INTERVIEWS

Richie Hawtin

 ここ数年、リッチー・ホウティンはリリースから遠ざかっていた。11年ぶりのPlastikman名義作品『EX』(2014年)のリリースや、来日時のDJプレイなどで我々を楽しませてくれていたが、リッチー・ホウティン名義の作品を心待ちにしていたファンは決して少なくないはずだ。
 しかし、昨年10月、主宰レーベルPlus 8の25周年を記念して作られた12インチ作品『Plus 8 25/1』のリリースをきっかけに、同年12月19日に最新アルバム『From My Mind To Yours』を発表した。さまざまな名義が混在するも、すべて彼の手で作られた楽曲たち。常に先をゆくさまざまなアイディアをエレクトロニック・ミュージック・シーンに提示してきた彼の最新作はいかにして生まれたのか? そして、音楽やテクノロジーの進化から導き出した彼の新たなるビジョンとは?
 新年一発目のclubberia Interviewでは、リッチー・ホウティンによるクラベリアだけのエクスクルーシヴ・インタビューをお届けする。


Interview : AWANE (Seeds And Ground) and Yasuhiro Kaneshima (#3 Funkateer)
Edit: Ryosuke Kimura (clubberia)

 

 

「楽曲制作とパフォーマンス、そして作品の間の複雑なバランスを見つけ出すことが、常に僕の目的で在り続けてきた」


−−『From My Mind To Yours(以下FMMTY)』のリリースに先んじて5枚の先行12インチ・シングルがリリースされています。同じPlus 8から2014年にリリースされたtestpilotの作品は配信限定のリリースでしたが、本作をレコードでリリースした理由を教えていただけますか?
『FMMTY』を最初にレコードで出した一番の理由は、レーベルの初志を尊重したからなんだ! レーベル名が“Plus 8 RECORDS”だった頃を振り返ると、設立当初はレコードが自分たちの音楽とアイディアを届けるメイン・フォーマットだったからね。もちろん、今の自分たちは昔と異なる世界に身を置いているし、実際のところ世界中の隅々まで自分たちの音楽を届けてくれるデジタル配信は素晴らしいよね。デジタル配信がなければ現在のエレクトロニック・ミュージックの発展はもっとゆっくりしたものだっただろうし、だからこそ僕はこの新しいフォーマットの勢いが増していることを歓迎しているんだ。でも、僕自身も含めて多くのリスナーが音楽をデジタルで消化しているけど、世の中には他のフォーマットを好む人もたくさんいるし、レコードはそのメインとなる代替物だよね。レコード(と多分エレクトロニック・ミュージック)に初めて触れるまったく新しい世代もまた存在するんだ。この両方の理由から、リスナーそれぞれが最も快適と感じるどの方法でも僕らの音楽を聴ける機会と利便性を提供したかった。フォーマットやその伝達手段ではなくて、音楽経験を届けるんだ。


−−Plus 8とともに主宰しているレーベル、M_nusも活発的なリリースを続けていますが、両レーベルの今後の活動について教えてください。
正直なところ、僕のふたつのレーベル、Plus 8とM_nusは今のところ転換期にあると感じているんだ。過去25年間、僕はアーティストの育成やレーベル運営にたくさんの時間を費やしてきたけど、今はスタジオでの自分自身のレコーディング作業や、その音源を最も自然と感じる方法でリリースすることに集中するたくさんの時間がある。当面の間はこれを継続して、音楽がどのように成長していくか、そしてそれがどのようにして僕のふたつのレーベルに新たな進歩をインスパイアしてくれるかを見ていきたいんだ。


