フライング・ロータス本人曰く「神秘的事象、夢、眠り、子守唄のコラージュ」として創作された本作は、“夜行性の情緒を携えた向こう側の世界への旅”とい う特殊な感覚を纏っている。点滅しながら徐々に意識が遠のき、潜在意識の世界へ。焦点の合わない不可思議な感覚が訪れると、未知なる旅が始まる。作品全編 を通してサウンドには緊張感が漂い、相互に作用するメロディとリズムが優雅な展開を描き出す。それらはまるでフライング・ロータスのDNAに刻まれている アート・フォームを丹念に抽出したかのようだ。コズミックなベースの重厚さとコンピューターを駆使したアレンジの融合は、これまでに音楽史上に登場したい かなる作品よりも見事で、プロデューサーとして、コンポーザーとしての飛躍的な成長を証明するだけでなく、よりディープなコンセプトが収録曲のすべての基 盤になっていることを示している。また前作以上に豪華なアーティストが参加していることも忘れてはならない。
フライング・ロータスによって支配された美しいカオスに完全に溶け合う才能はそう多くはない。長年に渡ってコラボレーションを続けてきたニキ・ランダと ローラ・ダーリントンが再び今作にも参加し、フライング・ロータスが彼女等との共演にこだわるその魅力を証明している。また前作に続いてトム・ヨークとの 共演も再び実現し、デジタル・フリー・ジャズとでも形容できそうな”Electric Candyman”(M-14)で二人にしか創り得ないディープなコラボレーションを披露。また『Cosmogramma』におけるその類稀なベース・プ レイで、ブレインフィーダー・クルーの新たな顔役となったサンダーキャットは、本作でもアルバム全編に渡ってベースをプレイし、新世代のサイケデリックな ソウル・アンセム”DMT Song”(M-11)ではヴォーカリストとしてもフィーチャーされている。さらに、本作品では新たに90sネオ・ソウルの核心にしてレフト・フィールド R&Bの女王、エリカ・バドゥが参加しており、アルバムのハイライトの一つである”See Thru to U”(M-9)で祈願の共演を果たしている。
フライング・ロータスは、今最も急進的かつ広範囲に成長している音楽シーンの中心に存在し、活気あるロサンゼルスを拠点に様々な同志を集めてきた。ジャン ルの垣根をもろともしない、それらのスタイリスティックなコラボレーションは、音楽シーンの方向性を変えてしまうほどの影響力を持つ。それもすべて彼の確 固たる姿勢とコンセプトの深さによるものだ。しかし、歴史的金字塔『Cosmogramma』を世に送り出してからもなお驚異的なスピードで飛躍を続けな がらも、ベースライン、そしてビートが生み出す独特の”グルーヴ”という重要な基盤を失うことはない。それはかつてジャズやソウルの巨匠たちが、愛する人 のために書いた楽曲に、美しく思慮深いテーマを隠し、多くの人々を魅了してきたのと同じだ。『Until the Quiet Comes』は伝統的な音楽理論に基づいた作品でありながら、まったく新しい方法論を提案している。それこそが傑作の証なのだ。
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