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Adrian Younge

 1998年にヒップホップのプロデューサーとしてキャリアをスタートさせたAdrian Younge。60〜70年代のソウル・ミュージックを再興する彼のサウンドは、JAY-ZやCommonをはじめ、 今話題のKendrick Lamarまでも魅了するほど。
 近年では、ビラルやゴーストフェイス・キラーのアルバムをプロデュース。さらに、自身名義の最新作『Something About April II』を1月に発表し、先月、COTTON CLUB(東京都千代田区)で初来日公演を行ったばかりの彼に取材をおこなった。

Photos courtesy of COTTON CLUB, Japan
Photo by Y.Yoneda

 

 

「天才だ!」なんて言われることもあるけど、自分では天才だなんて思わない。俺はただ神様がくれた才能を、努力を重ねることで最大限に活かして作品を残してきただけだよ。


−−いつ頃から音楽を始めたのですか?

本格的に音楽活動を始めたのは1996年、18歳のときだった。MPC2000というサンプラーやテープレコーダーを使って、レコードをサンプリングしてビートを作っていたんだ。

−−なかでもどんな音楽に影響を受けましたか?
LAのカルチャーで育ってヒップホップが好きになったんだけど、ヒップホップの楽曲そのものじゃなく、サンプリングされているソース元の楽曲が好きなんだと気づいた。DJ Shadow、Portishead、A Tribe Called Quest、DJ Premier、Wu-Tang Clan、みんな大好きだけど、彼らがサンプリングした楽曲が本当に素晴らしいんだ。「この曲ヤバいな。この曲のこのパートとこのパートを使って新しい曲を作ってみよう」っていう技法にもすごく影響を受けたよ。楽器だけじゃなくて、Michael Jacksonが活躍した1968年から1973年の間に使われていたエンジニアリングの技法も学んだしね。当時存在したレコーディングのセオリーを、ヒップホップというスコープを通して見てみたんだ。俺はそのセオリーを使って新しい形の音楽を生み出したってことさ。

 

 

 
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さまざまな楽器を演奏するマルチ・プレイヤーとしても活躍していますが、楽器を演奏しだした理由は?
新しい音楽を作るには、楽器を演奏する必要があると気付いた。サンプラーに制限されたくはないからね。サンプラーだけで人を泣かせるようなメロディーはなかなか作れない。サンプリングしたいパートを見つけたとしても、使いたい小節の最後の部分が思い通りのキーやメロディーじゃないことはよくある。でも、楽器を演奏できれば、頭のなかで思い通りのキーやメロディーを作ることができるだろ? そのためにいろんな楽器を学んだよ。大学生のときにピアノを買って、学校が終わると家で毎日ピアノを弾いたり、その後ベースギターも買ったしね。

−−楽曲制作はどのように始めますか?
スタジオにはフルート、サックス、ドラム、ギター、ピアノ、たくさんの楽器が置いてある。それらすべての楽器がレコードみたいに語りかけてくるんだ。たとえば、レコードの山のなかからサンプリングする音を選ぶような感じで、楽器を見ればメロディーが浮かんでくる。ドラムを見ていればドラムだけで構成された曲をまるまる1曲作ることができるし、ベースを見ていればファンキーなベース音の曲を思いつく。スタジオに立って楽器を見ているだけでインスピレーションが湧いてくるんだ。どんなメロディーが頭に浮かぼうと、それを忠実に演奏することができるのは20年も音楽をやってきたからなんだ。20年間の積み重ねが才能を開花させて、今では「天才だ!」なんて言われることもあるけど、自分では天才だなんて思わない。俺はただ神様がくれた才能を、努力を重ねることで最大限に活かして作品を残してきただけだよ。だからどんな人だって、努力を重ねることでその才能を開花させることができる。今の俺が簡単に曲を作れるのは、このレベルに達するために費やした努力と鍛錬があるからさ。でも、俺は常に成長したいと思っていて、決して現状に満足していないんだ。

 

 

 
−−最新作『Something About April II』は、2011年にリリースされた『Something About April』の続編ですが、どのようなテーマを持っているのでしょうか?

