INTERVIEWS

初期衝動の再燃か!? 二人のベテランが音楽で描いたレトロフューチャー
Fake Eyes Production

取材・文:Yanma(clubberia)
写真:Satomi Namba(clubberia)



「中年2人組による悪あがき!?」
 DJ MAARとShigeoJDによるユニットFake Eyes Production初のアルバムリリースを知らせる資料には、そんなユーモラスなコピーが謳われていた。お互いに40代ということもあり世間一般的には、たしかにいいオヤジかもしれない。しかし、男としてまさに脂が乗った時期とも言える。そのなかで彼らはアーティストとして、どのような状況にあるのか? DJ MAARに話を聞いた。



不完全なものにこそ、魅力は宿る

——作品のコピーが「中年2人組による悪あがき」とあったので、この作品は若い世代にはできない、2人の原体験を投影したアンサーなのかと思いました。作風も良い意味で荒くて。
 
世代間のことは考えてなくて、結局のところ、俺らは80年代、90年代のレトロフューチャーが好きなんじゃないかって。未来には憧れていたけど俺らの憧れていたのは、人類が進もうとしてるギラギラした未来じゃなくて、ロボットに対してもエラーを求めるくらいの。現代は優秀過ぎて、僕らは辛いです(笑)。
 
——未完成なイメージってことですね。
 
整い過ぎているものって印象に残んないんですよね。ラフなものをそのままパックするってことが、自分のやりたいことだったし。ヒューマンエラーもパックしちゃえっていう。むしろヒューマンエラーにこそ、オリジナリティがあるんじゃないかって思ってて。未完成のものって、なんか自分の感情が入ってしまいません?
 
——ん〜、例えば何でしょうか?
 
Daft PunkやAphex Twinの最初の作品。新しいけど粗があるみたいな。創作活動における初期衝動ってすごいんです。初期衝動に勝るものはなくて。ハウスも進化しているけど、結局シカゴハウスを聴くと、ボーカルがデカ過ぎたりするし、ズレっぷりもすごかったりするから未完成なはずなんだけど、このオリジナリティは完全に完成されてる。今は決まった小節で音の抜き差しがあって、音圧も一定になってて。すべてが画一的に見えてしまう。同時にパンクってものが、時代とともに死んだんじゃないかって思うんですよ。
 
——Punk is Dead !? ついにきましたか!
 
昔は経済発展に対するカウンターや、人とは違うものを求めた反骨精神があったと思う。今は、生まれたときから、ある程度経済大国だしね。彼らは彼らのなかで、何かに反抗しているのかもしれないけど。
 
それに、もう完全なる世代の分断を感じる。今までだったらロンドンナイトだ、GOLDだ、裏原カルチャーだ、テクノブーム、エレクトロブームがあって。各キーパーソン同士も繋がっていたけど、今は完全に分断化されていると思うもん。今の若い人たちって絶対俺や先輩のことは、さほど気にしていないと思うよ。でもそれでいいと思う。それをおっさんたちが利用しようとしてるのが、浅はかだよね。
 
——なるほど。
 
弟のTaarがいるから若い子たちを見てると、超真面目だと思う。音楽が好きで音楽をやってる。音楽に対して純粋なんだよね。Shigeo君は分からないけど、俺は音楽をツールとして見ている部分もやっぱりある。音楽はもちろん好きだけど、音楽を使って何かをしているわけだし。それに、音楽が大好きって言えない瞬間はあるから。
 
——それって、ある意味音楽に飽きた部分もあるってことですか? 最近、全英テニスで選手が敗北後に「テニスに飽きた」と言ってニュースになっていたのですが、ワイドナショーって番組で、「飽きてからが本当の勝負、飽きてからが稼げる」といった内容のことを話してたのを思い出しました。それに近いのかなと思って。MaarさんはDJとしてのキャリアも長いですし、そう思うことはありますか?
 
飽きてはないかな(笑)。ただ、やること全部やっちゃった感はあるよ。でも、もっと突き詰めたくなってFake Eyes Productionをやってる部分がある。飽きてから頑張ると稼げるのか……でもその気持もわかる。見方を変えたら、許せなかったものが許せるようになることでもあるかな。




アーティストにもサラリーマンにも推奨。時代に合わせた働き方
 
——タイトルが『Let’s GO Heathrow』でしたが、何か意味があるんですか?
 
