INTERVIEWS

Calm

前作から5年、ついにCalmがニューアルバム『from my window』を8月5日にリリースした。Calmらしい生楽器の暖かさと、より進化したエレクトロニック・サウンドが絶妙に融合した今作では、一人だけで作り上げた前作「Calm」とは違い、アンサブルでしか表現しえない特別な楽曲たちを聴くことができる。5年という長い期間を経て完成した『from my window』にはどのような思いが込められているのだろう。この5年で感じたさまざまな思いや感情を伺うとともに、今作について話しを聞いてみた。

Interview & Text:Ryosuke Kimura (clubberia)
Photo:Akemi Namba (clubberia)

 

 

「もう一度Calmという名前をいろんな人に知ってもらう作業をしたいなと思っているんです」


——前作から約5年が経ちましたが、今回のアルバムへの思いをまずお聞かせください。前作『Calm』はすべてお一人で制作されたとのことですが。
デビューのころはもちろん一人でやっていて、それからだんだんと仲間が増えて、生楽器を足すことに楽しさを覚えたんです。でも、それをやり続けていると、それが普通になってきて、5年前に一度リセットして一人でやることに落ち着いて。それがあったから、また仲間とやりたいということが周期的に巡ってきたのかもしれません。その後に出したKF名義のアルバム『From Dusk Till Dawn』も一人で作ったので、ある程度一人でやれることを出し切ったとも思っていて。さらに、ライブや別のユニットでの録音をやっているなかで、生楽器の楽しさがまた芽生えてきたというか。

——Calmさんの音楽って、耳にするだけで頭の中に情景が浮かんでくる音楽だと感じます。今回のアルバム・タイトルからは、よりそういった情景をイメージさせてくれる気がしてなりません。
今回、アルバム・タイトルがなかなか決まらなかったんですよ。最後までどうしようかとずっと考えていて。自分のなかではこのアルバムに“アルペジエイター”というコンセプトがあって。ちょっとマニアックすぎるワードなので難しいかもしれないですが。アルペジエイターというのはもともとシンセサイザーについてる機能なんです。鍵盤をひとつ押すとアルペジエイターが発信するんですが、シーケンス機能とはまた違って自動で連結した音を鳴らしてくれる機能なんです。その設定によってアップダウンするような音のメロディになったり。そういう機能を総称してアルペジエイターと言うんです。マニアックすぎるし、さすがにアルバム・タイトルにするのは変だなと思ったので、アルバムを通して一番刻まれるものってなんだろうって考えてみたんです。今まで、深夜から朝にかけて曲を作ってたんですけど、今回は初めて昼間に曲を作ったんですよ。1月の寒い時期なんかはとくに日中が短いじゃないですか。昼に始めたとしても3時くらいには結構夕方っぽくなってくる。制作している部屋に大きな窓があって、事あるごとに窓の外を見ていたんですよ。9階の部屋に住んでいるので景色が見渡せるんですけど、16時くらいになると赤い夕焼けの景色が広がったりして、なんかグッと胸にくるものを感じたり。行き詰まって窓を見たり、ふとした時に窓を見たり。そうすると、雨が降っているときもあれば、まだ昼間のときもあるし、夜になっているときもある。そうやって、その窓を通してみた景色がアルバムにフィードバックされている気がして。今回のアルバムを制作するにあたって自分の心の窓も開いたり、そういったこともあったので『from my window』というタイトルがいいんじゃないかなって思ったんです。

——今回のアルバムには、前作のエレクトロニックな音がすごく反映されているように感じました。生楽器の音よりもエレクトロニックな音が前に出てきている気がするのですが。
とくに意識したわけではないんですが、おそらく、生楽器とエレクトロニックの融合がより伝わりやすい録音やミックス編集をしているからだ思います。慣れない時期だと、生楽器の演奏を聴かすためのバックみたいな編集やミックスをしていたんですが、今はあくまで生楽器も楽曲の一部として考えていて。それをフィーチャーして聴いてもらうっていう作り方をしていないのかなと。

