取材:clubberia
ヒント1:まずは、自分が気持ちいいと思う好みの音がどういう音なのかを知ること。
- 普段は何を使われていますか?
mabanua:2種類あって、SHUREのSE535-V-JとSONYのMDR-EX1000というイヤホンを使っています。制作やライブはSHUREのSE535-V-Jで普段はSONYのMDR-EX1000と分けています。
- 分けている理由はなんですか?
mabanua:SONY(MDR-EX1000)の方が音が派手に聴こえるんですよ。あとダイナミックで聴いていて楽しいんです。SHURE(SE535-V-J)は割とおとなしめなんだけど音に忠 実でミックスの確認に最適なんです。あとフィットするのでライブの時に取れにくいんですね。
僕は今、原音に忠実なイヤホンを追求したいから今カスタムにすごく興味があるんです。
-ちなみに、普段使われている2つは、いくらくらいですか?
SHURE(SE535-V-J)は4万円くらいで、SONY(SE535-V-J)も3~4万円くらいだったと思います。
- 一般的な考え方かもしれませんが、ヘッドホンのほうがイヤホンよりもドライバーが大きいので音がよさそうなイメージがあるんですけど、例えば1万5千円のヘッドホンと3万円のイ
ヤホンがあったらどう違うんでしょうか?
mabanua:僕の場合はヘッドホンでもイヤホンでも密閉率で心地良いと感じる度合いが決まっていてるんですね。ギュッとなって雑音が遮断されていればいるほど心地よいと思うんです。ヘッドホンとかってちょっとした隙間とか角度で雑音が入ってしまいますからね。あと、僕の場合ニット帽をよく被っているので、隙間は自然とできちゃいますね(笑)。
e☆イヤホン:あえて空間を作っていますからね。これが良さでもあり欠点でもあるんですよ。mabanuaさんのような趣向がある人はイヤモニ (※注1)をオススメします。イヤモニは、耳の型を取って作るので音がダイレクトに伝わるんですね。自分の耳にぴったりだとノイズキャンセリングがいらないんですよね。
※注1:インイヤーモニターの略。本記事の後半でmabanuaによるイヤモニのレビューもあり。
- では、このままヘッドホンの話をさせ
て頂きたいのですが、制作時はヘッドホンも使用されますか?
mabanua:はい、ヘッドホンは定番のSONYのMDR-CD900STを使ってます。このモデルはおそらく制作現場の7割くらいに普及されているので。
- そんなに普及されているのは、なぜなのでしょうか?
mabanua:音がフラットだからだと思います。その代表を挙げるとスピーカーならYAMAHA NS-10Mで、ヘッドホンだとSONY MDR-CD900STだと思うんです。ドンシャリ(※注2)の音を出すと迫力があり気持ちいいんですが、ミックス(※注3)としては他の物で聴いた時に違う音になってしまうんです。でもSONY(MDR-CD900ST)で聴いて、いいバランスを作れれば何で聴いてもいいバランスになるんです。
※注2:低音と高音をイコライジングなどにより強調したサウンド。擬音的に、"ドン"がバスドラのキック音、ベースラインなどの低音、"シャリ"がハイハットやシンバル、スネアドラム音などの高音を表している。
※注3:ボーカル、生演奏、打ち込み、その他、レコーディングした各パートの様々サウンドに音色加工を施し最終的な音量や定位を決定すること。正式名称は、ミックスダウン及びトラックダウン。
e☆イヤホン:定番でありプロのエンジニアの方々はあの音がベースになっているので。
mabanua:ただ、SONY(MDR-CD900ST)は、低域が確認しづらいので割と普通のスピーカーで確認したりしています。
- mabanuaさんは、普段音楽を聴く時、どういう音の出し方をしてくれる物を好み
ますか?
mabanua:低域強調型が苦手で、逆に締まっている方が好きです。あとはドンシャリが嫌なので、中域が心地よく出るものが好きですね。一般の人は聴いていて気持ち良いのかもしれないですけど、僕は半分エンジニアなので、エンジニア目線で聴いてしまうと”もともとはこんな音じゃないんだろうな”って思ってしまうんですよね。例えば、ライブを見ていて普通に楽しみたい人って、ドラマーの細かいテクニックなんて気にならないじゃないですか。でも僕ら音楽家はライブに行くとそういうところまで見ちゃうっていう感覚に近いかもしれないですね。音楽的な裏側を探ってしまいたくなるというか。
今回の企画が「いい音を持って出かけるためのヒント」ですが、いい音の基準は、人それぞれの好みだと思うんです。だから、自分が気持ちいいと思う好みの音がどういう音なのかを知ることが、まずは重要だと思います。
ヒント2:ビート、ボーカル、ストリングなど低域、中域、高域が独立し、各音域が聴き取りやすい試聴に適したモデル曲を探す!