イギリスに行くときはヒースロー空港でしょ? これは“ビートルズがやってきた”に対抗する言葉です。じゃあ俺らがヒースローに行くよ、それだけ(笑)。でもこういう人が現代にいてもよくない?ていう話なんです。無理してこういうことを言ってるわけではなく、俺もShigeo君も、こういう思考の人だから。タイトルの1曲目が「Introduction」で、2曲目が「Intro」。そういう人たちなんです。ちょっと心に病気をもった2人組なんだよ。でも、昔ちょっと売れたんです、僕らのことも忘れないでください(笑)。
 
——8曲目「14.10.25」もおかしなタイトルでしたね。
 
たぶんそれは作った日だよ。楽器店でレコーディングしてるんだよね。俺は立ち会ってはないんだけど、Shigeo君が楽器店に行ったらお客さんがピアノを試奏してたんだって。その人が、Shigeo君の連れの女の子めがけて、ずっとピアノを弾いてくるんだって。なかなか止めないから、そのピアノに対して店員がMoogの超デカイ音でブーーって攻撃しているのをサンプリングしたみたい。
 
——新しいタイプのフィールドレコーディングですね(笑)。

話を聞くと酷いんだけど、でも細かいこともアルバムを通じてやってるから。Sonyが初期に出したビデオデッキのベータマックスを買ってサミングしたり。PCから出した音をベータマックスに通して、またPCに戻す。サミングって手法だけど、これをするとデジタル臭さがなくなる。初期のベータマックスって開発に金かかっているのか、音がいいんですよ。抜群に違う。高音質ではないけど、テーブで潰れた音になるし。スピーカーで聴いても面白い音。全然今っぽくはないけどFake Eyesって色はできたなと。カラフルではないけど、ビンテージ感。レトロフューチャーですね。でもそんな音色作りをしてたら、曲を作り出すのに半年もかかっちゃったけど…。あと、作曲のスキルも上がってるから、この作品を、10年前の俺が聴いたら、すごいことやってるなって驚くと思うよ。
 
——今回は配信だけですか?

配信だけ。CDでリリースされようが、配信でリリースされようが、関係ないと思ってる。これがアナログレコードでジャケ付きだったら別だけど。媒体で聴きたい音楽が変わるのってアナログレコードだけなんですよ。この曲はCDで聴きたい、これはmp3で聴きたいってないよね。そこはアナログレコードだけ。
 
——2人のなかで、Fake Eyesにおける共通認識はありますか?
 
普通のものが嫌いってわけじゃないけど、もがきながら何かオリジナルを作りたいって思ってる。それは売れようが売れまいが。それこそ過去に売れるってことに関しては、お互いに結果を残したから、当時と同じことをしててもね…。売れることに対しては、それこそ飽きちゃってる部分なのかな。当時、売れたときに、自分は面白いことやっているか?って見つめて、やってねーなって思ったんだと思う。だから辞めちゃったんだと思うし。
 
言い方は悪いけど、パイを広げるためには劣化させないとだめですよ。マスに落としていくっていうのは、子どもが食べても大人が食べても美味しいってものを作らなきゃだめってこと。でもそれは、悪いことじゃない。俺、最近就職してそれがいかに大変かってことを学んでる最中だから。
 
——ケーブルで有名なオヤイデ電気ですよね。

そう。世界的にも有名だし、社長自体がダンスミュージックに理解ある人だったから。就職したのもけっこうな決断だったけど、なかなかそんな人生を送っている人もいないし。でも音楽的に繋がってるし、もし俺が社会人として何かドーンってやったらDJの価値あがるじゃんって思ってる。いろんなことを踏まえて、いろんな想いはありますが、なんだかんだ楽しんでやってます。
 
——サラリーマンになってみていかがですか?

サラリーマンの生活なんてって感じで生きてきたけど、実際にサラリーマンをやったら、今は世の中で一番すごい職業だと思ってる。昼に外を歩いていても思うし、満員電車に乗ってる人の表情を見てても思う。日本における大多数がそういう人たち。俺もその中の1人なんだけどね。でも、アーティスト活動一本でやっていく人は減ると思いますよ。それはしょうがないから。
 
——それはなぜ?

結局日本だから、食えないし。ある程度リスクヘッジをして音楽やんないと。昔は、それを変えたいと思ってDEX PISTOLSのときにインフラを作ろうとしたんだけどね。レーベルとかマネージメントとか。結局上手くいかなかった。
 
サラリーマンもそうなってくると思うんだよね。もうひとつくらい仕事がないと、世の中がどうなるかわからないし。ほんとそんな時代になると思う。だからいかに自分の可能性を広げるかってことを、やっておいたほうがいいと思うんだよね。今、ちょっとだけいい話したっぽいすよ(笑)。



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