初に聴いたときはビックリしたけどね。すごい出来ですよ。自分には絶対ない発想ですね。

 

HIKARU meets KENICHI YANAI / Slipping Out feat. LUVRAW
 

 

 

 
“個人的にはHIKARU君をイメージして作った感じ。HIKARU君に手紙を書いてるような感覚。 - 箭内健一 -”



- ちなみに今回のアルバム、音楽以外からのフィードバックを挙げるなら?

HIKARU : なんだろうなぁ。細かいことを挙げればキリがないんだけど、ベースになってるのはお互いの日常生活なんでしょうね。

箭内 : 個人的にはHIKARU君をイメージして作った感じですよ。かっこつけた言い方をすると、HIKARU君に手紙を書いてる感覚というか。

HIKARU : あぁ、そういう感じはあるかもですね。文通ですね、東京と沖縄間での。

- 余談ですが、最近のお気に入りの音楽作品なども聞かせてください。

HIKARU : 国内だとOlive Oil関係のものは全部いいですね。本人とも友達だし、新しいものとかは聴かせてもらえるんだけど、かなりいかっこいいです。

箭内 : 海外ならJose Padillaの最近出したシングル「Day One」はだいぶよかったなぁ。

HIKARU : あぁ、あれは俺も好きですね。あとは普通にKendric LamarとかWiz Khalifaとかメインストリームなヒップホップの新譜もちょこちょこチェックしてますね。
 

 

 

 
“できてる曲を再現するってことに興味がない。作ったら忘れちゃうくらいがちょうどいい。 - HIKARU -  ”


- さて最後になりますが、今後はどのような活動を? ユニットとしての目標などはありますか?

HIKARU : まぁコツコツとやっていって、アルバムをもう1枚くらいは作りたいですね。それくらいですかね。ライブとか絶対やらないでしょうしね。

箭内 : 前に一度ライブの提案したときも思いっきり断られたもんね。

- ライブはあまり性に合わない?

HIKARU : 魅力を感じないですねぇ。もともとそうなんですよ。BLAST HEADでも3回くらいしかライブしてないし。できてる曲を再現するってことに興味がないんですね。作ったら忘れちゃうくらいがちょうどいいんですよ。実際、自分の曲がクラブでかかっても3分くらい気づかないこととか普通にある。それくらいの距離感が自分にはちょうどいいのかもしれないです。



- Release Information -

タイトル:EASY LISTENING?
アーティスト:HIKARU meets KENICHI YANAI
レーベル:SMR
発売日:2015年7月8日
価格:2,970円(税込)

[トラックリスト]
1. HARBOR PARK
2. BEACH CLEAN
3. UNDER THE DAYLIGHT
4. SLIPPING OUT FEAT.LUVRAW
5. COCONUT MOON FEAT.TAKESHI”TICO”TOKI
6. NANMIN
7. 黄昏のNIOI
8. YTSK 420
9. GUAVA IN ZION
10. COCONUT MOON FEAT.TAKESHI”TICO”TOKI (NAHACITYFREEFEEL2 DUB)

A1. Slipping Out ft. Luvraw
B1. Coconut Moon feat.Takeshi"Tico"Toki (Nahacityfreefeel2 dub)


- Event Information -

タイトル:SELECTION Y HIKARU meets KENICHI YANAI "EASY LISTENING? " Release party
日時:8月21日(金)
会場:吉祥寺“bar Cheeky"
時間:22時
料金:Door 1000円
出演:DJ HIKARU, KENICHI YANAI, Mamazu (HOLE AND HOLLAND)
Gust Live & DJ : Luvraw
Gust DJ : STYLISH a.k.a 鎮座DOPENESS
Gust Live : GROPAS a.k.a. Shoji Ishiguro

■clubberia event page
http://www.clubberia.com/ja/events/240592

タイトル:SELECTION Y HIKARU meets KENICHI YANAI "EASY LISTENING? " Release party
日時:8月22日(土)
会場:仙台“bar fam"
時間:21時
料金:2500円
出演:DJ  HIKARU, KENICHI YANAI, and more

■clubberia event page
http://www.clubberia.com/ja/events/240593