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古風 Ⅱ

冥丁 / MEITEI
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古風 Ⅱ
 前作、”古風”にて冥丁の「失われた日本」を主題に置いた三部作は完成したかに思えた。ただ前作の為に完成させたが、日の目を見なかった楽曲は47曲に及ぶといい、追及は深みを更に推し進め、この”古風 II”にてさらなるノスタルジーを私たちに投げかける。

サンプリングされた元の音源の影響なのか、その儚い旋律には日本人の誰しもが、眠っていた感情が覚める思いに駆られるだろう。ただそれは単純に古風なだけではなく、未来に向かって音楽的にも確実に昇華されている。冥丁自身のバイオグラフィーにもアンビエント・ミュージックとの言葉が出てくるが、既存の枠組みでは語れない新しさも、その捉えようの無い”懐かしさ"の中に宿している。

「失われた日本」が主題であるのに、曲中の理解できる日本語は数少ない。だが何度かアルバムを聞いているうちに、(エフェクトの影響で理解しずらい)もとは日本語であっただろう声が、理解できなくていいんだと素直に思えるようになった。というのも筆者である私は特にこの”古風”と”古風 II”は例えるならば、はるか先の未来で日本という国も存在しなくなった時、未来に生きている人々に日本がどういう国であったか、言葉の外で少し理解してもらう為にあるんじゃないかと思えてきたからだ。ヴォイジャー探査機に乗せられて宇宙に放たれたあの金色のレコードのように。

今回のジャケットやBandcampに於いて発表されている便箋のセットには、おそらく江戸から明治にかけての日本の写真が使われている。その音楽はもとより、アートワークや色彩感覚、レコードと同封されているインレーに至るまで細部へのこだわりは、レコード熱が高まっている昨今のリリースの中でも非常に稀だ。音楽が記録されたメディアを手にする喜びを、使われている紙の質感からも感じさせてくれるだろう。少なくとも前作のレコードはそうだった。もちろんデジタルでもリリースはされるが。

古風というタイトルを見て萬古清風という言葉を思い出した。古来より今に至るまで、そして未来でも清い風が吹いている、そんな意味であったかと記憶している。冥丁の起こした風は、いつの時代でも失われた日本を乗せた清風の流れになるに違いない。(Kojun Shimoyama <Muso Culture Festival>)

Tracklist:
 
1.め組
2.東海道
3.八百八町
4.カヲル
5.落武者
6.吉原
7.修羅雪姫
8.忍
9.ありんす
10.茶寮
11.黒澤 明
12.爺