- 制作時に普段使われているヘッドホンがありますね。
mabanua:僕が雑誌で答えた記事を使って頂いてますね。ありがたいです!この記事に書いてある通り、ドンシャリじゃないんですよ。中高域が本当に適度でフラットで。特に中域の密度がすごく高いというところが気に入ってます。
- ちなみに別のモデルで聴く事もありますか?
mabanua:ありますよ。いろんなヘッドホンで聴いて、音源の特性が殺されずに出ているかをチェックするためですね。これで中域がきれいに出せているかとか、これだったら高域が痛くないかとか、1つの音源を複数のヘッドホンでチェックするとミックスは問題ないんだな、っていう判断ができるんです。
- 例えばトラックメイクを始めたばかりの頃は、環境があまり整っていないかったと思うのですが、当時はどんな環境でモニタリングしていたんですか?
mabanua:モニターは、SONYの普通のラジカセでしたね。アンプとスピーカーがセットになってる3、4万円のやつで、そのアンプのインプットにパソコンから繋いで作っていました。
- これから楽曲制作を始めようとしている子に、初めに購入するのであれば、どれをオススメしますか?
mabanua:僕はSONYのMDR-CD900STですね。このヘッドホンで中高域の細かいところをみて、スピーカーで低域をチェックしてもらうというのがいいと思います。でも、もしかしたらラジカセみたいなスピーカーでもいいかもしれないですね。ヘッドホンに関しては、SONY(MDR-CD900ST)のようなモデルを使った方が僕は良いと思いますけど、低域をチェックするためのスピーカーは、多少雑なラジカセのスピーカーでもいいかもしれないです。最低限過剰な低音が出ていないかチェックできれば良いと思うので。
- リスニング用でヘッドホンを使われていたことはありますか?
mabanua:僕はこの900STをリスニング用にも使ってましたよ。何かこれを持っていると業界の人みたいに見えるんですよね。それがちょっと恥ずかしいですけど(笑)。ファッショナブルにいくのであればbeyerdynamic DT990もいいですよね。音もいいし、ベロア素材も気持ちよくて。
- 今興味があるブランド/商品はありますか?
mabanua:AKGとかもう1度聴き直したいと思いますね。1番最初に使ったのがAKGのヘッドホンだったんですよ。親が持っていた物をもらって使っていたんですけど、これ実はオープン型なんですよね。音が思いっきり漏れていて、そんなことも分からないまま使っていて。でも今考えるとこっちの音も良かったなって思うので。そういう意味で、もう1回オープン型を聴いてみたいなって思います。
- すみません、僕も違いが分かりません。。。オープン型っていうのは?
mabanua:発音部分の背面が解放されているんです。ここから空気を出してあげて、音像を作ってあげるんです。そうすると奥行きをきちっと確認することができるんですよ。好みというより音自身が変わります。リスニング向けのヘッドホンですね。
- PHILIPSのヘッドホンもあるのですが、PHILIPSって医療機器のメーカーですよね?
e☆イヤホン:医療機器とか家庭用品のメーカーって思われがちなんですけどすごく音楽に力入れてるんですよ。だからPHILIPSのヘッドホンも結構音が良いですよ。
mabanua:CDを1番最初に作ったんですよね?
e☆イヤホン:そうです。開発したんです。
- どんな印象でした?
mabanua:まず、着けた感じに圧迫感が全然ないですね。あと、音も好みです。割と中域フォーカスでちょっとだけボーカルが前に出るんですよね。
e☆イヤホン:ちなみにPHILIPSはSHE9710という2000円のイヤホンがすごい人気で。以前、テレビ番組「マツコの知らない世界」で紹介したのですが、5千円から1万円くらいの音が出る、脅威のコスパ商品なんです。
mabanua:これいいですね。値段にしては低音がすごく出ていますね。しかも乱雑な低音ではなくこの値段にしては、すごくしっかりした低音です。
e☆イヤホン: 高音も通常これくらいの価格の物は歪んだり耳が痛かったりするんですけどこれはずいぶんきれいなんです。
- このSW-HP11というモデルは、e☆イヤホンさんのオリジナルなんですよね?
e☆イヤホン:はいそうです。パッドを変えたり中もカスタムできるんです。これはオススメですね。音が素直で忠実なので売上のランキングにも入ってきます。きちっと出る高音と追いやすい低音とが実現されていると思います。側圧もあまり強くしていないので長時間着けていても楽です。あと通常のヘッドホンだと400gくらいの重さなのですが、これは200gくらいで軽いんです。
mabanua:いいですね、これ。ちなみに日本で作ってるんですか?
e☆イヤホン:長野の会社で作っていて、ケーブルだけは韓国製です。ケーブルには99.9999…%の純銅を使用しています。銀だと伝導が良すぎてしまうのでそれを抑えることができるんです。
mabanua:そんなカスタムもできるんですね。今アメリカでアーティストがカスタムするのが流行ってるけど日本では全然無いですよね。あればおもしろいですよね。
e☆イヤホン:パターンがいろいろあって、本格的に作るのもあるし、デザインだけ作ることも実はできます。一緒に作りませんか?mabanuaモデルを!
mabanua: 是非作りましょうよ!