——今まで以上に、より全体の音のバランスを考えて録音されているんですね。具体的なレコーディングはどのようにして行われたのでしょうか。
だいたいパターンができていて、生楽器が入らなくていいくらいのプリプロ(レコーディングする前段階の楽曲)を作るんですよ。それから、この楽曲に「何が足りないんだろう」「何が欲しいんだろう」ということを考えて。必要なければ何も音を入れなくてもいいし。必要なときは、その曲をもっと飽きずに聴かせるために「ここにこういう楽器のソロがあったほうがいい」というようなことを考えて。それから、最終的にミュージシャンへオーダーするという感じですね。

——その楽曲に入れる音などは、すべてオーダーするミュージシャンに任せているのでしょうか?
ほとんどミュージシャンに任せて即興で作ってもらいますね。ただ、曲にもよるからなんとも言えないのですが、自分のなかでメロディーを決めているものもあります。「これだけは絶対にやって欲しい」って伝えることもありますし。

——ご自身が思い描いていたイメージと違うものが上がってくるということもあると思うのですが。
あります、あります。それをどういう風に捉えるかなんですよね。思っていたものと違うから編集して、自分好みのまったく違うものに変えてしまうのも一つの手だし、自分のアレンジを少し変えたりパートを変えていくというのも一つの手だと思うので。

 

 


——『from my window』は2017年に迎える20周年に向けての始まりを告げるアルバムとのことですが、何か特別な意識があったのですか?
具体的にというよりは抽象的になってしまうんですが、もう一度Calmという名前をいろんな人に知ってもらう作業をしたいなと思っているんです。今回のリリースで5年くらい空いてしまい、その間に違う名義でのリリースはあるけれど、Calmとしての告知作業はサボっていた部分があって。でもかろうじて生き残っていけているし、今いるファン、昔のファン、そして新しいファンをもう一度引き寄せることができたらなと。音楽シーンみたいなものを作ることは一人じゃなかなかできないことなので難しいですが、Calmという音楽自体をシーンのように押し上げていって、もっと知ってもらいたいなと。そのある程度の到達地点が2017年になればいいかなと考えているんです。


「Calmのときは“何も考えない”というのを意識していて、それこそがCalmなのかなと思ってるんです」


——アルバムを聞かせていただいて、5曲目の「Cosmic Language」や6曲目の「Shadow for Two」のように際立ったエレクトロニックのメロディのなかに、力強いサックスが入ってくる楽曲がとても印象的でした。今までのCalmさんの楽曲とはちょっと雰囲気が違うなと感じたのですが。
とくに意識はしていないんですが、「Cosmic Language」は今までにない雰囲気を持っているかなと思いますね。

——ジャズの要素もありますよね?
そうですね。結構ジャズというジャンルのなかに括られることも多いんですけど、自分としては「そんなジャズっぽい曲を作ってるかな……?」と思っているんですけどね(笑)。ただ今回の「Cosmic Language」ではジャズっぽい要素が出てると感じますね。別にジャズをやろうと思ったわけではないんですが、たまたまそうなったのかなと。

——前作と比べて、ビートがあまり主張してこないこともポイントだと思いました。
そうなんです。DJのパーティーも自分でやっているし、DJでやっていることとはかけ離れたものを作りたかったんですよ。ビートを強くしたり、ちょっとダンサブルにすると、そう思って作っていないのにどうしてもクラブミュージックやダンスミュージックというジャンルに当てはめられてしまう。そこに当てはめられたからといって、クラブでかかっているわけでは全然ないし。だから意識的にビートが減ってきたのかもしれないですね。なくてはならない必然のビート以外は無理やり入れてなくて。プリプロの段階では入ってたりするんですが、結構いらないビートを外したりしましたね。

——今回のアルバムはどのくらいの期間で制作されたのでしょうか?
今年の1月1日、元旦から作り始めたんですよ(笑)。

——元旦ですか(笑)。前作から作り溜めていた楽曲もありましたか?
全くないんですよ。フラットな状態で作り始めたという。フレーズやメロディなど、頭の中で鳴っている音はもちろんありましたけど、そういうのもあえて記録として残さずに作り始めたんです。

