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レーベルSnork EnterprisesのボスSyntax Errorが言う「音楽で生計を立てないという選択」

取材・文:Norihiko Kawai
翻訳:Kumi  Nagano
写真:Snork Enterprises
  

 ドイツのアンダーグラウンドテクノシーン重要レーベルとして、地道にリリースを重ねるSnork Enterprisesを運営するSyntax Errorが初来日を果たす。今回は昨年11月 にリリースされたレーベル90番目のE.P. 『I Bought Myself A Party』を記念してのツアー。これまでに多数の日本人アーティストと交流を図ってきている彼に、ツアーへの意気込みやDJ活動とレーベルコンセプトについて話を聞いた。
 
 


 
作品タイトルには問題提起が。最新作は『I bought myself a party』(自分のためにお金を払ってパーティーを買った)

——あなたのレーベルSnork Enterprisesについて、教えてください。
 
Snork Enterprisesのメインカラーはブラック&イエロー。この強い色のコントラストは、Snork Enterprisesの音を表現している。ヘビーなベースの効いたテクノで、メインストリームのエレクトロニックミュージックとは対照的な音。ベース音は正しく使えば、強力な楽器にもなるし、曲に音圧を与えてサウンドをよりダークなものにしてくれる。緩急をつけながら徐々にビルドアップしていき、期待感をあおっていく。ジリジリとするようなマッドさ、それがSnork Enterprisesのレーベルカラーだよ。Soundcloudを聴いてもらえると、どんな音か伝わると思うよ。




——日本へのツアーは初めてですが、どのような気持ちですか?
 
正直言って、夢が叶ったという感じ。この15年間、日本に行ってプレイしたいとずっと思っていたんだ。学生時代はお金がなかったし、働き始めてからはなかなか時間がとれなかった。もう何年も前になるけど、ディストリビューターのNeutonで働いていた当時は日本の担当で、頻繁にやりとりしていたから日本への興味も大きくなった。仲間のアーティストたちから日本の話もよく聞いていたし、2009〜2014年にかけて日本でSnorkの レコード売上も好調だったよ。レーベルアーティストであるJens Zimmermannは「地球のほぼ裏側にあるレコードショップで、Snorkのレコードにお目にかかれるなんて最高だね!」と話してくれたけど、実際に自分が行けることになって本当に嬉しい。Dommune やContact、Magoへの出演、3月3日の東京Kgrnでは、SnorkのサブレーベルRelax2000 RecordsからリリースしているSpanglemanとも共演するんだ。
 
 
—— ニューリリースE.P.「I bought myself a party」について教えてください。ツアーのタイトルにもなっていますが、面白いタイトルですね。
 
いつもタイトルには社会や政治のこと、自分がある出来事をどう捉えているかを込めるようにしている。とくに「これってどうなの?!」と問題定義したいことを含めることが多い。以前にレーベルパーティーを失敗した経験を、今回のEPのタイトル『I bought myself a party』(自分のためにお金を払ってパーティーを買った...)にしたんだ。パーティーオーガナイザーなら、誰でもそんな経験があるだろうし、時に上手くいかないことがある。それに対してなす術がないこともあるけれど、上手くいかないことは悪いことじゃない。それが人生だし、それが生きているってこと! このタイトルにはそういった思いを込めたかった。 
 
ここ数年、テクノシーンを取り巻く環境が目まぐるしく変わったけれど、それを比喩的に込めたタイトルで今回のEPを製作した。まず、2曲目「Collateral Cosmopolitan」(横並びの国際人)は、みんな特別であろうと躍起になった結果、却ってより似たり寄ったりになってしまっている状況。3曲目の「I Wear My Grandpa's Glasses」(おじいちゃんのメガネをかけて)は、最近たまに見かける異様な誇大広告について。昔からずっとあるものなのに、あたかも最新の流行りものだと扱っている。オリジナルへのリスペクトなんて全くなしにね。4曲目の「Society Bathysphere」(社会へ潜り込む装置)は、インターネットやソーシャルメディアが作り上げた「表の顔」について。裏にある実像が違っていたとしても、それはネット上では分からない不確定なことだから、表の顔だけが一人歩きすることもある。そして1曲目の「No Fog is No Solution」(迷わなければ、答えはでない)は、枠にハマりきった人をテーマにしている。例えばパーティーで、誰の目を気にしているの? 汗かいて踊りまくって、時に大声出してクレイジーになったっていいじゃない? ってね…。自分にとってのテクノはパーティーカルチャーと常に共にあり、自由に踊れる楽しいもので、日常から解放してくれる。最近、テクノが真面目になり過ぎているように感じる。マーケティングやソーシャルメディアも完璧で、商業的な面が大きくて、テクノDJの魅力が半減してしまったように思う。間違えることを恐れて、全て完璧に準備しようとした結果、楽しむことを忘れてしまっている。でも、テクノは基本的に楽しむものでしょ? だから今回のリリースには「自分の思う道を行こう」というメッセージを強く込めている。リスク覚悟で新しいものを取り入れる、失敗を恐れていたら見えないこともあるからね。



「幸いにも他の仕事で生活できているから、自分のレーベルでは本当にやりたいことをやるのみで、市場に合わせる必要はないんだ。」

——どのような機材環境でトラックを製作していますか。
 
シンセやドラムマシン、グルーブボックスなどのハードウェアとソフトウェアを組み合わせて制作している。ソフトウェアはPropellarheadのReasonがお気に入り。ライブではよりダーティーな音を表現したいので、ハードウェアを使っている。以前は、KorgのElectribe EMX Sampler、Roland JP2000、Jomox X-Base 09を愛用していた。