−−エレクトロニック・ミュージックについて考えるとき、機材の進歩はもっとも重要なファクターのひとつだと思います。音楽のテクノロジーの進化に敏感で、自らのスタジオ/DJセットに新テクノロジーを導入していると思いますが、音楽のテクノロジーについてどの側面に惹かれるのでしょうか? またそれがどのように自身の音楽に影響を与えていますか?
それについてはたくさん考えてきたんだけど、僕の楽曲制作にインスピレーションを与えてくれる最も重要な影響は、フィジカルで操作できるシーケンサーの新製品開発だと思う。直に触れることによって僕自身がテクノロジーと結びつくことができて、かつ僕の人間らしさがなくなったり、機械の中で迷子になってしまうこともない。素晴らしい音楽というのは、ヴォーカルだけで表現する以上に、人と楽器が魔法のように相互作用したものなんだ。それがドラムやギター、誰かが空き缶をリズミカルに叩いたもの、僕がフェーダーに触れたり、ノブを回したりしたものであれ、人の個性の本質が拡大されるのはそういった動作の最中であって、演奏やレコーディングでそれをキャプチャーするんだ。

 

 


−−『DE9』シリーズに代表されるように、あなたのDJスタイルはこれまでのDJ概念を変えるものです。DJプレイとライブ・パフォーマンスの定義の区別が付きづらくなっているとも言えますが、そこにある違いは何でしょうか?
初期の『DE9』のレコーディングは、楽曲制作とライブ・パフォーマンスの間のどこかに存在する新しい領域にDJを推し進めた僕にとっての最初の体験で、それは今現在でも続いていることだね。その間にある空間を探索することに素晴らしい興奮を覚えたから、どちらの技術についても、その純粋な定義というものを気にしないように心がけているんだ。僕は、伝統的なスタイルでミックスすることを続けているDJのことを本当に尊敬しているけど、パフォーマンスの芸術性を前進させることや、楽曲制作とパフォーマンス、そして作品の間の複雑なバランスを見つけ出すことが、常に僕の目的で在り続けてきた。その境目でプレイすることは、僕にとってはめちゃくちゃエキサイティングなことなんだよ。


−−現在のDJセットではどんな機材を使用していますか?
う〜ん……そうだな、僕のDJセットはあと6ヶ月くらいで劇的に変わるだろうね。というのも、とても興味深い新しいDJテクノロジーの兆しが見えているんだ。とはいえ今の段階では、僕はNative Instrumentsの4デッキのTRAKTORと、サンプリングやエフェクトを加えるのにAbleton LIVE、Allan & HeathのK2コントローラー、AbletonのPushシーケンサー、RMEのサウンド・カードが搭載されたAllan & HeathのXONE:92ミキサーを使っているよ。

 

 


−−ダンスミュージック・シーンにおいて、TR-808、TR-909、そしてTB-303をはじめ、ヴィンテージ機材のサウンドが未だにキー・フィギュアになっています。Roland TB-03のように、名機を現代にアップデートするという方向性も出てきています。最新機材とヴィンテージ機材についてはどうお考えですか? そしてそれは今後の音楽にどのような影響を与えると思いますか?
僕はこれからもオリジナルのTB-303を愛し続けるよ。特に、Plastikmanの『Sheet One』(1993年)を制作した僕の初めての303をね。でも、スタジオで25年前からずっと使ってきた同じ機材の前に座っていても、何かインスパイアされるとは思わないんだ。もちろん、今でも303のサウンドとフィーリングは大好きだよ。だからこそ最新の『FMMTY』のレコーディングやPlastikmanの『EX』では、アップデートされたTB-303を使ったんだ。『EX』では、サウンドのシーケンスの組み方に従来とは異なる新しい選択肢を与えてくれるD16グループ社のプラグインを限定的に使用したんだけど、それによって過去のアルバムとは違う新しいフィーリングを注ぎ込めたよ。『FMMTY』は、伝統的なTB-303のサウンド様式を元に作られた、新しいサウンド・コントロールを可能にするRoland TB-03とそのプラグインのコラボレーションなんだ。それぞれのプラグインやハードウェア機材は特定の周波数を持っているけど、異なった機材を組み合わせることによって、スタジオで作業しているときに、やろうと試みている雰囲気を形にする手助けとなるんだ。


 



