フランスの名門レーベルUltimae Recordsから、2010年にアルバム『Scroll Slide』をリリースし、世界のアンビエント・エレクトロニカシーンで一躍注目を浴びる存在となったHybrid LeisurelandことHidetoshi Koizumi。
音楽家として、映画やCMなど幅広い分野でその類まれな才能とセンスを発揮している彼は、近年Hidetoshi Koizumi名義で多数のリリースを自身のレーベルSonar Library Recordsから行ってきた。
その彼がこの度、15年ぶりにHybrid Leisureland名義で11月7日にニューアルバム『Flower Bullet』をリリースした(レコードは12月15日)。
ニューアルバムの話を中心に同氏の音楽観やこれまでの歩み、音楽にかける熱い思いについて話を聞いてみた。
『Flower Bullet』 - (Sonar Library Records)
- Digital - Released on NOV 7th 2025
https://sonarlibraryrecrods.bandcamp.com/album/flower-bullet
- Vinyl - Released on DEC 15th 2025
https://clone.nl/item81670.html
Interview & Text : Norihiko Kawai
ーーまずは、簡単に音楽経歴も踏まえて自己紹介をお願いいたします。
Hybrid LeisurelandことHidetoshi Koizumiです。音楽は高校生の頃から作り始めて、最初は、ブレイクビーツを作っていたのですが、自分だけの音楽を作りたくて考えていたら今の音楽に辿りつきました。サウンドクリエーターの仕事と、自分の音楽を制作出来るありがたい毎日です。
ーーニューアルバム『Flower Bullet』が11月7日にリリースされましたが、アルバムのコンセプトを教えてください。
アルバムタイトルの通りなのですが、もし銃の弾丸(Bullet)が花(Flower)だったらどれだけ良いのになと思うのと、人をそれぞれ弾丸だと例えたとき、人とのコミュニケーション時に相手に突き刺さるような言葉や仕草ではなく、優しさであったらと良いのになと思います。
自分の行動や言葉は知らず知らずのうちに人を傷つけてしまったりしています。でも、コミュニケーションの問題はコミュニケーションで解決できると思っています。学校や会社、友人や恋人にもそうだと思っています。

ニューアルバム『Flower Bullet』
ーーアルバムを聴かせていただきましたが、トラック「Hope of Days」や「Crying Tomorrow」の女性ヴォーカルが印象的でした。これらのトラックのコンセプトについて教えてください。過去のアルバムではあまりヴォーカルを使用している印象はなかったと思います。
ヴォーカルはミチルさんという長野在住のフォークシンガーさんにお願いしています。すごく素敵な方で声も魅力的です。今までヴォーカル曲は作っていなかったのですが、今回は制作意欲にかられました。ただ、自分の音楽のスタイルは崩さないようにしたかったんです。
曲のコンセプトとしては、全て歌詞のトラックよりもコーラスを重ねてみたかったので、歌詞とコーラスを重視しました。
「Hope of days」は、毎日の生活の中で自分が思ったことに自分は進めているのか? 学校や会社の中で、自分が思うように自分らしく生きられているのか? 自分が思うような出来事、夢、生活、そして社会が訪れてほしいという思いで制作しました。
「Crying tomorrow」は、いずれ誰にでも明日がこない日がくる。その時に明日がこないことに何を思うのか?を考えています。今後もヴォーカルトラックは多くの人と作ってみたいですね。
ーーアルバム制作時の機材環境を教えてください。今回のアルバム制作で特にこだわった点はどこだったのでしょうか。
DTMでAbleton Liveを使っています。外部機材はNord lead 4とMoog Matriarchがメインです。ベースはほとんどMoogです。ソフト音源も使いますが、サンプリングして使ったりします。
モニタースピーカーはEVE Audioを使っています。自分の感覚だと、けっこうデリケートなモニターだと思ってます。GenelecとAdamを使ってる人が多いので、単に違うのを使いたかっただけなんですけどね。
今回のアルバムでは、ピアノ曲をメインに作りたかったのと、ドラムの質感が自分の理想にかなり近づいた感じです。


