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ゲーム音楽に魅せられた大人たち。「DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭」

取材・文:yanma(clubberia)
写真:(c)Suguru Saito : Red Bull Content Pool

 

少年のころに夢中になったテレビゲーム。そのサウンドを爆音で聴き、クラブで踊る日が来るなんて、80〜 90年代当時、誰も思っていなかっただろう。あのピコピコとした8bit、16bitのゲーム音楽がダンスミュージックと融合し、今日、多くの大人たちを踊らせている。そして10月22日から約1ヶ月にわたり開催されてきた「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017」は、この11月17日、東京・恵比寿LIQUIDROOMでファイナルを迎えた。
 
会場にはオープン時から長蛇の列ができていた。また外国人の姿も多い。全体の3割くらいだろうか。いかに日本のゲーム・ゲーム音楽が世界中の人を魅了したかが伺える。ゲーム音楽の影響を受けたのは、クラブミュージックシーンで活躍する世界中のアーティストも例外ではない。2014年に公開されたゲーム音楽にフォーカスしたドキュメンタリー動画『Diggin' in the Carts』では、Flying Lotus、Just Blaze、Kode9などが多数出演している。そのなかで彼らは日本のテレビゲーム音楽が、自分たちの音楽制作において、いかに大きな影響を与えてきたかを語っている。Kode9に至っては、このイベントに合わせ、自身のレーベルHyperdubから日本の革新的なゲーム音楽を集めたコンピレーションアルバムを発売した。タイトルはもちろん『Diggin' in the Carts』だ。本作の解説によると、ゲーム音楽のコンピレーションは数あれど、音楽ファンが、音楽ファンのために作ったゲーム音楽アルバムは、1984年に細野晴臣プロデュースによる世界初のゲーム音楽レコード『ビデオ・ゲーム・ミュージック』以来といえるそうだ。
 
ドキュメンタリー動画『Diggin' in the Carts』
https://www.redbull.com/jp-ja/diggin-in-the-carts-2017-15-04
 
メインフロアのスターターは、Quarta 330。ステージはLEDパネルで覆われており、鮮明で迫力のある映像が映し出されていた。そのなかでQuarta 330はチップチューン(ファミコンのようにピコピコした音楽ジャンル)とベースミュージックをかけ合わせたライブを披露した。フロアが温まったところで登場したのは、CHIP TANAKA。1980年より任天堂のサウンドエンジニアとしてチップサウンドをゲームミュージックとして世界に広げたオリジネーターだ。CHIP TANAKAのライブは、自身が音楽を手がけた名作ゲーム『MOTHER』からスタート。序盤はスローテンポな楽曲で進んでいくが、ボス戦を彷彿とさせる楽曲がかかるとオーディエンスは大盛り上がりだ。フロアには最後にライブを控えるCarpainterの姿も。踊りながらフロア中央から前方に移動していく彼。さらには、振り返るとKODO 9がCHIP TANAKAのプレイを凝視している。最後はドラムンベースのような高速のビートで盛り上げ、音が止まると「TANAKA、TANAKA」とコールが起きるほどの熱気に包まれた。CHIP TANAKAのライブは、この日のハイライトのひとつと言える。

CHIP TANAKA。11月15日には自身初のフルアルバム『Django』をリリースしたばかりだった。 (c)Suguru Saito : Red Bull Content Pool


続いて登場したのは、OSAMU SATO。1993年から1998年にかけてPC用ゲーム「東脳」やPlayStationソフト「LSD」をプロデュースした人物だ。OSAMU SATOのライブは、映像から目が離せなくなるものだった。真っ白な背景に「I WANT YOU」と文字が繰り返し映し出されるミニマルさとポップさで始まったかと思えば、ゲーム「LSD」のプレイ映像があったり、山の手線のホームや新宿、浅草、高速道路など現実の映像も加わり、ゲームと現実を行き来するような視覚体験が得られた。
 
そしてKODE9のライブは、アニメーション監督の森本晃司による映像とコラボレートしたスペシャルセット。『鉄コン筋クリート』など、森本晃司が手がけたさまざまな映像が投影される。KODE9のサウンドはチップチューン特有の可愛らしさは身を潜め、Hyperdubらしいディープなベースミュージックを展開。混沌とした映像の世界観をサウンドで表現しているようだった。
 
この日のハイライトはもうひとつ。KEN ISHIIの90’sテクノセットだ。盛り上がりのエネルギーだけで言えば、この日一番だった。「Jaguar」や「The Bells」などのテクノアンセムのオンパレード。曲がミックスされ、次の曲のフレーズが聞こえてくると毎回大きな歓声が上がる。24時から始まったKEN ISHIIのDJプレイ。最後の「Extra」がかかるころには、1時を回っていた。終電で帰宅することを諦めた人もいたかと思うが、きっと後悔はなかったはずだ。


KEN ISHII。プレイにはアナログレコードも使用していた。(c)Suguru Saito : Red Bull Content Pool


ご紹介してきたパフォーマンスのほかにも、ラウンジとして機能していたLIQUID LOFTではGONNOがテクノとチップチューンをかけ合わせたDJプレイを披露していたり、KATAでは、イベントと連動した展示『あそぶ!ゲーム展 presentsゲーム音楽のパイオニアたち』が開催されていたりと、ゲーム音楽一色に染まる夜となった。
 
clubberiaでは、「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO 2017」関連のイベントだと、ミュージシャンが即興で音楽を繋いでいく「ROUND ROBIN 一発本番即興演奏」と、この「DIGGIN' IN THE CARTS 電子遊戯音楽祭」、「MUTEK.JP CLOSING 媒体芸術未来館」をご紹介してきたが、まだまだ趣向を凝らしたイベントはたくさん行われていた。例えば、日本語歌詞オンリーのDJイベント、東京をテーマに楽曲を聴き・読み・朗読するイベント、ハロウィンの夜にはカルト映画を見るイベントなど。もちろんどのイベントの出演者も日本の音楽シーンのトップで活躍する人ばかり。「企画」、「ロケーション」、「アーティスト」の三拍子揃っているのが特徴であり、こういったイベントにはなかなか出会えない。そんな「RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO」は、どうやら来年以降も続くようだ。オフィシャルサイトでは、今年の全プログラムのレポートも掲載されている。そのプログラムを眺めるだけで、音楽好きであればきっとワクワクするに違いない。
 
 
RED BULL MUSIC FESTIVAL TOKYO
https://www.redbull.com/jp-ja/tags/festival