ポートランドを拠点に活動するアンビエント・アーティストであり、フィールドレコーディングを駆使した音響表現を追求する Graintable(本名 James Cooke)。彼が、アンビエントやミニマルな音の繊細な美しさを、種を蒔き育つ過程と絡めて描くことをコンセプトにしたレーベル“Music To Watch Seeds Grow By”からのデビュー作となる『Blue Flax』を発表。これまで Ransom Note Recordsからリリースされたカセット作品『Herons』、『Universal Ash』、『The Rain In The Trees』は高い評価を受け、いずれも完売。本作もカセット(+ダウンロード)でのリリースとなり、Cooke がこれまで以上に自然のリズムと電子音の融合をより深く掘り下げている。
"Blue Flax"(青い亜麻) は、繊細な青い花を咲かせ、薬用としても用いられる耐久性の高い植物であり、Cooke の故郷アメリカ太平洋岸北西部に自生している。この植物は、ワスコ族、クリックイタット族、ウォームスプリング族、カユース族、ウマティラ族 など、先住民族の祖先の地で古くから育まれてきた。その土地との深いつながりが本作のテーマの根幹をなし、癒しの力と畏敬の対象という二面性を持つこの植物を映し出すように、緻密に編み上げられた10曲のアンビエント作品 が収められている。
本作は、ポートランドのスタジオで 夜明けと夕暮れの移り変わる時間帯に録音されており、植物が成長する様子を見守る瞑想的な時間、そして有機物が形を変え、利用可能なものへと変容していく過程を音で捉えている。アルバムの中心をなす 「Cerulean Fields」 は、世界が目覚める前、最初の芽が土を破って新たな朝に顔をのぞかせる早朝の光のような静謐な美しさをたたえている。これまでの作品の中でも最も包括的で瞑想的なコレクションが結晶化した一枚だ。
(Norihiko Kawai)