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Sonar Music Festival 2013 in Barcelona

5月に東京で開催された他にバルセロナ、サンパウロ、バルセロナアイスランドのレイキャビクでも開催され世界規模の音楽フェスティバルになったSonar Music Festival。バルセロナから始まったSonarは今回で20周年になり、Kraftwerk、Petshop boysのような大御所アーティストが入った充実したラインナップになっていた。またSonarは昼夜二部に分かれているが、今回は昼の部であるSonar Dayがモンジュイックの丘を望むスペイン広場の会場に変わり、一層バルセロナらしいロケーションとなった。
 
Photo & Text : A. Y. Motiski
 
 
週末夕暮れ時にライトアップされ見物客で賑わうスペイン広場の噴水。Sonarの会場は見えないが、このすぐ左側のスペースになる。
  今回会場でオーディエンスを何組か取材してみたが、口々にKraftwerkが今回のフェスティバルに来る決め手となったと言う。20周年の目玉でもあり、今回は会場にSonar仕様の3Dグラスが配布され、3Dによる視覚効果と彼らの音楽の組み合わせを楽しむショーになっていた(上の画像の焦点がぼやけてみえるのは3D仕様のプロジェクションのため。)過去の名曲の世界観が映像の中に立体的に浮かび上がる様子は残念ながらウェブ上では伝える方法がないので、ぜひ一度ライヴを観に行って確かめてほしい。
 
上は客席を捉えた様子の写真だが、3Dショー自体も素晴らしいのだが、「ああ、Kraftwerkに会っている」という充実感に包まれているという雰囲気は感じ取ってもらえるだろうか。とにかく、国を越えてみんな大好きなのだKraftwerkが。受けがよかったのはTour de Franceのような最近の楽曲だが、他のアーティストのステージのようにがっつり踊れるというサウンドではない。だが皆が楽曲を知っていて、しみじみと「あの曲がこういうビジュアルがついて・・・」と楽しんでいる様子だった。
 
屋内の比較的小さめの会場でバンドと一緒にソロ作を演奏していたKarl Hyde。確か2年前のSonarの夜の部でUnderworldとして人に埋めつくされた会場でBorn Slippyを歌っていたはずだが、今回はソロ作が知られていなかったのか、会場には200~300人程度の客しかおらず、Underworldではあり得ない少人数でKarlの歌を楽しめた。ギターとドラム、そしてシンセというシンプルな構成でしっとりと歌を聞かせることに重点を置いたパフォーマンス。ラウドな煽り立てるようなサウンドが多いSonarで一服の清涼剤のようなステージになっていた。
  ここ数年はメンバーがソロで活躍し、今年再結成されたJurassic5。ソロで活躍しすぎて脱退したCut Chemistもちゃんと今回の再結成に参加していたのはヒップホップ・ファンとしてうれしいところだ。エレクトロニック・ミュージック主体のSonarにヒップホップの彼らがなぜ?と思ったが、実は彼らは音楽とテクノロジーに焦点を当てているSonarらしいグループなのだ。
 
ラッパー4人がパフォーマンスしている間は奥に引っ込んで淡々と自分の作業だけしているように見えるDJ Nu-markとCut Chemistの2人のDJだが、ライヴ中盤からギター型ターンテーブルやブルースのスキッフルで使われる身に着ける代用打楽器のようなターンテーブル、単なる舞台装置と思われていた人の身長ぐらいある巨大ターンテーブルを全身運動で演奏するなど(どれもちゃんと音が出るように作られてる)、DJとして様々なスペクタクルを提供してくれ、引っくり返るほど楽しませてくれた。
 
寡作で完璧主義を貫いているKraftwerkと対照的に、ポップミュージックのフィールドでエレクトロニック・ミュージックをまったく違う形で長年支え続けたPetshop boys。もうboysとは呼べない年齢と風貌だが、まだまだアーティストとして現役であり続けている様子を見ることができてうれしい。ステージの前の方には年齢層の高いオーディエンスが多く来ていた。
 
巨大なスピーカーで作られたDJブース、ジャマイカンの女性ダンサーのセクシーなダンス、巨大な風船に入って客席に突進するDiplo(Flaming lipsのライヴぐらいでしか見たことがない)、Major Lazorのステージはジャケットに描かれているキャラの着ぐるみが出現したり、遊園地かと思うようなライヴとなっていたが、オーディエンスは盛り上がり、Diploに煽られた男性オーディエンスたちは狂ったようにそこら中でシャツを脱ぎ振り回していた。女性も脱ぐように煽られていたが、トップレスに寛容なバルセロナでもさすがに女性でシャツを脱ぐ者はいなかったようだ(男性が興奮しすぎていたため、おそらく危険を感じたのだと思う。)だが音楽だけでなく総合的な演出でうまく盛り上げられていて、品はないが、今年のSonarでもベストのアクトの一つ。
 
今時の王道を行くようなラウドなサウンドでフロアを盛り上げていた2 many djs。Flat Ericの映像をマッシュアップしたり少し惚けたような奇妙な雰囲気を作り上げていた。
 
Sonarにも過去何度か出演している言わずと知れたテクノの大御所Richie Hawtin。相変わらず淡々としたプレイだった。今回はDJとしてのパフォーマンスだけでなく、SkrillexやLucianoと進めているアフリカのアーティストとの交流プロジェクトについてパネルディスカッションを行っていた。
 
