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One Good Thing

Lou Rhodes
One Good Thing

 

ポーティスヘッドのフォロワー的にシーンに登場し、他を圧倒する完成度の高さで、現在も高く評価されているラム(LAMB)のメンバーとして活躍し、ソロとしても、イギリスでもっとも権威のある音楽賞として知られるマーキュリー賞にノミネートされた経験を持つ女性アーティスト、ルー・ローズ。ここ最近では、<NINJA TUNE>の代表的アーティスト、ザ・シネマティック・オーケストラのアルバム作品やライヴへ参加するなどしていたが、今回ソロとしては3枚目となるアルバム『One Good Thing』をリリースすることが決定した。本リリースを全面的にバックアップしたのは、ザ・シネマティック・オーケストラを率いるジェイソン・スウィンスコーで、<NINJA TUNE>の傘下で新しく産声を上げたザ・シネマティック・オーケストラ主宰の新レーベル<MOTION AUDIO>からのリリースであることも要注目。

 

ほとんどがライヴテイクで、たった2週間のという短い期間で集中的にレコーディングされ、エディットやオーヴァーダブも極力避けて作られたという本作『One Good Thing』。オールドスクールなアナログの技術で制作された音楽を好む彼女は、本作品を制作するにあたって参考にした作品として、ニック・ドレイクの『Five Leaves Left』やニコの『Chelsea Girl』を挙げているが、ギターとヴォーカルの美しく調和する切ないほどパーソナルな楽曲群は、確かにそれらの名作に通じている。そこには、実の姉妹であるジャニーの死という痛みすらも映し出されている。

 

「時に、とても小さな物事が、人を元気づけ、世界に存在する素晴らしいものへと導いてくれる。この世界には、コントロールできないものがたくさんあるけれど、その中で私たちができることは、人生に起こる小さな物事から喜びを見つけること」

 

アコースティック・ギターと彼女の私的な歌詞の世界はとてもナチュラルに混じり合い、内向的な彼女の、内に秘めた感情が、アルバムに収録された11曲から溢れ出ている。また今回、元ラムでパートナーだったアンディ・バーロウとも6年ぶりに制作を共にしている点も注目できる。彼女は彼を実の弟のように慕っており、作業は彼の自宅スタジオで行われた。プロデュースはあくまでも彼女自身が行っているが、サウンドやテクスチャに独特の解釈を持つアンディのスタイルが作品にしっかりと反映されている。アンディは、ルーの生きた感情を引き出す才能に長けており、それがこの作品に特別な温かさをマジックをもたらしている。

 

また『One Good Thing』は、ザ・シネマティック・オーケストラが主宰するレーベル<Motion Audio>の誕生を告げる作品でもある。これまでも彼女は、ザ・シネマティック・オーケストラのライヴやアルバムに参加しており、お互いをリスペクトし合ってきた関係から、<Motion Audio>の記念すべき初アルバムという形で本作品は制作された。

 

たった一つのギター。たった一つのヴォーカル。そしてバロック様式のストリングサウンド。そのシンプルな構成が、ルー・ローズの魅力を最大限に引き出す。今作は、彼女にとってキャリアの集大成的作品であると同時に最高傑作と言っても過言ではない。