『Something About April』と『Something About April II』は、ダーク・サイケデリック・ソウルを意味しているんだ。1968年から1973年の間に出てきたブラック・ソウル・ミュージックで、プログレッシヴ・ロックなんだけど、ソウル・ミュージックでもある。その時代のブラックミュージックは、オーディエンスが限られてしまわないようにレコードカバーに白人を起用していたんだ。黒人にとってそれはとても失礼なことだったし不快だった。「なんで白人の写真が使われるんだ!」ってみんな憤りを感じていたよ。黒人をカバーで起用することはタブーとされていた時代だったし、黒人と白人の結婚を認めない州もあった。この作品のカバーには、黒人と白人が写っているんだ。一見、1968年から1973年くらいにリリースされたカバーデザインのように見えるんだけど、その当時にこんなカバーは存在しないんだよ。この作品は人間同士の関係について描いているんだけど、本当はその年代にリリースされたように装うことで人種差別していた社会に中指を立てている作品なんだ。それが本当のメッセージさ。肌の色の壁を壊したかったんだよ。

−−そのなかで、どのようなサウンドを意識したのでしょうか?
当時の俺が聴いたら、サンプリングしたいと思うサウンドだよ。俺はサンプリングされるようなアーティストになりたかったんだ。たとえば、この曲のドラムブレイクは明らかに1番目立ってかっこいいんだけどそれだけを使うんじゃない。このレアなジャズアルバムのキーボードは普通に聴こえるんだけど、ループさせると相当かっこいい。そのドラムブレイクとキーボードのループを使って新しい楽曲を作る技法は、当時全く存在しなかった。だから、俺は当時の人たちがやっていたようなレコーディングを試みたんだけど、「もっとスネアを強調させよう」「もっとベースに厚みを出そう」「もっと暖かみのあるキーにしよう」と感じたんだ。それをヒップホップでやっているようにループさせた。だから、この作品を聴くとノスタルジックで昔の曲みたいなんだけど、どこか現代の要素があるんだよ。多分ほとんどの人が「古い感じの音楽なのに何かが違うんだよなぁ」って感じると思うけど、「何か」がわからないはずだ。でもその「何か」というのは、俺が持ってる「ヒップホップの知識」なんだよ。

 

 

 
−−JAY-Zや、Commonといった有名なヒップホップアーティストたちが、あなたの楽曲をサンプリングして話題になりました。環境が一気に変わったのではないですか?

JAY-Z、DJ Premire、Common、50 Cent、たくさんの著名アーティストたちが俺の楽曲をサンプリングしたことは、本当に光栄なことだと思ってるよ。俺が憧れていた人たちと今では肩を並べている。すごく興味深いのは、そういったアーティストたちも、違う道を歩んだだけで全く同じ野望を持っているってことさ。今周りを見渡したらみんなで同じように音楽に取り組んで、お互いに学び合っている。俺の音源がサンプリングされているし、同時に一緒に楽器を演奏することもある。そうやってユニットの一部としてカルチャーを発展させていることは、単純にサンプリングされることよりも遥かに意味のあることだと思うんだ。


ブラックミュージックは世界中のポピュラーミュージックの核と言えると思うんだ。音楽のソウルフルな部分は、ブラックミュージックから受け継がれていると感じるしね。


−−現在、A Tribe Called QuestのAli Shaheed Muhammadのアルバムも制作中だとお聞きしました。
彼とは何度も一緒に仕事をしていて、『In the Midnight Hour』というアルバムを今年リリースする予定だよ。この作品も、昔の楽曲をサンプリングしたような作品に聴こえるんだけど、実際はサンプルではなく、自分たちで演奏したものを使って、オリジナルを作る作業を実現した。彼とテレビ番組も始めるから、大きな話題になると思うよ。そのためにフルオーケストラを使ってレコーディングしている最中なんだ。あと、最近リリースされたばかりのKendrick Lamarの『untitled unmastered.』で、Ali Shaheedと俺がトラック「untitled 06」をプロデュースしたんだけど、もともとCee Lo Greenの楽曲としてレコーディングしていたものだった。そのときスタジオにいたKendrick Lamarが、「この曲使わせてくれないか?」と頼んできた。まず、俺たちはCee Loのためにこの楽曲を完成させて、その後Kendrick Lamarがこの曲の一部をサンプリングに使ったんだ。

