INTERVIEW & TEXT by AJ (COT)
人気レーベルSacred Technologyに所属し、次々とヒット作を出し続けるOr KopelことFaders(フェーダーズ)。神秘性に富んだ、メロディアスかつサイケデリックなフルパワーサウンドが高い評価を呼び、自身のアーティスト・アルバム『Gathering Of Strangers』がBeatportのサイ・トランス・チャートで1位を獲得。他にもAstrixの楽曲リミックスやRaja Ramとのコラボ作を手掛ける等、数々のプロダクションが巨大な嵐となり、今まさに全世界を揺るがしている!彼の音が織りなす圧倒的なパワーが必ず魂への扉を開いてくれるだろう。
Fadersは7月9日(土)渋谷WOMBで開催されるThe Church of Trance 8th Anniversary Specialに出演予定。唯一無二のFadersサウンドを渋谷一のクラブでぜひ体験して欲しい。
僕が住むベエルシェバは、正式には南イスラエルのネゲブ砂漠で一番大きい街。この美しい砂漠に囲まれて育ったから、自然との繋がりを日々感じてきた。小さい頃はよく砂漠を探索し、そこの動植物や遊牧民族「ベドウィン」について学んだよ。それ以外は、学校へ行って、放課後は外で友達と遊ぶ普通の幼少時代を街で過ごした。ちなみに、僕みたいなミレニアル世代にとっては、外で遊ぶということが稀な印象だけど、僕はたくさんしたんだ。キャンプにだって行ったよ。楽しく、純粋な時期だった。
――家族との一番楽しかった思い出は?
父親と毎週土曜日、サッカー観戦に行くのが大好きだったね。当時、それが一番の楽しみで、平日はいつも土曜日までの日を数えてた。僕たちが愛するチーム「Hapoel Be'er Sheva」(ハポエル・ベエルシェバ)が見れるわけだからね。あの頃、リーグの中ではランクが低く、実際に弱かったけど、それでも応援するのが好きだった。スタジアムに入る瞬間。響き渡る歓声。帰り道の笑顔。たまらないね。
――スタジオにいない時は何をするのが好きですか?
料理が大好きで、スタジオにいないときはキッチンにいるよ!そしてビーガンの方々には申し訳ないが、バーベキューは特にこよなく愛してる。いつも家族や友達のために何かを作ってるんだよね。料理本も真面目に読んでいて、常に新しいレシピを試すようにしてる。ビーフ系が多いかな。最近、スモークグリルを買ったんだけど、これがまた素晴らしい。ゆっくり時間をかけてビーフを焼いていくから、エキゾチックな香りが引き出され、肉の感触も通常とは違う。やろうと思えば、何日もかけてこの辺の知識を増やすことに専念できてしまう。
――音楽以外の、インスピレーションを与えてくれるものがあれば教えてください。
アーティストは常にインスピレーションを探してるからね。僕には、どんなものでもインスピレーションになり得るよ。Netflixで見たシリーズ。Instagramや展示会で見た、幻視的あるいはサイケデリックなアート。最近、スタジオの窓の外に鳥が巣を作ったんだ。名前は分からないが、毎日決まった時間におかしな、サイケデリックな音を出すんだ。何日もこの音が頭から離れなくて、録音することにした。次の新曲で鳥の鳴き声が聞こえたら、あの子達だからね。
――誰しも、心休まる特別な場所がある。スタジオ以外で、あなたにとってのその場所は?
無論、ビーチだ。混んでるようなビーチではなく、一人静かな。海とは不思議なもので、何時間も座って波を見てられるんだよね。日常の煩悩が洗い流され、目の前の瞬間に浸っていられる。よりチルでハッピー、ポジティブな状態で日常に戻れる。
――あなたにとっての、ごく普通の日の流れを最初から最後まで教えてください。
大体8時に起きて、紅茶を飲みながらニュースを見る。その後は犬の散歩に外へ。9:30戻ると、スタジオでのモーニングセッションにぴったりの時間。新鮮な気持ちで取り掛かれるし、モチベーションも高い。
どのプロジェクトが一番優先度高いかチェックして、早速飛び込む。作業の合間にレーベルマネージャーのOshoやブッキングマネージャーのRazと電話したりする。毎日こうやって連絡を取り合って、日々の状況やブッキング、今後の予定ついてアップデートをもらう。
お昼を食べたら19時~20時あたりまでもう一度スタジオへ。終わったらゆっくり彼女と過ごして、ディナー。ワインを飲みながらその日のことについて話したり、映画を見たりして、就寝。
――ダンスの世界の住人は誰しも、何かがきっかけでそれぞれの音の旅が始まった。あなたにとって、そのきっかけは何でした?
