写真は左からTakao Ito(TRI4TH)、Hikaru ARATA(WONK)、Ryo Kishimoto(fox capture plan)
取材・文:Yanma(clubberia)
撮影:Satomi Namba(clubberia)
取材協力:宇田川カフェ
日本最大級のジャズフェスティバル「東京ジャズ」をご存知だろうか? 2002年から開催され、昨年には15回目を迎え、動員数はなんと約8万人! これまでにHerbie HancockやChick Coreaといった超レジェンドたちも出演し、歴史、規模において日本最高峰のジャズフェスティバルだ。そんな「東京JAZZ」が開催地を丸の内エリアから渋谷エリア(NHKホール、WWW/WWW X、代々木公園)へと移し、今年は9月1日、2日、3日に開催される。渋谷といえば、ユースカルチャーの中心地。編集部としても、この機会にジャズやジャズを土台とした新しい音楽を紹介できたらと考え、同フェスのWWW/WWW Xの出演者であるTRI4TH、WONK、fox capture planといった人気バンドのメンバーに集まってもらい、ジャズの魅力や東京JAZZについて語ってもらった。
人気バンドの屋台骨
3人の音楽的バックボーン
——3人でお話するのは初めてですか?
Kishimoto:伊藤さんとは付き合い長いけど、ARATA君とは最近話したばかりだよね。
ARATA:でもゆっくり話したことはなかったですよね。
Ito:ARATA君とは今日が初めてなんですけど、WONKが去年デビューアルバムをリリースした時、TRI4THのアルバムとリリース日が一緒だったんですよ。
ARATA:そうなんですか!?
Ito:そう。ジャズコーナーで隣にCDが並んでた。聴いて、こんなバンドが同じ日にリリースだったんだって。その時が最初です。
Kishimoto:WONKを初めて聴いて、日本人でこのレベルのことができる人が出てきたんだって思いましたね。
ARATA:ありがたいっす! でも僕らは、決して楽器が上手いわけじゃないですよ。でも、サウンドにおいて、日本に今までになかったもの、というのは自負しています。でも「グラスパー」って言われるので、脱グラスパーを目指して頑張ってます(笑)。
Kishimoto:Robert Glasperは、ジャズが音楽的な素養として土台にあって、その上でR&Bとかヒップホップとか、いろいろな音楽をブレンドしているので、見てきた音楽が近いって感じだよね。fox capture planの場合だとジャズをベースにポストロックとか。ジャズというジャンルだけに拘らずに、リスナーに発信するという気持ちの部分が一緒なのかなと。
——音楽的素養といった部分で、みなさんのバックボーンについて伺わせてください。
Ito:俺は、パンクだったりハードコアだったり、周りにそんなバンドがたくさんいるなかで育ってきました。でも中学生のころはブラスバンド部だったんですけどね。単純にかっこいいと思ってドラムを始めました。それからですね、聴く音楽が変わったのは。
Kishimoto:僕は、坂本龍一さんやMichel Petruccianiとかを聴いてました。ジャズの勉強も高校3年生の頃から始めて。それから大阪音楽大学に進学してジャズの勉強も続けて。
ARATA:「マペット放送局」にゲスト出演していたラッパーのCoolioを見て、小学校3年生の時に彼のアルバムを買って。それから、いろんな音楽を掘るようになりました。ドラムを始めたのは、小学校5年生の時にSteve Gaddの演奏を聴いて衝撃を受けてから。で、Steve Gadd周辺のミュージシャンを掘っていきました。Chick CoreaとかMichel Petruccianiとか。勉強はジャズでして、趣味はヒップホップ。とにかく、いろいろ聴いてました。
Kishimoto:誰かに習っていたわけではなくて?
ARATA:独学です。野球部だったので習う時間がありませんでした。小学校1年生から高校3年生まで野球しかしていなかったので。
——野球ですか、意外ですね! Itoさんは大学でクラシックの勉強もされたんですよね?
Ito:ドラムに関しては独学だったんですけど、大学でティンパニとか、いわゆるクラシックの打楽器をやってました。
——バンドではパンクをやりつつ、大学ではクラシック。対極ですね。
Ito:大学で学んだとを如何にドラムセットで再現できるのか? ということを考えて、パンクバンドに落とし込んでました。全部矛盾してるんですよ。いかに綺麗に音を出す方法を習っておきながら、結局、意図的に汚い音を出してるっていう(笑)。
Kishimoto:師匠的な存在は、いないんですか?
Ito:卒業して上京したときに、ちゃんとドラムを人に教わりたいと思って。そこで初めて師事したんです。そのときについた師匠、小山太郎さんがジャズドラマーだったので、それでジャズを聴くようになりましたね。
ARATA:なんでまた、まったく違う畑の師匠に就くことになったんですか?