——自身のDJスタイルに関してのコンセプトを教えてください。
 
流行に流されず、自分が好きなトラックをセレクトするようにしている。もちろん、クラブやパーティーの雰囲気、フロアの様子を読み取って選曲するけれど、自分のテイストでオーディエンスと対話しようと心がけている。その時々の気分やシチュエーションも違うから、パーティーの度にレコードを選び直してバッグに詰め替えている。出音によってオーディエンスに違う体験をさせられるので、レコードでプレイするのは大事だと思っている。レコードでDJする感覚も好きだしね。レコードをバックに詰める時、今回はどのレコードを持って行って、どんなスタイルを作り上げようかを考えながらレコードを選ぶのは楽しいよね。あと、レコードを買うときの意外性も好き。A面がお目当てで買ったレコードのB面がすごい名曲だったりすることもある。ただ、遠隔地でのプレイの場合は持っていけるレコードの数も限られてしまうので、最近はデジタルも組み合わせてプレイしているよ。
 
—— DJを始めるきっかけになった出来事はなんでしょうか?
 
16歳の時に聴いていたラジオで、ドラムンベースとテクノが流れていたのがきっかけかな。すぐに父親からターンテーブルを借りてレコードを買い漁った。ラジオで聴いたDJセットが忘れられなくて、DJミックスの練習を始めた。その頃から、Neil Landstrummは僕の中でヒーローだったよ。あと、17歳の時にベルリンのTresorに行くチャンスがあって、脳ミソを吹っ飛ばされるような体験をした。そこに個人的な熱い思い、テクノへの原点がある。

——レーベルのグラフィックワークも面白いですね。
 
音楽やタイトルにフィットするアートワークを選ぶようにしているのと同時に、ちょっと挑発的な要素も含めるよう意識している。巷には音楽そのものよりアートワークに力を入れている作品もあるけれど、Snorkはそうなりたくない、音楽が最優先事項。だから、アートワークは荒削りなものが多いかもね?
 
——今までレーベルには日本人アーティストが関わっていますね。このようにドイツと日本との交流が音楽で深まる事に関して、どのような意見をお持ちですか?
 
遠く離れたこの2つの国は文化も習慣も異なることが多いけど、テクノという音楽で考えてみると、共感することが多いように思う。日本からドイツへアーティストを何度も招聘したことがあるけど、その時に強く感じたのは「テクノという音楽を通じ、距離や文化を超えて喜びを分かち合えるんだ」ということ。レーベルで日本人アーティストをリリースする前、Fumiya Tanakaや、Dj Shufflemaster、Takkyu Ishinoをドイツでみる機会があったけど、とても個性的で印象に残った。テクノは常に進化し続けていて、音楽的にもテクノロジーの面でも革新的なものだと思うから、そういう点でも高いテクノロジー技術を持った日本はテクノと相性が良いと思う。
 
—— 2006年からレーベルが続いている秘訣は、あなたの音楽センスに人柄、地道な努力と熱意、素晴らしい仲間と少しばかりの運、これ以外に何かありますか?
 
先にも述べたように「音楽で生計を立てない」という選択は大きいかな。そのおかげで、レーベルは本当に好きなコンセプトを追求しているし、トレンドに迎合する必要もなかった。これが長く続けられている大きな理由だと思う。音のセンスが少しマニアックなことで大変な時もあるし、自分のやっていることを疑問に思った時期もあった。でも何事にも良い時も悪い時もあるし、マニアックさは個性と捉えている。そのおかげで、自分の作品を認めてくれる仲間や理解者を多数得ることができた。彼らの存在があることで「自分のやっていることは、これで良い」と再確認することができたんだ。


——レーベル発足時と現在でコンセプトは変わりましたか?
 
音楽自体は少しずつ変わってきたけれど、基本コンセプトはずっと変わっていない。最初の頃から一貫して「自分の好みの音のスタイルでいこう」と決めていた。だからコンセプトを保とうと意識的に努力する必要はなかったし、トレンドに合わせようともしなかった。アンダーグラウンドなレーベルだから、メインストリームに相反したって良いんだ。反逆的で、本物でウソ偽りがない、それは自分にとってのテクノそのもの。幸いにも他の仕事で生活できているから、自分のレーベルでは本当にやりたいことをやるのみで、市場に合わせる必要はないんだ。



——レーベルの今後の展開を教えてください。
 
原点に戻ってNormanやNeil Landstrummなど、これぞSnork Enterprisesというアーティストのトラックをリリースしようと思っている。ホームページは随時更新しているから是非チエックしてほしい!
http://www.snorkenterprises.com/
 
 
 
 
今回のインタビュー用に各アーティストからコメントが寄せられた。
 
Mathias Schaffhäuser  (Ware / GER)
「Snork Enterprises はメインストリームとは対極にある数少ない貴重なレーベル。アートとアーティストの個性がそのままレーベルのコアとなっている。」
 
Neil Landstrumm (Rave or Die, Tresor, Planet Mu / UK)
「Snork Enterprisesはレコードのリリースに関していうと、真っ白いキャンバスのようなもの。レーベルは、常に新しいアイデアを持っていてオープンマインド。コアなミュージックラバーが耳を傾けるユニークなEPを作り上げているね。」
 
Haruyuki Yokoyama (Snork Enterprises / JP)
「Snork Enterprises はワン&オンリーの本物のテクノレーベル。いつも音のクオリティが保証されている。自分にとってのホームレーベル。」
 
Spangleman (Bosconi Records / JP)
「自分にとってSnork Enterprises は、伝説的なプロデューサーと新しい才能が共存できるプラットフォームのようなもの。」
 
Ditch (op.disc /JP)
「長いことSnork Enterprisesとは良い関係にあるんだ。いつもこのレーベルとの仕事はすごく楽しんでいるよ!。」