- ちなみに今まで、どんな音楽で試聴されていたんですか?
mabanua: Frank Oceanってアーティストの「Thinkin' Bout You」って曲です。この人はR&Bなんですけど、高域から低域までバランスよく出ていて試聴するのにいいですよ。この曲の最初がストリングスが流れて、ビートが入ってきて、ボーカルが入るっていう流れなんですけど、その3段階で試聴機の性能が全部が分かるんです。自分の「talkin' to you」っていう曲も最初ビートがあってシンセとかが入ってきてボーカルが流れるっていう3段階になってるんです。なのでこの曲と自分のその 曲は試聴に向いているんです。
- 普段は、どんな音楽聴かれるんですか?
mabanua:打ち込みもバンドもまんべんなく聴きますね。でも割とオーガニックな音というか、丸い、中域にフォーカスされているような音楽を聴きますね。beyerdynamicは、リスニング用のヘッドホンでは1番好きですね。
ヒント3:音にとことん拘るのならば、イヤモニも視野に入れる!
- 今回の企画の仕上げは、先日オープンしたばかりのイヤモニ専門フロアでレビューをお願いします。
e☆イヤホン:ここで実際にお客様の耳型を取らせていただいて、それに沿ってイヤホンを作るんです。UEというブランドに関しては、この機械で音のハイ/ミッド/ローを調節できるんですよ。通常イヤホンの音決めはできないんですけど。このUEというブランドは音決めができるんです。この機械は世界に数台かしか無くて、日本にはこれ1台しか無いんです。抵抗値を上げ下げすることで自分に最適な音を作れるんです。なのでEQをいじる必要も無くイヤホンが自分の好きな音を出してくれるんです。しかも自分の耳型ですし、カバーもカスタムできます。プロのミュージシャンの方もライブで使ってくださったりしています。
mabanua:これ自分の世界に入り込んでしまいますね(笑)。
e☆イヤホン:大体みなさん1時間半から2時間くらいかけてチューニングされますよ。50がフラットです。これを上げ下げしていって音決めする形です。
mabanua:わかります。午前中に来て昼食を挟んでまた戻ってきたいですもん(笑)。これって自分の好みで音をいじれるじゃないですか?例えばこのUEの人がフラットだと思うチューニングで今まで出荷されてきた訳ですよね?
e☆イヤホン:フラットだと言われている音でも、実際は中域が少し前に出ていたりもするらしいんですけどね。
mabanua:へー。エンジニアの方もこれを買われたりするんですか?
e☆イヤホン:そうです。UEというブランドはもともとVan Halenのエンジニアの方が、バンドのドラマーの耳が悪くなったということで作り出したイヤホンなんですよ。
mabanua:どういう傾向が多いんですか?
e☆イヤホン:結局50に戻っていく傾向が多いです(笑)。いろいろ悩んで旅路を歩んでいって戻るっていう。まあもともとの音が良いというのもありますしね。
- mabanuaさんが普段使われているイヤホンはイヤモニになるんですか?
mabanua:いや、これは違いますね。イヤモニっぽいやつです。
e☆イヤホン:音は近いんですよ。でも耳型を取っていないですからね。
- 耳型を取ったらイヤモニになるということでしょうか?
e☆イヤホン:そういうことですね。音自体はイヤモニとほぼ同じなんですけど耳型を取らないと隙間から雑音が入りますから。耳型を取ると密着するのでプレイ中落ちないのもいいですね。
mabanua:この設定値を 1回決めて作った後に、少し変えたいってことになったら変更はできるんですか?
e☆イヤホン:それはできないんですよ。 1回決めたら制作が始まってしましますからね。
mabanua:何十年後かにこれをパソコンに繋いだら設定を変えて保存できるみたいなデバイスも生まれそうですね。
- だいたいが10万円前後、高いものでも20万強ほどするイヤモニですが、3万円台の商品もありますね。
e☆イヤホン:そうです。この商品は悪くないんですよ。桁は1つ変わるんですけど。制作/生産はほとんど中国でやっているんです。
日本の物はFitEarというブランドがあるのですが、これはもともと歯の技工士さんが作っていたんです。それから、その会社が補聴器を作り出したんですけど、そこの社長がアニソンが好きでこの世界に入ってきて、最終的にここまでたどり着いたんですよ。これに近い音がドイツのVision Earsっていうブランドですね。Kraftwerkはこれを使っていますよ。
- 今日試聴した商品とイヤモニはどう違いますか?