−−スタジオでの制作において、使用機材はソフトウェアとハードウェアどちらの比重が高いですか? またその理由を教えてください。
スタジオでは、アナログとデジタル、ソフトウェアとハードウェアは公平なバランスを保っているよ。実際のところ、僕は直に触れる操作性ほど、サウンドについては違いを気にしないよ。僕は自分の手を使って物をつかんだり、ノブを回したり、シーケンサーを操作するのが好きなんだ。ソフトウェアはその可能性を広げるためにある種の決まったタイプのコントローラーに付属させる必要があるけど、ハードウェアの機材は往々にして、それぞれのサウンドタイプに特化してデザインされた独自のインターフェイスを提供しているよね。サウンドそのものの追求は僕がスタジオで行っている探求の一部なんだけど、より重要なことは、機材をフィジカルに相互作用させる新しい方法を探し求め、新しい楽曲を生み出すための素晴らしい関係性を見つけ出すことなんだ。

 

 


−−今までさまざまな名義を使い分けて作品を発表してきました。その柱ともいえるPlastikman、そしてRichie Hawtin名義のそれぞれのコンセプトの違いを教えてください。
その違いは、何よりも感覚的なものだね。Plastikmanは大体、Hawtin名義のプロダクションよりも幾分かは余分なものが少なくて、よりミニマルで催眠的。でも、もちろんそれが入れ替わることもある。しかし、Plastikmanのトラックにはいつも、少しばかりダークなエッジが効いていると感じるし、Hawtinのトラックは楽観的でポジティブな活気を少し含んでいると感じるね。


−−すでに何度か触れているように、2014年にPlastikmanとしての久々の作品『EX』を発表しましたが、今後はPlastikman名義でのリリースやライブ活動も増えるのでしょうか?
ここ最近のスタジオでのセッションはとてもフリーフォームで、その時々に自分が感じたままを録音できるように、毎日スタジオへ通うことを楽しむようにしている。ある時それは、Plastikmanの曲となったし、一方で違うものが完成することもある。僕がこれからどうなっていくかは定かではないんだ。長いフォームのアルバムに従事することに魅力を感じていることは間違いないし、それは多分Plastikmanなんだろうけど、でもやっぱりスタジオで機材の前に座ってみるまでは、自分がどうなるか本当に分からないんだ。


−−無類の日本酒好きとして知られていますが、日本酒文化を世界に発信する酒サムライとしてのあなたのことを教えてください。
20年前に初めて日本を訪れて以来、日本の文化と歴史には深い愛情を感じているんだ。長いこと、日本に再び訪れてパフォーマンスしたり、日本国内を旅しては、さまざまな地域の味や音楽、景色を経験する機会に恵まれてきた。その都度、僕の日本に対する愛情と興味は深まっていって、日本の文化のなかに、僕が持つ美的感覚と類似するものを見つけたんだ。酒については、最初は友人と飲んでいるときに知ったんだけど、すぐに酒の文化や慣習、シンプルでありながら独特の味、酒瓶のデザインすべてが僕の心に深く響いたんだ。それで、僕の人生におけるあらゆるものと同じように、その新しい感情を思いのまま育てて、掴んで離さないようにした。今は、ふたつのとんでもなく深い情熱、エレクトロニック・ミュージックに対するそれと、酒に対するそれを胸に毎日を過ごしている。そしてどんな時も、僕が心底惚れ込んでいるその両方の文化の育成を手助けするために、そのふたつを絡み合わせる道を探そうとしているよ。

 

 


- リリース情報 -

タイトル:From My Mind To Yours
アーティスト:Richie Hawtin
レーベル:Plus 8
発売日:2015年12月19日
価格:2,500円(税別)


[CD1]

01 Richie Hawtin - No Way Back
02 Childsplay - Stretching

03 Plastikman - Cirkus

04 80xx - Creepr

05 FUSE - Them

06 Plastikman - Purrkusiv

07 Plastikman - Gymnastiks

08 R.H.X. - Xcusion

[CD2]

01 FUSE - Close

02 Robotman - Simple Simon

03 80xx - Grindr

04 Circuit Breaker - Systematic

05 Plastikman - Akrobatix

06 80xx - Creatur

07 Plastikman vs FUSE - EXpanded
08 R.H.X. - Xtensions