冬場の大型ダンスミュージックの祭典として確実に定着しつつある「WOMB ADVENTURE」が11月26日(土)に千葉"幕張メッセ"で開催された。今年のヘッドライナーは、ミニマルハウスをベースにラテンフレイバーを盛り 込んだ名門レーベル"CADENZA"の主宰「Luciano」。しかも、自身がイビサで主催するパーティー「VAGABUNDOS」をアジアで 初めて、まるごと持ち込むという極めて貴重かつ贅沢なショウケースを披露するとあって、日本中のダンスミュージックファンの注目を集めていた。今日は、この「WOMB ADVENTURE'11」をご紹介したい。
過去3度開催され4度目となる今回。私は「WOMB ADVENTURE」初参戦だった。MINUSクルーが総出演した1回目は、私がオーガナイズするパーティーがあったため、Richie HawtinとDubfireの初共演ユニット「Click 2 Click」が実現した2回目も、私がオーガナイズするパーティーがあったため、Richie Hawtinによるプロジェクト「Plastikman」のライブが実現した3回目は、田舎の友人の結婚式と重なり帰郷していたため行けずじまいでいた。 おもしろいことに、今年も友人の結婚式と重なり、不思議な気分にかられた。
「WOMB ADVENTURE」は、いい噂しか聞いていない。アーティストの選定はもちろんのこと、サウンドの作りこみ、照明やデコレーションなどの空間演出、来場者がストレスフリーで楽しめる環境作りなど行き届いたオーガナイズがされているとよく聞いていたので、アーティストのパフォーマンス以外でもチェックしておこうと思っていた。
結婚パーティーを終えスーツのまま渋谷駅へダッシュし、日付が変わるころに幕張へと向かった。同じ駅で乗り換える若い人たちを見ると、この人たちもきっとアドベンチャー組みなんだと思った。このあたりから、徐々に一体感が作られているような気もする。
幕張の駅は、1時前だというのに、すごい数の人が降りていく。私もその1人なのだが、トイレでスーツからラフな格好に着替える。高校の時にライブハウスに行くため、駅やデパートで制服を私服に着替えた時のように、恥ずかしい表現だが解き放たれた感に懐かしみを覚えた。「あった、あったこう いう気持ち。これから楽しみなことが始まる。」そんな気持ちを持ちながら会場へ向かった。
入場してすぐ目についたのは、「WOMB ADVENTURE'11」と壁に照射されるロゴの映像。この映像をバックに記念撮影する人も、多くいた。いそいそと、フロアへ降りる。メインの 「CADENZA/VAGABUNDOS AREA」は、今最も注目すべき若手アーティストの「Robert Dietz」がプレイ中だった。ストイックっでグルーヴィーなプレイというよりも、音色、メロディーにポップさがありクラシックハウスのようなエッセンスも感じとれるような変化に富むサウンドを堪能し、各エリアへの冒険へと向かった。
「CADENZA/VAGABUNDOS AREA」を出ると、目の前には「Red Energy AREA」が現れる。このエリアは、その他のエリアへと移動する際に必ずと言っていいほど通るエリアになっている。フード、ドリンクエリアと仕切りもなく 続いているのでラウンジ的な要素も兼ね備えていたが、ちょうど、ユースカルチャーのアイコン"KITSUNE"ブランドのミュージックマスターマインドである「Gildas」がプレイ中だった。高くなったステージには、一般の来場者も上がることができ踊っている。アーティストを360度取り囲むような作りになっていることもあり、その空間には、パーティー感が溢れていた。
「"Red Energy" AREA」を中心に、ドリンクバー、フードエリア、アトラクションエリアが続く。大型フェスに行ってストレスを感じるのは、トイレの並ぶ時間とドリンクやフードを買うために並ぶことが挙げられると思う。会場へ着いて、とりあえず1杯と今回もなったのだが、バーカウンターが多く設置されていたこともあり、来場者数のわりにすんなり買えた。これは、かなり嬉しかった。とりあえず1杯のつもりが、やっとこさ1杯にならずにすむ。さらに、ベンチの数もかなり多い。腰痛持ちの私には非常に嬉しいし、誰でも嬉しいと思う。普通に考えても座って休みたいけど休めないのは、けっこう辛い。野外と違い、どこでもかしこでも座っていいものではないし、マナーは守りたいけれど、破らざるをえない環境を与えられていることも正直あるように思う。会場に入ってまだ30分程度だが、今日は楽しめるなとこのエリアを見て思った。