mabanua:イヤモニは解像度がすごい高いですね。あと密閉率がすごく重要なんだなっていうのが試聴してみるとよくわかりますね。高い物と比べても、すごく音に大差がある訳でもないんですね。こうなってくると好みになってきますよね。音が濃密なんで。これでライブもできるし、本当に落ちないんですよ。
e☆イヤホン:人工的に、工学的にノイズキャンセリングをしているわけでなく、耳にぴったりと合わせているので脳に直接音が届くんです。かといって耳が悪くなる訳じゃなくて、密閉率が悪いと雑音が入るのでその分音量を上げがちなんですが、密閉率が高ければ音量も小さくて充分聴こえますので耳にも優しいんです。
mabanua:確かに耳に合ってないイヤホンとかを手で押さえると、音が全然変わりますもんね。
- 基本的なことを伺っても良いですか?ドライバーユニットって何なんですか?
e☆イヤホン:ドライバーっていうのはエンジンみたいな物です。これで音の鳴りが決まるんですけど、例えばこの商品は5ドライバーなので1つの耳の中に5つのエンジンが付いていて、それをネットワークで繋げているんです。まあドライバーが多ければ音が良いという訳ではないんですけど、この商品はすごく良いですよ。ドライバー同士のネットワークの繋がりがすごく良くなっているので音が良いはずです。
-イヤモニも何種類か試聴されましたけど、どれが1番気に入りましたか?
mabanua:そうですね、UEのリファレンスモニターが他のフロアも合わせて1番気に入りましたね。このUE リファレンスモニターもちょっといじってみたいんですけどね。チューニングの機械の50/50/50がこのイヤホンの音っていうことですよね?
e☆イヤホン:そうですね。ユニットドライブの数が違うけどほぼ同じですね。1、2時間くらい対峙していただいて考えて頂くといいと思います。一昨日もシンガーさんがいらして1時間半で納得されてましたよ。リファレンスモニターと最後まで迷ってたんですけど、結局低高値いじっててやっぱりボーカルを出したいようでしたね。
- リファレンスモニターっていうのは?
mabanua:これを全ての基にしよう的なことです。これが基準だぜみたいな。商品名にリファレンスモニターってつけちゃうんだっていう(笑)。
でも3万円のモデルがすごく良かったのは意外でした。
e☆イヤホン:そう、AAW結構良いんですよね。僕も3万円だからなーくらいの感じだったんですけど良いんですよ。ドライバー1個でも音良いんですよ。
mabanua:これくらいの値段だったら一般のお客さんも買えますよね。
e☆イヤホン:一般の方にはあまり知られていないんですよね。だいたい20万から30万のイメージみたいで。
mabanua:確かにこの値段で耳型取れるっていうのは聞いたこと無いですよね。
mabanua
ドラマー/ビートメーカー/シンガーという他に類を見ないスタイルが話題の日本人クリエイター。全ての楽器を自ら演奏し、それらの音をドラマーならではのフィジカルなビートセンスでサンプリングし再構築、ヒップホップのフィルターを通しながらもジャンルに捉われない音創りが世界中から絶賛される。
ソロとしても活躍の場を広げ、Chara、Gotch (ASIAN KUNG-FU GENERATION 後藤正文)、TWIGY、七尾旅人、福原美穂、BENI、COMA-CHI、清水翔太、川本真琴などのプロデューサー、リミキサー、ツアードラマーとしても活躍。2012年には、mabanua名義でITADAKI、U-zhaan×mabanua名義でFUJI ROCK、KAIKOO、さらに矢野顕子、小山田圭吾、MIYAVIと共に100%ユザーンに出演。
2013年には、待望のセカンドアルバム『only the facts』をリリースし、発売直後から品切れが続出し大きな話題を呼ぶ。
2014年には、Madlib、Toro Y Moi、Ray Barbeeら海外アーティストとライブでの競演を果たすなど、国内外から大きな注目を集めている。
現在最も注目されている日本人ドラマー/クリエイター。
http://mabanua.com/
e☆イヤホン
イヤホン・ヘッドホン専門店。ヘッドホン、イヤホン、プレイヤ-、ワイヤレス(Bluetooth)、ヘッドホンアンプ、ハイレゾ対応プレイヤーなど日本最大級の品揃えを誇る専門店。大阪日本橋と秋葉原店舗では自由に1000機種以上のイヤホン、ヘッドホンの試着、試聴が可能。今年8月に国内最大のカスタムイヤホン専門店"e☆イヤホン秋葉原店カスタムIEM専門店"を秋葉原にオープンした。
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