10~11歳の頃、4つ上の兄は毎日、必ずハウスやトランス、なんらかの電子音楽が入ってるカセットテープを高校から持って帰り家で流したんだ。僕は隣の部屋で聴いていた。最初は「なんだ、この不思議な音楽は?」と思ったけど、だんだん曲を覚えるようになって、特にDJ Yahelを好きになったね。彼のメロディーが僕に催眠術をかけているようだった。それまでは聴いたことがなかったね、ああいう音楽。そしてある日、兄が持って帰ったAstral Projectionのテープ。これはぶったまげた!子供だったとはいえ、その時点でもう人生は永遠に変わってたね。そこから何年もかけて、音を集めて、更に没頭していった。多岐に渡るCDのコレクションの中にはAstral Projection、Tim Schuldt、Total Eclipseなど。Tiëstoまでも入ってて、当時は素晴らしい音楽を出してた。それから、California SunshineやMFG。ありすぎて全部は挙げられないかな。今でも、このコレクションの一部を持っているよ。
高校生になると、毎週行われる友人たちの誕生日会で、僕が音楽を担当することに。CDJでもない、ただのCDプレイヤーとスピーカー2台を買って。週末は父親がパーティーが開かれてる家に僕を送ってくれていたんだ。
初めてのクラブ・ギグは15歳の頃。「The Psychedelic Club」という名の会場で、サイ・トランス、ヒップホップ、ハウスを同じセットでかけたのを覚えているよ。自分が何をしているのか、訳が分からずとりあえずプレイしてみた。しかも当時出たばかりのCDJ-100を使うのが初めてだったという。
時は流れ、音とより深く関わりたくなった僕は音楽をプロデュースし始めた。(当時のプロダクションは果たして「音楽」と言えるか、微妙だけど…)スピーカーが内臓されているPCでFruity Loopsというソフトを使っていた。この頃、音楽制作に関する情報を手に入れることは容易じゃなかったから、同じ志を持つ人と実際に会って、情報交換をするしかなかったんだ。そうしてDidrpestという、既にリリースを何個か持っているDJと知り合い、初めて出したトラック『Overtones』(2006年)は彼との共作だった。アメリカのレーベルKagdila Recordsからのリリースで、『Out Of The Blues』という、自分がまとめたコンピレーションの中に入っていたよ。ちなみに、当時の僕のDJネームは「Mixed Emotions」。
――あなたの一番好きな、ダンスミュージックのトラック、あるいはアルバムは?
この質問はいつだって難しいし、正確な答えは永遠に出てこないと思う。なぜなら、音楽というのは、その時の人生の段階との繋がりを表すもの。そして時間が経つと共に好みが変わるから、「これだ!」と一つに絞ることはできない。ただ、「最も自分を変えた」という意味でAstral Projectionの『Trust In Trance』というアルバムを即挙げられる。人生の方向が決定的に変わったんだ。
――あなたの音楽は現代サイ・トランスにおいては非常にユニークで、波のように舞うメロディー、色鮮やかな音風景、そして劇的なテンションの変化などが特徴と言えます。何から影響を受け、この唯一無二のFadersサウンドが出来上がるのでしょうか。
中東という地域そのものにかなり影響されてるかな。ヒジャズというアラブの音階でできたメロディーに、僕が住むエリアのヴォーカルを合わせる。これに、サイケデリックな発想やディープな音を加えて、ビジョンを音楽へと変換する。目的としては、乗れるベースラインにランダムな音を付ける、ではない。最初の一秒から最後の一秒まで、すごいストーリーを聞かされたと聴く人に実感して欲しい。
――先ほどの質問の続きですが、2月にリリースされたKaya Projectの『Shiva Shankara』のリミックスでは、マントラを唱えるヴォーカルと様々な楽器がFadersサウンドと見事にマッチしており、電子的要素と有機的要素、二つの異なる世界が自然と一つになった大変素晴らしい作品です。このトラックを作ることに至った経緯についてぜひ教えてください。
僕が一番気に入ってるミュージシャンの一人はSeb Taylor。彼のShaktaプロジェクト以来ずっと大好き。ある日、隔離中にスタジオにいて、彼のアルバム『Up From The Dust』を聴いていたら、思わず涙した。胸に矢がささったようで、体の全細胞まで感動したよ。どうにか自分の音楽に取り入れたいと思ったんだ。一番可能性があったのは、Irina Mikhailovaの素晴らしいヴォーカルが入った『Shiva Shankara』。何でかというと、地球上で一番好きな場所の一つ、ゴアを感じさせてくれたから。
Sebに正式に聞く前にまずはトラックからヴォーカルを切り取って、高BPMのグルーヴと合うか試してみた。エディット後にプレイを押したら、とんでもないスーパーリミックスになるとすぐ分かったし、作っていくプロセスも絶対に楽しいだろうなと。マネージャーのOshoに電話してアイディアを共有したら彼もはしゃぎだして、すぐにSebに連絡してくれた。そして数時間後にリミックス用のファイルが届いた。90 BPMのものを144 BPMに作り変えるのに色々と工夫が必要だけど、楽しく作れたし、結果も大満足。作業を開始する前に想像した通りの作品になった。
――Electric UniverseことBoris Blennと一緒にスタジオで写っている写真を最近拝見しました。Electric Universeと言えば、今年の1月に開催された、OZORA - One Day in Tokyo @ ageHaでヘッドライナーを務め、レーザー・ハープまで披露しました。Faders × EUは、文字通り最高のドリームチームになると思います。お二人で何を作っているかについて、教えていただけますか?