——そういった頭の中で鳴っている音は具体的にどのように形にしていくのですか?
まずはシーケンスのソフトを立ち上げて、ピアノでもシンセサイザーでもいいですが、なにかメロディが出る楽器を使って、頭に思い描いているフレーズを弾いてみる。コードがあればコードを弾いてみる。今回、ビートは少なめですが、ビートやベースのイメージがあればそれを打ち込む。そういうところから楽曲制作が始まるんですよ。


——ちなみに、元旦から初めようとした理由はあるんですか?
たまたまですね(笑)。去年の10月くらいから本当はやりたかったんですけど、9月、10月が思っていたよりも忙しくて取りかかれず。このままだといつまで経っても忙しいことを理由にして作らないからダメだと思って、これは元旦からスタートだなと(笑)。年明けにDJをして結構疲れていましたが、昼には起きて作業を始めてましたね。“一年の計は元旦にあり”と言いますし、ここでやるしかないと(笑)。

——アルバム全体の流れもすごく意識されているように感じましたし、個人的には、しっかりとアルバム全体を通して聴いて欲しい作品です。
そうですね、それはいつも常に意識していることなんです。アルバムを出すことってそうじゃないといけないって思っていますから。今回のアルバムでは、プリプロの段階で23曲くらい作っていたんですよ。その中から、最終的にアルバムとしてまとまる曲を選んで並べました。

——アルバム後半に進むにつれて、音が広がるような楽曲が展開され、Calmさんらしい壮大さを感じました。Calmとして絶対に出したい音というか、Calmらしい色みたいなものってあるのでしょうか。
Calmのときは“何も考えない”というのを意識していて、それこそがCalmなのかなと思ってるんです。もちろん、「こういうアルバムにしたい」というようなコンセプトはありますが、Calmの音としてはコンセプト付けをしないようにしているというか。

——Calmの音にコンセプトを作らないことが、Calmの色を出すことに繋がっていると。
そうですね。一番自然な状態で作るというか。何年もの間に吸収したものを、フラットに素直に表現するのがCalmなんです。

 

 


「目新しくもないしエッジなものでもないけど、10年後に聴いてもすごくいいって思ってもらえるものを作りたいと思ったんです」

——Calm名義のほかにさまざまな名義で活動されていますが、楽曲制作における住み分けはどのようにしているのでしょうか?
結局、自己満足の世界でしかないのかなと思っています。自分のやりたいことをやっているだけでしかなくて。名義を変えたとしても聴く人によっては「これ別にこの名義じゃなくていいんじゃない?」って思う人もいるかもしれないですし。DJユースに作った楽曲とかを一色たんにしてしまうのはよくないなってときに、勝手に名義を分けているだけなんですよ。

——DJも数多くこなされていますが、最近のシーンを見ていて感じることはありますか?
最近のDJに関しては、昔より人のことに興味がなくなってきたというのがあって。自分でやらなきゃいけないことが山ほどあって。自分に足りないことがたくさんあったなって気付かされてそれを反省しているんです。昔は、“自分が自分が”ということが強かったような気がして。それが悪いことだとは思わないんですけど、それを出しすぎることによって失うものもあるというか。たとえばパーティーを開催するときに、自分はこうしたいっていうのを出しすぎると、みんなは違うものを求めているのに自分のエゴだけが強くなってしまう。そうすると一緒にやっている一体感がなくなってしまうと感じて、エゴを出すポイントが違ったんだなと思いました。自分を出さなきゃいけないポイントはもちろんあると思うんですけど、「これを聴け!」ということではなくて。そういったことをパーティーで学んだし、曲作りに関しても周りが何をやっているとか、今これが流行っているとか、この機能が最新だとか、この音が最新だとかっていうことではなくて。今の時代、どんなものでも一瞬で古くなるじゃないですか、どんどん新しいものが出てくるから。その一瞬で古くなるもののために、命を捧げることはないのかなって。目新しくもないしエッジなものでもないけど、10年後に聴いてもすごくいいって思ってもらえるものを作りたいと思ったんです。もちろん昔から思っていましたけど、最近、よりそういった思いが足りなかったと気づいたんです。だから人のことを気にかけてる暇がなくて。先ほどのフラットに表現するという話に繋がりますが、そういう気持ちも含めた全部が今回のアルバムには出てると思うんです。

