音楽というものは実に難しい。人それぞれに好みがあるのはもちろん、音にもトレンドがあり、自然と耳に入ってくる音の心地良さは時代によって変化するものだと思っている。
近年のエレクトロニックミュージックはJames Blakeの登場により大きな変化を迎えた。ポストダブステップと形容されることが多いが、ハウスやテクノ、エレクトロニカ、はたまたヒップホップという音楽は今、それに歩み寄るように自由に形を変えながら変化しているように思える。
5月15日、そのエレクトロニックミュージック界でひときわ異彩を放つSquarepusherがニューアルバムを引っさげ、恵比寿ガーデンホールにて約11年ぶりとなる単独来日公演を行った。彼の音は今のトレンドかというと、決してそうではないが、こうして根強いファンがい続けるのも事実。彼は今、一体どんな音楽を見せてくれるのだろうか?
Text : Ryosuke Kimura (clubberia)
Photo : TEPPEI
会場に着くとオープニグアクトの真鍋大度がDJプレイ中だった。メディアアーティストやプログラマーとして注目を集めている彼だが、実はDJとしての顔も持つ。キレのあるアブストラクトな音でフロアを温めながら、徐々に人を集めていく。真鍋大度のプレイが終わりしばらくすると会場は暗転。ついに登場のときだ。すでにフロアはものすごい数の人で埋め尽くされ、満員状態だった。
大きな歓声が会場に響き渡る。SquarepusherことThomas Jenkinsonがステージに姿を現した。まるでヘルメット防具を身につけたフェンシング選手、はたまたヘルメットを身につけた宇宙飛行士のような出で立ち。音が鳴ったその瞬間、ステージの背後に設置された2面スクリーンの映像も同時に映し出され、ついにパフォーマンスが始まった。
1曲目は『Do you know Squarepusher?』の「Kill Robok」であった。音で埋め尽くされているSquarepusherのトラックの中でも、隙間の多いエクスペリメンタルなトラックで、いろんな音を無造作に鳴らし散りばめているようだ。だからこそ、キレッキレな映像との相性も良く、1曲目から視覚と聴覚を思いっきり刺激され、彼の世界観に引きずり込まれる形となった。2曲目に入り、ニューアルバム『Damogen Furies』の「Stor Eiglass」が披露されると歓声は一段と大きくなる。体の芯にまで伝わってくる強烈な音圧のキックがフロアを思いっきり叩くと、印象的な「らしい」メロディがリズムにそって展開されていく。圧倒されているのも束の間、ステージ上のSquarepusherは、手振りで我々をまるで異次元の世界へ導くように何度も煽った。ここからニューアルバムの曲順に沿ってライブは展開されていくこととなる。
マシンガンのように放たれるブレイクビーツが止むことはない。畳み掛けるように絶えず音を繰り出し、その音に反応する映像群。その映像の光とSquarepusherサウンドに包まれた会場はすでに別世界としか言いようがなかった。隙間を見つけるのが難しいほどの多量の音数や重厚な音圧に圧倒されながら、ライブが音楽家にとっていかに大切であるかを改めて考えさせられる。実際に足を運びライブを体験するということ。それはパソコンに向かって音楽を聴くこととはわけが違う。ポップスのように分かりやすい音楽だけでなく、たとえ難解なテクノミュージックであろうとも、ライブに圧倒されてそのアーティストを好きになる理由は必ずそこにあると感じた。
ライブが終了すると、しばらくの間アンコールの拍手が響く。すると、ヘルメットを脱いだSquarepusherが6弦ベース片手に再び現れた。その姿に、まさか!? と思った人も多いだろう。軽くベースを弾き始めると、名曲「lambic 9 Poetry」のベースラインが会場に鳴り響いた。止まない歓声。後ろでは涙を流し始める女性も。あれだけ激しいパフォーマンスを披露してきたにも関わらずここで「lambic 9 Poetry」は粋すぎる。それは、嵐が過ぎ去った雨上がりの空にかかる虹のように美しく、その瞬間会場に居た誰もがその温かみのある音楽に息を飲んだに違いない。最後は「Tetra-Sync」をシーケンスに合わせて演奏。ベースの音とリンクした波打つような青く美しい映像とともに終演を迎えた。
もうすぐキャリア20年を迎える彼が今もなお多くのファンから愛され続けているのは、自身が信じる音楽を変わらずに表現し続けていることにほかならない。いくら時代が変わろうとも“SquarepusherはSquarepusher”なのだと証明してくれた。もはや彼を説明するのに過去や未来など関係ない。我々が想像しえない遥か先の音楽をやってのけてしまうのだから。それだけの衝撃と魅力に満ちた圧巻のライブであった。
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