Borisはこのシーンにおいて史上最高のアーティストの一人で、誰よりも音楽とサイトランス・カルチャーを愛している。僕らは同じレーベルに所属していて、コロナが始まる前から何かトラックを作ろうと話していたんだ。そしてBorisは、コラボするなら物理的に一緒にスタジオにいれる方が好きで、確かにその方が作曲をする上でより良いと自分でも思う。けど、国際渡航がしばらく不可能になったから、とりあえずベースになるものを自分の方で作って、自分の最も大好きなアーティストの一人であるBorisと実際に会える日を待ってた。
ただ、どんなに待ってもコロナの状況は変わらなかったから、二人で合意した上で作業を進めることにした。Borisに自分が作ったものを送って、彼のパートが返ってきたら圧倒されたね。期待通り、鳥肌が立つほどのフルパワーのElectric Universeパートになっていた。今年の5月、Borisはイスラエルでギグがあり、そのついでにうちのスタジオにも来てもらったんだ。数日かけてトラックを仕上げたよ。彼と仕事ができて楽しかったし、勉強にもなった。そして何より、光栄だった。この曲は今年、我々のホームであるSacred Technologyよりリリース予定だよ!
――4月リリースの『Palolem』が、またもやBeatportで1位を獲得しました。セカンドアルバムの『Gathering Of Strangers』を含め、既に数え切れないほどのナンバーワンを持つあなたにとって、アーティストとしての次なる大きい目標は何でしょうか?例えば、サードアルバムなど。
同じことを毎日、自分自身に問うよ。サードアルバムをやるか、シングルをリリースし続けるか、決めるのは中々難しい。理由を説明すると、僕らが住んでいる現代世界は何でもかんでも「インスタント」だ。そして、音楽の寿命は今までよりも遥かに短い上に、存在する音楽の単純な「量」は膨大。毎週、数千ものトラックがリリースされていて、たった数週間前に出た音楽は遠い過去に感じてしまう。最近のDJは常に新しい音楽を求めて、特定のトラックを1~2回使っては次に行く。そう考えると、2~3週間注目されるために、何年もかけてアルバムを作るべきか。それとも、このままシングルを作り続けるべきか。非常に悩むところ。
いずれはサードアルバムは絶対に作るけど、「いつ?」と聞かれると、少なくとも今すぐではない。今だにコラボしていない、自分の好きなアーティストと一緒にトラックを作ることや、自分の好きなフェスに出演すること。それが今の僕の一番のゴールだね。
――サイ・トランスの人気は上昇するのみで、Tomorrowland、ASOT、Dreamstateなどメインストリームのフェスでも定番の内容になりました。このトレンドについてあなたはどう思っていますか?
こういったトレンドから恩恵を受けているし、ただのトレンドではないように思う。何せ、サイケデリック・トランスはEDMや大型フェスができるずっと前から存在してるからね。ゴアでの小さいシーンから始まって、今は世界中へ広がっているが、我々のこのシーンのルーツはPLUR。つまりPeace、Love、Unity、Respect(平和・愛・一体感・尊敬)。フェスやパーティーに行けばそれは明らかだ。人は踊って、愛を分かち合うために来ている。より多くの人がこのシーンを発見して、その一員になってくれれば、僕らのトライブがその分大きくなる。そして、より大きい規模でポジティブを発信できる。結果、より良い世界になる。
サイトランス・カルチャーとオーバーグラウンドを初めて繋いだ、架け橋的な存在の一つは、僕の長年の友であるVini Viciの二人。彼らは本当にすごいことをしていると思う。メインストリームへの、サイ・トランスのアンバサダーと言えるくらい。
――今回のパーティーのサブタイトルは「Elevating consciousness through dance」(「ダンスで意識を高次元へ」)です。サイ・トランスのアーティストであるあなたにとっては、きっと共感できると思います。トランス音楽は、世界レベルで言えばどのような変化をもたらしていると思いますか?
