イベントの取材というと、けっこう人から羨ましがられたりもするが、実はこれが大変だったりもする。まず、お酒はほとんど飲まないようにしているし、客観的に見れるように遊ぶ場なのに終始冷静だったりもしている。自分の都合に友人を付き合せるわけにもいかないので1人での行動が多かったり(私の中ではソロ活動と呼んでいる)。あと個人的には腰痛持ちだから長時間の立ち作業が1番堪える(見たいアクトがいても腰痛に耐えかねてイスを探しにエスケープもしばしば)。
Text by : yanma (clubberia)
Photo by :
Masanori Naruse
Tadamasa Iguchi
(c) Osamu Matsuba/Red Bull Content Pool
2日目は、別の現場があったため入りが少し押してしまった。この日見たかったアクトの1つSonarDome(BOX)のトップバッター、Yosi Horikawaのライブは残念ながら見ることができなかった。環境音や日常にある物音など非楽音を録音・編集し、楽曲を構築していくスタイルが特徴的で、昨年スペイン・マドリッドで行われたRED BULL MUSIC ACADEMYに参加した唯一の日本人だ。私は以前、渋谷"SECO"で彼のパフォーマンスを見たが、上下左右さらに前後と音楽を誰よりも立体的に聞かしてくれる。また、彼の使う音は鉛筆でものを書くときの音や、飛び跳ねる音といったように身の回りに存在する日常的な音を使用していることもあり、温かい印象がある。当日はどのようなパフォーマンスだったかご紹介できないが、都内で今後見れる機会も増えてきているからぜひご覧頂きたいアーティストの1人だ。
ちょうど私が着いた時というのは、夕方17時。これもまたテントのアーティストになるのだが、見てみたかったJesse Boykins lllがパフォーマンス中だった。開催前にYOUTUBEで各アーティストのリサーチをしている時に、もっとも心打たれたのが彼だった。彼のような歌声にはそうそう出会えるものではない。少し弱くセクシーな声に、男ながら母性をくすぐられるているのではないかと錯覚してしまうほど。彼のパフォーマンス中にテント内には、間違いなく熱狂があった。体全体を使って表現する彼のエモーショナルなパフォーマンスと、その引き込まれる歌声に贔屓目のない高純度の拍手、歓声が注がれる。素晴らしいアーティストを見つけてしまった。たとえ彼が有名であり自分だけのもので無いにしても、この感覚はいつになっても嬉しいものだ。
そして、興味深かったVincent Galloへのライブを見にARENAへ。今回、彼のクレジットが発表されて思わず映画"Buffalo '66"のビデオを借りに行った(未だDVDと呼ぶには抵抗有り)。BlueNote Tokyoでの公演時には、終始客席に背中を向けた状態でのパフォーマンスだったいう噂を聞いたことがあったため、きちんとこっちを向いてくれるか心配だった。白いスーツでステージに登場した彼は、寡黙さが伝わってくるほどの異質な雰囲気。静かに自らのアコースティックギターが置いてある場所に座った。彼の音楽を聞くのは映画以外では初めてだった。以外にも可愛らしく、細く弱い声。今にも崩れそうなほど繊細で優しい歌声とアコースティックギターの音色がアリーナに響く。Rustie、Mount Kimbieと続いたアリーナでそこだけ熱気や高揚とはかけ離れた場所を作っていった。映画、Buffalo '66でヒロインがボーリング場でタップダンスする時に流れるKing Crimson / Moonchildのカバーは大きな歓声が上がった。
ヘッドライナーを務めるThe Cinematic Orchestraを見る前にHudson Mohawkeをと思いBOXへ行ったが、Global Communication同様、入場規制がかかっており入ることができず。外には、切り刻まれたビートとオーディエンスの歓声が聞こえてくる。後ろ髪を引かれる思いでその場を後にし、休憩もかねてSonarComplex(ISLAND BAR)へ。ちょうど松本零士氏のトークショー開かれていた。後半から参加したので宇宙のことから自身のことへ話題が変わったころだった。印象に残ったのは、松本零士氏は酒にものすごい強いと自負していたこと。私もけっこう飲めるほうなのでテキーラのショットで飲み比べたいと思いつつThe Cinematic Orchestraのライブに向かった。(お酒の話のほかにも、美しい地球を後世に残したいのであれば、地球に穴を開けないでほしいと言っていた。地圧と大気圧のバランスが崩れ環境が変化してしまうそうだ)
