INTERVIEWS

国内初のテクノ・リスニングバー「TechnoBar dfloor」
音響やコンセプトのこだわりに迫る

取材・文:Norihiko Kawai 

 日本を代表する繁華街で、商いの都として知られる大阪は梅田に国内初のテクノ・リスニングバーがあるのをご存知だろうか。一般的なリスニングバーで流れている音楽といえば、ジャズやクラシック、R&Bにロックなどが主流だが、ここのお店はテクノの再燃をコンセプトとし、テクノのみ。お店の内装にはバーカウンターにおもむろに置かれたローランドTR08の実機やTB303の回路からヒントを得た壁のデザインなどが特徴だ。好きなものに囲まれているという観点からか、テクノ好きのみならずとも不思議な居心地の良さを醸し出している。そんなTechnoBar dfloorのオーナーYaMaOさんに質問を投げかけてみた。



――お店をオープンした経緯や店名の由来を教えてください。

高校2年生の夏に、クラスメイトがHardfloorのCDを貸してくれました。アルバムのタイトルが『Respect』。最初は馴染まないと思っていたのですが、聴き続けているうちに8曲目の『Mustard Cornflakes』にハマってしまいました。それをキッカケにクラブ通いがスタートし、その延長線上に音楽バーもありました。

バーの魅力にも取り憑かれ、いつしか自分も店を開きたいと思ったのがきっかけです。ダンスミュージックであるテクノを踊らずにリスニングするバーというコンセプトについては、行きつけのマスターと話をしているうちに思いつきました。

店名の由来については、前述にもあるように最初に聴いたテクノがHardfloorだったので、そこから引用させていただきました。ちなみに、彼らに“ドフロアー将軍”というあだ名を付けたのは石野卓球氏です。


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現在スタッフは何名いますか。

2015年5月5日のオープンからトータルで3名のスタッフが在籍していました(テクノミュージシャンも在籍しておりました)。現在は私ともう1名のスタッフYMP(ユミッペ)です。彼女はテクノ好きで、イベント開催時に人や案件をうまく繋ぎ合わせてくれる重要な存在です。

 
 ――
通常バーといえば、さまざまなジャンルの音楽が聴けるのも魅力だと思います。テクノのリスニングバーということですが、本来はダンスするために創られたテクノをバーで心地良く聴いてもらうために、どのような音響へのこだわりを施しましたか。何か参考にしたリスニングバーやベニュー等はありますか。

私の考えですが、テクノリスナーはテクノのみにこだわることが多く、テクノのみを聴くことが幸福感となる場合が多い気がします。テクノを筆頭とするダンスミュージックは、通常大きい音で鳴らしてこそ低音等を発揮するものです。

しかし、コミュニケーションがしっかりとれてこそ“BAR”だとの信念を持っていますので、当店ではきちんと会話のできる音量を保つために、音響にはとてもこだわりました。

横浜のアフロオーディオ所属のオーディオコーディネイターとオーディオマニアの友人を交え会議を行い、200Vの電源工事から始め、アンプも同所にて数台聴き比べ、真空管のマッキントッシュに至りました。

スピーカーについては、渋谷のRock oNにて各社聴き比べを行い、デザイン性と音域を発揮出来るADAM社の製品を選定しました。元々、テクノアーティストが作曲の際にモニタースピーカーとしてADAM社の製品を使用していることも多いため、アーティストの想うそのままの音をリスニングできると確信しました。

ちなみに最後まで迷ったのは、ジェネレック社でした。当店の機材リストは以下のリンクから確認できます。
https://techno-bar-dfloor.osaka.jp/about/equipment-sound-system/

参考にさせていただいた音楽バーは以下となります。
- Night in gale
- 代々木ミュージックビレッジ
- Spincoaster Music Bar
- BAR MARTHA
- 渋谷Bridge
- Womb(音響について)
- Circus Osaka(音響について)
- Rock Rock
- Bar JUNIPER
- アイアンフェアリーズ
- 裏窓  

また、私個人のインスタグラム上で全国の音楽バーのみを回るという企画をやっていますので、こちらも是非チェックしてください。
ID: dfloor_yamao https://www.instagram.com/dfloor_yamao/