ーーKoizumiさんの音楽はエレクトロ二カやアンビエント等の楽曲が多いと思われますが、このジャンルに傾倒していった理由はあるのでしょうか。
ジャンルを特に意識したことはなく、好きに音楽を作っていたらエレクトロニカとアンビエントだった感じです。リスナーの方々、自分も含めてですけど、カテゴライズしないと認識してもらえないです。でも、自分が結果的にエレクトニカ・アンビエントを作っていることに満足していますし、いつかこのジャンルの名前を挙げると自分が出てくるぐらいになりたいです。
ーーKoizumiさんの音楽観の根底に根差しているものは何なのでしょうか。音楽家として、国内外でライブ活動を行う他、ファッションブランド、映画、広告(CM)、プロジェクションマッピング、ゲーム音楽への楽曲提供も行っていますが、プロの道が拓けてきたのはいつ頃だったのでしょうか。
根底にあるものは、音楽を作ることが好きなのだと思います。何度もやめようと思ってもやめられないですし、ここでこんな曲を聴きたい、こんな曲があったらなって、いつも思っています。
サウンドクリエーターの仕事は、自分の作品を作る楽しさと別の楽しさがあります。クライアントさんや、その商品や作品にもっとも良い音楽を考えて作るのは楽しいです。いいものを作るより楽しく作ることを心がけています。それは楽しく作らないと聴く人に伝わらなくなるので心がけています。
仕事は、友人からの仕事がだんだん派生して増えていきました。プロとはあまり自負してないですが、依頼されたものは責任を持ってしっかりやりたいと思っています。とてもありがたいと感謝しています。
フランス時代、スタジオにて
ーー以前はフランスで生活していたと聞きましたが、どのような経緯でフランスに渡ったのでしょうか。過去に同国の名門レーベル“Ultimae Records”からリリースに至った経緯も教えてください。
フランスには、ライブをやるのに行き来していたので、それなら腰を据えて、もっとしっかり活動したいと思い住んでいました。また機会があれば住みたいとは思っていますが、日本も好きなのでなんともいえないですよね。
リリースの経緯はデモテープです。海外にデモテープを送ってUltimaeと契約しました。海外でリリースできることにとても喜びましたし、自分の音楽を作ってて良いんだって思いました。レーベルのメンバーやオーナーは、とても良い方々だったので感謝してます。今でもいい付き合いをさせてもらっています。
ーーKoizumiさんは現在までにどのような音楽に影響を受けてきたのでしょうか。
いろいろなジャンルの音楽が好きで、多くのアーティストの音楽を聴いてきました。特に影響を受けたのは、バロック、プログレ、現代音楽、そして映画のサウンドトラックです。そうした音楽に触れる中で、「自分はこんな音楽をやりたい」というイメージが次第に形になり、それが今の自分の音楽につながっています。少なからず、これらの要素は作品の中に反映されていると思います。
また、次第にシンセサイザーの音に強く魅了されるようになりました。ギターにも憧れはありましたが、DTMは自分の理想どおりに音を構築できる点が大きな魅力です。さらに、サンプリングによって、どんな音でも音楽として取り込めるところにも強く惹かれています。

ーー自身のレーベルSonar Library Recordsについて教えてください。レーベル発足の経緯は何だったのでしょうか。
他のレーベルに所属していると、自分の音楽に制限がかかるイメージがありますし、実際にありました。当然、リリースされる曲とボツになる曲が出てきてしまいます。自分にとっては、他レーベルのイメージにあわない曲でも、自分のスタイルの曲でリリースされてもおかしくないと感じていました。それなら自分でレーベルをやればいいと思いやっています。
他のレーベルに所属するのも、もちろんいいのですが、自分のレーベルの場合は好きな音楽を納得のいく作り方ができますし、リリースできる魅力があります。
レーベル名は、音楽にも音楽の図書館があったらいいなーって思い名付けました。
https://sonarlibraryrecords.com/
ーーご自身でオーガナイズされているイベントを開催されていますが、それについて教えてください。
私の主宰イベントは、青山のPOLARIS tokyoで定期的に行っている『Songe』というイベントです。音楽と映像に特化した空間演出でのライブパフォーマンスを行なっています。DTMやモジュラーだけでなく、多様な音楽を表現できる場所にしたいと思っています。心地よい雰囲気でくつろげるので、アンビエントやエレクトロニカ、実験的なジャンルの音楽が好きな方は一度足を運んでみてほしいです。

ーー今後アンビエントやエレクトロニカ系のアーティストを目指す方たちにアドバイスがあればお願いします。
これは、自分が話すのはお恥ずかしい話ですね。もっと凄い方々は沢山いらっしゃいますので…。音楽と向き合って、自分好きなものを沢山集めて、自分にしか表現出来ない音楽を目指してください。
ーー来年のスケジュールや今後の目標などがあればお知らせください。
来年はライブだけでなく、コレクティブ的な活動や海外ツアーも行いたいと思っています。リリースでは、これまで表に出してこなかったCMなどの音楽制作で手がけた楽曲をまとめた作品集も出したいと考えています。