Text : yanma (clubberia)
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初めてWIREへ行ったのは2007年。シュランツのアーティストとしてFELIX KROCHERの出演が特に騒がれていたように思う年だった。当時私は出演者うんぬんよりも、あの巨大なメインフロアの空間演出の方がショッキングだった。向かい合うように組まれたDJブース、飛び交うレーザー、作りこまれた映像の数々。今年は、DJブースは向かい合う形ではなく並ぶ形で2つ配置され、その間にライブステージが組まれていた。少し残念な気もしたが、がっつり踊りたいオーディエンスにとっては、毎回移動しなくてすむからこちらの方がいいかもしれない。
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今年はDENKI GROOVEが19時からということもあり、早い時間から多くの来場者が詰めかけていた。今年は、さまざまなフェスに出演していた彼ら。私もフジロックのレッドマーキーで彼らのパフォーマンスを見たばかりだったが、それとはまったく異なるものだったように思う。「こんばんは、DENKI GROOVEです」と瀧のMCに歓声が上がる。"ハロー! ミスターモンキーマジックオーケストラ"で幕を開けたDENKI GROOVEのライブ。"shame"、"shameful"と新しい曲が続き、"shameful"ではPVに出てくる人形に扮した瀧が登場し、オーディエンスをおおいに盛り上げた。その後にも、バズーカの様なスモークマシンを両手に持ち破天荒なパフォーマンスを見せていった。一方楽曲的には、"Shangri-La"や"誰だ"、"虹"の有名なフレーズをサンプリングツール的に使い、原曲をかなり変形させたバージョンでミックスされていく。瀧のボーカルはほとんどなく、最後は"wire,wireless"と「WIRE」らしいテクノマナーなパフォーマンスだった。
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ここでようやくセカンドフロアへ向かう。ちょうどDJ SODEYAMAが始まるところだった。LOLETTA HOLLOWAY"Hit And Run"のボーカルサンプリングを硬質なビートに乗せてスタート。前半は、重く早くデトロイトテクノの印象で進めていき、中盤にアシッディーなテクノへ移行し上音で遊ぶといった印象。疾走感はずっと変わらずきたが中盤以降は、リズムを変えレディオヘッドのエディットなどをプレイ。終盤に突如BPMをがっつり落としブレイクビーツにしたのには、WIREでこういったダウンビートな楽曲を聞くとは思っていなかったので驚いた。
そこからA.MOCHIのライブを楽しむ。最初からまるでブルトーザーの様な重厚感溢れるトラックが繰り出されていく。ホワイトノイズを多様し、ブレイクを強調し常に90~100%のテンションを維持していく。A.MOCHI本人も自ら、手を叩きオーディエンスを盛り上げていく。彼の音は、聞いていると自然と1つの音を耳で追っかけている。頭の中で口ずさみループさせ、ほしいところに気持ちいいタイミングで、次の音が入ってくるのだ。終始上げ続けてた圧巻のパフォーマンスだった。
A.MOCHIがclubberiaのインタビュー内で、レコメンドしていたGARY BECKを見にメインフロアへ。テンション的にはA.MOCHIと変わらないが、もっと彼の音楽をしなやかにした印象。130は越えているであろうBPM。彼がリリースしている楽曲のような走りながら余白を残した曲調ではなく、音と音の隙間を埋めた疾走感溢れす攻めのプレイを披露した。
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そして、個人的に楽しみにしていたROBERT HOOD。MAD MIKEやJEFF MILLSと並びテクノシーンのレジェンドとして名を連ねる彼。8月にリリースしたアルバム「Nighttime World Vol.3」も、ジャズやブラックミュージックのフィーリングを取り入れたメロディアスなリスニングミュージックとなっており、作品として非常に素晴らしいものだっただけに、彼のアーティストとしての懐の深さを表すような選曲もでるのでは?と期待していたが始まってみると、潔いいことこの上ないデトロイトテクノのオンパレード。最初の20~30分くらいは、ブレイクというブレイクもほとんど無かったように思う。あるとしたら、ミックスポイントでLOWを切り、自らブレイクを作り次の曲のLOWを一気に上げるといったシンプルなミックス。決して新しいとは思わないが、テクノがテクノだったころの純粋なテクノを浴びれたことは間違いなかった。最後にNew Orderの"Blue Monday"がかかった時に、確かに明日は月曜だけど、まだ日曜日の早朝だよと思った人はどれくらいいるのだろう。ユーモアなのかどうかは不明だが、彼のプレイがこの日もっとも私の心に残ったベストアクトだった。
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最後にDERRICK MAYがプレイ。気のせいかもしれないが、ボリュームが下がった気がしたので自然と前線へ行くことになる。いつもよりも、ブレイクが多い曲を多様していたように思う。ビート感とイコライジングのメリハリで押す感じに、長いブレイクが乗り、美しく神秘性を感じるコンセプチュアルなセットだったように思った。
音が止まり、アンコールが始まったが今回は行われなかった。客電が付き、スクリーンに「SEE YOU NEST YEAR」が表示されても、しばらく「アンコール」「ワンモアー」の声は響いた。前回来たのは2008年。その時は、RICARD VILLALOBOSがトリを努めていた。その前の2007年は、Felix Krocher。ひさしぶりに遊びに来たが、何も変わらない「WIRE」があったように思う。流行を積極的に取り入れるわけでもなく、いつ来ても変わらない音が鳴っている安心感があった。そして痛感したのは、テクノという音楽をもっとも楽しめる空間は、国内では「WIRE」をおいて他にないこと。飛び交うレーザー、音楽とシンクロする映像、巨大な空間、その空間を埋める音による振動。踊るための巨大な空間を体験したことない人は、来年、自分の目と耳と体全体で感じてみてほしい。
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