——今回のアートワークもFJDさんが担当されているとのことですが、いつ頃からご一緒にやられているんですか?
最初にリリースした12インチとセカンドの12インチまでは違うんですが、実はファーストアルバムからずっと一緒にやっているんです。

——FJDさんにアルバムを聴いてもらい、そのイメージをアートワークに落とし込むのでしょうか?
そうですね、まずアルバムを聴いてもらっています。だから一番初めにCalmの音の全貌を知る人は藤田さん(FJD)なんですよ。渡すときはプリプロの段階で、生楽器も入ってない状態なんですけど、一応「こんな感じのアルバムです」と渡して。ファーストアルバムから何回もこの作業をやっているので、もう藤田さんは、その段階からこんな風に変わっていくんだろうなと、なんとなくイメージを抱きながら作業を進めてくれていますね。


——8曲目の「Pining」のPVも制作されましたよね。PVにこの曲を選んだ理由というのは?
それがすごくおもしろくて。ある程度曲が完成したときに、PVを作る話があって、自分でどの曲がいいかなって決めれなかったんですよ。藤田さんだけじゃなく、流通を担当していただいてるULTRA-VYBE, INC.の関係者など4〜5人にアルバムを聴いてもらって、一番良い曲を1曲あげて欲しいってお願いしたんです。でもみんなが選んだ曲がバラバラで、じゃあ上位3曲をあげて欲しいってお願いしたいんですよ。でも意外とそれもバラバラで(笑)。なかなか曲が被らないから困ってて。そんなとき、自宅にエンジニアの友達が「どんなアルバムになったんですか?」って遊びに来て。いろいろと音の話をしつつ「PVの曲がなかなか決まらないんだよね…」って話をしたら、その「Pining」を聴いているときに音が切れて、また音が始まるときに「この曲ってこうやって変わっていくんだ!」ってその友達がポロって言ったんです。「だったらここまでをPVにすればいいんじゃないですか」ってなって。実は、あの曲ってPVでは一回切れるんですけど、実際の曲はまだそのあとも続くんです。PV内では2/3の段階で音が切れるんですよ。そのときに、「あとはアルバムで聴いてもらえばいいじゃないですか」って言ってくれたので「それだ!」と思って、そのアイデアをいただきました。

 

 

 

——年に一度、Calmバンドセットでワンマンライブを行っていましたが、今後もライブについては考えていらっしゃいますか?
去年ライブをお休みしたので、今年はやりたいと思っています。今までのフォーマットのままライブをやることは簡単なので、ライブ自体のコンセプトをちょっと変えていきたいんですよ。それを悩んでる段階で、もしかしたら年内に間に合わないかもしれませんが、確実にレベルアップしたライブをお見せできる自信があるので期待していてください。

——どういったライブになるのか少しだけお聞きできますか?
なんて言ったらいいのかな……、すごく近くで見ているイメージにしたいんです。ただそれだけなんですけど(笑)。それをどのように見せるかというところが問題で……。ただクラブとかライブハウスで見せるということではなくて、なにかギャラリーみたいな、すごく手が届きそうなところでやって、音自体もすごく小さい、というような感じでやりたいんです。それによって今までとは会場や使用楽器が変わってくるので、メンバーと話し合っているところですね。

 

 

——夏真っ最中ですが、Calmさんの季節だと勝手に思っています(笑)。この夏の活動はいかがですか?
そうですかね(笑)。でもおかげさまで、11月まで毎週スケジュールが埋まっていて。情報解禁していないものも含めてたくさん予定があるので、ホームページでスケジュールをチェックしていただけると嬉しいです。毎年のことですが、とにかく外のイベントが多いのでとても楽しみですよ!



- Release Information -

タイトル:from my window
アーティスト:Calm
発売日:2015年8月5日(水)
価格:2,500円(税別)
[トラックリスト]
01. Room with a View
02. Night Ride
03. Love Velocity
04. Floating Beauty
05. Cosmic Language
06. Shadow for Two
07. Ascending and Descending
08. Pining
09. Ocean Deep
10. Cosmic Wind
11. Pearls and the Sun