 

 

 
−−Kendrick Lamarの名前が出ましが、ヒップホップやジャズなど、黒人の音楽が大きなムーブメントになっていますがそれについてはどう思っていますか?

すごくいいことだと思うよ。俺は、「1997年にヒップホップを聴くのをやめた」とよく言ってるんだ。97年から現在までに素晴らしい楽曲はたくさんあるけど、音楽的な才能が97年以前とは変わってしまった。今、Kendrick Lamarは、境界線を押し広げている。じつは、俺とAli Shaheedでプロデュースした楽曲が彼のアルバム『To Pimp a Butterfly』に収録される予定だったんだけど、このアルバムにはハマらないって判断で、『untitled unmastered.』に収録された。でも『untitled unmastered.』はファーストアルバムほど売れなかった。ファーストはもっと商業的だったんだ。でも『To Pimp a Butterfly』は多くの人に才能を認識されてグラミーにもノミネートされた。ファーストは彼をセレブリティーにし、『To Pimp a Butterfly』は彼をスターにした。商業的ヒットを記録したファーストと違って、この作品は永遠に残るはずだよ。

−−Bilalのアルバム『In Another Life』もプロデュースされていますよね?
Bilalには『In the Midnight Hour』に参加してほしかったんだ。スタジオに入って1曲だけ作る予定が14曲できちゃってさ(笑)。だから彼のアルバムを作ったんだよ。

 

 

 
−−映画『Black Dynamite』(2009年)のサウンドトラックも担当しましたね。

この映画は編集も担当していて、その流れでトラックも作った。監督のScott Sandersは仲のいい友人で、俺、Scott Sanders、主演のMichael Jai Whiteの3人で資金を集めて映画を作ったんだけど、それが俺らの人生をガラッと変えたね。日中は映画を編集して、夜は音楽を作っていたし、当時はこのプロジェクトが生活の一部になってたよ。

−−この監督の映画のサントラを作ってみたいと思ったことはありますか?
『Something About April II』に収録されている「Hands of God」という曲を、RZAと俺でリミックスしたんだけど、タランティーノの最新作『ヘイトフルエイト』で使ってほしかったんだ。でも、タランティーノに渡した時には締め切りが過ぎていたんだよ……。でも、みんなに聴いてほしかったから「The Hateful Eight」を見に行くためのキャンペーンの一環としてネットで公開しているよ。
https://soundcloud.com/linearlabs/hands-of-god-feat-rza-karolina-and-laetitia-sadier-remix

−−音楽史において、黒人の方たちは素晴らしい音楽を残してきました。これからも新しい世代に良質な音楽を伝えていってほしいと思っています。
ブラックミュージックは世界中のポピュラーミュージックの核と言えると思うんだ。音楽のソウルフルな部分は、ブラックミュージックから受け継がれていると感じるしね。今こそ前に進むために、過去を振り返る必要がある。現代では、本来ブラックミュージックが持っていたサウンドの裏にある教養が失われ、それによって音楽の質も下がっていると思うんだ。俺は、質のいい音楽を聴きたいと願う人たちのために音楽の質を向上させることを役目だと感じている。世の中のほとんどの人が俺のやっていることなんて眼中に無いだろうけど、なかにはこだわりを持って音楽を聴いている人たちがたくさんいる。俺はそういう人たちに向けて直接音楽を届けたいんだ。アーティストとして、他人の心を動かすようなものを作ることが好きだから音楽を作り続けているしね。自分自身が感動したいし、それが人々の感動に繋がればいいと思ってるよ。