二人のDJと一つのトラックリスト。ダンス・ミュージックの歴史上、おそらく初めて純粋にDJの個性を抽出することに焦点を当てたリリースだ。あらかじめ決められた一つのプレイリストから選曲しなければならないという制限により、DJはその曲順とミックスのスタイルのみによって個性を発揮しなければならない。一つの流 れに組み込まれることによって、曲の解釈の可能性も引き出すことになる。『Macrospective』は、二名の実力派DJ の対比によってDJというアートを表現した、初のコンセプチュアルなダブル・ミックス作品である。同時に、エレクトロニック・ミュージックにおける最も魅力的なレーベルの一つであるMacro Recordingsのバ ックカタログを網羅した作品集としても楽しむことができる。
Macroの設立者であるStefan GoldmannとFinn Jonannsenが手がけるそれぞれのミックスは、レーベルにとって鍵となった作品(ヒット作「The Maze」、「Law Of Return」、「Arcade & Lunatic Fringe」を含む)に光を当て、各楽曲の奥深さと特性を引き出している。優れた音楽は一つ以上の解釈を可能にするものだ。それを誰がレーベルのA&Rであり、ベルリンの伝説的クラブBerghainでレーベル・ナイトのレジデントDJを務めるこの二人以上に、理解していようか?
Finn Jonannsenのミックスはワン・テイクのビルド・アップ、ピーク、そしてカム・ダウンに加え、回り道や 気晴らし、サプライズも盛り込んだライブ感溢れる音楽の旅となっている。Stefan Goldmannのもう一つのテイクは緻密に造り込まれた「建築的」なミックスで、各トラックのターニング・ポイントを閉じ込め、Macroのエッセンスを凝縮した80 分のドラマチックな構成に仕立て上げている。尚、いずれもヴァイナル・ミックスである。つまらないMP3が氾濫する時代において、丁寧にカッティングされたレコード・リリースにこだわるMacroの姿勢こそが、このダブル・アルバムの基盤となっているのだ。
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