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バー の重要な要素であるお酒へのこだわりも教えてください。どのくらいの種類のお酒を取り扱っていますか? また、おすすめのメニューを教えてください。

お酒は現在、約250本を用意しています。カクテルは、オリジナルカクテルからテクノ系カクテルも取り揃えております。一番の推しはジンで80種類以上揃えています。ロックにジャックダニエルのように、テクノにはジンを推奨しています。

当店のカラーである、ブラック&シルヴァーを意識した真っ黒い薬草系カクテル・dgloor(ドグロアー)、電気ブランとファンタグレープをレシピとした電気グレープ(一番人気)。その他には、マニアックですがR&S(ラム&ソーダ)、Rising HighBall(ライジングハイ)など、テクノ系のレーベル名をもじった商品や、フードにはAphilex Twin(エイヒレ2枚)やRicotta Hawtin(リコッタチーズ)などのデジタル駄洒落なアイテムも提供しています。 




――
日本においてテクノは歴史もあり、クラブミュージックシーンでは人気のあるジャンルで、着実に人々に定着してきていると思います。「テクノの再燃」を仕掛けるミュージックバーとありますが、どのような観点からのコンセプトなのでしょうか。

こちらの「テクノの再燃」というコンセプトですが、私が高校生だった1996年当時、石野卓球氏を筆頭にソニーミュージックが甲殻機動隊とタイアップし、日本全国にテクノの一大ムーヴメントを起こしました。「Fuji Rock」、「RAINBOW 2000」、「Metamorphose」、「ナチュラルハイ」、屋内フェス「WIRE」などのビッグフェスにおいてもテクノがメインコンテンツとなっていました。

しかし、2000年に入り、ブームの終息、ダンス禁止法による業界のシュリンクやドラッグ問題により、テクノの盛り上がりが当時とは全く別のものとなったと感じました。当時のテクノ好き(現在のアラフォー世代)が今もクラブを楽しんでいて、若い世代への新陳代謝が行われていないように感じます。

そういった経緯を持って「テクノの再燃」を意識しています。あの頃のようにヒップな若い人達が集まる場所。音好きが集まる熱い夜。そんな空間をまた見たくて仕方ありません。国内におけるテクノの位置づけとしての再燃を意識しています。


――
テクノの再燃と合わせて、大阪のテクノシーンと日本のテクノシーンについてはどうお考えですか。また大阪シーンの中でのTechnoBar dfloorさんはどんなお店としてシーンと関わっていますか。

TechnoBar dfloorとして、さまざまなイベントを30数回打ってきた実感ですが、海外DJのギャラ感などを加味してシーンのことを考えると、不採算のイベントも少なくないと思います。90年代当時、海外アーティストの中には、交通費と宿泊費のみで来日してくれたDJも少なくありませんでした。その点から考えると、現在の国内シーンは採算を考えた運用が難しい状態ではないのかと思います。有名DJが来日したとしてもフロアがさみしいこともありますよね 。

大阪のシーンについてですが、日本の中で考えると、テラス席で笑い話や漫才じみたことをする人が多いかもしれません(笑)。それはさておき、東京と比較した場合、アンテナの高い人の割合が少ないのか、東京で前売りが完売するアーティストでも、大阪ではボーダーライン割れによって来阪キャンセルも少なくありません。 

大阪シーンにおいて当店は、クラブに行く前の布石的な存在と考えています。テクノは聴きたいけれど、クラブに踊りに行ったり、オールしたりするのは疲れるというお客さんが来られます。地方や東京、海外からもご来店いただいています。大阪のテクノ好きであれば存在を知らない人はいないと言って下さるお客様も多いです。今後はテクノ・メディアとしての役割も担えるようなお店を目指しています。TechnoBar dfloorが発信するパーティーやテクノは間違いないと思っていただけるような。それに向けたプロジェクトDYOT(dig your own TECHNO)を昨年始動しました。 
https://technomovement.club/




――
テクノにそれほど詳しくないお客さんが来店した場合でも楽しめるような工夫はしていますか。

常に意識をしています。時事問題や私自らのすべらない話(スマホのメモ帳に27話保存しています)の提供なども心掛けています。テクノの話のみをご希望される方には、私が隣に座り、他のお客様を巻き込まない工夫もしています。あとは、カウンターのコースターに仕掛けがありAir Macを使用してテクノを流したり、店内にRoland808が設置してあるのでお客さんが演奏を楽しんだりと、テクノに直接触れる機会を設けています。あと、サーキットベンディングのピカルミンなども用意してあります!