Ito:何も知らずにドラムで食っていくのは無理だろうと思って、打楽器の師匠に相談したんです。師匠に、ジャズビブラフォンのお弟子さんを紹介されました。そのお弟子さんのライブを観に行ったときに、ドラムを叩いていた人が小山さんだったんです。それで紹介してもらって。これが初めてジャズクラブ体験だったんですけど、ピアノを弾いていたのがスガダイローさん。それが衝撃的でした。「これはジャズっていっていいのか?」と思うほど、とにかくピアノが激しかったんです。打楽器みたいに弾いてる。ジャズとしてというより、音楽的にカッコイイなと思ったんですね。
——お二人は、初めて観たジャズのライブって覚えてますか?
Kishimoto:覚えてますよ。俺は高校1、2年生の頃に観た小曽根真さんのライブでした。アルバム『3 wishes』のツアーで、京都のRAGっていうジャズクラブに行きました。あとは土岐英史さんとか山下洋輔さんとかを、よく観に行ってました。
ARATA:僕はMcCoy Tynerのビッグバンドですね。小学校6年生ぐらいの時にBlue Note Tokyoで。演奏はまったく覚えてないですけど、衝撃でした。音のデカさが特に。それぐらいの年齢で、ライブの爆音を聴く機会ないじゃないですか。
Kishimoto:小学校6年生でBlue Noteってやばいね。
写真は左から、Hikaru ARATA(WONK)、Ryo Kishimoto(fox capture plan)、Takao Ito(TRI4TH)
クラブジャズ、西海岸、Suchmos
馴染んでいくジャンルの境界線
——Kishimotoさん、Itoさんは30代で、ARATAは20代。ジェネレーションギャップも正直あるかと思います。ちなみにARATAさんは、クラブジャズって通ってきました?
ARATA:申し訳ないですが、僕はまったく通ってきてないですね。でも同世代にクラブジャズが好きな人はいますよ。
——私も30代なので、クラブジャズは聴いてきた世代です。それこそ2000年前半頃でしょうか。
Kishimoto:俺もKyoto Jazz Massiveだったり、Mondo Grossoだったり追ってましたよ。クラブジャズって踊れるイメージですが、メロディが印象的な楽曲が多いので好きでした。京都にMETROっていうクラブがあって、沖野好洋さんがよくイベントをやっていて。毎月誰かゲストを呼んだりしていて、それがSOIL & "PIMP" SESSIONSだったり、SLEEP WALKERだったり。SLEEP WALKERの吉澤はじめさんが、めちゃくちゃかっこよくて。JABBERLOOPに誘われたときぐらいの時期だったので、すごく影響を受けました。最近はクラブジャズブームのさきがけとなったアシッドジャズ的なものが再注目され、嬉しいですね。ずっと聴いてきた音楽なので。
——WONKのメンバーの方って、DJとかされますか? 先日あるパーティーでクレジットが出ていて。
ARATA:僕はしますね。ベースのINOUEもたまに。
——選曲は?
ARATA:僕はビート系。Stones Throw Recordsとか、西海岸のビート系が一番好きなので。
――西海岸ってジャズシーンでも話題に事欠きませんよね。それこそKamasi WashingtonやThundercat。西海岸のシーンは、ほかと何が違うと思いますか?
ARATA: Stones Throw Recordsの存在は、かなり大きいと思います。ジャズにしても、西海岸の音楽って結構ビートと混ざり合ってるんですよね。
Kishimoto:Flying Lotusも西海岸だよね。
ARATA:彼の存在を作ったのはStones Throw Recordsだったり、同レーベルに所属してたJ Dillaだったりするんですよ。Flying LotusってもともとStones Throw Recordsにインターンしてた。当時のFlying LotusってJ Dillaのコピーって言われてたので、それで「お前は、うちにはいらない」って言われてから独自路線に進むようになって、レーベルを立ち上げたんですよね。なので、源流のStones Throw Recordsは、でかいと思います。
ーー自分たちが活動している日本のシーンに感じることってありますか?
ARATA:僕らの方は、市民権を得始めたのかなと思います。ブラック感が強めの音楽が。Suchmosの影響だと思うんですけど、でも表層的になりすぎるような怖さも孕みつつ。例えば、フリースタイルダンジョンを見て、ラップを表層的に捉えるリスナーが増えてくるっていう怖さ。これはしょうがないことですけど。
Kishimoto:日本のフェスのラインナップを見てても、変わってきた感じはありますね。2、3年前まで独自性のあるバンドが台頭してたのに、シティポップテイストのアーティストが増え出して。
ARATA:Suchmosはうまい具合にJ-POPが混ざってますよね。Jamiroquaiとは言われているけど、日本のロックバンド感も備わりつつ。
Ito:TRI4THは、今日の3組のなかで唯一ホーンセクションがいるバンドなんですけど、個人的にはホーンがいるバンドのシーンは、元気がないように感じています。フェスのラインナップを見てても見事にホーンバンドがいなかったりする。俺らは今、意図的にブラックミュージックじゃない感じでやってます。ブラックミュージックのシーンができつつあるのは感じるけど、そのなかで自分たちがどうやっていけばいいのかという課題は抱えてて。自分たちの後に続きたくなるような、若い世代にそんな背中を見せれたらいいですね。
写真はHikaru ARATA(WONK)
3人にとっての東京JAZZと
今年見るべき出演アーティスト
——みなさん「東京JAZZ」には、どのようなイメージを持たれていますか?