会場の奥には、今年、野外フェスでよく目にしたJagermeisterのドームがあった。このドームは「Ooooze × RAFT TOKYO AREA」となっており、今回「WOMB ADVENTURE」で新しい取り組みの1つだったように思う。OooozeとRAFT TOKYOは、東京を代表するパーティーチームの1つだ。今までの「WOMB ADVENTURE」では、WOMB縁のアーティストやWOMBのレジデンシーをラインナップに起用していたが、今回は、ローカルから、東京全体から盛り上げようという意図のように思えた。
「CADENZA/VAGABUNDOS AREA」と「Ooooze × RAFT TOKYO AREA」のちょうど間に、エレクトロ勢が多く出演する「WOMB WORLD WIDE AREA」があった。ちょうど「BUSY P」がプレイ中。Daft Punkのようなメロディアスなディスコトラックをかけいる時間帯だったこともあり居心地がいい時間だった。このエリアは、メインフロアと遜色ないラインナップだったように思う。2008年のSummer Sonicにも出演したダンスロックバンド「PENDULUM DJ SET&VERSE」、フレンチハウス界の重鎮である「Cassius」、現在プレイ中の「Busy P」は、最旬のカッティングエッジなレーベル"ED BANGER"のボス、そしてこの後に控えたのが、脅威の才能「Surkin」。この流れは、早い時間に来れたら「WOMB WORLD WIDE AREA」にべったりすることになっていたと思う。今でこそいろいろな音楽を聞くようになったのだが、2007年ごろに「Cassius」と「Surkin」のレコードを、よく買っていたこともあり、この両者の出演発表は特に嬉しかったのを覚えている。
2時を回り、「CADENZA/VAGABUNDOS AREA」では、「Luciano」と共に"CADENZA"を代表するアーティストの1人であり、ここ日本でも何度となく素晴らしいプレイで我々を魅了してくれている「Reboot」がライブセットのため急いで移動。「Reboot」のパフォーマンスは、怪しい。フロアでぞくっとしたのを覚えている。トラックは、もちろんかっこいいわけなのだが、繰り替えされるボイスサンプリング、奥から1拍ずつ近づいてくるようなキック。運営側の音の作りこみがしっかりしており、1つ1つの音がよく聞こえて鮮明なだけに、音楽にプレッシャーをかけられている錯覚になる。あの広い空間を音で立体的に埋め「怪しさ」という霧で包んだ素晴らしいパフォーマンスだったと思う。
そして、「Reboot」からヘッドライナーの「Luciano」へバトンが渡るわけだが、のっけこそ静かな立ち上がりだったが、すぐに、パーカッシブとビートが前面に出たアゲる選曲へと移行する。前面に光るLEDのスクリーン、フロアを照らす照明、火を噴くセットなど、この日の演出が 全て彼のために準備されていたかのようにすら思う。前者の「Reboot」がフェスといえどもアーティスト性を打ち出した渋めの内容とは対象的なプレイは、完全にパーティー仕様。ブレイク開けには、キックと同時に大きな歓声があがり、逆光となったLEDのスクリーンに映る彼のシルエットも 合わせて踊りだす。時間が進むにつれ、曲のテンションもどんどんあがり、最後終わる直前には、終焉を感じさせるドラマチックなトラックへと移行し たが終始アッパーなセットだった。
MINUSクルー、Click 2 Click、Plastikmanと過去を振り返ると「WOMB ADVENTURE」は、常に実験的、もしくは提案的な内容だったように思う。4回目となる今回は、「VAGABUNDOS」というパーティーを完全移植というわけだが、フェスティバルというより、作りこまれたパーティーの素晴らしさ、楽しさを"WOMB"が再び投げかけてくれたように思う。「Luciano」のフロアにエンジョイを生んだプレイ然り、「VAGABUNDOS」というテーマで作りこまれる会場の雰囲気然り。音が鳴りダンスを楽しむ。飲み物を飲み友人と会話を楽しむ。いつもと変わらない遊び場があった。幕張メッセがこの日は、渋谷"WOMB"だったように思う。違和感は無く特別感だけ増して。text : yanma (clubberia)
REPORTS