正直、世界レベルで言えば、サイトランス・カルチャーの影響はまだ少ないと思う。他のシーンに比べて、単純に規模が小さい。とはいえ、我々のシーンはずば抜けて素晴らしい価値観を基盤にしている。自由。尊敬。愛。平和。そういった価値観は世界へ発信されるべきだし、僕らのトライブが大きくなっていけば、影響力も当然大きくなる。だからこそ、メインストリームを通してでも良い。ポジティブをシェアしていこう。
――あなた自身が、音楽を通して世界に伝えたいことは?
ポジティブな気持ちをあらゆるところに広めたいね。幸せな気持ちになるから、僕は音楽を作る。その幸せを共有したい。ファン、あるいは僕がリスペクトするアーティストからメッセージやコメントをもらうと、言葉にできないほど嬉しくなる。最高の日になるし、何でこの道を歩んでいるのか再認識できる。
音楽を通して、人々を繋げたい。宗教、政治、地域に関係なく、ね。
――ツアー中の面白いエピソードを一つ教えてください。
たくさんあるよ!ツアーに出ると必ず面白い、あるいは怖いハプニングが発生するからね。
イスラエルのクラブでラストの時間、フロアにはほとんど人がいなかった。ほんの4~5人くらい。オーガナイザーは僕が最後にプレイをする前にパーティーを早めに切り上げようとして、明かりがついた。すると、一人の男が僕のところにやってきて、「プレイしないのか?!」とすごい勢いで聞いた。そして、僕をブースに強制的に連れて行った後、男はオーガナイザーに僕だけのために来た、と言ったんだ。どうやら、男は服役中の囚人で、一時的に外に出ることを許されていて、パーティーが終わればすぐに刑務所に戻らないといけなかった。
というわけで、朝6時から、彼のために1時間のセットをプレイした。フロアにいたのは彼だけだったけど、最高に幸せそうに踊ってた。いやぁ、本当に不思議で、面白い展開だった。
――フロアでの一番の思い出は?
長い年月を経て、最高でフルブラストのフロアをたくさん経験してきたけど、ずっと忘れない場所は二つある。一つ目は2010年、メキシコのグアダラハラ。ファースト・アルバムを初めて人前でかけて、反応が圧倒的だった。1.5万人が叫びながら踊り狂っていたんだ。
二つ目は2018年、ゴアのHill Top Festival。オーディエンスのエネルギーは想像を絶するものだった。ピュアでマッシブな体験だったね。ゴアとHill Topのフロアは全世界において非常に特別なものだ。
――日本での思い出は?
ブッキングをもらったから言ってるわけではないよ。僕に近い人、誰にでも聞いてみて確かめると良い。僕の一番好きな国は日本だ。良いところがありすぎる。道端で行き方について誰かに聞くと、赤の他人の僕への対応がびっくりするほど丁寧。この辺の日本人の精神は素晴らしい。そして食べ物も最高。
初めて東京に来たのは2010年、新宿のSTUDIO M'sでプレイするために。フルオンが大人気の良い時代で、日本と東京に一目ぼれした。東京は大都市だけど、こじんまりして居心地良い所もあるし、場所によっては田舎に来たとさえ感じられる。あれからは何度も来てる。家族のような良い友達もいて、いつだってまた行きたいと思う。
――10年間、無人島で暮らすことになりました。退屈しないように、誰かDJを一人連れて行けます。誰を選びますか?
Space TribeことOlli Wisdomだね。
彼は僕の大親友で、むちゃくちゃ面白い人だった。アーティストとしても人間としても本当にアメイジング。シーンそのものを開拓して、大いに貢献してくれた。彼が亡くなる一年ほど前に一気に仲が深まって、たくさん影響を与えてくれた。
Olliはいつだってポジティブに現実を捉えてた。いつも冗談を言ってたし、壮大な話もたくさんしてくれた。そして何かサポートが必要な時はすぐに対応してくれた。会えなくて寂しい。一生の友を亡くしてしまった。
どうか安らかに眠ってくれ。
――テレパシーで何か一言、全世界の人間に伝えられたら、何を伝えますか?
愛と尊敬で接し合ってくれ。宗教や人種は関係ない。すべての人を受け入れて、エゴや憎しみを捨てれば、世界はより良くなる。
――最後に、日本にいるあなたのファンへのメッセージをどうぞ。
7月9日のCOT @ WOMBまで待ちきれなくて、当日までの日を毎日数えてる。
新曲をいっぱいかけるから期待しててくれ。ずっと、みんなのエネルギーとバイブズは恋しかったけど、もうちょっとだけ待っていて!愛してるよ!
COT 8th Anniversary Special @ Womb & R Lounge
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