ARATA:それこそ小学生くらいの時からNHKで放送されてるのを見ていたので、ヒーローが出てるイメージしかないですね。テレビのなかの人だったり、CDのなかの人だったり。だから自分たちが出演する実感がわかないです。
Ito:今年で16年目なので、TRI4THが結成11年だということを考えると、ジャズをずっとやってきたメンバーからしたら、自分たちがまさかその舞台に出られるとは、想像もできなかったでしょうね。
Kishimoto:今や日本を代表するジャズフェスですからね。去年は東京国際フォーラムに出演したんですけど、5000人ぐらい入っていたので、すごく緊張しましたよ。今年のラインナップもすごいですよね。
——みなさんが出演するのはWWW/WWW Xですね。
Kishimoto:今年から渋谷に移ってスタンディングスタイルに変わりましたからね。ジャズクラブを代表するBlue NoteもBillboard LiveもPit innも座って観ますからね。海外のジャズフェスではスタンディングもよくあると思いますが、新しい試みなんで、楽しみですよ。
——出演者のなかで特に観たいアーティストは?
ARATA:Cory Henry! 彼の圧倒的な演奏力と表現力、それに尽きますね。あとはChick Coreaも!
Kishimoto:Cory Henryは俺も観たかった。時間被ってるんですけど…。何でそういう発想になるのかな、っていうキーボードソロが本当にすごい。
ARATA:ソロ、ヤバイですよね。
グラミー賞も受賞するスーパーバンドSnarky PuppyでのCory Henry。4:23〜8:15までの彼のプレイは必見。
Kishimoto:Chick Corea & Gonzalo Rubalcabaもヤバイですけどね。あとは、GOGO PENGUIN。
Ito:俺もGOGO PENGUINを生で観てみたいと思ってた。出演時間が被ってて観れませんが(笑)。
——例えばItoさんがGOGO PENGUINを楽しみにしているのは、ドラマーの視点からでしょうか?
Ito:いや、単純に音楽が好きですね。フレーズとしての技術が、横の流れがある音楽だと思うし。作品の世界を生でどのように再現するのか気になります。
Kishimoto:僕もそうですね。アメリカのジャズだと例えばドラムがイニシアチブを握っているな、と聴いていて感じることがあったりしますが、ヨーロッパだと音楽をトータル的に聴かせるイメージがありますよね。
ARATA:クラシックの素養がヨーロッパの方が根深いからか、ビートに寄らない音楽な気がします。
全員20代のトリオ。ジャズをベースにAphex TwinやUnderworldといったエレクトロニックミュージックや現代音楽、ロック、ダブステップなどの音楽からの影響をミックス。
Kishimoto:あとは、山下洋輔さんのバンドに菊池成孔さんが出るので観に行きたいですね。
——では最後に、今回ラインナップされてないけど、今後「東京JAZZ」に、この人を呼んでほしい! と思えるアーティストを挙げてください。
ARATA:今度WWWXに来ますが、シカゴ出身のNonameっていうラッパーは、ジャズではないですがスムース系でオススメです。
Kishimoto:E.S.T.っていうピアノトリオがすごく好きで、ピアノの方は亡くなってしまったんですけど、残った2人でproject e.s.t. symphonyというのをやっています。あと、ジャズからは離れますけど、D'Angeloとかですかね。
ARATA:それがOKならKendrick Lamar呼んでほしいですよ! こんなに協賛ついてたらきっと大丈夫ですよね(笑)。彼の『To Pimp a Butterfly』はジャズメンで構成されたアルバムでしたし。そしたらThe Rootsも呼んでほしいですね。収集つかなくなってしまいますね(笑)。
Ito:ホーンバンドで考えてるけど出てこない…(笑)。
ARATA:Jeff Bradshawってご存知ですか? グラスパーとかと一緒にやってるトロンボーン奏者で、ネオソウルっぽいことやってます。彼もオススメですよ!
東京JAZZのフライヤー
出演日情報
WONK出演
9月1日 @ WWW X
TRI4TH出演
9月2日 @ WWW
fox capture plan出演
9月3日 @ WWW X
■第16回 東京JAZZ公式サイト
http://www.tokyo-jazz.com/
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