今回、何よりも嬉しかったのは、The Cinematic Orchestraの出演発表。2011年の震災後、彼らのライブアルバム「Live at the Royal Albert Hall」をひたすら聞いていた。歌詞の意味は分からないが、All That You Giveや、Child Songといった曲が、今のやりきれない気持ちとリンクしていたからだと思う。今回のパフォーマンスは「In Motion」と題し、映像に生演奏で音を付けていくというコンセプチュアルなもの。さらにジャズピアニストとして活躍するAustin Peraltaや、もはやSonarSound Tokyoのレギュラーとでも言っていいだろうDorian Conceptがメンバーに加わっていた。
スクリーンには、白黒の無声映画が流れ静かにパフォーマンスが始まっていく。くだけて言うと映画のBGMを彼らが生演奏しているというもの。BGMと捉えると日常はBGMに溢れている。テレビは然り、ショップ、飲食店、あげだしたらきりがない。中学生の頃、音楽の授業である音楽家が"世の中からBGMを無くすこと"を使命に掲げて活動している(していた)という話を聞いたことがる(現代か過去の音楽家だったかは忘れました)。その音楽家から言わせたら愛情を注ぐ音楽が何かの引き立て役となるのは嫌なのだろうか。その彼が、The Cinematic Orchestraのパフォーマンスを見たら何と言ったのだろう。「こんな素晴らしい演奏なのだから、なぜ映像主動でパフォーマンスをするんだ」とでも言っていたのだろうか。
私自身、最初の30分は少し彼らのパフォーマンスに馴染めなかったのも正直ある。映像に生演奏で音を付けていくということに、効果音的な表面上の効果を求めすぎていたように思う。無声映画なので、音楽をつけたとろこで明確なストーリーはない。授業で言えば答えのない道徳のようなものだ。彼らが奏でる音から、その感情感情を読み取る。これが案外難しい。映像は抽象的だったりもするし、すごい集中が必要だったのは確かだ。だから30分も馴染むのに時間がかかったのだと思う。
1時間ある「In Motion」が終わるとなんと通常のライブが始まった。DJに置き換えると今までじらされていただけに、オーディエンスからすごい歓声が上がる。「In Motion」が静だとしたら、今は明らかに動。To Build A HomeやMan With The Movie Cameraといったアルバム「Live at the Royal Albert Hall」の代表曲が演奏されていく。とりわけ、Man With The Movie Cameraのイントロで入るベースライン「ベーンベンベンべンべンべーン」が聞こえて来た時はたまったもんじゃない。この曲の中盤から後半にかけてドラムのLuke Flowersのソロが尋常じゃない。楽器の演奏の上手い下手が分からない私だが、そんな私でも笑ってしまうほどのものすごさである。そして最後に、All That You Giveが演奏されて幕を閉じた。2日間とも見てきたが、何か全て最後のThe Cinematic Orchestraに持っていかれた気がする。ただそれほどのパフォーマンスだったということは自身を持って言える。パフォーマンス終了後、拍手を止めようとしなかったし、彼らに拍手を送り続けたかった。
昨年に比べ、コアなアーティストが揃った2012年度。震災から1年経ったということも関係するかもしれないが、UNDERWORLD、FLYNG LOTUSが出演していた昨年よりも多くの人が会場にはいた。音楽をコア層とライト層に、イベントを来場者数の大小で盛り上がりを判断するのはどうかと思うが、SonarSound Tokyoのような音楽がビジネスの概念に影響されず評価される空間があることに意味があるのだと思う。来年も開かれるだろうか?楽しみに待ちたい。
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