JusticeのDJ Setでは相変わらず片方のメンバーがプレイして、もう一方のメンバーは踊ったり観客を煽ったり盛り上げ担当。十字のシンボルを手にした熱狂的なファンが印象的だった。今回Ed BangerのBusy PやSonar第一回目にも出演していたLaurent Garnierらも出演していたが、20周年ということでフランス勢へのSonarからのレスペクトが感じられた。
 
バルセロナのサッカーチームBarcaのTシャツに身を包み、ロボットアニメの戦闘機のようなDJブースに現れたSkrillex。サウンドそのものよりもステージの異様さで際立っていた。
 
今回自身がディレクターとしてBBCと行うプロジェクトに関するパネルディスカッションを行ったほか、DJとしてもプレイしていたMatthew Herbert。いつもの身の回りの音をサンプリングして曲を構築するライヴとはパフォーマンスの方向性が全く違うのだが、フロアを踊らせるDJとしての彼も素晴らしく、選曲も音のトリートメントも抜群によかった。飼育された豚の音まで音楽にしてアルバムにまとめてしまう力量のアーティスト/プロデューサーだが、音をどう扱うべきか本当によく知っているので、DJをさせてもHerbertらしさが音に出ているのだ。派手なビデオプロジェクションがあるわけでもなく、シンプルなDJセットだったが、3日間を振り返ってみて最も音楽的に優れたDJアクトだったのではないかと思う。

以上ライヴ・DJセットについてレポートしたが、バルセロナのSonarはヨーロッパの音楽フェスティバルとして最大級であり呼ばれるアーティストも非常に質が高いというだけでない。このイヴェントが際立っているのは、特に技術的な側面から音楽のトピックを幅広く取り上げ、昼の部の会場では音楽機材やアプリーケーションの展示、音楽配信の現状や教育活動など様々な問題について話し合うアーティストや音楽関係者たちによるパネルディスカッションなど様々行っているという点が挙げられる。

  ステージの方ではライヴが盛り上がっている一方で、会場の別の一角ではいわゆるHackathon、ソフトウェア開発のコンペティションが行われている。地元バルセロナのポンペウ・ファブラ大学との共催で行われているMusic Hack Dayでは2日間に渡って学生が中心になってプログラミングの腕を競う。今年は脳波を検出するデバイスを使ってハッキングを行うというメインテーマがあり(ただしテーマ以外の音楽に関連したハッキングも可能)、メーカーから提供したデバイスを使って演奏する音楽アプリケーションが開発されていた。
 
上画像は検出した脳波からユーザーの視線を特定して演奏するインターフェース。ユーザーが見つめたドットに割り振られた音が再生される。

またMusic Hack dayに隣接するスペースではヨーロッパ各地から集まった人々がワークショップを行うハッキング・スペースが設けられていた。
 
Sonar用にチューニングされた回路を用いてサーキットベンディングなど行い、出来上がった回路でパフォーマンスを行っていた。
 
音楽用デバイスとしてパッドコントローラーが展示されていたが、それだけではなくレトロなロボットがパッド操作で動くように展示されていた。
 
サンプラー、ターンテーブル型インターフェースなどDJ用のデバイスを発売している各社がアーティストによる製品の実演を行うスペース。コンサートに疲れた人々が一休みしながら眺めていたが、各社腕利きのデモンストレーターを寄越しているようでアーティストのステージに負けないくらいレベルの高いものも多かった。

Sonarのイヴェントとしての様々な面をレポートしてきたが、バルセロナ市の肝いりのイヴェントでもあり、今年20周年を迎えたSonarは最早単なる音楽フェスティバルであることを越えた存在感を持っている。筆者は今年バルセロナでのSonarを観たのは三度目で、個人的にバルセロナで開催されている様々な音楽フェスティバルを観ているが、Sonarを特別なものにしているのはクリエイティヴでバランスの取れたディレクションのあり方であったり(観客動員数に関していえば12万人、昨年比25%増で今回過去最高という報道もあり商業的には十分成功していると思われる)、大規模なステージプロダクションだったり、他にはないものがあるということもあるが、Sonarをイヴェントとして別格であると考えている観客の存在だ。3日間も朝と夜の部を通して参加した後、もちろん皆疲れているのだが、全てのステージが終わった後に混みあった会場の玄関からどこからともなく拍手が沸き起こる。朝の8時過ぎ、疲れ果ててもうみんな早く帰って寝たいはずなのだが、Sonarを最後まで見終わった達成感に満たされていることがわかる。皆口々にSonarはヨーロッパ最高のイヴェントだと言い、国境を越えて訪れて来る。もちろん根底には音楽やエレクトロニックミュージックへの愛情もあるだろうが、サッカーなどとは違った形で国を越え支持されているある特別な現象になっているようだと実感させられる。残念ながらスペインでは経済危機が長引き年々地元のスペイン人の割合は少なくなっているようだが、それでもこのSonarはこの危機的な状況で数少ない希望が持てる材料になっているように思う。Sonarに寄せる想いは結局人それぞれだとは思うが、ぜひ日本からもどんなものか実際に観に来てもらいたい。イビサの高級リゾートやばか高いクラブで散財することとは違った驚きや楽しみがあるはずだ。