――
お店に来店したアーティストさんの面白いエピソードなどあれば、教えてください。

今までにHardfloorやMarcel Dettmann、Mijk Van Dijk をはじめ多数のアーティストさんが国内外から足を運んでくれています。ホームページにまとめてありますのでチェックしてみてください。
https://techno-bar-dfloor.osaka.jp/about/photo-gallery/

エピソードについては、Hiroshi Watanabe a.k.a Kaito氏が当店の一日店長イベントをしてくれた時に2時間のプレイ予定だったのが、楽しすぎたそうで、7時間もプレイしてくれました。その際に、シェイカーを振り過ぎて冷たすぎるカクテルが出来上がり盛り上がりました。



――
シーンの人々が集うような場所は理想的だと思います。現状、大阪や関西圏のローカルDJやパーティー関係者さんがお店によく来られますか。

シーンの人々が集まるということはとてもありがたいことです。大きな喜びの一つです。関西ローカル・アーティストの来店はとても多いです。また、当店へ通ったのをきっかけにトラック制作やDJ、オーガナイザーとして活動している方、中にはテクノ喫茶を始めた方もいました。


――
現在までにさまざまな国内外のパーティーに行かれていると思いますが、どんなパーティーが思い出に残っていますか。

国内:MIX UP、WIRE、Metamorphose、Electraglide、Fuji Rock、SONICMANIA、WOMB ADVENTURE

国外:Tresor (ドイツ)、Bondi Beach Countdown(オーストラリア)、HIDE PARK FESTIVAL(ロンドン)、Harlem(カナダ)、Full Moon Party(タイ)

どれも楽しかったのですが、国内においては「Metamorphose」がとても印象的でした。テクノを感じるプログレ的音楽性のバンドとテクノの融合は、オーガナイザーのセンスが感じられ、雰囲気も良く、素晴らしいフェスでした。
海外においては、ロンドンの「HIDE PARKFESTIVAL」です。音楽好きが大半をしめており、皆が音楽に集中し、音楽を体で感じている姿が自分にも良い影響を与えてくれ、とても楽しかったです。


――
お店でのパーティー開催などについて教えてください。

当店でのパーティーは大きく分けて2種類あります。
・DTMなどのセミナーやトークを中心とした教育系イベント
・一日店長シリーズ:DJと間近で乾杯したり話したりできるイベント

コンセプトは、あくまでもバーなので交流や学び、そしてトークがあることを前提としています。DJが入りクラブのようにテンション高く乾杯するようなスカっとするイベントは実施していません。その空間はクラブにお任せしたいです。

過去のイベントはこちらにまとめてあります!
https://techno-bar-dfloor.osaka.jp/information/




――
コロナ前後で何か変化はありましたか。

勿論あります。クラブでの当店主催ダンスイベントが開催できていないので、配信企画をスタートしました。トークとテクノと笑いがテーマです!
(IPPONグランプリを意識しております 笑)
https://techno-bar-dfloor.osaka.jp/information/8-29%ef%bc%88%e5%9c%9f%ef%bc%892000%e3%80%9c2300-dfloor-presents-%e3%81%a9techno/


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今後のお店の目標とテクノ・リスニングバーの醍醐味を教えてください。

今後の目標は、配信を通じてYoutubeチャンネルの1000フォロワーをつくり強化していくことです。また、コロナ禍を乗り越えた際に5周年(2020.5/5にイベントをする予定でした)イベントを開催し、テクノの再燃をコンセプトに引き続き活動していきたいです。

リスニングバーの醍醐味は、意識や趣味の近い方が集まりやすいので
友達を作るために絶好の場所だと思います。


TechnoBar dfloor公式ページ
https://techno-bar-dfloor.osaka.jp/
https://www.facebook.com/technobardfloor555/